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家出の決意

 昔から、ずっとずっと思っていた―――

 外はどうなっているのだろう、この家の、国の外はどうなっているのだろう、と。

 ずっと、ずっと願い続けていた―――


「母上―!!」

 バンッ!

 私、アリスクラシア・プライドは、プライド公爵邸の執務室のドアが外れんばかりの勢いで開け放った。

「母上、アリスクラシア、ただいま参りましたぁ!!!」

「アリス、何度も言っているでしょう。屋敷内を走らないように、入る前はノックをして名を名乗りなさいと。いつになったらわかってくれるのですか?あと、私は貴方を呼んだつもりはありませんが」

 出鼻を挫かれた。

 執務室の中にいた母上、システィーナ・プライド女公は、ノーブル王国でも、大きな権力を持つ公爵家の当主だ。十年前の特級魔物の討伐で、大功績を上げた母上は、王国としても初めて騎士の身でありながら公爵の位を授かった。その後、王国騎士団を辞め国政に専念し現在に至る。

 そんな母上だが、騎士になった時からの真面目さを今も引き継いでいて、小言も多い。私はそれがうっとうしくてならないけど……。

「おっと、そうでした母上。今日来たのには一つ話があったからなんですよー」

「貴方のことだから、どうせ真面目なことじゃないんでしょう?また、外に出てみたい、冒険者になりたい、とでも言うんでしょう?」

 ぎくり

「そ、そんなこと、ないですよぉ……?ただ、今日はちょこぉっと、視察の提案というか、話、というか、お願い?というか……」

「どうやら図星のようですが?」

 私は何も言い返せずに黙った。

 昔からいつもこうなのだ。母上は、私を家の外に出そうとしない。母上曰く、『外は貴方が知ってもよいことはない』らしい。私が外に出ても母上は何もメリットがないと考えている。

 だから、私は物心ついた十歳くらいからずっと頼んでいるけど、十六歳になった今でも家の外に出たことはおろか見たこともない。

「ダメに決まっているでしょう。何度も言わせないでちょうだい。私も忙しいのだから、余計な話で時間を取らせないでちょうだい」

「はーい……」

 私は渋々母上に背を向ける。

「一体どの部分が私に似たのでしょう……。親として呆れて物も言えないわ……」

 私が執務室を出る直前、母上が小さくそう言うのが聞こえてしまった。

 失敬な!しっかり髪はおんなじ赤色でしょう!!私は長いのが気に入らなくて肩らへんで切ったけど!!

 心の中でそう叫んで、私は執務室をでた。


 父上、ブレイブ・プライドは、私が一歳の時に病気で死んでしまった。

 だからこそ、私は女手一つで育ててくれた母上には感謝をしているのだけど、私にも譲れないものはある。

 家の外に出れない生活は、窮屈で、何よりも退屈だ。勉学や剣技に関しては、母上が呼んだ家庭教師の先生に教えてもらっている。

 ただ、それ以外は特にやることもなく部屋にいるだけ。することもないためつまらないし、最近は勉学も同じような内容を繰り返し行っているだけで、機械のように毎日を過ごすだけの日々となっていた。

 あぁ、早く外が見てみたい。

 次はどんな方法で説得しようか、と考えて廊下を歩いていると、一人の人間の小さな姿が見えた。

「あ、シスだ」

 目線の先には自分と同じ赤髪を長く伸ばした寝間着姿のかわいらしい少女がいた。

 シスター・プライド、私の一つ下の妹だ。一つ下とは思えないほど小さいけど……。

「……?あ、姉さま」

 シスは私に気づいて足をとめた。

「もう寝るの?」

「はい。明日も朝から勉学がありますから」

「シスは真面目だねぇ」

「姉さまが不真面目なだけでは?」

「お、言うねえ」

「冗談です。ふふっ」

「あはは」

 向かい合って笑い合う。

 シスは昔から、私と違って真面目で大人しかった。母上から何か言われるようなことはなかったし、私なんかより姉らしさがあった。剣技では私の方が上だったけど、頭は断然シスの方がよかった。母上は、私がこんなのだからシスを見ることが多くなった。そんな妹を誇りに思うとともに、あの頃の自分は、いや、今でも自分は出来のいい妹に嫉妬しているのかもしれない。

