帰ってきたシリアス
人気の少ない裏路地。
そこで、二人の人物による進むことのない議論がなされていた。
「う、受け取れません! この茶封筒も持って帰ってください!」
「嫌です! 投げ銭させてください! 推しに貢ぐことが生きがいなんです!」
「そ、そんなのよくありませんよ! 自分の幸せのためにお金を使ってください!」
「あなたの幸せが私の幸せなんです! だから、受け取ってください!」
「気持ちは嬉しいですけど、それは僕も一緒です。市民の皆さんの幸せが僕の幸せなので……やっぱり受け取れません」
「ふぁああ……。私たちのことをそこまで……尊い。も、もう! ならこれも持ってってください!」
遂には財布を差し出す女性。
「ええ!? 僕の話聞いてました!?」
ファンの行動にギャンブリアンはただただ狼狽するばかりであった。
「なあ、村田。もう、俺たち帰って良くないか?」
「うん……。アルティメットガールさんのもとに戻ろう」
村田と村井は二人に背を向け、その場を立ち去ろうとした。だが、その二人の肩をギャンブリアンが掴んだ。
「待ってください。あなたたちも説得に協力してください……!」
「い、いや。これは当人同士の問題だから」
「そうそう。俺らに出来ることは何もないよ」
ギャンブリアンの肩を振り払い裏路地から逃れる二人。
彼らの背後からは「人でなしぃいいいい!!」という叫び声が聞こえたが、彼らが振り返ることは無かった。
二人が裏路地を出ると、そこには丁度ファン対応を終えたアルティメットガールがいた。
「遅くなってごめんなさい。ギャンブリアンには逃げられたのかしら?」
「ああ……。とりあえず、ギャンブリアンが襲われることは多分ないと思います」
「とりあえず、噂は全くの嘘でした」
「そうなの? なら、いいのだけど」
不意に、アルティメットガールが持っていた通信機が鳴った。
「こちらアルティメットガール。……ありがとう。直ぐに行くわ」
「ヒーロー狩りですか?」
村田の問いにアルティメットガールが頷く。
「隣町の方で出たみたい。恐らくもうヒーローと接触しているはずよ。急ぎましょう」
「「はい」」
三人は隣町に向け走り出すのであった。
***
日が沈み始めた街中を一人の男が走っていた。
男の表情は青ざめており、しきりに後ろを振り返っていた。
「はあはあ……! くそっ! 何で俺がこんな目に合わなきゃならねえ……!」
その男は『エンペラー』という名でヒーローをしている男だった。
表では、一般人に戦う力を与え、市民と供に戦うヒーローとして名が通っていた。
「何で? その理由は貴様が一番分かっているだろう」
「ヒィ!! い、いつの間に……?」
エンペラーを追いかけていたはずの人物が突如、エンペラーの目の前に現れる。
パアンッ!!
「ギャアア!!」
銃声が鳴り響き、エンペラーがその場に倒れる。
パアンッ!!
「ギャア!!」
両足を撃たれたエンペラーは、必死に命乞いを始める。
「……た、頼む! 許してくれ! 俺がお前に何をした? か、金が目的か? 地位か? 欲しいものがあるならくれてやる! だから! だから……!」
エンペラーを追いかけていた人物――ヒーロー狩りは目の前で命乞いするヒーローをただただ冷めた表情で見ていた。
「……今まで、何人の罪の無い人々を食い物にしてきた?」
「は、はあ? 何を言っている? 俺は寧ろ金も職も持たない社会のゴミ屑たちに力を与え、役目を与えていたくらいだ!」
「怪我を負えば切り捨てる。命を懸ける仕事の割りに低すぎる賃金。それでも同じことが言えるのか?」
『エンペラー』の能力は一般人を5分間強化することができるというものであった。
人数に制限はあるものの、その能力を使い、彼はこれまで社会から見放された人々を自分の手足として侵略者と戦わせてきた。
侵略者たちは強く、強化人間と言っても、一般人より少し強い程度の人間では複数人でかかっても無傷の勝利は中々ない。
そして、怪我人を治療するのはエンペラーにとってあまりにもコストが高すぎるものだった。
故に、彼は切り捨てた。怪我人を切り捨て、また社会から見放された人間を捕まえる。
そんなことを繰り返せば、死人も出る。だが、エンペラーは全くそんなことを気にすることは無かった。
「あ、当たり前だろ! 元々やつらはこの社会には不必要な存在だったんだ! 寧ろ、俺のおかげでその命に価値が出来たと感謝してもらいたいくらいだ!!」
エンペラーは本気でそう思っていた。
「……ゴミ屑は貴様の方だ。もう、何も言わなくていい」
ヒーロー狩りは銃口をエンペラーの頭に向ける。
「ふ、ふざけるな! 俺がゴミ屑だと? 少なくとも俺は少数を犠牲にして多くの人々を救ってやってきた! お前が俺を殺せばどうなる? お前がしていることは少数を救うために多数を犠牲にすることと同じだ!! ゴミ屑はお前の方だろ!」
ヒーロー狩りの顔が僅かに歪んだ。
「なら、その少数は黙って犠牲になれというのか? 違う……! ヒーローは、本物のヒーローは全てを救う。弱者も、強者も等しく救う覚悟のあるものが真のヒーローなんだ」
「はは……ははははは!! バカバカしい! なるほど。お前はただのガキなんだ。何も知らない。知ろうともしない。理想の姿に憧れて現実に目を向けないガキ! 調子に乗るな。犠牲なしに全て救うなんてな……無理なんだよ!!」
エンペラーの表情から怯えは消えていた。
彼にとってヒーロー狩りは、凶器を持って調子に乗っている子供にしか見えていなかった。
「黙れ!!」
パアンッ!
