ヒーローの祭典
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一年に一度行われるヒーローの祭典『ヒーローフェスティバル』。
この祭典が行われる会場に、村田は来ていた。
「村田さん! 今日は楽しみですね!」
村田の横には田中がいた。
今日の『ヒーローフェスティバル』の招待状がシャイニング村田ヒーロー事務所に来たとき、田中は目を疑った。
だが、今年一年の村田の侵略者討伐数が年間一位を達成したらしく、『最優秀侵略者討伐賞』を受賞できるようだった。
憧れの『ヒーローフェスティバル』に参加する。年間人気ヒーローランキングTOP10には入れなかったものの、それは村田の目標の一つだったものだ。
それが叶ったことが田中は素直に嬉しかった。
「そうだね」
シャイニング村田のコスチュームを身に付けた村田は田中に短くそう返す。その目には、いつものような力強さはなく、どことなく空虚さを感じさせた。
受賞が決定した二日前から村田はこうだった。
田中は、そのことに気付いていたが、それ以上に『ヒーローフェスティバル』に村田が呼ばれたことの喜びと、村田が純粋に緊張していると考えてそこまで気にしていなかった。
授賞式まではまだ時間がある。
村田と田中はぶらぶらと会場内にある露店や屋台を回っていた。
「村田さん! 田中さん!」
すると、二人の下に佐々江が駆け寄ってきた。
「佐々江さん! お久しぶりです」
「お久しぶりです」
田中が笑顔で佐々江に反応する。
対して、村田の表情に変化はない。
「本日は、本当におめでとうございます! 本当は今日までに新作のコスチュームを間に合わせたかったんですけど、届くのが三日後になるみたいで……。申し訳ありません」
「いえいえ。気にしないでください」
頭を下げる佐々江に淡々と村田が返事を返す。
その村田の様子に佐々江は違和感を感じる。
「そういえば、今日はお母さんの姿はないのですね」
「僕に母さんはいませんよ」
何気ない佐々江の一言。
だが、その村田の返答を聞き、佐々江は村田が明らかにいつもと違うことに気付いた。
「村田さ――」
「すいません。僕はもう行きますね」
その言葉を残し、村田は一瞬で何処かへ姿を消した。
そのあまりの速さに、佐々江も田中も少しも反応できなかった。
「む、村田さん!? 急にどうして……?」
「田中さん。村田さんの様子、おかしいですよね?」
「ま、まあ、そうですね。でも、緊張しているだけじゃないですか?」
だとしても不自然すぎると、佐々江は考えていた。
それに、以前出会った時は村田には紛れもなく母親がいたはずだった。
(何か、嫌な予感がするわね……)
佐々江は、携帯を取り出し、最近知り合った二人の人物にメッセージを送る。
返事は直ぐに返ってきた。
「田中さん。用事が出来たので失礼します」
「あ、はい」
佐々江は田中にそう言い残してその場を後にした。
***
佐々江が待ち合わせの場所である会場の入り口に向かうと、そこには既に二人の人物がいた。
「お待たせしました」
「……いえ、私たちも今来たところなので」
佐々江が連絡を取った二人の人物は桜川愛と黒田ヤミだった。
「それで、先輩の様子がおかしいというのは?」
挨拶もそこそこに黒田ヤミが本題の話を始める。
「はい……。その前に、お二人は村田さんのお母さんに会った日以降で村田さんに出会いましたか?」
佐々江の言葉に二人は首を横に振る。
「……村田とは連絡も取れなくて、受験勉強もあって話せてないです」
「私も、色々と用事が重なってて、会えていません。メッセージは何度か送ったんですが、一切返事が無くて……」
二人の表情に影が差し込む。
だが、佐々江も二人と同様で、村田に何度か連絡を取ろうと試みたが出来ていなかった。
今日はシャイニング村田が参加することを事務員の田中から聞いていたからこそ会うことが出来たのだ。
