敵と変態と完全勝利
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夕日をバックにポーズを決める、ブーメランパンツ一丁にマントを背に付けたフルフェイスヘルメットの変態――シャイニング村田。
彼の登場に人々は歓喜し、困惑した。
「はっ!!あ、危ない!Mr.イーカ!Mr.クラッゲ!しっかりしなさい!これは彼の作戦です!」
「な、なるほど!見た目で拙者らの動揺を誘うという作戦か」
「何て卑怯な奴だ!」
正気を取り戻した怪人たちはシャイニング村田を囲う。
「ターコッコッコ!シャイニング村田よ、ここが貴方の墓場ですよ!」
「イーカッカッカ!消し飛ばしてくれるわ!」
「クーラッラッゲ!倒してやる!」
じりじりと詰め寄る怪人たち。
「どうした?早くかかってこい」
村田の言葉を合図に怪人たちが動き出す!
Mr.ターコ、Mr.イーカ、Mr.クラッゲの触手がシャイニング村田に襲い掛かった!!
触手が村田に直撃する!
怪人たちが勝利を確信した直後、彼らの身体が村田の方に引き寄せられる!
「タコ!?」
「イカ!?」
「クラッゲ!?」
そして、彼らの腹にシャイニング村田の拳が突き刺さった!!
吹っ飛んでいく怪人たち!
「イカ~……なんてパワーだ」
瓦礫の中から起き上がろうとしたMr.イーカが見たのは自分の目の前に迫る拳であった。
「イカアアァ!!」
Mr.イーカに接近したシャイニング村田の拳が絶え間なくMr.イーカを襲う!
「Mr.イーカ!?」
Mr.クラッゲが彼を助けようと、シャイニング村田に触手を伸ばす。
だが、その触手が届くころにはMr.イーカは既に力尽きていた。
Mr.イーカを倒したシャイニング村田はMr.クラッゲが伸ばした触手を掴む!
「クーラッラッラッゲ!Mr.イーカの仇だ!食らえ!サンダーボルトオオオ!!」
Mr.クラッゲの触手に電流が流れる。
強力な電撃をその身に受けるシャイニング村田!
「はあはあはあ……ど、どうだ!」
全身全霊のMr.クラッゲの一撃はシャイニング村田を焼き尽くした……はずだった。
「ありがたい。やはり、僕にこれはいらない」
しかし、Mr.クラッゲは触手の先にいるシャイニング村田を見て絶句した。
あれだけの電撃を食らってシャイニング村田はピンピンしていたのだ!いや、むしろ電撃によりブーメランパンツが燃え尽きたため、彼は変態として更なる進化を遂げていた!!
「ヒッ!!く、来るなぁ!!」
シャイニング村田に必死で触手を飛ばす、Mr.クラッゲ!しかし、その触手は全て弾かれる!
「邪魔なものから僕を解放してくれたお礼だ。受け取ってくれ」
「い、嫌だあ!!おいらだってこんな変態じゃなくてちゃんとしたヒーローに倒されたイイイイイイ!!」
シャイニング村田の右ストレートがMr.クラッゲの腹に突き刺さる。
そして、Mr.クラッゲは力尽きた。
シャイニング村田に仲間が簡単に倒される姿を見て、Mr.タコーは戦慄した。
怪人にだってやられるにしても理想のシチュエーションがある。例えば、ギリギリで覚醒したヒーローの新必殺技でやられるなら怪人も本望だ。
しかし、目の前の男はどうだ?
確かに覚醒はしたかもしれない――変態としてだが。新必殺技も出た――今までは何発も打っていた拳を一発にしただけだが。
嫌だ嫌だ嫌だ!私にだって怪人としてのプライドがある!こんな変態に倒されたくない!!
生き残るために頭脳をフル回転させたMr.タコーが選んだのは、人質作戦だった。
「そ、それ以上近付けばこの女の命はありませんよ!!」
「キャアアア!!」
近くにいた女を捕らえ、シャイニング村田を脅すMr.タコー。
「罪のない人を恐怖のどん底に突き落とすとは卑怯な怪人め!」
「キャアアア!!」
シャイニング村田の姿を見て悲鳴を上げる女性!!
Mr.タコーはお前が言うなと突っ込みたかった!!
