早すぎる再会
ブックマーク大感謝祭です!!
今回は最近流行りだった「もう遅い」に挑戦してみました!
アルティメットガールがその現場に辿り着けたのは偶然だった。
「……止まりなさい。何をしているのかしら?」
彼女の目には黒のマントを身に付けた怪しい人物が、アルティメットガールもよく知るヒーロー『イケメンクイ』に銃口を向ける場面が映っていた。
「ア、アルティメットガール……? た、助けてくれ!!」
暗くて分かりにくいが、イケメンクイは地面を這いつくばっているように見える。
アルティメットガール自身は、ヒーロー活動中に助けた女の子に無理矢理迫る行為をするイケメンクイのことに対して嫌悪感を抱いていたが、今はそういうことを言っていられる状況ではない。
謎の人物が引金を引く前に、地面を蹴り出す。
その驚異的な身体能力で、その身を盾にしてイケメンクイを守る。
そして、怪しい人物が銃を撃った直後、銃を撃った反動でできる隙を狙い拘束しようとしたのだが……。
(……っ! 速い)
その人物は瞬時にアルティメットガールから距離をとった。
「……アルティメットガール。貴様は我のターゲットではない。早々にここを立ち去れ」
声色から察するに怪しげな人物は若い女性のように感じれらた。
「ターゲット? あなたは初めからイケメンクイを狙っていたということかしら?」
「その通りだ。その男はヒーローを名乗っておきながら助け出した一般女性に無理矢理性行為を強要したり、時には怪人たちを誘導して意図的に女性ヒーローがピンチになるようにしていたクズだ。そんなものはヒーローに相応しくない。ここで消すべきだ」
イケメンクイはその女性が語る言葉を聞き、顔を青ざめていた。その反応からアルティメットガールも目の前の女性の言うことが間違っていないということを察した。
「……だとしても、許すわけにはいかないわ。イケメンクイはしかるべき場所で裁かれるべきよ。間違ってもあなたが手を出すようなことではないわ」
「そのしかるべき場所が正常に働いていないからそこのクズが現れるんだろう?」
そう言うと、目の前の女性は手に持っていた拳銃をこちらに投げつけてきた。
思わず身構えるアルティメットガール。しかし、彼女の真の狙いはイケメンクイだった。
腰から取り出した二丁拳銃でイケメンクイに向けて銃弾を放つ。
「ひ、ひいいい!!」
僅かに遅れたものの直ぐに、イケメンクイの盾となるアルティメットガール。
「ああ!!」
銃弾など簡単にはじき返せるだけの肉体を持った彼女が悲鳴を上げる。
彼女の身体には針が刺さっていた。
「な、何これ……?」
彼女の身体に刺さっている針は小さなカプセルに繋がっており、そのカプセルの中にはどす黒い液体が入っていた。
「……っ!!」
液体が針を通して入ってくるのを感じた彼女は針を急いで抜いた。だが、次の瞬間強烈な脱力感が彼女を襲った。
「ど、どうして……。まだ、時間は十分に残っているはずじゃ……」
「どうやら実験は成功のようだ」
そう言うと、怪しい人物はアルティメットガールの間合いに入り込み、その手に持った怪しく光る石を彼女の胸に押し付けた。
そして、それは、アルティメットガールにとって一番効く攻撃であった。
「キャアアア!!」
悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちるアルティメットガール。
まだ意識は残っているものの、今の彼女には目の前の女性の凶行を止めるだけの力は残っていなかった。
「そこで黙って見ておくがいい」
女性はゆっくりとイケメンクイに近づいて行く。イケメンクイにも抵抗できるだけの力も意志も残っていないのだろう。
彼は情けなく、地面に這いつくばり命乞いをしていた。
「い、い、命だけは助けてくれ! い、今までやってきたことは謝罪する! 金だって払う! 何円だ? 100万でも500万でもいいぞ!」
ヒーローと呼ぶにはあまりに醜いその姿を見て、女性は顔に嫌悪感を露わにしていた。
「クズが……。まあ、いい。これで、また一人クズが消える」
銃口がイケメンクイに向けられる。
それをアルティメットガールはただ眺めることしか出来ない。
(わ、私にもっと力があれば……!)
身体を動かそうにも、何故か力が全然入らない。心を覆いつくす絶望。
だが、彼女の頭に僅かな可能性が思い浮かんだ。
間に合うか分からない。そもそも来てくれるかも分からない。
それでも、彼女はその可能性に賭けるしかなかった。
「だ、誰か助けてええええ!!」
さっき出会った可笑しな格好のヒーローが来てくれる可能性に。
「「待てい!!」」
闇夜に響き渡る二つの声。
「闇夜に輝く希望の光! シャイニング村田!!」
「闇夜を駆ける絶望の影! ダークシャドウ村井!!」
「「二人はヒーロー! マックスヴィレッジ!!」」
「「光と影に代わって……成敗いたす!!」」
(……間違えたかもしれない)
ポーズを決める二人を見て、アルティメットガールはそう思った。
***
村田と村井が現場に着く直前、現場に向かいながら二人は話し合っていた。
「村井。今度は人を助ける前に名乗りをしよう」
「名乗り? 助けることが最優先じゃないのか?」
「村井の言うことは正しい。でも、時に名乗りを上げることは被害者に安心感を、敵には恐怖を与えることができ、敵の動きを牽制することが出来る」
「な、なるほど! なら、名乗りをした方がいいかもな! 名前も覚えてもらいたいしな!」
村井の言葉に村田は頷く。
「だから名乗りを考えよう。時間は少ない!」
「おうよ!!」
こうして二人で話し合った結果、できた名乗りが……
「「二人はヒーロー! マックスヴィレッジ!!」」
であった。
テレビで日曜の朝に流れる某女児向けアニメに大幅に寄せられているのはたまたまである。
「「光と影に代わって……成敗いたす!!」」
もう引退したが、10年前にヒーローとして活躍していた『侍ムーン』の決め台詞がこれであった。
つまり、パクリである。
そんな名乗りをした二人の心境はというと……。
((決まった!!))
