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村田と黒田①

この話のタイトルから分かる通り、シリアスです。


ブックマークをして下さった方々ありがとうございます!!

感謝感激マジ卍解!! です!

 下に降りた村田と村井は走っていた。

 二人にとっては幸いなことに、道は一本道で奥の部屋に続いているようだった。

 そして、奥の部屋の前に辿り着く。


 村田と村井は互いに顔を見合わせてから、中に入った。


「……黒田」


「あいつが例の後輩か」


 部屋の中は柔道場程度の広さで、部屋の奥には更に扉があった。

 そして、その中央にヒーロー狩り――黒田ヤミの姿があった。


「村井。黒田は僕に任せて欲しい」


 この先にいる敵は村井とアルティメットガールが二人がかりでも敵わなかった相手。

 それを考えれば村田の判断はあまりにも悪手。


「分かった。ちゃんとやれよ」


 しかし、村井はそう村田の思いを尊重した。


 ヤミの横を走り抜ける村井。

 意外なことにヤミは村井を見逃した。


「良かったのか?」


「ああ。我の相手は、シャイニング村田。貴様だからな」


 そう言うとヤミは拳銃を村田に向ける。


「……僕の名前は村田光。黒田……。ヤミ・ダークネスであり、ヒーロー狩りでもある黒田ヤミ。お前をこれから攫う男の名前だ」


 僅かな静寂の後、銃声と供に二人の最後の戦いが幕を開けた。


***


 黒田ヤミという少女は引っ込み思案な子供だった。


 保育園や小学校でも友達は少なかった。それでも、ヤミは幸せだった。


 家に帰れば、温かいご飯を作って待ってくれる母親がいる。

 自分と同じで不器用ながらも優しい父親がいる。


 そして、画面の中には自分に勇気と希望を与えてくれるヒーローたちがいた。


 特別なことなんて何一つない。当たり前の日常。

 でも、それは少女にとってかけがえのない大切な日々だった。


 だが、当たり前の日常は、突然崩壊する。


 穏やかな日曜日。

 黒田家を襲ったのは、一体の怪人だった。


『ヤミ! 逃げて!!』


『い、いやだ……。ママとパパも……。いっしょににげよう!』


 黒田家の両親は元警察官だった。

 そして、彼らはヒーローが起こす犯罪に対応する部署に所属していた。


 これは後に分かったことだが、二人が捕らえたヒーローの中に、怪人を生み出し、その怪人に街を襲わせ、自分でその怪人を倒すという行為で不正に怪人討伐数を増やしているヒーローたちがいた。

