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誰のために救うか

よろしくお願いします。

 事務所に突如、現れた村井に村田は身体を起こして声を掛ける。


「む、村井……。身体は大丈夫なのか?」


「完治はしてねえけどよ。寝ていられるかよ」


 そう言った村井は、今すぐにでも戦いに行くつもりなのか、ダークシャドウ村井の格好をしていた。


 村井の言葉に村田は口を開きかけ、そして俯く。


「僕には、行く資格がない」


 弱弱しい声で村田はそう言った。

 だが、その返事は村井の気に入るようなものではなかった。


「ああ? 何言ってんだよ。資格がないって何のことだ? お前も自分の後輩のこと助けたいって言ってたじゃねえかよ」


 村井の言葉に対して、村田はあの事件があった日、村田に起きたことを話した。


 アルティメットガールを目の前で連れ去られたこと。

 何も出来なかったこと。

 後輩自身に、救わないでくれと懇願されたこと。


 その全てを話した。


「分かっただろ。僕は、もうあいつを救う資格がない。それに、他でもないあいつ自身が僕が救うことを拒んでる。世間だって……僕じゃないって思ってる」


 村田の出した世間という言葉に村井は眉を顰めた。


「本気で言ってんのか?」


「うん。それに、僕なんかよりよっぽど有名な優れたヒーローたちがきっとアルティメットガールさんも後輩も救ってくれるよ」


 その言葉を村田が言い終わると同時に、村井は村田に近づき村田の胸倉を掴む。


「それでいいのかよ。お前はそれでいいと本気で思ってんのかよ」


「……うん」


 その言葉を聞くと、村井は静かに村田の胸倉から手を離した。


「歯、食いしばれえ!!!」


「へぶっ!!」


 そして、村田の頬を思いっきりビンタした。


 強烈な一撃に、その場に倒れこむ村田。彼は頬を抑え、村井を見上げていた。


「世間? 資格? ごちゃごちゃとうるせえよ。そんなヒーロー目線のお前の意見なんざ聞いてねえんだよ」


「……な、何を言って……」


「てめえと話をしてんだよ俺は。シャイニング村田じゃない。村田光っていう一人の男と話をしてんだ!!」


 村井のその言葉に村田の目が見開かれる。


「俺は行くぞ。誰が止めようが俺は行く。アルティメットガールさんが来るなって言っても俺は行く。何故なら、俺がアルティメットガールさんに惚れているからだ!! 好きな女をこの手で救いたいからだ!!」


 村井は声高々とそう言った。


「そんなの、お前の我儘じゃないか! 相手の気持ちを考えていない独りよがりな考えだろ!」


「ああ。そうだ。それがどうした」


「お前のその行動で状況がもっと悪化するかもしれないんだぞ!」


「そうはさせない」


「根拠何かないだろ!」


「無くてもだ」


 村田は何かを言おうとしたが、村井の真っ直ぐな目を見て口を閉じた。


「俺は行く。もし、お前の気が変わったら、今夜20時にそこに描いてある場所に来い」


 村井はそう言うと、村田に一枚の紙きれを投げつけ、事務所のドアノブに手をかける。


「……何で、何でそこまで迷わずにいれるんだ。……助けられなかったんだぞ」


 村田のその呟きに、村井は背を向けたまま言葉を返す。


「助けられなかったからこそだ。なあ、村田よ。人を救うってのはさ、誰のためだよ?」


 そう言い残して村井は事務所を後にした。


 残された村田の頭に残るのは、村井の最後の言葉。


 人を救う。人を助ける。それは、シャイニング村田にとってこの世界のためであり、周りの人々のためであった。


「……なら、僕が行かない方がいいじゃないか」


 世間も、黒田ヤミもそれを望んでいる。

 だが、村井は言っていた。


『村田光っていう一人の男と話をしてんだ!!』


(僕は……僕自身はどうしたい?)


 村田が悩んでいると、再び事務所のドアが開いた。

 そこには、桜川愛の姿があった。


「入るよ」


「あ、ああ」


 短くそう言うと、愛は村田の目の前に座った。


「ごめん。さっきの話、聞いた」


 愛は村井と村田の話を聞いていたのだった。


「そ、そっか……。情けないよな。後輩一人も救えないなんてさ」


 村田の言葉に愛は静かに首を横に振った。


「そんなことないよ。だって、村田は私を救ってくれた。この街を救ってくれたじゃん」


「はは……。ありがとう」


 軽い返事を返す村田の手を愛は取った。


「ねえ。私が村田にお弁当を渡すのは何でだと思う?」


 唐突に愛は村田にそう問いかけた。


「え……。それって今答えないといけない?」


「うん。お願い」


 愛の真剣な表情に村田は少し考えてから返事を返す。


「食生活が酷い僕を思ってかな?」


「それもあるかな。でも、一番の理由はそれじゃない」


「え……? 何だろう……」


 頭に疑問符を浮かべる村田に少しだけ近寄る愛。

 愛の頬は僅かに赤くなっていて、どこか緊張しているようだった。


「一番の理由は……私が村田のことを好きだから」


 愛ははっきりと、村田の目を見てそう言った。


 そして、何も言えずにいる村田に対して続けて口を開く。


「ねえ、村田。村田が後輩のことを救いたいのは、本当に後輩のためだけ?」


 愛の言葉を聞いた瞬間に、村田の脳裏に黒田ヤミとの何気ない日常のやり取りが蘇る。


 村田が黒田ヤミを救いたいのは何故か?

 本人の口から拒否されているのに、未だに悩んでいるのは何故か?

 村井がアルティメットガールを救おうとしている理由は何故か?

 桜川愛が村田にお弁当を渡してくれるのは何故か?


『人を救うのは誰のためだよ?』


「ああ……。そうか。簡単なことだったんだ」


 そう呟いた村田の顔は晴れやかなものだった。


「ごめん。桜川。桜川の思いに今は返事を返せない」


「うん。いいよ。私が好きなあんたは今のあんただから。ほら、さっさと後輩を救ってきなよ。お節介があんたの本質でしょ?」


 愛はそう言って微笑んだ。

 その笑みを見た村田は、近くにあったコスチュームを掴み、「行ってくる」と言ってから事務所を飛び出した。



***


 夜中の20時前、村井はとある研究所の前に来ていた。

 この研究所こそが『イヴィルズ』の本部と予想される場所だった。


 アルティメットガールの事務所の人から必死に懇願して入手した、囚われたアルティメットガールの居場所。

 この情報を無駄にするわけにはいかない。


「村田は……来なかったか。いや、仕方ない。気合入れていこう」


 20時になっても村田の姿は現れなかった。

 一人で突入することに不安を感じつつも、改めて気合を入れ直す村井。


「行こう」


 村井が研究所内に足を踏み入れようとしたその時、村井の肩を誰かが掴んだ。


「だ、誰だ?」


 振り向いた村井の目に入ったのは、シャイニング村田の姿だった。


「村田……!」


「遅くなった」


 そう言う村田の目には、確かな覚悟が宿っていた。


「その調子なら、答えは見つかったみたいだな」


「ああ。もう、迷わない。行こう。村井」


「おう」


 二人が睨みつけるのは、夜中にも関わらず明かりが消えない研究所。

 中で二人を待つものが何かは全くの未知。


 それでも二人の足が止まることは無い。


 二人の男の欲望が満たされるその時まで。

次回予告!

 研究所に入り込んだ村田と村井。

 裏切り、敵対、全てを乗り越え、二人は進む。


次回「マックスヴィレッジTUEEEE!!」

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