手を差し伸べる者
神様、界王神様、全王様。
本当にありがとうございます!!
(訳:ブックマーク、評価、感想ありがとうございます!!)
魔法少女騒動が終わってから一週間が経過していた。
いつも通り一日の全ての授業を受け終えた村田は、放課後に空き教室に向かっていた。
(何だかんだで最近は忙しくて、ここに来れてなかったからな……。黒田怒ってるかなぁ)
不安を抱きながら、村田は空き教室に足を踏み入れた。
「久しぶりー」
声を出しながら中に入ると、そこにはドアに背を向けて何かをしている黒田ヤミの姿があった。
「……やはり、まずはあいつから行くべきか? いや、でもこいつも中々の悪党……」
「黒田? おい! ヤミ・ダークネス!!」
「ぴゃ!」
一際大きな声で呼びかけると、黒田は奇声をあげて振り向いた。
「む、村田!? いつの間に背後に……!? ま、まさか伝説のスキル『潜伏する追跡者』か!?」
「ち、違う! 誰がステルス・ストーカーだ! ちゃんとここに入るときに声出したし、ストーカーだってしてない!」
「……む。だが、我はこう見えても美少女だし、村田は変態という噂が立っているくらいだからな」
「ね、ねえ。僕が変態ってそんなに出回ってるの?」
「ああ。……あと、最近は同じクラスの桜川とかいう女子と仲が良いことも噂になっているぞ。それこそ、二人でお弁当を食べているらしいではないか?」
黒田がジト目で村田を睨みつける。
「うわ……。それも噂になってるんだ」
だが、村田はそんな黒田の視線に気づいてもいないようだった。
「……良かったではないか。クラスの女子と二人きり。しかも美人なのだろう? 今日もそやつと遊んでいればいいではないか」
村田の態度に拗ねたような態度をとる黒田。
流石の村田も黒田の様子がおかしいことに気付いたようだった。
「なあ、黒田。もしかして怒ってる?」
「別に。村田がいなくても寂しくなんてないし? 我にも新しい仲間ができたしな。 あと、ヤミ・ダークネスだ」
「いやいや。怒ってるだろ。まあ、最近ここに来れてなかったのはごめん」
「ふん。……まあ、でも我もこれからは忙しくなるからな。明日からはここを閉じようと思う」
少し残念そうに黒田はそう呟いた。
その黒田の言葉に村田は驚きを隠せないようだった。
「ほ、本当に言ってるのか? だって、ここは黒田が……」
以前、黒田は言っていた。ここは自分と村田の二人だけの特別な箱庭だって。
村田と黒田が初めて出会ったのもここだった。
人見知りが激しい黒田は厨二病も相まって学校では孤立していた。
その黒田が唯一学校内で居場所を感じられる場所がこの空き教室だった。
「まあ、いつまでも同じ場所には留まっていられまい。我も世界を変えるために動かなくてはならない時が来たのだ」
「そっか……。まあ、黒田が決めたなら僕はそれに従うよ」
「……本当にいいのか?」
そう言った黒田の顔は、どこか不安そうで、村田に対して何かを期待しているように見えた。
だが、村田の心の中は、一歩踏み出した黒田を応援したいという気持ちの方が強かった。
「ああ。頑張れ、黒田。いや、ヤミ・ダークネス。ヤミならきっと上手くやっていけるよ」
村田の言葉を聞いた黒田は少し寂し気に視線を下げた。
だが、それは一瞬の出来事で、黒田は直ぐに顔を上げいつもの不敵な笑みを見せていた。
「フフフ! 当たり前だろう! 何て言ったって我は、闇夜に潜り、闇を支配する漆黒の戦士、ヤミ・ダークネスなのだから!!」
「ああ、そうだな。黒田」
「ヤミ・ダークネスだ!」
二人で顔を見合わせて、声を出して笑う。
いつも通りのやり取り。ほんの少し、いつもと違う黒田。でも、その違いはきっと黒田が新しい場所に行くからだ。
村田はこの時、そう思っていた。
だが、もし黒田が踏み出す先を村田が知っていたら。
きっと村田は黒田を引き留めたはずだ。
何が良くて、何が悪いかは全体像を把握しなければ言い切れない。一部分だけでは、何も判断できない。
それは至極当然で、そして、誰しもが忘れてしまいがちなこと。それは、村田にも言えることだった。
***
時刻は午後20時。
闇夜の中に黒いマントを身に付けた少女が一人いた。
そして、その隣には同じく黒いマントを身に付け、アイマスクを付けた怪しげな男がいた。
「今から10分後、ここに『ジ・ゴールド』が来る。以前にも言ったように、企業から金を受け取り、意図的に登場を遅くしているヒーローだ。奴の登場が遅れたことで出た被害は甚大。そんなヒーローが許せるか?」
「許せるわけがないだろう。そんなクズがいるから、真に救われるべきものたちが救われないのだ」
少女は憎悪にまみれた瞳でそう言った。
「その目なら大丈夫そうだ。頼んだぞ。ダークネス・ヤミ。いや、『ヒーロー狩り』よ」
そう言い残して男はその場から立ち去った。
残された少女は闇夜に浮かぶ月を眺めながら呟く。
「先輩……。あなたは、こんなことをしている我でも応援してくれるのか? いや、よそう」
もう、先輩と関わることは無い。あれだけヒーローを自分と同じように愛している彼が今の自分を応援してくれることなどないだろう。
もしも先輩が、ヒーローが、誰かが私の進むべきを彼らより先に示してくれたら、手を差し伸べてくれたならば、自分の行く先は大きく変わったのかもしれない。
でも、もう止まれない。知ってしまった事実はあまりに重く。差し伸べられた手は私の心の奥底に届いてしまった。
「さようなら。先輩」
月の光が少女を照らす。その光から逃れるように、少女は闇の中に消えていった。
***
空き教室から黒田の姿が見えなくなってから一週間が経った。
以前よりも放課後に時間が取れるようになった村田はヒーロー活動に以前以上に精を出していた。
そんな中、とあるヒーローがシャイニング村田ヒーロー事務所に足を運んでいた。
「よお。シャイニング村田」
「お、お前は……ダークシャドウ村井!!」
現代社会に溶け込む気がゼロと言えるような忍装束を身に付けたその男は、シャイニング村田とヒーロー人気ランキング最下位争いをしている、シャイニング村田のライバルと呼べる男だった。
「くくく。聞いたぜ? 最近はそれなりに街の人から支持されるようになったらしいじゃねえか」
「だったらなんだよ」
「簡単な話さ。くくく……こうするんだよお!!」
不気味な笑みを浮かべ、飛び上がるダークシャドウ村井!
「な……!? 何を……している?」
村田の目の前にはシャンピング土下座を華麗に決めた村井の姿があった。
「人気が出る秘訣を教えてください!!!」
「は?」
ヒーロー人気ランキング下位二人がコンビを組む。
そして、ヒーローたちを狙う『ヒーロー狩り』の登場。
今、ヒーロー界にかつてないほどの波乱が巻き起ころうとしていた。
次回予告!
くくく……。俺の名前はダークシャドウ村井。
この間、事務所の人に「忍の格好している人って大抵強くて人気なのに、村井さんって……ふっ」って鼻で笑われたぜ。
ちくしょう!!
次回「モテたいんだよ」




