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村田誕生秘話 後編・上

よろしくお願いします!!

 美月がラスボスに手を貸し、村本光のクローンが生み出された。


 一番最初に生み出されたクローンは、一月経たないうちに死んだ。二番目に生み出されたクローンもまた、一月もたなかった。


 それから何度も何度もクローンを生み出しては、研究するという生活を続けること一年。


「できたわ」


「……素晴らしい。正しく、私と供にいた頃の村本光だ」


 高校時代の村本光とほぼ同一の存在と言える、クローンが完成した。今回のクローンは何もしなければ20年は生きることができるほどの完成度だった。


「あなたの言う通り、戦闘能力に関しては今の光さんとほぼ同じの能力まで出せるわ。でも、能力を限界まで使うと身体がもたなくなるから気を付けて」


「ああ。分かっている。では、私は行ってくるとしよう。美月は、ここで引き続きクローンを生み出しておいてくれ」


 ラスボスは怪しく笑いながら、基地を後にした。


***


 村本光は順風満帆と言っていいほど充実した人生を送っていた。

 ヒーローとしても名実ともにNo.1となり、プライベートでは最愛の妻と供に幸せな生活を送っている。


 数か月前に、妻が妊娠していることが分かり、これからは子供と妻と素晴らしい人生を歩んでいける。

 そう思っていた中、彼の家に一人の男が訪れた。


「久しぶりだね。村本」


「お、お前は……菩須なのか?」


「ああ。会えてうれしいよ」


 その男は村本の幼馴染であり、親友であり、失踪していた人物だった。


「菩須! どこに行ってたんだよ! 僕も、菩須の妹の美月ちゃんも心配していたんだよ」


「すまなかったね。でも、もう大丈夫だから。今日は、久々に村本光に会いに来たんだ。良かったら二人で、どこかへ話に行かないか?」


 ラスボスがそう言い終わったところで、部屋から村本春香が顔を覗かせた。


「光? お客さん?」


「春香! ほら、高校時代の僕の親友だった菩須だよ」


「ああ! 村田君? 久しぶりね」


 柔らかな笑みを浮かべる春香。

 高校時代から十年の月日が流れているにもかかわらず、その美貌は一切衰えておらず、寧ろ大人の色気を纏ったことでより魅力的になっていた。


「久しぶりだね。結婚、おめでとう」


 ラスボスは笑顔を浮かべる。


「ふふ。ありがとう」


「ん? 春香さんのお腹……」


 そこでラスボスは春香のお腹を見て、少し膨らんでいることに気付いた。


「実は、僕たち子供が出来たんだ」


 少し照れ臭そうに村本はそう言った。

 それを見て、ラスボスは「へえ」と怪しく微笑んだ。


「それはおめでとう」


「ありがとう。ああ、それで二人で話したいんだったな……。うーん。でも、春香を一人にするのはなぁ」


「光。私は大丈夫だから、行ってきなよ」


 春香が微笑みながらそう言った。


「そうか。なら、行かせてもらうよ」


 村本はそう言うと、家の中に戻り、準備を整えて玄関に来た。


「じゃあ、行くか」


「ああ。悪いな」


 そう呟くラスボスの笑みの中に潜む悪意に、村本は気付くことが出来なかった。


 村本の家から少し離れた位置にある喫茶店に入った二人は、ゆっくりと話していた。

 実際は、この十年の間に起きた出来事を村本が話して、それをラスボスが相槌を打ちながら聞いていただけだ。


「村本。久しぶりに私たちが通っていた高校に行こう」


 ある程度、村本の話が終わったところでラスボスはそう言った。

 時間に余裕のあった村本はそれを了承した。


 高校に行くと、休日ながらも数人の教員がいた。

 その先生方にお願いして、校舎の中に入る。

 ラスボスの提案もあり、二人は屋上に向かうことになった。


 ラスボスにとっても、村本にとっても忘れられない屋上に。

 屋上には風が吹いていて、少し肌寒かった。


「あの日も、こんな風が吹いていたね」


 ラスボスは村本に背を向け、そう呟いた。


「菩須……」


「村本」


 話し出そうとする村本の言葉をラスボスは遮る。