「今日、村田さんに会った時、村田さんは自分に母親がいないと言っていました」
「それは……どういうことですか?」
「分かりません。ですが、あの日の村田さんと母親の関係を見る限り、村田さんはそのようなことを言うとは思えません。それに、村田さんの目に光が宿っていないような……気がしました」
まるで誰かに操られているような……。
その言葉を口に出した直後に、佐々江の頭に村田の母親を名乗っていた美月の言葉が蘇る。
「確か……。先輩のお母さんは、先輩に命令できるというようなことを言っていませんでしたか?」
三人を代表してそれを口にしたのはヤミだった。
その言葉に佐々江と愛が同時に頷く。
「……村田が操られている可能性がある?」
「そうかもしれませんね」
その答えに辿り着いた後の、佐々江の判断は早かった。
「すいません。私は、村田さんのお母さんを探してみます」
「私も、手伝います」
佐々江の言葉にヤミが反応する。
「……私は、村田に会ってみます。村田はどこですか?」
愛が佐々江に問いかける。
「私にも分かりません。どこかに姿を消してしまって……」
「分かりました。ありがとうございます」
愛はそう言うと、走り出した。村田を探しに行ったのだろう。
「桜川さんにも、手伝っていただきたかったのですが……」
「愛さんの方は、愛さんに任せましょう。愛さんのやり方なら、いつもの先輩を取り戻せる可能性も高いですし。それより、早く先輩のお母さんを見つけないと」
「そうですね」
二人で話し合い、佐々江とヤミも行動を開始するのであった。
***
『ヒーローフェスティバル』の授賞式が行われるメインアリーナ。
その裏口に、一台の車が止まる。
その車から姿を現すのは一人の全身タイツを着たヒーロー。
顔にはアイマスク、背中にはマントが付いていた。
「ようこそお越しくださいました! シャイニーヴィレッジさん!」
そのヒーローの前にスーツを着た案内人が姿を現す。
案内人が言うように、ヒーローの名はシャイニーヴィレッジ。
ヒーロー歴は今年で25年の大ベテランだ。
そして、何よりも彼が凄いのは……。
「今年、人気ヒーローランキング一位ならば、前人未到の20年連続No.1ヒーローですね! 本当におめでとうございます!」
「ははは。まだ、僕が一位と決まったわけではないよ。若い子もどんどん活躍してる。負ける気はないけど、僕の時代も終わりかもしれない」
案内人の言葉に苦笑いを浮かべるシャイニーヴィレッジ。
彼自身、自分には全盛期の様な輝きはないことを理解していた。
そして、それ以上に自分を超える若いヒーローたちが台頭してきていることも。
「ははは。そうかもしれませんね」
突如、フードを深くかぶった謎の人物が姿を現す。
「あなたは誰ですか? ここは関係者以外立ち入り禁止のはずです!」
怪しげな人物の登場に、案内人がシャイニーヴィレッジの前に立つ。
「ああ。私は関係者ですよ。ほら、この入場許可証を見てください」
男の言う通り確かに、男の首からは関係者だけに渡される入場許可証があった。
「関係者ですか。では、何故ここに?」
「少し、シャイニーヴィレッジさんとお話がしたかったんです」
「僕にかい?」
「はい」
不思議そうな顔をするシャイニーヴィレッジ。
そのシャイニーヴィレッジに男が近付く。
「漸くあの日の続きを始めることが出来ますね」
「……あの日?」
「忘れたんですか? 悲しいなぁ……。あなたを付け狙うメス猫が死んだあの日ですよ」
その言葉にシャイニーヴィレッジの目が見開かれる。
「お前……! まさか!!」
「では、失礼します。授賞式、楽しみにしていますね」
そう言い残して、男はその場を後にした。
残されたシャイニーヴィレッジが抱く感情は、驚きと恐怖だった。
過去に自分の最愛の人を殺した男。
あの日、確実に捕まえ、牢屋にぶち込んだはずの男がここにいるかもしれない。
次は何をするつもりなのか。
空に暗雲がたちこんできた。
※この作品はコメディでした。
 