「ギャアアア!!」
銃弾がエンペラーの脇腹を貫いた。
「貴様が……! 貴様みたいな人間のせいで、私は……私の家族は……!」
「はあ……はあ……。……ははは! 逆恨みか? まあ、いい。殺すといいさ。だが、一つ言っておいてやる。お前には誰も救えない。そして、今のお前を救ってくれるヒーローは何処にもいない。大好きなヒーローから恨まれ、憎まれ、殺されてくれ! それを地獄から楽しみに見てるぜ!!」
「あああああ!!!」
エンペラーの挑発に、感情を高ぶらせるヒーロー狩り。
彼女は、その勢いに身を任せ、エンペラーの頭に照準を合わせた銃の引金を――。
パアンッ!!
引いた。
***
時間はエンペラーとヒーロー狩りがまだ鬼ごっこをしている頃に遡る。
隣町に着いたアルティメットガールを始めとした三人のヒーローはアルティメットガールに連絡をした通信員の下に向かっていた。
その通信員とは移動中も数回連絡を取り合っていたのだが、ある時から連絡が途絶えていた。
「最後の通信はこの辺りなのだけど……」
「アルティメットガールさん! こっちに来てください!!」
村井が呼びかけ、アルティメットガールと村田が村井の下に集まる。そこには、壊された通信機があった。
「これは……。ウチの事務所で使っている通信機よ」
「ということは、ここで何者からか襲撃にあったということか?」
パアンッ!!
パアンッ!!
その時、銃声が二回、遠くから聞こえた。
「あの音……。ヒーロー狩りが使っていた銃の銃声に似ているわ」
アルティメットガールのその言葉を聞いた瞬間に、村田は銃声が聞えた方向に走り出していた。
「シャイニング村田!?」
「私たちも行きましょう!」
遅れて村井とアルティメットガールも動き出そうとしたその時、彼らの前に一体の怪人とシルクハットを被ったピエロの様な男が現れた。
「申し訳ありませんが、あなた方を彼女の下に向かわせるわけにはいきませんねぇ」
「あなたは……ジョーカー!」
アルティメットガールが憎悪の目を男に向ける。
「知り合いですか?」
「ええ……。あいつが『イヴィルズ』の実質的なトップ。そして、私の家族を殺した男よ」
アルティメットガールの言葉にジョーカーは不気味な笑みを浮かべていた。
「フフフ。その憎悪の瞳。いいですねぇ。本当にあなたは美しくなった。人々を守るための正義の心を知り、私という悪を憎む心を知った。今のあなたこそ私に必要な最後のパーツ。さあ、あなたと私の因縁に終止符を打ちましょう」
ジョーカーの言葉と同時に、怪人が二人に襲い掛かった。
***
村田は走っていた。
後ろからアルティメットガールと村井は来ていない。それでも、その足を止めることなく全速力で走り続けていた。
(今度こそ、救ってみせる。お前が僕の手を振り払っても、僕を必要としなくても……)
「黒田ヤミは、僕の平穏な日常に必要なんだ」
遂に、村田の視界に銃を一人の男に向けるヤミの姿が映る。
ヤミの表情は怒りに染まっていて、冷静さに欠いているように見えた。
その表情を見た村田は、ヤミと男の間に飛び込んだ。
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次回予告!
村田の手は黒田に届くのか? 村井とアルティメットガールの二人とジョーカーの戦いの行方は?
ターニングポイントになるかもしれない次回の話は、2021年2月16日20時公開予定!!
次回「ターニングポイント」




