桜川家会議
ブックマークしてくださった方々、本当にありがとうございます!
今回は、幕間回です。
日曜の昼、珍しくウチには姉ちゃんの桜川愛を除く家族全員が揃っていた。
あ、申し遅れたけど俺は桜川恋っす。桜川家の長男にして、村田の兄貴の弟分っす。
ウチは両親に、姉ちゃんと俺、妹三人の一家っす。一番下の妹は今5歳で、二人の妹は双子で供に小学6年生っす。
そして、母さんの一言でうちの家族全員が居間に机を囲うようにして集まったんすけど……。
「さて、第8回桜川家会議を始めましょう!」
「「「わー!」」」
母さんの宣言と供に、妹たちが小さな歓声とともに拍手をする。一番下の希ちゃんも俺の足の上でぱちぱちと一生懸命手を叩いていた。可愛い。
「それじゃ、今日の議題は『最近、うちの娘が乙女すぎる件』よ。はい! それじゃ、報告のある人からどうぞ!」
「はいはいはい!!」
真っ先に手を挙げたのは双子の姉妹の妹の福だった。
「はい! じゃあ、福!」
「はい! この間、姉ちゃんが家でノート広げてたので勉強かなって思って除いたら、弁当の中身決めてました!」
「それだけ?」
「そのとき! 姉ちゃんが『唐揚げとハンバーグって子供過ぎるかな? でも、あいつ子供っぽいところあるし……。さ、流石にご飯にハートマークとかはやりすぎ……だよね?』って言ってました!!」
「「「きゃわいいいいい!!!」」」
福の話が終わるとともに、双子姉妹の姉の幸、母さん、父さんの三人が机に手を置いて叫んだ。
俺が叫ぶと末っ子の希ちゃんが驚いてしまうため、今日は俺は叫べない。残念だ。
「流石は姉ちゃんです。特に、ご飯にハートマークというあまりにベタな考えが思い浮かび、それを一度悩むところがポイント高いですね」
「やるわね幸。中々良い目の付け所よ」
「ふむ。ところで、愛が弁当を渡そうとした相手は誰なんだ?」
「そんなの一人に決まってるでしょ。次に行きましょう」
「はい! のぞみもいいたい!」
次に手を挙げたのは何と末っ子の希ちゃんだった。
「のぞみね! むらたとかぞくになりたいの! でも、むらたはかぞくじゃないってれんくんがいってたの……。だから、あいちゃんにむらたとかぞくになりたい! っていったらね『おねえちゃん、がんばってみるね』っていってくれたの!!」
目を瞑ればその風景が容易に想像できる。希ちゃんが少し悲し気に姉ちゃんにお願いしているところ。そして、そのお願いに頬を赤く染めながらも笑顔で答える姉ちゃんの姿。
「「「尊い……」」」
先ほどとは打って変わって、希ちゃんと姉ちゃんを除く家族全員がしみじみとそう呟いた。
「……愛が結婚するのは寂しいが、村田君が相手なら俺は構わないぞ。できたら、この家で暮らして欲しいが」
父さんは涙を流していた。
その言葉に母さんも頷いていた。
兄貴はうちの家族からの評価は高い。まあ、友達付き合いが苦手な姉ちゃんが家で名前を出す男であり、見ず知らずの俺を助けてくれた人だ。おまけに姉ちゃんの失踪事件では、身体を張って姉ちゃんを連れ戻してくれた。
その恩は計り知れない。
「さて、今日も充実した会議が出来たわね」
母さんが締めにかかる。だが、まだだ。
「ちょっと待って。母さん」
「恋? どうしたの?」
家族全員が俺に視線を向ける。
「昨日、兄貴に連絡を受けた」
俺の言葉で全員の目が見開いた。現状、ウチの中で兄貴と積極的に連絡を取れるのは姉ちゃんを除けば俺だ。
そして、俺は昨日兄貴からとある相談を持ち掛けられた。
「姉ちゃんが昨日、兄貴に弁当を渡したらしい。まあ、それは以前から分かっていたことだからいいとして……。兄貴は姉ちゃんの弁当を非常に喜んで食べたみたいだ。凄く美味しかったって言ってた」
俺の言葉で全員の頬が緩む。
だが、次の俺の発現で全員が固まった。
「問題はその後。兄貴は姉ちゃんに耳元で『愛情を込めてから』みたいなことを言われたらしい」
「え……。恋。それって……」
「事実上の告白みたいなもんだよ」
「む、村田君にそれは伝わっているのかい!?」
父さんが身を乗り出して聞いてくる。
「兄貴は俺に『愛情って、家族に対してってことだよな? だって、家族の分のついでに俺の弁当も作ってくれてるんだろ?』って言ってきた」
「そ、それになんて返したんですか……!」
俺も何て送るか迷った。でも、ここで兄貴に思いが伝わらなきゃ勇気を出した姉貴の思いが無駄になっちまう。
