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02. 測定結果

『魔力測定』

 

 国策としてもう100年以上続くこの測定は、貴族だけではなく、平民の中に産まれる高魔力保持者を見つけ出し、教育するのを狙いとしている。

 一定以上の魔力保持者は、国立高等技術専門学校(ロイヤルエコル)に入学が許可され、一般クラスと特待生クラスに分けられる。そこで教養、魔術、剣術を学ぶことになる。

 国立の学校に入れない子は、その土地を治める貴族が運営する教養校に通い、基礎的な教養と生活魔法を学ぶ。

 本人の意向で選べるのは一定以上の魔力を持つと測定されたもののみ。

 特待生クラスに選ばれると初年はその測定量に応じて、全額免除から3割免除までが適応され、2年からはその学業に応じて免除率が適応される。

 しかし、入学許可が出たとしても平民でその授業料が払えるのはごく一部。そのため、入学許可一覧が優秀な人材を求める貴族や豪商に知らされ、彼が後見人として名乗りを挙げる制度が用意されている。

 

 僕らに付き添ってくれているグンタも一般クラスだったけど、かなり有名な魔道具師さんが授業料を援助してくれたと話してくれた。


「最初は特待生クラスでも、学年が上がるにつれて面子は入れ替わる。頑張ればいつでも特待生入りできるようになってるから、まぁそう力まずに行けよ」


 グンタの言葉に2人で頷いて、列の先に目を向けた。

 笑顔で歩いてくる親子。悲しそうな表情の親に気を使うように寄り添う子。静かに歩いてくる親子。


「なんか面白くねぇな」


 ロイがそれから顔を逸らした。


「こんな測定で人生がほぼ決まるなんて、なんかムカつく」

「お前、さっきまで特待生って張り切ってただろ?」


 グンタの呆れたような声に、思わず僕も頷いた。


「俺らまだ12だぜ。それでお前は魔力無いからこっちの人生歩いてね。お前は魔力あるからこっちね。お前はすげぇ魔力あるから選び放題だなってさ」


 測定が終わり城門へ戻っていく親子の顔や雰囲気は、このたった数分の測定が人生の岐路なんだと嫌でも僕らに見せつけてくる。


「まるで野菜の品定めみてぇじゃん。俺らは商品じゃねぇっつーの」


 ロイがそう言った瞬間、グンタはロイの口をその大きな手で覆っていた。


「それ以上言うな」


 聞いたことがない低い声だった。僕らはそれ以降、下を向いたまま口を開くことはなかった。


 ロイの前の子が扉から出てきた。僕は顔を見たくなくて目を逸らしたけど、ロイは見ていた。

 

「じゃ、行ってくる」

「うん」


 グンタと2人で扉の奥に消えて行った。ほんの数分、だけどその数分は僕にはとても長い時間に感じられた。

 他の子よりも出てくるのが遅くない? 大丈夫なのかな? グンタが一緒だし、大丈夫だよね? いや、ロイのあの口調や態度は測定する人を怒らせたりしてないかな?

 ダメだ、不安しかない……。


 神様、ロイが怒られていませんように!


 ギュッと目を閉じて手を組んで祈ってたら、こめかみ辺りに激痛が走った。痛いよ!


「お前さ、かなり失礼なこと祈ってただろ」

「ロイだからね、仕方ないだろ」


 クソォ、ロイの馬鹿力。


「俺だってやる時はちゃんとやれるんだよ」


 後から出てきたグンタが「騒ぐな」ってロイにゲンコツかまして、僕に測定行くぞって手招きをする。


「大人しくそこで待ってろよ」

「へいへい」


 グンタの手が肩に回されて「ロイも大丈夫だったんだ。お前ならいける」そう囁いてきた。


「ありがとう」


 そっか、ロイは入学許可もらえたのか。


 大きく深呼吸を2回。

 ロイと離れたくないよね。6歳からずっと2人で一緒にやってきたんだからね。


「行くぞ」


 グンタが扉を開けて、大きく一歩踏み込んだ。


「ルンブル地区孤児院のフィオ、で間違いないね?」

「はい」

「そして付き添いのグンタ殿」


 眼鏡をかけたいかにも神経質そうなお兄さんが迎えてくれた。


「早速始めようか」


 測定する部屋に僕とグンタ以外に2人。出迎えてくれたお兄さんともう1人。2人とも濃紺のローブを纏っている。そのローブの影から覗く服も濃紺。


 不正がないように2人で測定すると説明を受けて、誘導されるまま机の前まで来た。

机の上には、透明の箱に入れられた炎のように蠢く何かが置かれている。


「これを見てくれ」


 お兄さんが手を触れると箱の中の物が2回り以上大きく揺らいで、黄色く輝いた。


「ただ触れるだけでいい。触れると君の魔力に反応して、このように変化が見られる」


 お兄さんの手が離れて箱は触れる前の状態に戻った。

 どうぞと手で示されて、僕はそっと右手で箱に触れた。指先が箱に当たった瞬間、チリチリと指先に棘が刺さるような軽い痛みが走って、驚いて思わず手を引っ込めてしまった。


「どうかしたのか?」


 お兄さんの横で見ていたもう1人もそばに来て、僕に合わせるように身をかがめた。僕はまだチリチリと余韻の残る右手を左手で握りしめたままだった。そんな僕の手にそっと触れたその人の手は、とても心地いい風を纏っていた。


