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ハッピーエンドへと続く道②

今回と次回くらいで、黒田ヤミ編は終了です。

 突っ込んでくる村田と村井に大量の触手たちが立ちふさがる。

 その触手たちを躱し、蹴りとばし、斬り落として二人は猛然と触手たちが生み出される中心部へと突き進む。


 圧倒的物量で二人を押しつぶしに行く怪物。


 そして、村田と村井の身体が触手に呑み込まれた。


 辺りに静寂が広がる。

 決着が着いたと思われた、その瞬間だった。


「gyaaaaaa!!」


 怪物の悲鳴と供に、村田と村井が怪物の本体のすぐそばに姿を現す。


「触手を辿れば本体に辿り着く」

「呑み込んでくれたのは、逆に都合が良かったぜ」


「「さあ、反撃の時間だ!!」」


 その言葉と供に放たれた村田の拳が怪物に迫る。

 怪物は大量の触手で村田を押しつぶしにいくが、その触手を村井が斬り落とした。


「折角の一発なんだ。遠慮せず直接貰ってくれよ」


 そして、村田の拳が触手たちを生み出し続けるジョーカーの腹に突き刺さった。


「gugyaaaaa!!」


 響き渡る怪物の悲鳴。

 その一撃を受けたことで触手たちが更に荒ぶる。

 だが、その動きはどこか怒り任せの単調なものになっていた。


 その単調な攻撃は村田と村井にとっては十分すぎる隙を生み出していた。


「……しっ!!」


 村井の刃が触手たちを斬り落とす。そして、むき出しになったジョーカーの身体に村田の拳が再び突き刺さる。


「gyaaaaaa!!」


 戦いは徐々に一方的なものになりつつあった。



 触手で二人を潰しに行く。だが、躱され、気付けば自身の周りの触手たちが斬り落とされる。

 そして、拳が自分の本体に突き刺さる。


 まただ。


 ワンパターンな攻撃。

 なのに防げない。

 触手も当たらない。


 まずい。このままでは、まずい。


 もっと強固な守りを作らねば……。


 いや、待て。


 何故、自分は守ることを考えている?


 全てを破壊し、呑み込む怪物にとって防御などは考えたことが無かった。

 恐れなどは欠片もない。何を犠牲にしても、それこそ自分の身体を犠牲にしても目の前の獲物を倒すことだけを考える。感情の無い兵器のはずだった。

 

 この感情は自分には無かったものだ。

 誰だ? この感情を芽生えさせる元凶は誰だ?


 怪物の脳裏に浮かぶのは二つの景色。

 一つは、家族を失う少女。

 もう一つは、家族と、義父を失う少女の姿。


 奇しくも、アルティメットガールと黒田ヤミの力を取り入れたことで、二人の大切なものを失うことを恐れる感情が怪物には宿ってしまった。


 だが、それは兵器である怪物には相応しくないものだ。


「gaaaaaaa!!」


 芽生えた感情を振り払うように、防御に回しかけた触手も全て攻撃に回す。

 自分の周りのほぼ全てを薙ぎ払うほどの強烈な一撃。


 だが、かつてないほどに研ぎ澄まされていた村田と村井はその攻撃を躱した。


 残るのは無防備になった怪物の本体であるジョーカーのみ。


「村井!」

「村田!」

「いくぞ!!」


 村井が飛び上がり、回転しながら蹴りを振り下ろす。

 村田が身体をかがめ、回転しながら蹴りを振り上げる。


「「うおおおお!! ヴィレッジスクリュー! マアアアックス!!」」


 その一撃は理性を失っていたジョーカーの意識を刈り取った。

 そして、触手たちもそれに伴い力を失うはずだった。


「gu……guaaaaaa!!」


 それは兵器である怪物の最後の意地だった。

 例え、この身体が朽ち果てても獲物だけは仕留める。

 その思いから放たれた一撃が村井と村田を襲う。


 そして、正真正銘渾身の一撃を放った二人には、もうそれを避けるだけの力はなかった。


 ふらつく二人に触手が迫る。


 そして、触手が二人を貫く間際だった。


 触手が何者かの手によって弾き飛ばされた。

 その男は、マントをはためかせ、キラリと光るフルフェイスマスクを身に付けていた。

 一見、シャイニング村田に似ているように見えて、全く異なるその男。


「遅くなった……。俺の名前はライトニング・ファースト。ヒーローだ」


 そう。その男には、村田にはないカリスマ性と……何よりも、人気があった。



***


 村田が目を覚ますと、そこは病院だった。


(あれ……? ここは、病院? 何で? 僕は戦っていたはずじゃ……)


 一先ず身体を起こそうとする村田だったが。

 その瞬間に、全身に激痛が走った。


(いっっっ!?)


