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与えて、受け取って

遅くなり申し訳ございません!

よろしくお願いします!!

 今も尚、高笑いを続けるビッグドンは立ち上がる狂愛戦士(バーサーカー)の姿を見て目を細めた。


「……ほう。さっきとは雰囲気が違う。まるで中身が変わったようだ」


「ヴヴヴ……」


 立ち上がった狂愛戦士はビッグドンの身体に視線を向けてから、静かにビッグドンに近づいて行った。


「む、村田……?」


 アイウォンチュウが声を掛けるが、既に村田では無くなっている狂愛戦士にその言葉は届かない。


 ビッグドンの目の前まで来た狂愛戦士は足を止める。


「ヴァルアアアアアア!!!」


 一際大きな咆哮を上げた直後、狂愛戦士はその場から跳躍しビッグドンの左腕を斬り落とした。


「……っ!! おのれ!」


 ビッグドンが右腕を振る。逃げ場のない空中にいた狂愛戦士はその一撃を受け、飛んでいった。


「む、村田!!」


 アイウォンチュウが狂愛戦士に駆け寄るが、アイウォンチュウが駆け寄った時には既に狂愛戦士は立ち上がり、ビッグドンの足元に向かっていた。


「ヴヴ……ヴァアア!!」


 狂愛戦士が大剣を横に払う。危険を察知したビッグドンはその場で跳躍した。


ズン!


 巨大化しているビッグドンが地面に着地すると同時に大地が揺れる。そして、ビッグドンの視線も下に向けられていた。


 それを読んでいたかのように、跳躍していた狂愛戦士の一撃がビッグドンの首を襲う。


「グアアアアア!!」


 首を斬り落とすことはできなかったものの、初めて狂愛戦士の攻撃がビッグドンが悲鳴を上げた。


「急にどうして……?」


 純粋な動きでいえば倒される前の時と大きな変化はないように見える。だが、一撃一撃が先ほどより確実に効いていた。


「ヴヴ……ヴヴ……」


 大剣を肩に置き、ビッグドンを見据える狂愛戦士。彼の視線の先には不気味に笑うビッグドンの姿があった。


「クク……。愚かだ。実に愚かで、最低だ」


 ビッグドンの顔から笑顔が消えた。


「愛があるからお前みたいな化け物が生まれる。そして、お前みたいな化け物が愛という言葉を使って他者を苦しめる。いや、それはお前にも限らない。愛という言葉によって苦しめられるものがいるなら、愛などない方がいい」


 次の瞬間、ビッグドンの斬り落とされた左腕が狂愛戦士の身体に襲い掛かった。


「……!? ヴァルアア!!」


 直ぐに反応し、左腕を斬る狂愛戦士。だが、斬られて尚一本一本の指がしつこく狂愛戦士に襲い掛かる。


「ッ!! ヴァアアアア!!」


 大剣を振るい、指を斬り、払い続ける狂愛戦士。斬られても執拗に追い回す指たちに気を取られた狂愛戦士が横から迫るビッグドンの拳に気付いたのは当たる直前だった。


 それでも、驚異的な反応で拳を間一髪で躱す狂愛戦士。だが、この瞬間紛れもなく意識は拳だけに向いていた。


永遠の虚無(エターナルヴォイド)


 ビッグドンの口から放たれた黒球が狂愛戦士に直撃した。


 村田の意識を一撃で刈り取った黒球。だが、その一撃をオンリーユーの魔法少女への思いは上回った。


「ヴァ……ヴァアアアア!!」


 ボロボロの状態で再び立ち上がる狂愛戦士。その姿はまさに死ぬまで戦うことをやめないゾンビのようでもあった。


「お前ほどの化け物なら、そうだろうと思った」


 立ち上がった狂愛戦士の視線の先には、黒球を口元に溜めているビッグドンの姿があった。


「ヴヴ……ッ!?」


 直ぐにその場から立ち去ろうとした狂愛戦士の動きを止めたのは、切り刻まれたビッグドンの左腕の残骸だった。


「消えろ」


 ビッグドンの口から放たれた黒球は狂愛戦士を包み込んだ。


 そして、狂愛戦士は再び地に伏した。


***


「……」


 村田とオンリーユーの二人だけが存在する精神世界。そこで、オンリーユーは生気を失くしたようにその場にへたり込んでいた。


 負けるはずのないと思っていた自分の愛は、ビッグドンの強力な攻撃の前に敗北した。それは、彼の存在意義を完全否定されるものと同義だった。


「オンリーユー……」


「笑えよ。偉そうに言っておきながらこれだ。所詮、俺は魔法少女を守ることなど出来ない、ただの魔法少女オタクだったってことだ」


 オンリーユーのことを村田が笑うことなど出来るはずもない。何故ならば、彼もオンリーユーと同じく敗北者なのだから。


 負けてはいけない戦いだった。それを供に理解していた。だからこそ、村田はオンリーユーに身体を譲ったし、オンリーユーも村田に身体を譲る様に言ったのだ。


「もう、終わりだ……」


 オンリーユーが呟いた。


 「もう一度立ち上がってくれ」村田はオンリーユーにその言葉をかけることが出来なかった。同化しているからこそ、村田にもオンリーユーのことが分かるようになった。


 正真正銘、魔法少女のために捧げた一生だった。「魔法少女を守る」その誓いだけを胸に生きてきたオンリーユーだからこそ、それが出来なかった以上、こうなることは村田にも理解できてしまった。