この始末である。
全身タイツと忍のヒーローが気付いていないとはいえ、女児向けアニメに出てくるキャラと同じような名乗りをする。
控えめに言って、気持ち悪い。
この二人に圧倒的に足りないのは客観的視点だった。
「……シャイニング村田にダークシャドウ村井か。貴様らも我のターゲットに入っていない。即刻ここから立ち去れば見逃してやろう」
二対一という数の不利を気にすることなく、謎の女性は村田と村井にそう言った。
「おいおい。アルティメットガールを倒した実力は認めるが、状況を考えた方がいいぜ。もうすぐ援護だって到着する。見たところ、あんたは人間に見える。何でヒーロー狩りをしているのかは分からないが、早めに投降しな。な! シャイニング村田」
村井がシャイニング村田の方に顔を向けると、シャイニング村田は謎の女性をジッと見つめていた。
「どうした?」
「いや、何かあいつの声をどこかで聞いたことあるような気がするんだよな……」
「知り合いってことか?」
「心当たりはあるんだが、あいつがこんなところにいるはずがないしな。まあ、捕まえれば分かることだ」
「だな」
村田と村井の二人が臨戦態勢に入る。
その闘気はまさしく歴戦の戦士。
二人とも人気と知名度こそはないが、侵略者討伐数ランキングは毎年上位に入るヒーロー界屈指の強者だ。
「……はい。了解」
謎の女性は通信機のようなもので誰かと話し終えると、舌打ちを一つしてから村田と村井に背を向けた。
「逃げる気か?」
「……違う。戦略的撤退だ。我の目的は達成できなかったが、組織の目的は達成できたようだしな」
「組織……? バックに誰かついてるのか?」
「答える義理はない」
その場を立ち去ろうとする謎の女性。
黒いマントを翻す姿に、村田の中でその女性と後輩の姿が重なった。
「……黒田か?」
その女性は一瞬、足を止める。だが、何も言わずに走り出した。
「あいつ……!! 村井そっちを頼む!」
「は!? お、おい! 村田!!」
謎の女性を追いかける村田の心は焦燥感でいっぱいだった。
「おい! 黒田!! ……くそ! あいつ、こんな足速かったか?」
新たな一歩を踏み出したはずの後輩。だが、その後輩が踏み出した方向は村田から見れば正しいと言える方向ではなかった。
暫く走ってから、謎の女性は足を止めた。
「……黒田ではない。ヤミ・ダークネスだ」
「やっぱり、お前だったのか……。な、なあ、どうしてこんなことしてるんだ? お前は新しい一歩を踏み出したんじゃないの――「ヒーローとは何だ?」
ヤミは有無を言わせぬ表情で村田に問いかけた。
「そ、それは……。人々を救う存在のことだ」
「なら、何故ヒーローは我を救ってくれなかった」
村田はヤミの言葉に何も言えなかった。
ヤミのその言葉は、最も身近にいた村田に一番刺さる言葉だった。
「何故、我の家族を殺した?」
「それはどういう……」
「そこまでです」
ヤミの言葉の真意を聞こうとした時、ヤミの背後にシルクハットをかぶったピエロの様な怪人が姿を現した。
「やれやれ。遅いと思ったから様子を見に来れば……。何をしているのですか? もう、これまでの生活とは縁を切ったのでしょう?」
「……ああ。直ぐに帰る」
怪人の背後には小さなブラックホールの様なものが広がっていた。
「ちょっと待て!! 黒田! 戻ってこい! 戻ってきてくれ!」
村田の声に余裕はなかった。
ヤミの隠れたSOSに気付けなかった後悔とまだ間に合うと信じたいという希望が入り混じった声だった。
そんな村田を見て、怪人は不気味な笑みを浮かべていた。
「くくく……。滑稽ですねぇ。もう遅い。もう遅いんですよ」
そんなことない! 村田がそう叫ぶ前に張本人であるヤミが口を開いた。
「救われたんだよ……。ただ、私を救った相手が先輩でも、ヒーローでもなかった。……それだけ。私はもう救われた」
それは、村田が必死に差し出している救いの手を払いのける言葉だった。
「シャイニング村田さん。分かったでしょう? あなたの光は彼女には届かなかった。光があれば影がある。彼女の本心は影の中に隠れていたんですよ。いわば、あなたとは対極の位置にいた。あなたが光だったが故に、あなたは彼女を救えなかった」
怪人はそう言い残して、ヤミと供にブラックホールの中に姿を消した。
村田はただ茫然とその場に立ち尽くしていた。
村田の頭の中には、怪人の言葉が何度も何度も流れていた。
本編のコメディ要素が薄すぎて死にそう。村田は「もう遅い」される側。
次回予告!!
急激なシリアスにびっくりの作者! ヒーロー狩りを止めるために動き出す村田! だが、悲劇は重なっていく。
次回「俺たちのシリアスはこれからだ!!~わだち先生の次回コメディにご期待ください~」




