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村田VS田中VSダークライ

ブックマークして下さった方々、本当にありがとうございます!


 月曜の朝、村田は高校に登校していた。


 昨日は中々に濃い一日だった。必殺技の件は残念だが、また別の方法を考えよう。それより、桜川の弁当楽しみだな。


 村田がそんなことを思いながら歩いていると、高校の校門の前にやけに焦った表情の恋の姿を見つけた。


 村田が恋に気付くのとほぼ同じタイミングで恋も村田に気付いたようだった。


「あ、兄貴!!」


 必死の形相で駆け寄ってきた恋は村田の腕を掴んで、村田に詰め寄る。


「姉ちゃんが……! 姉ちゃんが家に帰って来てねえんだ! 兄貴、何か知らないか!?」


 

「か、帰って来てないって……いつからだ?」


「昨日の昼頃に姉ちゃんは家を出たんだ。……それから帰って来てない」


 恋の言葉に村田の腕が力なく下がる。


(夕方までは一緒だった。てことは、桜川が行方不明になったのは僕の家からの帰り道だ……! 何で……! 僕は桜川を家まで見送らなかった!!)


「あ、兄貴! その様子だと何か知ってんのか?」


「昨日の夕方、僕は桜川と一緒にいた……。それで、桜川は帰宅して、そこからは一緒じゃない」


 村田の言葉に恋の顔がどんどん青ざめていく。恋にとって、村田は数少ない姉である愛の行方を知るための手がかりだった。


「警察には?」


「連絡しました……」


「分かった。僕も手伝う。とりあえず、恋は家に帰れ」


 村田は恋の目を見てそう言った。


「こんなときに家で大人しくしてられるかよ!」


 恋の言葉に村田は首を振る。


「桜川を狙った人物の狙いが桜川家なら、恋も危ない。恋の兄弟もだ。それに、その目。隈だらけだろ? とりあえずしっかり寝るんだ」


「で、でも……」


「必ず桜川は助け出す! 僕を、警察を、この街のヒーローを信じてくれ」


 渋る恋に村田は強く、決意を込めた目を向けてそう言った。


「分かったよ。兄貴、ごめん。頼む」


 頭を下げた恋の言葉に頷いてから、村田は恋を家まで送ってから自身の事務所に向かった。


***


「ネ、ネズミが喋ったああああ!?」


 事務所の近くまで来た村田の耳に届いたのは田中の叫び声であった。その声にまさかと思い村田が駆けつける。


「田中さん! どうしたんですか!」


「む、村田さん……。ネ、ネズ、ネズミが……」


 田中が指さす先には村田の事務所のドアに寄りかかる様に座るアイウォンチュウの姿があった。


「む、村田。愛を……この世界を救ってくれ……」


 やけにボロボロな姿のアイウォンチュウはそう言い残すと、静かに目を閉じた。


「お、おい! アイウォンチュウ! アイウォンチュウウウウウ!!」


「し、死んでないから……」


「良かった!」


「む、村田さんがネズミと喋っている? どうなっているんだ?」


 混沌とした状況を一先ず整理するため、村田たちは事務所に入ることにした。


「あの、粗茶ですが」


 田中はアイウォンチュウの前にお茶を置くと、村田の隣に腰かけた。


「それで、村田さん。この方は?」


 田中の質問に対して村田はこれまでの経緯を簡単に説明した。


「大体、事情は分かりました。それで、愛という女の子は今どこにいるんですか?」


「僕もそれが気になってたんだ。愛は魔法少女だし、怪人相手でも簡単にはやられないと思うんだけど……。アイウォンチュウ、何か知ってるんだよな?」


 村田の言葉にアイウォンチュウは苦い顔をしながら、愛を連れ去った犯人の名を口にした。


「愛はビッグドン・ディスラーブに連れてかれたでチュ」


「聞いたことない名前だな。田中さんは聞いたことある?」


 村田の言葉に田中は首を横に振った。


「ごめん。僕らはそのビッグドンって言う存在を知らないんだけど、どんなやつなんだ?」


「それを話すためには時間が必要でチュが、いいでチュか?」


「ダメだ。直ぐにでも桜川を助けに行きたい。長くても3分でまとめてくれ」


 アイウォンチュウと田中は「まじかこいつ」という目で村田を見ていた。それもそうだ。敵の情報を知っておくことは大事なのだから。


 だが、村田の言うことも間違ってはいない。アイウォンチュウはビッグドンが誕生してからのラブワールドのおよそ100年に渡る歴史を一分で伝えることに挑戦した。


「ビッグドンはおいらたちの世界を破壊するために、人々の愛を奪おうとする悪い奴でチュ。そいつを倒すためには魔法少女の協力が不可欠でチュ。でも、ビッグドンもそれを知っているから、今回あいつは魔法少女が変身する前を狙って襲い掛かってきたでチュ」


