田中さん、久しぶりです
よろしくお願いします!
「シャイニング村田闇堕ち事件」と世間で騒がれた事件から一週間が経過した。人の噂も七十五日とは言うが、知名度の低い村田の噂は一週間でほとんど収束していた。
その裏にはもちろん、田中や佐々江の頑張りもあったのだがそんなことを村田は知る由もない。
そして、村田は一週間ぶりに事務所のドアを開けた。
「村田さん!お久しぶりで……はあ!?」
田中は村田を励まそうと思っていた。今日からまた一緒に頑張ろうと伝えるつもりだった。
しかし、そんな思いは目の前に現れた全裸の男を前にして消え去った。
「田中さん。久しぶりです」
吹っ切れたように爽やかな笑顔を村田は浮かべていた。
「は……え……村田さん?何があったんですか?」
「ははは。やっぱり分かりますか?実は、大事なものを見つけたんです」
田中には村田の言っていることが何一つ理解できなかった。大事なことを見つけたのはいいことだ。だが、何故、それが全裸に繋がると言うのか。
田中が混乱しているうちに、村田は以前まで使っていたコスチュームを着用していく。
全身タイツを除いて。
「よし!今日も街の平和を守りに行くぞ!」
「ちょちょちょちょっと待ってください!!」
意気揚々と外に出ようとする村田の両肩を掴む。
「何考えてるんですか!?この一週間で変態になったんですか!?」
田中の言葉に心外だという表情を見せる村田。
「違いますよ。これが新しいシャイニング村田の姿です」
「恥ずかしくないんですか!?」
「恥ずかしい?その感情は人に見られることを意識しているからこそ生まれるものでしょう?人に見られることを意識するということは人気を欲しがるということです」
突如、語りだした村田。
「で、でも村田さんは人気を欲しがっていたじゃありませんか!なら、ちゃんと服を着てください!」
「もう人気はいりません。僕にとって一番大事なことは世界の平和を守ることです。だから、僕にはもう自らの身体を隠すものなど必要ないんです」
訳が分からなかった。
世界の平和を守ることは大事だ。だが、TPOをわきまえることも大事だろうと田中は叫びたかった。
そんな田中の思いを無視し、村田はドアノブに手をかける。
「待ってください!その格好だと捕まりますよ!お願いですからタイツを着てください!」
嫌そうな顔を田中に向ける村田。
「な、なら!パンツだけでもお願いします!そのままじゃ、若い女性たちの心の平和を守れませんよ!!」
平和と言う言葉に村田が反応する。
「確かに、田中さんの言うことにも一理ありますね。分かりました。なら、パンツだけは穿きましょう」
そう言うと、村田は事務所の奥から紺色のブーメランパンツを取り出し着用した。
「これでよし。では、行ってきます!」
本当は全身タイツで行って欲しかった。しかし、今の村田を止められるだけの力を田中は持っていなかった。
***
いつもに比べ商店街に活気は無かった。
実はこの一週間でこの商店街の侵略者たちによる被害は格段に増加していた。
その理由がシャイニング村田いなかったからだということを人々は薄々感ずいていた。
元々、この地域はシャイニング村田という優秀なヒーローがいるということで侵略者たちにあまり狙われていなかった上に、他のヒーローの数も少なかった。
しかし、今回の事件により侵略者たちはシャイニング村田がいない時がチャンスだと必死に侵略を進めてきた。
そして、その侵略を他のヒーローたちが止めるにはあまりに荷が重かった。
しかし、遂に今日シャイニング村田は復活する。そのことに僅かな希望を感じつつも人々は不安も感じていた。
あんな事件があったためにシャイニング村田はもうこの街を守ってくれないのではないかという不安だった。
そんな人々の思いとは関係なく、今日も侵略者は現れる!
「キャアアア!!怪人よおお!!」
「こっちも怪人よおおお!!」
「こっちも怪人だわあああ!!」
夕日が差し込み、オレンジ色に染まる商店街に三体の怪人が現れる。
「ターコッコッコッコ!!私は『パイレーツ』の怪人Mr.タコー!!」
「イーカッカッカッカ!!拙者は『パイレーツ』の怪人Mr.イーカ!!」
「クーラッラッラッゲ!!おいらは『パイレーツ』の怪人Mr.クラッゲ!!」
「くそ!てめえら、またこの商店街名物のピヨ子饅頭を海鮮物にするつもりだな!!」
ここ数日で、人々の食生活は海鮮物ばかりになっていた。初めのうちは楽しんでいた人々も一週間も続けば限界が来る。
しかし、商店街の人々の言葉に怪人たちは首を振っていた。
「そんなくだらないことはもうしません」
「拙者たちの今日の目的は一つ」
「それは……」
「「「シャイニング村田を倒すこと!!」」」
人々は動揺した!
シャイニング村田は強い!しかし、今までシャイニング村田は一対一の戦闘しかしていない!
いくらシャイニング村田でも三体が相手では敵わないかもしれない。
「しかし、中々遅いですね……」
「どうやら、一週間前の事件は奴にも多大なるダメージを与えたようだな」
Mr.イーカの言葉に気まずそうな顔を浮かべる商店街の人々。
「もしくはおいらたちに恐れをなして逃げたか!」
声を上げて笑う怪人たち。
そんな怪人たちに反論する者がいた。
「シャイニング村田は逃げたりしないもん!」
それはいつかのシャイニング村田の姿を見てヒーローの道を考え直した少年だった。
彼はあれからヒーローと言う職業について調べた。そして、シャイニング村田の怪人討伐数の凄さに気付いたのだ。
「シャイニング村田はお前らみたいな怪人に負けない!!」
子供の声が夕暮れの商店街に響き渡る。
しかし、その声は怪人たちにとって不快なものだったようだ。
「キャンキャンとやかましいですねぇ」
「処す?処す?」
「やっちゃえ!」
じりじりと子供ににじり寄る怪人たち。子供の目には涙が浮かんでいた。
「た、助けてー!!」
誰かが叫んだ。
そして、その声に応えるかのように一人の男の声が響く!!
「待て!!」
「「「この声は!!」」」
怪人たちと商店街の人々の声が被る。
彼らの視線の先には夕日をバックにして歩いてくる、見慣れたフルフェイスヘルメットの男がいた。
「「「お、お前は誰だ!?」」」
怪人たちは僅かに動揺していた。商店街の人々も動揺していた。
「僕の名前は……シャイニング村田だ!!」
風になびくマント、ごつすぎるフルフェイスヘルメット、大事なところを隠す紺色のブーメランパンツ。そして、オレンジ色に照らされる引き締まった肉体。
『変態だああああ!!!』
村田以外の全員の気持ちが一致した瞬間だった。
第8問「自分の転機を答えなさい」
村田光の答え「人前で全てをさらけ出した時です」
先生から「物理的という意味でないことを祈ります」
次回「敵と変態と完全勝利」