村田と黒田②
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ブラック・ウイングの胸でヤミが泣いた翌日、ヤミは学校を休んだ。
ブラック・ウイングがヤミから事情を聴き、学校を休ませたのだ。
ヤミが学校を休んでいる間、ブラック・ウイングはずっとヤミのそばにいた。途中でヤミの学校に電話をすることはあったものの家から姿を消すことは無かった。
朝ごはんを食べて、のんびりして、昼ご飯を食べて、一緒にテレビを見て、一緒に夕ご飯を作って食べる。
ヤミの両親がいなくなってから初めて、ヤミとブラック・ウイングが親子として触れ合った時間だった。
そんな温かい時間を過ごしていると、夜の19時ごろに家のチャイムが鳴った。
ブラック・ウイングが家の扉を開けると、そこには昨日ヤミが出会った少年の姿があった。
『こんばんは!』
そう言って笑顔を浮かべる少年の手にはヤミが失くしたペンダントがあった。
『あ……それ』
『はい。これ、探してたんだよね? 今日、川遊びしてたらたまたま見つけたから、どうぞ』
『……あ、ありがとう』
『それじゃ、僕はこれで!』
『ちょっと待ってくれ!』
用が済んだとばかりに、帰ろうとする少年をブラック・ウイングが引き留める。
『もう夜も遅い。良かったらご飯でも食べて行かないか? それに、手も足もボロボロじゃないか。お風呂も浴びていきなさい』
ブラック・ウイングの言う通り、少年の手足は泥が付いていて、ボロボロだった。
『大丈夫です! それじゃ、僕はこれで!』
『あ、ちょっと!!』
ブラック・ウイングの誘いを断り、少年は扉を閉めた。
直ぐに、ブラック・ウイングが少年を追いかけようとしたものの、外に出た時には少年の姿はもうどこにも見当たらなかった。
『はあ……。何だったんだ一体?』
ブラック・ウイングが呟く中で、ヤミはペンダントをギュッと握りしめるのだった。
もう二度と放さないように。失くさずに済むように。
***
次の日から、またヤミは学校に通い始めた。
いじめは殆ど無くなっていた。
そのことを不思議に思ったが、その理由はヤミにも何となく分かっていた。
(ありがとう……。お義父さん)
いじめが無くなったからと言って、友達が出来たわけではない。寧ろ、話しかけてくる子は殆どいない。
それでも、自身の育ての親と向き合うことが出来たヤミは徐々に両親の死を受け入れて、前向きに進みだそうとしていた。
そんなある日のこと、ヤミは以前から気になっていたことをブラック・ウイングに質問してみた。
『何でそんな喋り方なの? そう言うのって、厨二病って言うんだよね?』
『ふっ! これは我が魂に刻まれし古の人格のものだ。……まあ、本音を言うと、自分を奮い立ててるんだよ』
『自分を?』
『そう。ヤミなら分かると思うけど、現実は厳しい。大事なものを突然、失ったり、侵略者にヒーローが負けたりすることだってある。だから、俺は自分の理想の姿を演じて、厳しい現実に立ち向かうために自分を奮い立てるんだ。理想の俺なら誰にも負けない。こんな現実にへこたれないってな』
ブラック・ウイングは笑顔を浮かべてそう言った。
何となくだが、ブラック・ウイングの言いたいことはヤミにも理解が出来た。
『私も……そうしようかな』
『……まあ、やってみてもいいんじゃないか? でも、いつか、ありのままの自分がさらけ出せる場所を見つけろよ。じゃないと、自分を見失うことになるからよ』
そう言うとブラック・ウイングはヒーローとしての仕事に出かけた。
三日はかかる大仕事とのことだった。
『いってらっしゃい』
『行ってきます』
ヤミが見た最後のブラック・ウイングの姿は、いつもの繕った姿ではなく、ありのままの素の姿だった。
***
ブラック・ウイングは死んだ。
ヒーローたちでチームを結成し、とある侵略者組織の本部に突入する作戦中の出来事だった。
その侵略者組織はとあるヒーローとの間で裏取引をしていた。そのヒーローが情報を横流しにしたことで、ヒーロー達のチームは侵略者たちの罠にはめられ、全滅の危機に陥った。
それを救ったのが、ブラック・ウイングだった。
自ら殿を名乗り、自分以外のヒーローを逃がすことに成功した。
そして、残されたブラック・ウイングは最後まで戦った。侵略者の戦力を削ぎ、腕を失い、足を失っても、床を這いつくばり、戦い抜いた。
そして、死んだ。
死体は残らなかった。
ヤミが高校に上がる前の、冬の出来事だった。
ブラック・ウイングは遺書を残していたらしく、そこには全財産をヤミに譲ることとヤミに普通の女の子として幸せな生活を送って欲しいということが記載してあった。
四月。
ヤミが通う高校の入学式がある日の朝。
ヤミは制服を着て鏡の前に立っていた。
鏡に映るヤミは今にも泣きだしそうな顔をしていた。
思いだすのは、ブラック・ウイングの言葉。
『……フハハ。フハハハハ! 我が名はヤミ・ダークネス! この世の闇を統べる闇の支配者なり!!』
口を大きく開け、高笑いをする。
自分は元気だ。平気だ。と誰かに伝えるかのように。
『さあ、いざ行かん! 新たな世界へ』
そう言って、ヤミは家を出た。
そして、少女と少年は再会し、少女の心に再び光が灯されることになる。
***
村田に向かって放たれた銃弾は三発。
大きく横に跳び、銃弾たちを躱した村田がヤミとの距離を一気に詰める。
だが、距離を詰められることを予測したヤミが大きく後ろに跳び、牽制とばかりに村田の足元に銃弾を放つ。
「くっ……! まだまだぁ!!」
それでも村田は止まらずに、銃弾を躱すためにその場で跳躍し、そのままの勢いでヤミに向かう。
「単細胞め。狙い通りだ」
空中にいれば逃げ場はない。
村田に向けて、ヤミの銃弾が放たれる。
(流石に、これでは決まらないだろうが……。これで一旦距離が置ける)
だが、ヤミの思惑は裏切られる。
「ぐ……! 負けるかぁああ!!」
銃弾をその身に受けて尚、村田は倒れることも、臆することもなく、ヤミに近づいた。
「黒田ああああ!!」
「……っ!!」
ヤミが直ぐに反応して、銃を構える。だが、それより先に村田が拳を振り下ろす方が早かった。
村田が振り下ろした拳が、ヤミが持つ銃を捉える。
「しまっ――」
勢いのあまり、銃を手放してしまうヤミ。
村田はそのヤミの両手を掴んだ。
「……放せ! もう、我に近づくなと言っただろ! このストーカー!!」
「うるさい! 高校で最初に僕をストーカーしてきたのはそっちだろ! 自分から近づいてきた癖に、勝手に離れていくんじゃねえ!」
そう言った村田の腹をヤミが蹴る。
だが、村田は手を離そうとしなかった。
「先に……。先に離れていったのは先輩の方じゃないですか!!」
黒田ヤミという少女のその叫びを聞いた村田は、頭を金づちで殴られたかの様な衝撃を受けた。
次回予告!
コメディ作品から徐々に遠ざかっていく本作。
焦る作者。
だが、忘れてはいけない。シリアスがあるからこそコメディはより強く輝くのだ。
黒子君も言っていた。より強い光であればあるほど、影もより濃くなるのだ。
つまりは、表裏一体。制約と誓約。天与呪縛。……etc。
ちなみに次の話で、黒田がジョーカーの手を取った理由が明らかになる予定です。
次回「村田と黒田③」
 




