表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/62

届かない

よろしくお願いします!

 佐々江と田中から離れた村田は一人で椅子に座り、静かにその時を待っていた。

 その頭の中にあるのは、ただ役割を果たすことだけ。

 それ以外の一切は、村田の頭の中から消えていた。


「村田?」


 その村田に声を掛けたのは愛だった。


「……」


「待って!」


 静かにその場を立ち去ろうとする村田。

 だが、愛がその腕を掴む。


「……どうして逃げるの?」


「命令されているからだ。関わりを持つな、と」


「……そう。変身」


 村田の目を見た愛が静かに変身する。

 その姿を見た村田が身構える。


「安心して。敵対するつもりは無いから。ただ、元の村田を取り戻したいだけ」


 変身を終え、ラブリーピンクとなった愛がステッキを強く握りしめる。


「……ラブリーヒーリングシャワー!!」


 桃色の光が村田を包み込む。


 それは、愛の願いを込めた一撃だった。

 愛の攻撃は相手の精神に入った不純なものを除く力がある。そのため、洗脳されている相手に攻撃を加えれば洗脳は解ける……はずだった。


「……放せ」


 桃色の光を浴びた村田は、愛の手を振り払う。


「……っ。村田? 元に、戻ってないの?」


「元に……? ()()()、僕はこうだ」


 村田は淡々とそう言った。

 その目には、相変わらず光がない。


「元からって……どういう……?」


「……時間だ」


 村田が瞬時に愛に詰め寄る。

 そして、愛の腹に拳を叩きこんだ。


「……かはっ」


 膝をつき、その場に倒れこむ愛。

 それと同時に彼女の変身が解けていく。


「……さよなら」


 その言葉を放ったの村田の目には、僅かに光があった。

 だが、その光も直ぐに消えていった。


 この国を揺るがす大事件が起きるまで、一時間をきっていた。


***


 授賞式が行われるメインアリーナでは順調にその年で活躍したヒーローたちが賞を受けていた。


『続きまして、最優秀侵略者討伐ヒーロー賞の発表です』


 その言葉と供に会場が騒ぎ出す。


「今年は誰かな?」

「やはり、シャイニーヴィレッジさんじゃないか?」

「いや、ストロング武蔵(たけぞう)も中々のものだぞ」

「いやいや、御烈A(オレツエース)もその名に恥じない強さだし、選ばれるんじゃないか?」


 他の賞と違い、今年の最優秀侵略者討伐ヒーロー賞はかなり激戦で、ギリギリまで誰が選ばれるかは分かっていなかった。


『では、発表します。今年の最優秀侵略者討伐ヒーロー賞は……』


 どこからかドラムロールが鳴り響く。

 そして、ドラムロールの終わりと供にスポットライトが一人のヒーロー姿を照らした。


『シャイニング村田です!!』


 一瞬の静寂。

 その後に生まれたのはざわめきだった。


「シャイニング村田? 誰だ?」

「去年3位のやつじゃないか?」

「あ、ああ! あの地味なやつか……。え? あいつなの?」


パチパチパチ!!


 多くの人がシャイニング村田の名にざわつく中、数か所から同時に拍手が沸き起こる。

 その拍手を初めに、徐々に拍手が広がり、やがて会場中から拍手が沸き上がった。


「うう……村田さんがこんなにも祝福されるなんて……。おめでとうございます!!」


 涙を流す田中。


「くそ! これでまたあいつがモテモテになっちまう!」

「はあ、別にいいじゃないですか」

「そうよ。村井は私たちじゃ不満?」

「そ、そんなことないですよ!」


 事務員と、アルティメットガールと供に拍手をする村井。


「村田さん……。やっぱり、遠いな」

「ふふ。負けないように、私たちも頑張ろ」


 村田に救われ、ヒーローとなった田中も恋人と供に、村田を祝福する。


 テレビの先にいる人の中にも、村田を祝福する人が少なからずいた。


『おめでとうございます!』


 壇上に上がる村田がトロフィーを受け取る。

 その目からは涙が零れ落ちていた。


 これからシャイニング村田というヒーローは有名になっていく。

 ここから彼の人気は上がっていく。

 多くの村田を知る人がそう思った。


 そう、なるはずだった。


『さて! いよいよ今日の最後にして最大のメインイベント! 今年のNo.1ヒーローの発表です!!」


 会場のボルテージが一気に上がる。

 そんな中、村田は静かに会場から出て行った。


 会場からでた村田を待っていたのは、ラスボスだった。


「最後の思い出作りは済んだかい?」


「ご命令を」


「ふむ。そうなるようにしたのは私だが、もう少し人間らしさが残っていても面白かったかな?」


「ご命令を」


 村田の目に光はない。

 その姿はただ主の命令に従う、ロボットのようでもあった。


「なら、命令しよう。今から怪人を生み出す。その怪人が暴れるどさくさに紛れ、シャイニーヴィレッジを戦闘不能にしろ。ただし、あくまでもシャイニーヴィレッジが怪人にやられたように見せろ。そして、その後に怪人を倒せ」


「了解」


 そう言い残すと、村田は再び会場に戻っていった。

 その姿をラスボスは見届けてから指を一つ鳴らす。


「まーめんどい。仕事か?」


「ああ。今から会場を襲撃しろ。


「まーめんどいなぁ……。了解」


 そして、Mr.マーメンドイは会場にゆっくりと近づいて行った。


「くくく……。これでいい。後は……くくく」


 後に残ったのはラスボスの不気味な笑い声だった。


***


 佐々江とヤミの二人は美月を探しだすことに成功していた。


「美月さん。何を隠しているのか、説明してもらいます」


 美月は何も言わず、項垂れていた。

 佐々江とヤミが見つけ出した時には、既にこうなっていた。


「……先輩を助けたいんです。お願いします。分かっていることを教えてください」


「もう、遅いわ。何もかも、ね」


 ポツリと美月が呟く。その言葉は悲壮感で包まれていた。


「まだです」


 美月の言葉を否定したのは、ヤミだった。


「先輩は私を救う時、決して諦めなかった。だから、私も諦めるつもりはありません。あなたが諦めたなら、それでいいです。でも、せめて諦めていない私たちに協力してください」


 美月はその言葉に言い返そうとして、やめた。

 そして、静かに語りだした。

 村田光という少年の正体と、村田光を利用しようとしている男であるラスボスの目的を。


ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