はいはい。シリアスシリアス。
これだよこれ!
俺はこんな話が書きたかったんだ!! って話を書けました。よろしくお願いします。
村田の悲鳴により、注目を集めてしまった三人は仕方なく外に出ることにした。
「だああああ! 村田! てめえのせいでバレちまったじゃねえか!」
「うるせえ!! お前のせいでこっちは最悪な気分なんだよちくしょう!」
「二人とも静かにしなさい! ターゲットにバレるでしょ!!」
三人の声に合わせてやじ馬たちが集まってくる。
「ん? あの女性、アルティメットガールじゃないか?」
「本当だ! アルティメットガールだ!」
「サイン! サイン! サインくださあああい!!」
流石は人気ヒーローというべきか。あっという間に一般人に囲まれるアルティメットガール。
その間に、三人の目当てのギャンブリアンは裏路地の方に消えていった。
「くっ……! ダークシャドウ村井! シャイニング村田! あなたたち二人のどっちかだけでもターゲットを追いかけて!」
「そ、そんなこと言われたって、俺たちも一般人に囲まれて……」
たくさんの人に囲まれているアルティメットガールとは対照的に、ダークシャドウ村井とシャイニング村田の周りには人が誰も集まっていなかった。
「わーい! ヒーローだー!!」
そんな村井の下に一人の少年が駆け寄ってくる。
「おお! 少年、俺がダークシャ……」
少年はあっさりと村井の横を過ぎ、村田の下に駆け寄った。
「わー! シャイニング村田だ! 本当に全身タイツなんだー!!」
「あ、えっと……。その、今はヒーロー活動中だから後にしてもらいたいんだけど……」
村井の目には同じ不人気ヒーローだったはずの村田が困った顔で子供に対応する姿が映った。
「ダークシャドウ村井!? 行けるの!?」
「い゛け゛ま゛す゛……!!」
血涙を流しながら村井は走り出した。
***
ギャンブリアンが消えていった裏路地にダークシャドウ村井が飛び込む。
「ごめんなさい。……これだけしか渡せなくて」
そこでは、なんとギャンブリアンのファンと思しき女性がギャンブリアンに茶色の封筒を渡していた!!
「何してるんだ!!」
証拠を押さえたとばかりに、ギャンブリアンに詰め寄る村井。
「え……? ちょ! あなたは誰ですか!?」
「俺の名前はダークシャドウ村井だ! それより、ギャンブリアン! お前がファンから金を毟り取っているって噂は本当だったんだな!」
村井は怒りに震えていた。
その怒りの中には、ギャンブリアンのファンが可愛い女性だったということも少なからず関係していたかもしれない。
「は、はあ? あなたは何を言っているのですか?」
「とぼけやがって!!」
ダークシャドウ村井が拳を強く握りしめたその時、裏路地にたった一人の少年への対応を終えた村田がやって来た。
「ダークシャドウ村井! 何してるんだ! 一先ず偵察だって言われてただろ!」
「あ……」
村田の言葉を聞いて、一瞬我に返る村井。
しかし、飛び出してしまった以上、彼はもう後には引けなかった。
「う、うるせえ! こいつが……! こいつが悪いんだ! 女性の優しさに付け込む、こいつが……!!」
「は、早まるなダークシャドウ村井!!」
「ひ、ひいいい! 何なんですかこれええ!」
ギャンブリアンの胸倉を掴み、拳を振り上げる村井。
村井を窘めようとする村田。
涙目で悲鳴を上げるギャンブリアン。
最早、誰が加害者で誰が被害者か分からなくなっていた。
「いい加減にしてください!!」
混沌とした状況に終止符を打ったのは、ギャンブリアンに茶封筒を渡した女性だった。
「その茶封筒は私が進んで渡したものです! ギャンブリアンさんは何も悪くありません!」
「え?」
***
改めて落ち着いて話をするべく、一旦、村田はギャンブリアンと村井の間に入ることにした。
「えっと……。確認したいんですけど、ギャンブリアンさんはファンの子から金を毟り取っているわけではないんですか?」
「め、滅相もない! 僕はそんなことしてませんし、する気もありませんよ! あ、いや……でも、結果的に毟り取っているということになるのかも……」
ギャンブリアンは初めこそ首を横に振って否定していたが、思い当たることがあったのか、徐々に声色が弱弱しくなっていた。
「やっぱり毟り取ってんじゃねえか!」
「落ち着け村井! それで、さっきそちらの女性が言っていたことはどういうことなんですか?」