 黒田家を襲った怪人は、そのヒーローの仲間が逆恨みで放った怪人であった。


 両親を置いて逃げようとしないヤミに怪人は襲い掛かった。

 そして、そのヤミを庇った父親はヤミの目の前で怪人に腹を貫かれた。


『ぱ、ぱぱ……?』


『……っ!! ヤミ……行け!!』


『行きなさい! ヤミ!!』


『あ……ああ……イヤアアアアア!!』


 ヤミは母親に突き飛ばされた。そして、怪人の腕に呑み込まれる両親を見ながら、彼女は意識を手放した。


 ヤミの両親は怪人に殺された。

 顔も身体も全てぐちゃぐちゃにされており、死体から誰かを判別するのはほぼ不可能なほどだった。


 幸いというべきか、ヤミはヒーローに救われた。


 ブラック・ウイングという名の、厨二病のヒーローだった。



 ヤミの両親はどちらも孤児院出身らしく、ヤミは両親が死んだ時点で天涯孤独の身となっていた。

 故に、両親がいなくなったとき、ヤミの身寄りを誰が引き取るか問題になった。


 そこで名乗りを上げたのはブラック・ウイングだった。


 初め、ヤミは自分を救ってくれたブラック・ウイングに殴りかかった。


『あなたが……! あなたがもっと早く来てくれればパパもママも死ななかった! 返してよぉ……。パパとママを……返してよぉ』


 そう言うヤミの目からは涙が流れていた。


 そのことがあったからかどうかは分からないが、当時25歳だったブラック・ウイングはヤミを引き取ることになった。


 ヤミ自身も分かっていた。

 ブラック・ウイングが悪くないということは。


 それでも、行き場のない悲しみと怒りを誰に向けていいか分からず、ブラック・ウイングにきつくあたってしまっていた。


 だが、ブラック・ウイングはヤミに歩み寄り続けた。


『ヤミ! 今宵の晩餐は封印されし邪竜の火炙りだ!』


「……ステーキですよね? 嬉しいですけど……」


『ヤミ! 夜が明ける! 魔獣の巣窟へと向かうぞ!』


「動物園のことですか? ……行きます」


 そんな生活を過ごしている中で、ヤミを小さな不幸が襲った。

 もともと友人が少なかったヤミは両親を失い、更に塞ぎ込むようになった。

 それでも、見た目は優れていたヤミは女子たちの嫉妬をかい、嫌がらせを受けるようになった。


 家族を失ったことに比べれば、些細なこと。


 そう思ってヤミは、嫌がらせを誰にも相談することなく耐えていた。


 そんなある日、ブラック・ウイングがヤミに問いかけた。


『ヤミ……。桃園にて誓いを交わすが如き相手はいるか?』


「おじさんには……関係ないでしょ」


 ブラック・ウイングはヒーローとして忙しい日々を送っているものの、ヤミの異変がおかしいことや、ヤミの持ち物が傷つけられていることに気づいていた。


『ヤミ……』


 ブラック・ウイングの手を振り払い、ヤミは一人で戦おうとした。


 だが、耐えても耐えても嫌がらせが終わることはなかった。

 やがて、嫌がらせはエスカレートし本格的ないじめへと変わっていった。


 そのいじめの中で、ヤミは、彼女が大切にしていた家族写真が入ったペンダントを川に投げ捨てられた。


 川の中で夜になってもペンダントを探し続けているヤミは、その時、両親を失った時ぶりに泣いた。


 何も反撃できない自分に情けなさを感じ、こうして夜になっても自分を探しに来てくれる両親がいないことに悲しさを感じていた。


『何してるの?』


 そんな時出会った少年が村田だった。


『……なんでもないです。構わないでください』


 ヤミがそう言って、川の中でペンダント探しを続けようとすると、村田も川に入ってきた。


『な、何してるんですか?』


『探し物。ちなみに君は何探してるの?』


 村田のまっすぐな瞳を見て、ヤミは思わず『ペンダント』と答えてしまった。

 それを聞いた村田は『そっか』と言って、川の中で何かを探し始めた。


 暫くの間、無言の時間が続いてからヤミは唐突に村田に質問をした。


『……あなたは、帰らないんですか?』


『逆に、君は帰らなくていいの?』


『私には、どこにも居場所はありませんから……』


 ヤミの言葉を聞いた村田は、手を止めある場所を指さした。


 その先には、ヤミの名前を叫びながら走るブラック・ウイングの姿があった。


『あれ、僕の好きなヒーロー。前にさ、君があのヒーローと歩いてたとこ見たよ。君の居場所は本当にないのかな?』


 村田がそう言った直後に、ブラック・ウイングはヤミに気付いたようでこっちに近づいてきた。


『ヤミ……!!』


 怒りの形相を浮かべたブラック・ウイングがヤミに近寄る。


『何時だと思ってるんだ!!』


 その口調は素の口調だった。


『あ……ごめん……なさーー』


 謝ろうとしたヤミをブラック・ウイングは強く抱きしめた。


『よかった……! 無事で、本当によかった……!』


『ぁ……』


 ヤミが誰かに抱きしめられたのは両親に抱きしめられたとき以来だった。

 両親を失ってから、人肌を感じることは無くなっていた。


 親代わりのブラック・ウイングもヤミに無理に触れようとはしていなかった。

 だからだろうか?

 久しぶりの人肌の温もりと、自分を大切に思っていることが伝わるような、強く優しい抱擁は冷え切っていたヤミの心を温めた。


『ぅああああ……。ぁあああん!』


 声を出して涙を流すヤミの背中をブラック・ウイングは優しく抱きしめるのだった。

 

次回予告

 失って、手に入れて、失って……。

 その繰り返しで人は成長していく。


 いつか失うことは理解している。

 だからこそ、今は手にしたものを温かさを、大切さを、噛み締めよう。


 失う時がいつ来るかなんて、誰にも分からないのだから。


次回「村田と黒田②」

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