「手伝えば俺の魔力も加わるから、手を握ってやることも出来ないんだ。おい、さっき箱に触った方の手を見せてやれよ」


 お兄さんは眉を寄せて嫌そうな顔をしたけど、僕に向かって手を向けた。


「ほら、何もない。綺麗なもんだ。苦労知らずの手だと思わない?」

「おい!」

「あいつの手がなんともなかったんだから、君の手も大丈夫。そっとでいいから触れてみて」


 苦労知らずの手と言われたお兄さんは、そう言った人を睨みつけた。けど、言った方はニヤっと笑って受け流した。


「早くしてくれ、まだ次がいるんだ」

「は、はい」


 深呼吸をして手を箱に向けた。チリチリと軽い痛みを感じるけど2度目は大丈夫だった。


 箱の中の物は大きく揺れて箱いっぱいに広がって、真っ白な光を放つ。


「綺麗だ……」


 声に出ていた。

 が、それも数秒で、お兄さんと同じくらいの大きさに縮んで淡い黄色に変わった。


「どう言うことだ?」

「測定が途中で変わるっておかしいだろ。壊れたか?」

「そんなわけあるか。何か原因が……」


 原因を突き止めようと僕を見るお兄さんの目が僕の左腕で止まった。


「君、その腕輪は、なに?」

「これは……なんだろう? グンタ知ってる?」


 グンタはさぁっと言わんばかりに肩をすくめる。腕輪は気が付いたら左腕にあって、ライハ様に決して外してはいけないと言われてきた。


「何かは知らないが、フィオが孤児院に来たときには付いてたのは覚えてるぞ」

「6年前から……」


 用紙を片手にお兄さんが僕の左腕を手に取った。


「魔道具と見て間違いないな。これを外してもう一度、触れてみてくれないか」

「でも、外したらダメだって」

「ほんの数秒だ。それに俺たちがいるから、なにが起こっても対処できる。言われた通りに外して触ってみてくれ」


 グンタからも促されて、左腕の腕輪に手をかけた。外すのは初めてで、手が震える。

 ゆっくり外して、お兄さんへ腕輪を渡した。お兄さんはそれを色んな角度から見て「間違いない。魔道具だね」って頷いた。


 再度触れた箱の中は、さっき小さくなった時間を過ぎても、箱いっぱいに白く輝いたままだった。


「お疲れ様」


 戻ってきた腕輪をはめ直して、2人に頭を下げた。


「おめでとう、学校への入学は許可された。あとの詳しいことは孤児院へ送られるから、後日確認しておくように」

「はい」


 入ってきた扉から外に出た。


「フィオ! 長かったな」

「ごめん、待たせちゃったね」

「どうってことねぇよ。で、どうだった?」


 ロイが耳元で囁く。


「許可もらえた」

「よっしゃ。これでまた一緒だな」

「そうだね」

「よーし! お前ら腹減ったろ? なんか食って帰れ」


 ロイと僕の間に入り込んでグンタが笑顔で言った。


「俺らそんな金持ってねぇし」

「何言ってんだ。俺の奢りだ」

 

 やったぁ! どこに行くの? なに食べるの? って、列に並んでる間はあんなに文句言ってたロイが嬉々とした顔で城門へ向かって走り出した。「まだまだ子どもだな」グンタは微笑むと僕と一緒にロイの後を追った。


 グンタに騎士のあれこれを聞きながら歩いていると、あっという間に目的地に到着した。


「ほら、ここだ」


 グンタが騎士見習いの頃から通っている食堂だって。

 席について、慣れた様子でグンタが幾つか注文した。


「今日はおめでとう。ま、俺は大丈夫だと分かってたけどな」

「ありがとう」


 食事と飲み物がテーブルに置かれてる。初めての外食に胸が弾んだ。

 コップを持って、入学許可祝いの乾杯をして、並んだ料理をお腹いっぱい食べた。


「美味しかったぁ」

「そりゃよかった」


 ロイと僕の食べっぷりを笑顔で見ていたグンタの顔が引き締まった。


「別れる前に話しておきたいことがあるんだが」


 ロイと顔おを見合わせて、僕らはきちんと座り直した。ライハ様直伝のまじめな話を聞くときの作法だ。


「ロイ、お前の言いたかった事はよく分かる。俺も運良く一般だけど入学が許可されたから今があるしな。魔力がなくて支援してくれる人も現れなくて、学校に行くことなく働きだした奴もいる。同じ孤児院で育ったんだ、お前らも何人かは顔がわかるだろ?」


 ライハ様と住み込みで働ける職場を探したり、通いで働ける職場を探して、最後はみんな笑って孤児院を去って行った。魔力が少なかったり無いってだけで、みんな真面目で優しくていい兄姉ばかりだった。


「だけどだ、それでもだ。政策の批判は王家への批判と受け取られる。お前たちは年が明けたら入学だ。今の学校には王太子も在籍している。滅多なこと口にすんじゃないぞ。特にロイ、分かったな」


 分かった。とロイも真面目に返事をしたけど「お前の分かったは当てにならないからなぁ」ってグンタはため息をついた。


「ルータスやチイアも在籍してる。ルータスなんかはほんっと頑張ってるからな。足を引っ張るんじゃないぞ」

「分かってるよ、俺だってやる時はちゃんとやれるんだからな」


 何度その言葉を聞いたかなぁ。


「測定を見てた俺だから分かる。お前たちは必ず俺より上をいく。だから、多少の不満は飲み込め。多少の理不尽は笑って流せ。いいな」


 孤児院で育った血は繋がっていないけど兄であるグンタの言葉に、ロイも僕も頷くしかなかった。

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