「君が好きだ。今も、変わらない。あの女を捨てて私と二人で過ごさないか?」


 十年の月日が流れても、ラスボスの思いは変わらなかった。

 ラスボスの言葉に村本が息を呑む。

 あの日も、こうしてラスボスが村本に告白して、ラスボスは失踪した。


 だが、それでも村本の返事は変わらない。


「ごめん。僕は、春香ちゃんと春香ちゃんとの子供を大事にしたい」


 既に村本の中で優先順位はついていた。


「そうか。やはり、君は変わってしまったね。昔は、私と二人でずっと過ごしてきたのに……。全ては、あの女のせいか」


 そう呟くと同時にラスボスは何処かに電話を掛ける。


「121号。命令だ。その家にいる女を殺せ」


「菩須? 何を言って……」


 困惑している村本にラスボスはとある動画を見せる。

 その動画に移るのは、恐怖に表情を歪める村本春香の姿だった。


「春香!?」


「生中継だ。私の部下が、君の最愛の人を殺す。これで、村本はまた私と一緒にいられるよ」


「何言ってるんだ! 菩須! 止めてくれ!!」


「いいや。止めない。君は騙されているから正常な判断が出来ないんだ。安心してくれ、彼女がいなくなれば君も正気に戻るだろう」


 動画の中で村本春香の腹にナイフが突き刺さる。


『……光。……ごめん……ね』


「春香あああああ!!」


 村本は屋上から飛び降りた。

 勿論、No.1ヒーローの彼が負傷することはない。


 そのまま、救急車を電話で呼びながら、全力で自宅へ向かった。


***


 それから十日後、失意に沈む村本の前にラスボスは再び姿を現した。


「ふふふ。村本。やっと邪魔者は消えた。さあ、私と一緒に過ごそう」


「……」


 村本は何も答えない。

 ただ、最愛の人が眠る墓の前で涙を流すだけだった。


 村本光は間に合わなかった。

 村本が自宅に付いたころには、春香の身体は冷たくなっており、その身体には、数十ものナイフで刺された跡が残っていた。


「いつまで泣いているのだ? ああ、そうか。まだその女の呪縛に捕らわれているのか。分かったよ。なら、その墓も壊してしまおう」


 ラスボスが春香の墓に手をかけようとした時、その腕を村本が掴んだ。


「……ほお。流石は、私の村本だ。素晴らしい力だよ。でも、邪魔しないでくれ」


「……っ!?」


 突然、ラスボスの腕が液状化したかと思うと、次の瞬間村本の身体は吹き飛ばされていた。


「……がはっ。な、何が……?」


「さあ、破壊するとしよう」


 村本の視界には巨大なスライムがいた。


「まさか……。ユニバースライム?」


 村本が呟く。

 ユニバースライムとはかつて、日本を滅ぼしかけたこともある凶悪な侵略者であった。

 身体を自由自在に作り変えることが出来る上に、あらゆる生物に寄生することができる。

 何よりも厄介なのが、その捕食能力であった。

 ユニバースライムは生物を捕食すればするほど強くなる。

 全盛期には、数多くの侵略者とヒーローたちを捕食していたらしい。


「……ほお。気付いたんだね。そうさ。私は君を取り戻すためにこのユニバースライムを手中に納めた。この力があれば、もう誰にも邪魔されることなく君と私の世界を作ることが出来る」


 ラスボスが不気味に笑う。


「……ふざけるな」


 その笑みを村本は村本光としても、シャイニーヴィレッジとしても許せなかった。


「菩須。いや、ユニバースライム。春香の夫として、春香の仇を討つ。ヒーローとして、お前を討伐する。そして、かつての親友として……お前を止める!!」


 その言葉と供に村本光は走り出した。


 そして、二人の激闘は一時間続き……。


「ば、馬鹿な! この私が!! この私があああああ!!」


「永遠に眠り続けろ! シャイニングバーストオオオオ!!」


 村田光の必殺技の前にユニバースライムとなったラスボスは爆散した。


「……終わったよ。春香」


 空を見上げる村本の目には涙が浮かんでいた。


 これで、ラスボスとユニバースライムは消えたはずだった。


ありがとうございました!

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