 出来ることなら自分が戦いたい。だが、愛がない自分が戦ったところで無駄死にするだけ。


 村田の心にも諦めが出始めた時だった。


『村田さん!!』


 田中が村田を呼ぶ声が聞えたのは。


***


 田中は村田たちが戦う場所から少し離れた場所から村田の戦いを見ていた。そんな彼は、村田だと思われる狂愛戦士の目から光が消えた瞬間に走り出していた。


 田中がその場に到着した時には、狂愛戦士は地面に横たわり動かなくなっていた。


 直ぐに狂愛戦士に駆け寄った田中は必死で村田の名前を呼んだ。


「村田さん!! 村田さん!! しっかりしてください! あなたが守らなかったら誰がこの街を守るんですか!」


 大声で、全力で呼びかける。その田中の声に、今まで街の影から戦いを見届けていた街の人々が出てきた。


「立てよ! シャイニング村田!! いつもみたいに、俺たちの希望の光になってくれよ!!」


 シャイニング村田。その言葉に街の人の沈んだ顔が少しだけ、明るくなった。


「そうだ……。あいつがいる」

「ふざけた格好した、この街のヒーローがいる」

「そうだよ。まだ、あいつが来てねえよ」

「いるなら助けてよ! シャイニング村田!!」


 街の人たちから徐々に声が上がる。彼らは知っている。いつだって、どんな時だって自分たちを助けて来てくれたヒーローの存在を。

 どんな強敵も倒してきた心強いヒーローの存在を。


 少しダサくて、人気が無い。でも、最高のヒーローの存在を。


 その光景に田中は涙を流していた。あの村田が、皆から期待されている。皆に求められている。村田が求めた光景がそこに広がっていた。


「……聞こえてるなら早く来てくださいよ。これじゃ、足りないんですよ。あなたがいなきゃ! シャイニング村田がここにいなかったら意味ないんですよ!!」


***


 田中と街の人の声は村田に届いていた。その声に村田は自然と涙をこぼしてしまっていた。


「オンリーユー。僕に戦わせてほしい」


「は? お前には愛が無いから無駄だって言っただろ」


 オンリーユーの言葉に村田は静かに首を横に振った。


「与えるだけが愛なら、僕に愛はないんだと思う。でも、愛って受け取るものでもあるでしょ」


 そう言った村田の視線は田中の声がする方に向いていた。

 村田の言葉にオンリーユーは目を少し開いてから、納得したように頷いた。


「そうか……。お前はちゃんと愛を受け取ってたんだな」


 そう言うとオンリーユーは村田に近づき、村田の首輪を取った。


「行けよ。お前を待ってるやつがいる」


「うん。でも、僕だけじゃダメだ」


 村田の言葉にオンリーユーが顔を上げる。


「与えるだけでも、受け取るだけでもダメなんだ。愛は、与える、受け取る、その二つが揃わなきゃダメなんだ。一方通行の愛はいつか壊れちゃう。だから、オンリーユー。君が僕には必要だ」


 そう言うと村田はオンリーユーに向けて手を差し出した。


「……俺は魔法少女のためなら何だって捨てるような、愛に狂ったやつだぞ」


「うん。それでいいんだ。僕には、それがないから」


「お前の身体を奪おうとしたやつだぞ」


「分かってる。でも、それは魔法少女のための行動でもあるでしょ? なら、この状況で君ほど頼もしいやつはいないよ」


「……馬鹿だな」


「皆を守れるなら、馬鹿でいいさ」


 村田の言葉にオンリーユーはフッと笑った後、村田の手を取った。


「身体はもう限界に来てる。動ける時間は限られてるぜ」


「分かってる。僕らは魔法少女を救うために剣を振るえばいい。そうすれば――」


 後は彼女たちが決着を付けてくれる。


 村田もオンリーユーもようやく気付いた。この戦いの主役は自分たちじゃない。自分たちの半端者がビッグドンを倒すことは出来ない、と。


 だからこそ、自分たちの仕事は舞台を整えること。


(それと、まあ、これは僕の仕事だけど……)


 街の人々の声に応えること。


「行くぞ、村田」

「うん」


 隣り合って歩いて行く。その目にもう絶望の色は映っていなかった。


***


 田中の叫びが空に響いた少し後、街の人の声を聞いたビッグドンは心底不愉快そうに鼻を鳴らした。


「ふん。……くだらない。この期に及んでもまだ助けを求めるか。シャイニング村田? そんなお前らを助けてくれる存在がいるなら、何故まだ姿を現さない? そいつはもう逃げたんじゃないのか?」


「シャ、シャイニング村田が逃げたりするもんか! お、お前なんかシャイニング村田がいればボコボコにされちゃうんだ!」


 一人の子供がビッグドンに言い返した。


「なら、試してみるとしよう。お前の命でな!」


 ビッグドンの拳が子供に迫る。子供は恐怖に目を瞑っており避けることは不可能だった。


「た、助けてえええええ!!」


 子供の悲鳴が響き渡る。その瞬間、田中の傍にあった狂愛戦士が姿を消した。


 そして、ビッグドンの拳が何かに衝突し、辺りに土煙が舞い上がった。


 土煙が徐々に晴れていく。それと供に、ビッグドンの顔が歪み、人々の顔が明るくなっていった。


「待たせたな」


 子供の前にはビッグドンの拳を大剣で受け止める男の姿があった。


「あ、ああ……あなたは!」


 涙で顔がぐしゃぐしゃになっている田中の声が響き渡る。そして、その声に応えるように男は名乗りを上げる。


「俺の名前は狂愛戦士(バーサーカー)じゃない。俺は、愛と光の戦士――シャイニング村田だ!!」


 街の人たちから歓声が上がる。


 村田は、いつも通りの全身タイツにマント、フルフェイスマスクを身に纏っていた。そして、その手には白く輝く大剣があった。

次回予告

 ラブワールド、魔法少女、村田、ビッグドン、オンリーユー、それぞれの思いが折り重なり、生まれた戦いは遂に終わりを迎える。


次回「決着」

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