神のコスチューム
波乱のコスチューム製作から一週間がたった。
村田と田中の目の前には、遂に出来上がったコスチュームが届いていた。
「おお……かっこいい」
「ソウデスネ」
田中の目が死んでいることに村田は気付かない。
このドラゴンの顔と世紀末をコラボさせたようなコスチュームのために、今回シャイニング村田ヒーロー事務所は有り金のほとんど全てを費やした。
見た目はふざけているが一つ一つの素材は一級品だったのだ。
「田中さん……!ありがとう。田中さんがコスチュームを新調するという案を出してくれなければ、僕はこの素晴らしい姿に進化することはできなかった!」
手を取り感謝を伝えてくる村田に、田中は何も言えなかった。
「さあ!今日から新生シャイニング村田だ!行くぞ!!」
元気よく事務所を飛び出す村田。
その背中を田中はただ見つめることしか出来なかった。
***
「イヤァーッ!!怪人よおっ!!」
平穏な日曜日の昼過ぎ、買い物をする人々で賑わう商店街に悲鳴が響き渡る。
「カーイカイカイカイ!!俺は『パイレーツ』の怪人Mr.カーイだ!この商店街の商品を全て貝に変えてくれるわ!!」
二枚貝の様な頭をした怪人が目からビームを出す!そのビームを受けた商品は次々とアサリやハマグリ、タニシなどの貝に変わってしまった!
「そんな……!貝アレルギーの俺はこれから何を食べればいいんだ!?」
「この商店街の名物のピヨ子饅頭がシャコ貝になっちまったぁ!!」
これからは毎日、貝の殻を取ってから貝を食べるという面倒な作業をやり続けなくてはならないのかと人々が絶望していたその時だった!
「そこまでだ!」
太陽を背に一人の男が歩いてくる。
「誰だ!?」
「俺は――シャイニング村田だ!」
シャイニング村田といえば、ダサくて地味なコスチュームで有名だ。しかし、目の前の男の派手で禍々しい雰囲気はとてもではないがシャイニング村田は愚か、ヒーローにも見えなかった。
「嘘だ!シャイニング村田はあんな姿じゃない!あいつはきっと新しい怪人だ!」
「そ、そんな……怪人が二体もいるなんて、この商店街はもうお終いよぉ!!」
「カイカイカイ!何だ、同業者か。お前もこの商店街が狙いなら共闘といこうじゃないカイ?」
Mr.カーイは警戒を解き、ドラゴンの頭をした村田に近づく。しかし、それはシャイニング村田にとって絶好のチャンスだった!
「ドラゴニッククロー!!」
「ギョエエエエ!?」
シャイニング村田の棘だらけの拳がMr.カーイに突き刺さる。
「もう一度言おう。俺は……シャイニング村田だ。地味だったころの俺はもういない。この姿が俺の新たなる姿だ!」
その言葉に商店街の人々は言葉を失っていた。
「カイカイカイ……。報告とは姿が違うが、まあいい。お前を倒すためにこの俺は生まれたのだ!見るがいい!シェルシールド!!」
Mr.カーイの全身が貝殻で覆われていく!それは物理攻撃特化のシャイニング村田対策であった!
「カイカイカイ!この貝殻の硬度は鉄を遥かに上回る!この貝殻を殴れば壊れるのはお前の手だ!」
余裕の表情を見せるMr.カーイ!
しかし、我らの村田がこの程度で止まるはずが無かった!!
「ははは!無駄だ。竜の牙」
シャイニング村田の拳に極太の針が現れる!
「カイ!?な、何だそれは!?そんな針は報告には無かったぞ!?」
動揺を隠し切れないMr.カーイ!
「俺は進化した。さあ、この針の威力をお前で試させてもらうぞ!!」
シャイニング村田は一瞬でMr.カーイの前に移動する!そして始まる止まらない連撃!!
シャイニング村田の拳の先にある針がMr.カーイのシェルシールドに突き刺さる!一撃目でヒビが入り、二撃目で殻は壊れた。
「カイイイイイ!?」
データよりも遥かに威力の高い攻撃にMr.カーイはサンドバックと化す!
