村田と黒田③
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村田とヤミが高校で話すようになったきっかけは、村田がヤミの視線に気づいてからだった。
『えっと、誰かな……? もしかして、どこかで会った?』
『ふ、ふふふ。我の存在に気付くとは、流石は、我がライバルにして盟友!』
ヤミは気付いていた。村田があの時の少年だということに。
だから、追いかけた。
それから、村田が部活に所属していることを知ったヤミが部活を始め、二人の関係が始まった。
供に過ごすうちに、村田はヤミのことを徐々に知り、ヤミもまた村田のことを知っていった。
家に帰れば一人、学校でも友達がおらず孤立していたが、放課後、村田と過ごす時間は彼女にとって、両親を、ブラック・ウイングを失った悲しみを忘れられる時間だった。
だが、村田とヤミがずっと放課後を供に出来るわけではない。
特に、最近では「シャイニング村田闇堕ち事件」や「魔法少女編」により、放課後に村田とヤミが過ごせる時間は大幅に減っていた。
それによって、ヤミが一人で過ごす時間も長くなり、長い間、自分を偽り、奮い立たせてきた彼女の心も限界が近付いていた。
そんな時に、彼女はジョーカーに出会ってしまった。
***
「辛かった……! 苦しかった! 一人で過ごす時間は……寂しくて、悲しくて、もう会えない人のことばかり考えてしまうんですよ……」
ヤミの独白をただ村田は聞くことしか出来ない。
「先輩に出会って、その時間が減りました。先輩と過ごす時間は楽しくて、嫌なことを忘れられた。身勝手な思いだって言うのは分かっています。それでも、私は先輩に……傍にいて欲しかった! ずっと、ずっと近くにいて欲しかった……!!」
それは依存と言って大差ないものだった。
村田は気付けなかった。ヤミの拠り所が自分だけだったことに。
そして、拠り所を失った少女の心は穴だらけで付け入る隙しかなかった。
「ジョーカー様は、私に進むべき道を示してくれました。私の大切な人たちを失うきっかけになった存在をこの世から淘汰すべきだと、そう言ってくれました。だから、だから私はこの世界に蔓延る屑を消すんです。そうすれば、もう、私の様に悲しむ人はきっと、きっと……いなくなるから」
ヤミが言いたいことを村田は何となく理解できた。
村田自身、ブラック・ウイングが死んだ事件については知っているし、ヒーロー社会に限らず、この社会には自らの利益のために平気で人を食い物にする人間がいることを理解している。
でも、それでもヤミのしていることは正しいとは言い難かった。
「分かっています。私の行動が間違っていることも、私の行動を両親もお義父さんも望んでいないということも……。でも、どうすればよかったんですか? 私は、大切な人を失った悲しみを、この憎しみを一生、どこにも解放できずに抱えて生きていけばよかったんですか? 私が、私一人が苦しめば……それでよかったんですか?」
ヤミの顔は、村田がいつしか見た少女の様に、失くした大切なものを見つけられずに涙を流しているように見えた。
だからこそ、村田はヤミの両手を強く握りなおした。
「黒田ヤミ!!」
そして、叫ぶ。
村田の心の中にある真っすぐな思いを。
「お前がいてくれて僕は幸せだ!」
「……え?」
「黒田がいるから、僕の学校生活は色づいた! 黒田がいるから、放課後が楽しかった! 黒田が僕にヒーローにとって大切なことを教えてくれた! 僕はお前に出会えて最高に幸せだと胸を張って言える!!」
「な、何を言って……」
「黒田はどうだ? 黒田は黒田の両親と過ごす時間はどうだった?」
村田の言葉にヤミがハッとしたような表情を浮かべる。
「悲しみも憎しみも無くならない。でも、悲しみが深いほど、憎しみが強いほど、深い愛があったはずなんだ。僕は今、悲しい。黒田がいなくなって、黒田に辛い思いをさせてしまったことが酷く悲しい」
紛れもない村田の本音。
シャイニング村田じゃない、村田光という少年の本音だった。
「だから、僕は黒田を連れ戻す。黒田が悲しみや憎しみばかりに呑み込まれそうなら、僕が黒田を幸せにしてやる!!」
「は!? へ? そ、それって……」