「今のシスになら、話してもいいかな……」

 小さな声で呟いた。

「姉さま?どうされました?」

「ねえ、シス。ちょっとだけ、話があるんだけど聞いてもらえないかな?」

「?分かりました」

 真剣にシスを見つめそういうと、彼女は首を傾げた。


「えぇ、できれば姉さまと二人で。少しの間だけでいいので、外してもらえますか?」

「かしこまりました」

「ありがとう」

 シスターの部屋で、二人で話すことになった。

 二人でベッドの上に座ると、私のことを悟ったのかシスは使用人を外してくれた。

 シスと向き合う。

「ねえ、シス。私がシスって呼ぶようになったのって、いつからか覚えてる?」

「どうしたんですか、姉さま?ずいぶんと前の話ですね。それこそ私が、9歳、いえ7歳でしょうか。物心ついた時から、私は姉さまにシスと呼ばれていた気がしますが……」

「そうだね。今から貴方に話すのは、私の夢のお話。それこそ、シスって呼び始めるくらい前からの夢のお話なのかも」

「……?はい」

「私ね、ずっとこの家の外に出てみたいと思ってるの。外がどんな世界か気になってしょうがなくてね。外の世界を見てみたい、冒険してみたいの」

 私はシスに夢を語った。その間、シスはずっと私から目をそらすことなく聞いていた。 

 一通り話し終えると、シスは口を開いた。

「確かに、姉さまの気持ちもわからなくはないです。外には私も出たことがないですし、もう十年以上ここで暮らしているんです。周りのものは見飽きましたし窮屈に感じます」

「でしょ?シスも外に出てみたいと思わない?」

「姉さまの言っていることは分かります。ただ、残念ながら私にはそんな気持ちは芽生えません……。私は姉さまと違って、母さまの言うことをずっと聞き続けてきました。私は今ある生活を、同じようなことを毎日し続ける生活を苦だと思ったことがないですから」

「うーん、そっかぁ……」

「約に立てなくて申し訳ないです」

「いやいや、いいのいいの。長居してごめんね、シス」

 私は立ってドアの方へ歩く。

 気がつけばそれなりに時間は過ぎていた。シスももう眠いだろう。

「姉さま」

 部屋を出ようとして、シスに呼び止められた。

「どうしたの、シス?」

「一つだけ、一つだけ方法があるかもしれません」

「え?」

「ここから出る方法です。調理場の外にある門は、料理人の買い出し等で出入りがしやすいように監視はありませんし、内側からなら誰でも開けられます。夜の時間帯なら、明日の仕込みも終わっているでしょうし、誰もいないはずです」

「待って。それってつまり家出ってことだよね?」

「まあそうですけど……」

「母上が許してくれると思うの?」

「姉さまは肝心な時に少しポンコツですよね。そもそも家出に許可は必要なものなんですか?」

 言葉に詰まる。確かにそうだ。確かにそうなんだけど……。

「でも、でもほら、私がいきなりいなくなったらどうするのよ?」

「どうする、とはどういうことですか?」

「質問に質問で返さないでよ……。曲がりなりにも私は長女だし、妹を放って家出てくとかさすがに姉としての威厳というか何というか……ねえ」

「威厳どうこう語るならまずは暴れないで、おとなしく母さまの言うことを聞くべきだと思うのですが……。まあ、それは置いといて。姉さまには、自由に過ごしてもらいたいのです。母さまから、私は昔姉さまに、十年前のあの厄災の時、魔物に殺されそうになったところを助けてもらったと聞いています。そのための恩返しができるのであれば、私は姉さまを止める気はありません」

「シス……」

「まあ、母さまの跡取となった際に、継承権が高い姉さまを排除しておきたいという気持ちもありますが」

「おい」

 あのーシスさーん、本音漏れてますよー?うちの妹こっわ、こんな風にした人誰なのよ……。

「まあ、そういうことです」

「いや最後の怖いんだけど。お姉ちゃん、妹をこんな風にした覚えないよ」

「まあいいじゃないですか、姉さま」

「それでいいのかなあ……。まあ私は後継ぎとかそこらへんはどうでもいいから別にいいけど。というか、私ってシスの命を救っているんだねえ。もう覚えてないよ」

「私もその話は母さまから離されて初めて聞きました。まあ、私は、姉さまの人生は姉さまの人生ですし、自由にするのが良いと思います」

「ありがとう、シス」

 なんだかんだ言って、姉想いの優しい妹なのだ。

「それじゃ、おやすみ、シスー」

「おやすみなさいです、姉さま」

 私はシスの部屋を出て、自分の部屋へと戻る。

「私の人生は、私が決める……」

 そうつぶやいた。

「今の生活じゃ、到底かなわない夢なんだよねえ……」

 母上は、許してくれないだろう。

 でも、これは私の人生なのだ。やってやろうじゃないのこのやろー!!!

「思い立ったが吉日!!さあ、行こう!!」

 廊下を思いっきり走り出す。

 もう後戻りはできない。でも、シスが教えてくれたから、責任はシスにあるってことで!!

 私は、二階から一階の調理場へと、足を速める。

 遠く離れた夢は、今、すぐ近くにあるように思えたから―――

「面白かった!」

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 よろしくお願いします。


 それではまた、次の話で。

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