村田が話を振ると、その女性はゆっくりと話し始めた。
「私はギャンブリアンさんのファンなんです。ギャンブリアンさんの能力は『パワーガチャ』という、一日一回引いたガチャの結果でその日の強さが変わるというものです」
村田が頷く。それなりのヒーローオタクである彼はギャンブリアンのこともある程度噂を聞いていた。
当たれば最強、外せば最弱。ギャンブリアンは多くの人からはそういう風に
思われていた。
「……その能力が原因でギャンブリアンさんは悩みを抱えていました」
「悩み?」
「はい。ヒーローとはいかなる時でも人々を侵略者から守るために戦わなくてはなりません。おまけに、ヒーローが負ければ人々は侵略者に襲われてしまう。その状況の中、運でその日の強さが変わる能力は、時に最悪な未来を生み出しかねない。ギャンブリアンさんはそう考えていました」
「でも、一日一回しかガチャが出来ないならどうしようもないんじゃないのか?」
村井が問いかける。
その問いに、少し間を空けてから女性は答えた。
「『課金』です」
「課金って……あの?」
「はい。ギャンブリアンさんのパワーガチャは10万円を消費することで引き直しが可能だったのです」
「そうなのか?」
村田がギャンブリアンに問いかけると、ギャンブリアンは苦々しい表情で頷いた。
「私たちを守るために、ギャンブリアンさんは何度も何度も課金しました。一回の課金で良い結果が出れば一番ですが、そうとは限りません。日によっては引き直した回数は30回を超えることもあったそうです」
「な……。で、でも毎日課金してたわけじゃないんだよね?」
女性は村田の問いに静かに首を横に振った。
「ギャンブリアンさんは優しすぎました。そして、心配性でした。侵略者が現れてから引き直していたら間に合わないかもしれない。いつ侵略者が来るかも分からない。そう考えたギャンブリアンさんは毎日、日付が変わると同時に、良い結果を得るまでガチャを引き直したんです」
信じられないといった表情でギャンブリアンを見る村田と村井。
もし、その話が事実だとすればギャンブリアンは毎日のように大金を消費していることになる。
ギャンブリアンはヒーローであるため侵略者撃退報酬を受け取ることが出来る。
それでも、毎日のように10万円以上の課金生活を送っていたらお金が足りなくなるのは明白だ。
「初めは良かったんです。最強ではなくても勝てる相手が多かったから、引き直しも少なくて済みました。ですが、敵はどんどん強大になっていきました。それに合わせて、ギャンブリアンさんが求める力も大きいものになり、課金額も増大しました。……今ではギャンブリアンさんは課金額を貯金するために日々の食費や光熱費を極限まで削る節約生活。私は……私たちは……日々弱弱しくなっていくギャンブリアンさんを見ていられなかった!!」
そう言うと女性はその場で泣き出した。
ギャンブリアンはその女性の姿をただただ申し訳なさそうに見ていた。
「そういうことだったのか……」
ギャンブリアンはファンからお金を毟り取ってなどいなかった。
実際は、ギャンブリアンを心配したファンたちが自らギャンブリアンに貢いでいたのだ。
「やっぱり、間違っていますよね……。市民を守るべきヒーローが、逆に市民を苦しめることになるなんて……」
苦々しい顔でギャンブリアンが呟いた。
「そんな! 私たちは苦しんでなんかいません! 好きでやっていることなんです!」
「嘘だ!!」
ギャンブリアンの叫びは悲鳴のようだった。
「……知ってるんだ。君たちが以前より少しほっそりとしていることも、街中で、君たちがもやしばっかり買っていることにも」
「う、うそ……」
「だから、もうこれ以上君たちの生活費を削ってまでお金を渡さないで欲しい」
それはギャンブリアンの心の底からの願いだった。
ギャンブリアンはずっと今の状況に悩んでいたのだった。
そして、そんな彼の思いを聞いた女性はというと……。
「うそ……。推しが認知してくれてるなんて……! うう。こ、これも! 貰ってください!!」
「ええ!?」
更に財布の中から10万円を取り出すのであった。
今日の話を一言で振り返ろう! のコーナー。
「そのシリアスをぶち殺す!!」
次回予告!
一度は殺したシリアス。だが、シリアスは蘇る。この世にコメディがいる限り、シリアスもまた消えることはない。
次回「帰ってきたシリアス」
 




