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村田誕生秘話 後編・下

よろしくお願いします。

 村本の妻が死んだというニュースは直ぐに日本中を駆け巡った。村本がユニバースライムと会敵し、倒したというニュースと供に。


 後日、警察などを中心としてユニバースライムの残骸がいくつか確認され、村本がユニバースライムを倒したことは事実として残った。


 一方で、村田美月は兄からもらい受けた研究所で一体のクローンを生み出していた。

 その姿は三、四歳程度の子供の姿をしていた。


「大きく育ちなさい……。村田光」


 村田光。

 それが美月が研究の果てに生み出したクローンの最高傑作であった。

 安定性を生み出すために、村本以外の細胞をいくつか混ぜたため村本の完全なるクローンとは言い難いが、紛れもない村本のクローンだった。


 これからは、このクローンの母親として自分は生きていこう。美月はそう考えていた。


「……ふう。死ぬかと思った」


 研究所に入り込んでくる一人の男。

 その男は、村本に殺されたはずのラスボスだった。


「それが、美月の最高傑作かい? 素晴らしい。彼なら、村本を殺せるだろう」


「生きていたの……?」


「勿論さ。私は目的を果たすまで死なない」


 ラスボスが試験官内にいる村田光の身体をじっくりと舐めまわすように見る。


「……いい身体だ。性格までは分からないが、この子こそ私にとってかけがえのない存在になるかもしれない」


「……どういうことかしら? この子は私の子よ?」


「ああ。好きにするといい。だが、忘れるな。私と美月の間で契約したことをな」


 美月とラスボスは最初の時点で契約をしていた。

 その契約は、美月が生み出したクローンはラスボスに所有権があるというものだった。


「まさか、この子をあなたの計画に利用する気?」


「さあね?」


 そう言うとラスボスは何処かへ姿を消した。

 それから美月は村田光が小学生になるまでともに過ごした。


 しかし、村田が小学生になるのと同時にラスボスに呼び出された。


 ラスボスは美月に村本のクローンを再び量産するように指示した。美月はそれを断ろうとしたが、村田の命を奪うと脅され、ラスボスの指示に従うことを選んだ。


 そして、月日は流れ、村本のクローンとして生まれた村田光はヒーローを目指した。

 その活躍を美月はずっと見てきた。

 応援していた。


「ふふふ。素晴らしい。素晴らしいよ。村田光! 君こそ真の村本光に相応しい!!」


 そして、ラスボスもまた村田光の活躍を心から祝福していた。


 そのラスボスの様子を美月は、最初は好ましく思っていた。

 だが、ラスボスの真の狙いを知った瞬間に美月の顔は青ざめることとなった。


「村本光を殺す。そして、村田光を真の村本光として私と彼を中心とした世界を生み出す」


 それがラスボスの狙いだった。

 ラスボスにとって、春香という一人の女性を選び、自分を殺そうとした村本光は必要なかった。

 そのため、村本光と同じかそれ以上の実力を持ち、ヒーローとして輝く村本光に限りなく近い存在を、真の村本光としようというのだ。


 当初の計画では、村本光を殺すのは村田が二十歳になってからだった。

 だが、数々の修羅場をくぐり抜けた村田の成長はラスボスの想定を超えていた。

 そして、データから現時点で村田光が村本光を超えていると判断したラスボスは行動を起こした。


 その行動を美月は止めるために水面下で動いていたが、ラスボスが計画を早めたことで阻止することが出来なかった。


 そして、ラスボスに村田光の所有権がある以上、美月は何も出来ずに村田光を奪われた。


 ラスボスの計画が実行されるのは、ヒーローの祭典がある日。

 つまり、今日だった。


***


「私は……。ただ、愛する人と同じ時間を過ごしたかっただけだった。自分を愛してくれる、自分が愛せる、そんな人が欲しかっただけだった。こんなつもりじゃ……無かった!」


 話を終えた美月の瞳からは涙が溢れていた。


 話を聞いていたヤミは動けず、言葉も発せずにいた。

 当然だろう。自分が愛した人は純粋な人間ではなく、人に生み出されたクローンだったのだ。

 しかも、そのクローンは今、この国の人気No.1ヒーローを殺そうとしている。

 それを受け入れるには時間がどうしても必要だった。


「美月さん。行きましょう」


 その中で、ただ一人佐々江だけは冷静に状況を判断し、美月の話を受け止めることが出来ていた。


「行くって……。まさか、会場に?」


 美月の言葉に佐々江はコクリと頷く。


「先ほどの話が本当ならば、私たちは今すぐに会場に行って村田さんを止めなくてはいけません。時間はもうありません。行きましょう」


「……もう無理よ。所有権は私の兄で、ユニバースライムであるラスボスにある。今更、私がどうしたって……」


 パチン。


 乾いた音が響く。

 美月が佐々江にビンタされた頬を抑えた。


「今、一番辛いのは貴方じゃない! 望まないことを無理矢理させられることになる村田光さんです!! 彼の親として、彼を守りたいなら今すぐに動きなさい!!」


 佐々江はそう言うと同時に、会場に向かった。

 そして、その佐々江をヤミが追いかけようとする。


「ちょっと、待って」


 だが、そのヤミを美月が止めた。


「……どうして、光のために迷わずに行動できるの? あの子はクローン。純粋な人じゃないのよ?」


「好きだからです」


 ヤミは美月の顔を見てそう言った。


「正直、先輩のお母さんの話には驚きました。でも、冷静に考えれば私が先輩を愛しているということに、先輩がクローンかどうかは関係ありませんでした。だから、先輩の幸せのために私は動きます」


 そう言うとヤミは美月に背を向けて走り出した。

 その場に残されたのは美月一人。


 美月の足を止める理由。

 それは村田光という少年と過ごした時間の少なさだった。


 美月は村田に母親らしいことは殆どしてあげることが出来なかった。それでも、再開するたびに村田は美月を母親だと言ってくれた。

 美月を家族と言ってくれた。


 それは、美月自身がそうなる様に最初に設定していたからだが、それでも美月がそのことを嬉しいと感じていたのは紛れもない事実だった。

 美月は、目を閉じて考える。

 笑顔の村田光を。今の生活が楽しいという村田光を。


 それを思いだせば、美月自身がするべきことが何か。その答えは直ぐに見つかった。


「………今まで出来なかった分も、母親としてしっかりしないとね」


 美月は走り出す。

 今度こそ、村田光に胸を張って母親だと名乗れるように。

村田誕生秘話はこれで終わりです!

次回から、再び会場に戻ります。

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