届かない
よろしくお願いします!
佐々江と田中から離れた村田は一人で椅子に座り、静かにその時を待っていた。
その頭の中にあるのは、ただ役割を果たすことだけ。
それ以外の一切は、村田の頭の中から消えていた。
「村田?」
その村田に声を掛けたのは愛だった。
「……」
「待って!」
静かにその場を立ち去ろうとする村田。
だが、愛がその腕を掴む。
「……どうして逃げるの?」
「命令されているからだ。関わりを持つな、と」
「……そう。変身」
村田の目を見た愛が静かに変身する。
その姿を見た村田が身構える。
「安心して。敵対するつもりは無いから。ただ、元の村田を取り戻したいだけ」
変身を終え、ラブリーピンクとなった愛がステッキを強く握りしめる。
「……ラブリーヒーリングシャワー!!」
桃色の光が村田を包み込む。
それは、愛の願いを込めた一撃だった。
愛の攻撃は相手の精神に入った不純なものを除く力がある。そのため、洗脳されている相手に攻撃を加えれば洗脳は解ける……はずだった。
「……放せ」
桃色の光を浴びた村田は、愛の手を振り払う。
「……っ。村田? 元に、戻ってないの?」
「元に……? 元から、僕はこうだ」
村田は淡々とそう言った。
その目には、相変わらず光がない。
「元からって……どういう……?」
「……時間だ」
村田が瞬時に愛に詰め寄る。
そして、愛の腹に拳を叩きこんだ。
「……かはっ」
膝をつき、その場に倒れこむ愛。
それと同時に彼女の変身が解けていく。
「……さよなら」
その言葉を放ったの村田の目には、僅かに光があった。
だが、その光も直ぐに消えていった。
この国を揺るがす大事件が起きるまで、一時間をきっていた。
***
授賞式が行われるメインアリーナでは順調にその年で活躍したヒーローたちが賞を受けていた。
『続きまして、最優秀侵略者討伐ヒーロー賞の発表です』
その言葉と供に会場が騒ぎ出す。
「今年は誰かな?」
「やはり、シャイニーヴィレッジさんじゃないか?」
「いや、ストロング武蔵も中々のものだぞ」
「いやいや、御烈Aもその名に恥じない強さだし、選ばれるんじゃないか?」
他の賞と違い、今年の最優秀侵略者討伐ヒーロー賞はかなり激戦で、ギリギリまで誰が選ばれるかは分かっていなかった。
『では、発表します。今年の最優秀侵略者討伐ヒーロー賞は……』
どこからかドラムロールが鳴り響く。
そして、ドラムロールの終わりと供にスポットライトが一人のヒーロー姿を照らした。
『シャイニング村田です!!』
一瞬の静寂。
その後に生まれたのはざわめきだった。
「シャイニング村田? 誰だ?」
「去年3位のやつじゃないか?」
「あ、ああ! あの地味なやつか……。え? あいつなの?」
パチパチパチ!!
多くの人がシャイニング村田の名にざわつく中、数か所から同時に拍手が沸き起こる。
その拍手を初めに、徐々に拍手が広がり、やがて会場中から拍手が沸き上がった。
「うう……村田さんがこんなにも祝福されるなんて……。おめでとうございます!!」
涙を流す田中。
「くそ! これでまたあいつがモテモテになっちまう!」
「はあ、別にいいじゃないですか」
「そうよ。村井は私たちじゃ不満?」
「そ、そんなことないですよ!」
事務員と、アルティメットガールと供に拍手をする村井。
「村田さん……。やっぱり、遠いな」
「ふふ。負けないように、私たちも頑張ろ」
村田に救われ、ヒーローとなった田中も恋人と供に、村田を祝福する。
テレビの先にいる人の中にも、村田を祝福する人が少なからずいた。
『おめでとうございます!』
壇上に上がる村田がトロフィーを受け取る。
その目からは涙が零れ落ちていた。
これからシャイニング村田というヒーローは有名になっていく。
ここから彼の人気は上がっていく。
多くの村田を知る人がそう思った。
そう、なるはずだった。
『さて! いよいよ今日の最後にして最大のメインイベント! 今年のNo.1ヒーローの発表です!!」
会場のボルテージが一気に上がる。
そんな中、村田は静かに会場から出て行った。
会場からでた村田を待っていたのは、ラスボスだった。
「最後の思い出作りは済んだかい?」
「ご命令を」
「ふむ。そうなるようにしたのは私だが、もう少し人間らしさが残っていても面白かったかな?」
「ご命令を」
村田の目に光はない。
その姿はただ主の命令に従う、ロボットのようでもあった。
「なら、命令しよう。今から怪人を生み出す。その怪人が暴れるどさくさに紛れ、シャイニーヴィレッジを戦闘不能にしろ。ただし、あくまでもシャイニーヴィレッジが怪人にやられたように見せろ。そして、その後に怪人を倒せ」
「了解」
そう言い残すと、村田は再び会場に戻っていった。
その姿をラスボスは見届けてから指を一つ鳴らす。
「まーめんどい。仕事か?」
「ああ。今から会場を襲撃しろ。
「まーめんどいなぁ……。了解」
そして、Mr.マーメンドイは会場にゆっくりと近づいて行った。
「くくく……。これでいい。後は……くくく」
後に残ったのはラスボスの不気味な笑い声だった。
***
佐々江とヤミの二人は美月を探しだすことに成功していた。
「美月さん。何を隠しているのか、説明してもらいます」
美月は何も言わず、項垂れていた。
佐々江とヤミが見つけ出した時には、既にこうなっていた。
「……先輩を助けたいんです。お願いします。分かっていることを教えてください」
「もう、遅いわ。何もかも、ね」
ポツリと美月が呟く。その言葉は悲壮感で包まれていた。
「まだです」
美月の言葉を否定したのは、ヤミだった。
「先輩は私を救う時、決して諦めなかった。だから、私も諦めるつもりはありません。あなたが諦めたなら、それでいいです。でも、せめて諦めていない私たちに協力してください」
美月はその言葉に言い返そうとして、やめた。
そして、静かに語りだした。
村田光という少年の正体と、村田光を利用しようとしている男であるラスボスの目的を。
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