 それもそのはず。村田の身体は先の戦いで骨折を数か所している上に、関節や筋肉、内臓にも大なり小なりダメージを負っていた。


 身体を起こすことを諦め、落ち着きを取り戻した村田は自分の手が誰かに捕まれていることを感じた。


 少しドキドキしながら掴まれている手の方を見ると、そこには気持ちよさそうに寝ている田中の姿があった。


「何でだよ!!」


 思わず大声を上げ、その直後に全身の痛みに悶える村田。


 その声に驚いたのか、田中が目を覚ました。


「はっ……!? え……村田さん?」


 口を手で抑え、目から涙をこぼす田中。


「あー。起こしてすいませんでした」


 村田が苦笑いをしながら小声でそう言うと、田中は村田の身体に抱き着いた。


「バカ! どれだけ心配したと思ってるんですか……。よかった……本当によかった……!」


 田中に抱きしめられたことで村田の身体に痛みが走る。

 だが、その痛みをこらえてでも、村田は田中に一つだけ聞いておきたいことがあった。


「田中さん。その……黒田ヤミっていう子とアルティメットガールさんはがどうなったか分かりますか?」


「安心してください。彼女たちなら無事です。二人とも念のために入院していますけどね」


 微笑みながら田中はそう言った。

 その言葉を聞いて村田は安堵の表情を浮かべるのであった。


「さて、一先ず私は看護師さんに村田さんが目覚めたことを伝えてきます」


「え? ナースコールで呼べばいいんじゃない?」


「……男の涙なんて見ても誰も嬉しくないでしょう。涙を拭いて冷静になってきたいんですよ」


 少し恥ずかしそうに田中はそう言った。

 その田中の言葉を聞いて、村田は思わず笑ってしまった。


「ははは。そんなことないですよ。嬉しかったです。目覚めた時に田中さんがいてくれて」


「ふ、ふん……」


 田中さんは照れ臭くなったのかそう言って、部屋から出て行った。


(まあ、正直なところ桜川とか黒田がいることを期待したんだけど……。それは内緒にしておこう。田中さんがいてくれて嬉しかったのは事実だし)


 何はともあれ、村田と村井は黒田ヤミもアルティメットガールさんも救うことが出来た。


 そのことに村田が安心していると、村田の右隣から騒がしい声が聞えてきた。

 村田がそっちの方に目を向けると、そこには自分と同じようにベッドに寝転がる村井の姿と、その村井と話す美人の姿があった。


「あー!! 俺怪我人なんだからもっと優しくしてくれていいじゃないっすか!」


「知りませんよ。連絡もせずに戦いに行って、怪我して帰ってきた人のことなんか。全く、私がどれほど心配したと思ってるんですか」


「え? 田口さん。俺のこと心配してたんすか?」


「ええ。そうですよ。村井さんがいなくなったら私の職場が無くなりますからね。とっても心配してました。これからの私の生活を」


「それは俺のこと心配してるとは言わねえ!! いっ――!?」


 大声を出したせいで身体に激痛が走ったのか、身もだえる村井。


「はあ……。バカなんですか? いえ、バカでしたね。一先ず私は看護師を呼んでくるのでそこで大人しく待っていてください」


「う、うっす」


 田口という女性が村田の前を通って、部屋から出て行く。

 その時、村田は見逃さなかった。

 田口の目元が若干赤く腫れていたところを。


「……おい。村井」


「あ? おお。村田か。お前も起きてたんだな」


「お前。自分はモテないとか言ってたよな?」


「ああ。そうだよ」


「じゃあ、さっきの美人は何だよ」


 村田は許せなかった。

 モテないとかほざいている村井が目覚めた時には美人(しかも村井のことが心配で泣いていたと思われる)がいたことが。


「いや、あれはうちの事務所の事務員さんだよ。いっつも厳しいし、若干辛辣なんだよなぁ。まあ、めちゃくちゃ俺のために頑張ってくれてるいい人なんだけどよ」


(こいつ……!! 鈍感主人公だったのか!)


「村井。残念だ。もう、僕とお前のマックスヴィレッジが組まれることはないだろう」


「はあ? 何言ってんだよ。まあ、別にいいけどな。今回の戦いとか、俺ばっかりお前をサポートしてて、お前の方が主人公みたいな感じ出ててちょっと気に入らなかったし」


「は? ラブコメの鈍感主人公みたいな村井に言われたくないんだけど」


「は? 誰がラブコメ鈍感主人公だよ。鈍感じゃねーから。ビンビンだから。そもそも、俺のこと好きな人いないっつーの」


 目と目を合わせ火花を散らす二人。

 だが、距離と怪我のせいで互いにそれしか出来ることは無かった。


「今日は、これくらいで勘弁してやる」


「いや、それはこっちのセリフなんだが」


「「ふん!」」


 同時に目を逸らし、供に天井を眺める二人。

 暫くの間、沈黙が続いた後、村井が口を開いた。


「まあ、でもよ。村田じゃなきゃ、アルティメットガールさんは救えなかったかもしれねえ。ありがとな」


「それを言うなら、そもそも村井が僕を殴ってくれなきゃ僕は黒田を救いに行くことさえ出来なかった。本当に感謝してる。ありがとう」


 再び二人の間に沈黙が流れる。

 だが、二人の心の中に気まずさはなく、あるのは達成感だった。


「まあ、何だ。お疲れ」


「うん。村井も、お疲れ」


 こうして、マックスヴィレッジの戦いは終了した。


お疲れさまでした!

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