今、この瞬間、ヤミの目には村田だけが、村田の目にはヤミだけが映っていた。
故に、気付けなかった。
村田の横から迫る触手に。
「ぐはっ……!?」
想定外の一撃に村田の身体が吹っ飛ぶ。
「せ、先輩!!」
「ククク……。素晴らしい。素晴らしいハッピーエンドでしたよ。少年の心が少女に届く。そして、少年は少女を救い出せる……はずだった。ですが、残念。ここにはまだ私がいるんですよねぇ」
その言葉と供に、大量の触手がヤミを包み込む。
「ジョ、ジョーカー様!? どうして……?」
ジョーカーは不敵な笑みを浮かべながら、喋りだす。
「先ずは、ヤミさん。あなたに感謝を。ヒーローに対する強い憎しみ、大切なものを失った悲しみ……。力を得て、復讐に走り、力を高めてくれた」
「な、なにを……?」
ジョーカーの言葉と供にヤミの全身から力が抜けていく。
「そして、アルティメットガール。ヤミさんと同じく、大切なものを失い、力を得て、私への復讐のため、ヒーローとなり力を付けた。似ているようで、大きく違う。そんなあなたたち二人が蓄えた力は私が望んだものでしたよ」
そう話すジョーカーの身体は触手に包まれており、その体長は4メートル近くあった。
「あ……いや……」
徐々にジョーカーの触手に身体が包み込まれていくヤミ。
「フフフ。始めはエネルギーだけを回収する予定でしたが、肉体を回収した方がより大きな力を得られるようなのでねぇ。いただきます」
ヤミの視界から光が消えていく。
今更になって、彼女の心を後悔が襲う。
「い、いや……。私は、まだ……」
「おや? 抵抗するのですか? あなたが言っていたではありませんか。この世界には悲しみしかないと。生きるのが苦しいと。自分の大切な者たちを奪う屑が憎いと。そんな世界に生きる意味があるのですか?」
ジョーカーの言う通り、ヤミは確かにそう思っていた。
でも、村田の言葉を聞いて思いだした。
嫌なことがたくさんあった。でも、良いこともあったのだ。
両親から愛情を貰えた。ブラック・ウイングから愛情を貰えた。
村田光という少年が自分を必要だと言ってくれた。
失ったものばかり数えていた。
失った悲しみばかりに目を向けていた。
でも、違う。
失ったことへの悲しみが深いのは、それだけ大切な思い出があったからだ。
失ったものがそれほど大切だったからだ。
(今更になって……気付いた)
もっと両親との温かい思い出を振り返りたい。
ブラック・ウイングが残してくれたものを大事にしたい。
こんな私を必要としてくれる人と新しい大切な思い出を作っていきたい。
だが、今の自分に何が出来る?
力を奪われた。無力な自分に。
精々出来るのは、助けを求めることだけ。
でも、こんな私を助けてくれる人なんてどこにも――。
視界が闇で覆われる直前、彼女の目に映ったのは立ち上がろうとする村田の姿だった。
「助けて――」
触手に呑み込まれる直前に、ヤミが出した微かな声。
今まで、救いの手を拒み続けてきた彼女が初めて出した、救いを求める声。
「助けるに決まってる」
その声を村田は聞き逃さない。
ヤミの銃弾をその身に受けた。
予期していないところから、触手による一撃をまともに受けた。
身体は、想像以上にダメージを受けている。
それでも村田は立ち上がる。
いつだか、ヤミが村田に言った。
『貴様の考える最高のヒーローの姿とその名乗りを精々考えておくんだな』
だからこそ、その言葉に今ここで村田は答えるのだ。
「僕の名前は村田光!! 黒田ヤミという少女を、今から救い出す男だ!!」
それは、世間から見れば、ヒーローとして最低な名乗りかもしれない。
この世界ではなく、たった一人を救うためのヒーローなんて、大衆を救うヒーローにはあまりにも不適切。
だが、今はそれでいい。
今ここで、村田は黒田ヤミにとって最高のヒーローになることを誓った。
シリアス回が増えてからポイントが割と増えてるんですが、もしかしてこの作品にコメディは求められていない……?
まあ、僕がコメディ好きなんでコメディはこれからも出すんですけどね。
次回予告
立ち上がれ村田! 頑張れ村田! ここで勝てなきゃ意味がねえ!!
ところで村井、どうした?
次回「忘れんな。俺たちは二人でヴィレッジマックスだ」