 意外と話せたことにアイウォンチュウは驚いた。一瞬、自分たちの歴史が薄っぺらいものに錯覚するほどだった。


「なるほど……。桜川は無事なのか?」


「命に別状はないはずでチュ。でも、ビッグドンの体内に取り込まれているから、このままじゃ愛の中にある愛情が失われちゃうでチュ」


 アイウォンチュウの言葉からしても急いだほうがいいということは間違いなかった。


「なら、早くそいつを倒そう。アイウォンチュウ行くよ」


 村田はソファから立ち上がると、アイウォンチュウを手に乗せて出口に向かう。


 だが、田中がその村田の腕を掴んだ。


「ちょっと待ってください。そのビッグドンを倒すためには魔法少女の存在が必要なんですよね? なら、村田さんだけが行っても無駄なんじゃないんですか? それに、村田さんが仮にさっきおっしゃっていた愛狂戦士に変身してビッグドンを倒すことが出来たとしても、村田さんの人格は大丈夫なんですか?」


「そんなこと気にしなくて大丈夫です」


 田中に目を合わせようともしない村田を見て、田中は村田の胸倉を掴んだ。


「そんなことじゃないですよ! あんたの人格が懸かってんだぞ! あんたの意志も思いも! 無くなるかもしれないんだぞ!! あんたが良くても私はそれじゃ良くないんだよ!」


 その様子を見ていたアイウォンチュウは何も言えずに俯いていた。


 村田は田中の目を見てから、田中の腕を振り払った。


「ごめんなさい。田中さん。それでも、僕は行きます」


「……そう、ですよね。あなたは……そういう人だ」


 田中は俯いてそう言った。


 村田は田中に背を向け事務所のドアに手をかける。その村田の背に田中が声を掛けた。


「約束してください。必ず、ここでまたヒーローをすると。私は、待ってます。ずっと――」


 村田はその言葉に返事を返すことなく、事務所から出て行った。


***


 走る村田に向け、アイウォンチュウは「良かったのか」と聞こうとして、やめた。


 自分たちの世界の事情に村田を巻き込んだ。それは間違いなく自分だ。それに、自分たちがもっとビッグドンの動きを警戒していれば十分この状況は回避可能だったはず。

 それでも、自分たちを責めることなく自らの存在を懸けて戦う選択肢を取ってくれた。


 ならば、アイウォンチュウがここで村田に言える言葉は一つだけだった。


「村田、ありがとう」


「いいよ。僕は、ヒーローだから」


 村田がそう呟いた直後、少し離れた先で二階建ての家より少し背丈のある化け物の姿が見えた。


『ククク……。魔法少女三人。魔法少女に強い適性を持つ存在7人。ようやく、この街にいる忌々しい存在を取り込み終わった。さあ、愛の無い理想の世界を作ろう』


 化け物がそう言うと、空が深い紫色に染まっていく。それと同時に、街中にいる人々の表情から徐々に笑顔が消えていった。


『クハハハハハ! 長かった……。だが、これで終わりだ! これで、俺の復讐は完遂する』


 笑い声をあげる化け物の腹にはたくさんの少女の姿があった。その中には当然、桜川愛の姿も……。


「そ、そんな……。ビッグドン・ディスラーブがあんなに大きくなるなんて……」


 震えるアイウォンチュウの隣で村田が前に一歩踏み出した。


「む、村田?」


「アイウォンチュウ。行くよ」


 その目に絶望は一切映っていなかった。あるのは、この世界に光を差し込もうとする男の覚悟だけだった。


「頼むでチュ!!」


 アイウォンチュウの言葉に村田が瞳を閉じ、手を前に突き出す。


「堕ちて、堕ちて、堕ち続けて、それでも手放せないもの1つ。落として、削って、捨てて、そこまでして追い求めたもの1つ。全てを救えなくていい。主人公になれなくていい。それでも、君を……君たちだけでも救うと、そう誓った!!」


 村田の身体を黒い靄が包み込む。


「変身!!」


 その直後、化け物の目の前に漆黒の甲冑を身に纏った男が現れる。


『な……!?』


「ヴァアアアアアア!!」


 狂愛戦士(バーサーカー)が放った一撃が、化け物の身体に直撃した。

シリアスの足音が聞こえてくるよ~。


次回予告

 何故助ける?  それは愛か?  それで桜川を、皆を救えるなら……。


次回「シリアス~村田の本質を添えて~」

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