「お嬢さん。目を閉じていてください」
「言われなくても閉じるわよ!!」
女性が目を閉じるとシャイニング村田は正拳突きを放つようなポーズをとる。
「な、何をするつもりですか!?ま、まさか……衝撃波を出すつもりですか!?」
Mr.タコーの言葉にニヤリと笑うシャイニング村田。
そして、次の瞬間だった!
シャイニング村田が空中に正拳突きを放つ!
思わず目を閉じるMr.タコー!
彼の心の中に、衝撃波というまさしく派手でかっこいい新必殺技で倒されるならそれでもいいという考えもあったのかもしれない!
彼は人質を攻撃したりしなかった!
しかし!何も起こらなかった!!
「タコ!?どういうことですか!?」
困惑しているMr.タコーの目の前にはフルフェイスヘルメットにマントを身に付けた全裸の男がいた。
「これで終わりだ!」
「タ、タコオオオオオ!!」
止まることのない連撃がMr.タコーを襲う!!
そして、Mr.タコーは力なく地面に横たわった!
仕上げとばかりに、人質の女性をお姫様抱っこするシャイニング村田。
「もう目を開けても大丈夫ですよ」
シャイニング村田の優しい声に目を開ける女性。
視界にはシャイニング村田の厚い胸板が見えたりしたが、この程度なら彼女も我慢できた。
「あ、ありがとうございま――キャアアア!!」
しかし、シャイニング村田に立たせてもらってから改めてお礼を伝えようとシャイニング村田と向かい合った時、彼女の視界にはシャイニング村田のあれが入ってしまった!!
あまりのショックに気を失う女性!!
「まだ怪人たちに人質にされたショックが残っていたのかな?」
そう言い残すと、シャイニング村田は何処かへと消え去っていった。
「た、助かったんだよな……?」
「そ、そうよね。シャイニング村田が復活したのよね?」
「や、やったー?」
人々はシャイニング村田を求めていた。そして、その期待に応えるようにシャイニング村田は復活した!
しかし、全員が心のどこかで喜びきれなかった。
***
「ただいま!」
事務所に帰ってきた村田。その村田の姿を見て田中は悲鳴を上げた。
「村田さんお疲れ様で……ぎゃあああ!?」
「田中さんどうしたの!?まさか……敵襲!?」
キョロキョロと辺りを見回し敵を探す村田。その村田に対して田中は声を張り上げて疑問をぶつける。
「な、何でパンツが無くなってるんですか!?」
「何だそんなことか。パンツなら敵に燃やされちゃったよ。でも、おかげでスッキリしたからよかったよ!」
そう言った村田は晴れやかな笑顔を浮かべていた。
「よくないですよ!!まさかその格好で人前で戦ったり……」
「したよ。だって侵略者を倒さないといけないし」
「か、隠そうとはしたんですよね?」
「しないよ。そんなことしてたら戦いに集中できないし、隠す必要もないからね」
村田の返事に田中は頭を抱えた。
「お終いだ……。ネット上で炎上して、PTAに追い詰められて、ヒーロー協会や政府にも見捨てられるんだ。ハハハ……新しい職場見つけなきゃなぁ」
「田中さん……。何があったかは知りませんがそんなに落ち込まないでください。大丈夫です!きっと何とかなりますよ!!あ!田中さんも裸になれば楽になれるかもしれませんよ!」
村田の言葉に怒りを通り越して呆れる田中。彼自身、もう怒っても無駄だということを理解していた。
「ちくしょう!!どうせ、明日から無職になるんだ!今日くらい暴れてやる!!」
服を脱ぎ棄てネクタイと靴下を身に付けただけの姿になる田中。
「お!田中さん中々いい身体してますね!!さあ!一緒に今日は僕の復帰祝いパーティーでもしましょう!!」
「おらあ!!やってやるぜ!酒持ってこいやアアアア!!」
その晩、シャイニング村田ヒーロー事務所から明かりが消えることは無かった。
次回予告
村田「いやー、まさか敵が人質を取ってくるとは思わなかったなぁ」
田中「それ以上に予想外だったことがあると思うんですが……」
村田「ここでヒーローコソコソ噂話。田中さんは現在27歳の妻子持ちらしいよ」
次回「呼び出し」
つづく