「ははははは!!」
殻を完全に破壊し、既にMr.カーイが力尽きていることにも気付かずに連撃を食らわせ続けるシャイニング村田!
彼は新しいコスチュームにより、以前より格段に引き上げられた身体能力にテンションが上がっていた!
更に、彼が着けていたドラゴンのマスクに闘争心を上げる作用があったことも影響していたのだろう。彼は周りから見れば完全にバーサーカーとなっていた!!
「はははははは!!はーはっはっはっはっは!!はーはっはっはっはっはっは!!!――これで終わりだああああ!!!!」
とどめとばかりに、右アッパーがMr.カーイに突き刺さった!
力なく地面に倒れるMr.カーイ。Mr.カーイと供に来ていた数人の戦闘員たちは涙を流し命乞いを始めていた。
「ふん!さっさと立ち去るなら見逃してやる」
シャイニング村田の一言に頭を地面に擦り付け感謝を伝える、『パイレーツ』の戦闘員たち。彼らはこの日のことを『パイレーツ』のボスに伝えるだろう。
この街の商店街には怪物がいるということを……。
「さらばだ」
どこかへと姿を消すシャイニング村田。
シャイニング村田の姿が消えてから商店街の人々は安堵のため息を吐いた。彼らは皆、シャイニング村田の容赦の無さにドン引きし、恐怖していた。小さい子供たちは、それぞれの親に抱き着き涙を流していた。
この時、彼らの胸に一つの思いが芽生えた。
地味だったシャイニング村田に戻って欲しい……。
***
「お疲れ様でーす!」
意気揚々と事務所に帰ってくる村田。その村田に田中は声を掛けた。
「お疲れ様です。機嫌良さそうですね」
村田の機嫌が良いのは田中にとって、予想外だった。まさか、あの怪人のようなコスチュームが受け入れられたのだろうか?
「うん。このコスチューム凄く良かったよ!以前よりも身体がよく動いたし、怪人も簡単に倒せたしね!周りの人も言葉も出ないほど感動してたみたいだしさ!」
笑顔でそう言う村田を見て、田中も笑顔がこぼれた。
「それなら、お金をかけてコスチュームを変えた甲斐がありましたね」
「うん。田中さんと佐々江さんには本当に感謝だよ!」
一度はこの事務所をやめようかと思った。だが、田中の予想とは違い新コスチュームは人々に受け入れられたようだ。
いや、もしかすると完全に受け入れられたわけではないかもしれないが、村田の反応を見る限り、人々の反応はそこまで悪いものではなかったんだろう。
何より、田中は久々に笑顔になっている村田を見ることができて嬉しかった。なんだかんだ言って、田中は村田のことを応援している。
だからこそ、最近の人気が無いと悲しんでいる村田を見るのは辛かったのだ。
「今日は寿司でも頼みましょうか」
「え!?でも、コスチュームの件でお金を大分使っちゃったんじゃないの?」
「特上寿司二人前くらいなら何の問題もありませんよ。それに、今日から村田さんがどんどん人気を出して稼いでくれるって信じてますからね!」
「田中さん……。僕、頑張るよ!!あ!そうだ!なら、佐々江さんも呼ぼうよ!」
「いいですね!」
シャイニング村田ヒーロー事務所に久しぶりに笑顔が戻った瞬間だった。
***
一方その頃……某有名なSNSにて『シャイニング村田?戦闘シーンやばすぎwww』というタイトルで一つの動画がアップされた。
その動画は直ぐに拡散され、多くの人からの反響があった。
『なあにこれぇ?』
『シャイニング村田(闇堕ち)』
『リアルオラオラを実現する奴がいるなんて……』
『こんな化け物がいるなんて聞いてないんですけど(侵略者)』
『侵略者いて草』
この動画によりシャイニング村田の知名度は格段に上がることになる。
だが、この動画のシャイニング村田の姿が多くの子供たちのトラウマとなったことから、シャイニング村田の新コスチュームはこの戦い以降封印されることになるのであった。
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次回「ジゴ×ト×ジコ」
明日も見てね!
 