「勿論、『兄貴に向けてに決まってんじゃないっすか! だって姉ちゃんは兄貴のことが大好きで結婚したいと思ってるんすから!』って――」
「「「送ったの!?」」」
「――送ろうとしたら姉ちゃんに見つかって、送れなかった」
俺の言葉を聞くと全員がガックシと肩を落とした。
俺も兄貴の話を聞いた時は、遂に姉ちゃんが兄貴を落とすために本気を出した! と喜んだものだが、結局姉ちゃんは俺の携帯を取って『そうだと思います』って送ってしまった。
非常に残念で仕方がない。
「はあ……。あの子は本当に誰に似たんだか……」
「姉ちゃんの行動は漫画だったら確実に負けヒロインですね」
「幸! それは言っちゃダメだって!」
中々散々な言われようだ。だが、否定は出来ない。
「まあ、でも兄貴も疑いの気持ちを持って俺にメッセージを送って来たし少しは前に進んだと思うよ」
「まあ、それはそうね」
これは心の底からそう思う。姉ちゃんは目つきの悪さとか髪色のせいで誤解されることが多い。
だから、彼氏は愚か友達も少ない。
そんな姉ちゃんが初めて恋をしたのだ。少しとはいえ前に進んだことは純粋に喜ばしいことだ。
「とりあえず、これからも愛の恋愛を応援しましょう」
「「「おー!」」」
「何……してるの?」
振り向くと、そこにはいつの間に帰ってきていた姉ちゃんの姿があった。
「いまねー! あいちゃんのれんあいをおうえんしようってはなししてたのー!!」
俺たちが誤魔化そうとするよりも早く、希ちゃんが全て言ってしまった。
「え……? それってどういうこと?」
姉ちゃんが俺たちを睨みつけてくる。
や、やばい……。特に、携帯の一件は姉ちゃんに誰にも言うなって言われてから、言ったことがばれたら殺される!
「どういうことも何も、そのままの意味よ。あんた、恋から聞いたわよ。村田君に『村田君への愛情を込めたからね♡』みたいなことを言ったくせに、それを家族への愛情に言い直したらしいじゃない。何してるのよ! そんなんじゃ村田君みたいないかにも鈍感なバカは気付かないでしょ!!」
「くっ……! 恋、あんた……」
ひっ!
に、睨まないでくれ!
「恋を責めるのは間違いでしょ! 恋はあんたの為を思ってメッセージを送ろうとしてくれたのよ!」
「わ、私にだって、色々と考えてることがあるの!」
「へ~。なら、どんなこと考えてるのよ? 言ってみなさい」
「お、お弁当渡したり、あ、後は食生活悪いみたいだから晩御飯作って渡してあげたりとか……」
自分で言ってて恥ずかしくなってきたのか、徐々に言葉尻が弱くなる姉ちゃん。
「その程度? 晩御飯を村田君の家に作りに行って、そのまま彼の家に泊まるくらい言ってみなさいよ!!」
「と、と、泊まりって……そ、そんな……」
顔を赤くしてうろたえる姉ちゃん。可愛い。
「な! 二人きりで泊まりだなんて、いくら何でも早すぎるんじゃ――「あなたは黙ってて!」……はい」
父さん……。
女ばかりの家で父さんと俺の立場は最下層だ。
父さん。強く生きてくれ。俺は父さんがいつも俺らのために頑張ってくれていることを知っているよ。
「さあ! どうなのよ!!」
「う……。わ、分かったわよ。で、でも二人きりはまだ緊張するし、村田も困るだろうから……ウチに呼ぶ」
おお……! 姉ちゃんが男を自分から家に泊めようとするなんて……。
これはかなりの進歩だ。
それに純粋に兄貴が家に来るのは俺も嬉しい。希ちゃんも嬉しいのか。俺の足の中で喜んでいる。
「約束よ。楽しみにしてるわ」
母さんが笑顔で姉ちゃんにそう言った。
恐らくだが、母さんは姉ちゃんを追い詰めればこうなることが分かっていたのだろう。
恐ろしい……。
こうして、桜川家の日常は過ぎていく。
姉ちゃんの初恋が実るその時まで、いや、実ってからもきっとこの桜川家会議は続いて行くだろう。
とりあえず、兄貴にそれとなく姉ちゃんの好意を伝えておきますか。
ブックマークをして下さる方々は神。評価してくださる方々は界王神。感想を書いてくださる方々は全王。(作者調べ)
いや、本当にいつも読んでくださる方々ありがとうございます!
次回予告!
救いを求める少女に救いの手を差し伸べる者が必ずしも正義とは限らない。だが、救われた少女はその存在を正義と思い、ヒーローだと感じるだろう。
ならば、その少女をそのヒーローたちから救おうとする存在は悪になるのか?
次回「手を差し伸べる者」




