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ハッピーエンド

いつも読んで下さり、本当にありがとうございます!

 村田が入院した日から三日が経過していた。

 人間とは思えない驚異的な回復力を見せていた村田は病院の屋上に来ていた。


「平和だなぁ」


 吹き抜ける風を感じながらポツリと呟く。

 今日もこの街は平和だった。


「ぁ……。先輩?」


 三日ぶり以来にも関わらずその声は村田にとって酷く懐かしいもののように感じられた。


「久しぶり。黒田」


 村田が振り向いた視線の先には黒田ヤミの姿があった。


「せ、先輩はどうしてここに?」


「黒田がここによく来るって聞いたから」


「そ、そうなんですね……。先輩……。その、助けてくれてありがとうございました。それじゃ、私はこれで……」


 顔を伏せたまま屋上から出て行こうとするヤミ。


「ちょーっと待ったあ!!」


 だが、村田はそれを許さない。

 ヤミとドアの前に素早く移動した村田は、カバディの選手の様にヤミを出口から屋上の奥に追いやっていく。

 そして、村田はヤミの両肩を掴んだ。


「ねえ? 黒田く~ん。君、僕のことずっと避けてるよね? ねえ、僕言ったよね? 君が必要って。何で避けるのかなぁ?」


「ひいいい!!」


 カナカナと言い、首を左右に傾げながらヤミに詰め寄る村田。

 ヤミは涙目になって怯えていた。


「だ、だって……! 私はもう犯罪者ですし……。ヒーローをしている先輩の横になんて、今更立てませんよぉ」


 ヤミが目覚めた時、彼女の身体は拘束されており、その身柄は警察預かりになっていた。

 その理由はただ一つ。

 彼女のヒーロー殺しとしての活動は傷害罪、公務執行妨害を始めとした犯罪に当たる行為と判断されたからだ。

 だが、村田やアルティメットガールの嘆願、ヤミが実際にはヒーローを殺してはいないこと、侵略者であるジョーカーによって多少の心理誘導されていた可能性があること、ヤミが未成年であることなど、様々な事情が重なっているため、ヤミの処遇をどうするかは警察、ヒーロー協会でも悩みの種となっていた。


 それでも、ヤミ自身は自分で進んでヒーロー殺しの活動をしたと思っている。

 村田を、アルティメットガールを、数々のヒーローを傷つけた罪があると考えている。

 だからこそ、彼女は自分にはもう日の光を浴びて真っ当に生きていく資格はないと思っていた。


(うるせえ! 僕は黒田の本心を聞きたいんだ。取り繕うなよ! 黒田の本心を聞かせろおおおお!!)


 村田がそう言おうとしたその時だった。


「あっそ。なら、こいつの隣には私が立つからあんたはどこへでも行きなよ」


 いつの間にか屋上にやって来ていた愛が村田の右腕を掴みながらそう言った。


「え……? え? 何で?」


「あんたは黙ってて」


「あ、はい」


 愛からはかつてないほどのプレッシャーが放たれていた。

 そのプレッシャーに村田はあっさりと押しつぶされる。


「で、どうなのよ? 黙ってないで何か言ったら?」


「……その方が、きっと先輩は……幸せになれます」


 必死に絞り出したヤミの言葉に、愛が即座に反応する。


「そうね。私ならこいつに愛情もたくさん与えられるし、こいつのヒーロー活動をサポートすることも出来る。料理だって出来る。何なら、もうこいつの昼食は私が作ってるから実質こいつの三分の一は私で出来てるみたいなもんよ」


「いや、それは違うと思う」


「黙ってろって言ったでしょ」


「はい……」


 シュンとする村田。女同士の争いに村田の参入する場面は欠片も無かった。


「何より、私の方があんたよりこいつのことを愛してる。それだけは、間違いなく自信を持って言える」


 その言葉は黒田にとっても聞き捨てならない言葉だったようだ。


「……それは違います。私の方が、私の方が先輩のことを思ってます」


「なら、何でこいつの隣を自ら離れていくの?」


「そ、それは……。私がいても先輩は困るだけだから……」


「逃げんな!!」


 愛の声が良き晴れた空に響き渡る。


「村田の気持ちにちゃんと向き合え! 厳しい現実から目を背けるな! 何より、あんた自身の本心から逃げんな!!」


 そこまで言い終わった愛の目からは涙が零れ落ちていた。


「他でもない村田が、あんたがいるって言ってんだよ。村田はあんたを抱きかかえる覚悟なんてとっくにしてるって……」


 愛の言葉にヤミの表情がハッとしたものに変わる。


「先輩……。本当に私でいいんですか?」


 ヤミが不安そうな顔で村田に問いかける。


「うん。いや、ヤミがいなきゃダメなんだよ」


「私は……とんでもないことをしてしまって、それで、きっと先輩にも迷惑をかけてしまうと思います」


「うん」


「でも……やっぱり私は先輩と離れたくない……です」


「その気持ちがあるなら、一緒にいようよ。これからも二人で他愛もないことを話しながら日常を過ごしていこう。黒田のやって罪は僕にも関係があるから、これから、ゆっくりと清算していこう」


 そう言いながら村田が手を差し伸べる。

 その手を、今度こそヤミは掴み取った。


***


 その様子を見ながら愛は涙を必死でこらえていた。


(あーあ。これで私の初恋もお終いか……)


 愛は村田がヤミに恋していると思ってた。

 最早、この場に自分はいらない。静かに村田とヤミに背を向けて立ち去ろうとする。

 だが、その愛を村田が呼び止めた。


「あ、桜川!」


「……なに?」


 振り向きはしない。今の自分の泣き顔を見られたくない。そう思ったから。


「その、さ。ありがとう。今回の件、桜川にはめちゃくちゃ助けてもらった。やっぱり、桜川は僕にとってかけがえのない存在だよ」


 最低な男だ。

 たった今、フッた? かもしれない女に対してかけがえのない存在など、よく言える。

 だが、愛は村田の最低な発言を嬉しいと思ってしまうくらいには村田に惚れていた。


「別に……。気にしなくていいよ」


 これ以上、村田と話していると気持ちが抑えられなくなりそうだ。

 そう思った愛が急いで屋上から出ようとする。


「あ、あとさ!」


 だが、またしても村田の声が愛の歩みを止めた。


「……なに?」


「その、桜川から好きって言われたの……嬉しかった。その、まだ自分の気持ちが整理できてないからさ、あの返事はもう少しだけ待ってもらってもいいか?」


「「は?」」


 愛とヤミの言葉が重なった。


「あ、やっぱ都合の良い話かな? その、出来るだけ早く返事はしたいんだけどさ……」


「いや、あんたはそこの後輩のことが好きなんじゃ?」


「ああ。うん。大事な後輩だよ」


「せ、先輩。その大事な後輩ってのは、恋人的な意味は……?」


「恋人? うーん。そう言う感情はないかな? 放っておけない後輩って感じだと思う」


 村田の発現を聞いた愛とヤミが俯いて拳を震わせる。


「「紛らわしい!!」」


「ふぎゃあ!!」


 二人からグーで殴られた村田が吹っ飛ぶ。


「……ふん! もう少し女心を理解しなよ」

「先輩……。鈍感すぎですね」


 そう言い終えると二人は仲良く屋上から出て行った。

 屋上から出て行くヤミは少し残念そうにしつつも笑顔で、愛も嬉しそうな笑顔を浮かべていた。


「え? なんで……? まあ、いっか」


 殴られた頬を抑えながら村田は呟く。

 頬は痛い。

 だが、黒田ヤミと桜川愛の二人が笑えているならそれで村田にとってはハッピーエンドだ。


駆逐してやる……! 鈍感主人公を、一人残らず……!!

まあ、村田に関しては鈍感通り越して馬鹿だと思うんですけどね。


一先ずこれで長く続いた黒田ヤミ編は完結です!!

申し訳ありませんが、明日と明後日は投稿お休みします。

3月1日からまた毎日投稿を再開していこうと思いますので、これからもご付き合いいただけると嬉しく思います。

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