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ブックマークをしてくださった方々、本当にありがとうございます!

これからも投稿を続けていく予定なので、よろしくお願いします。

 一先ず村田の家に向かうことになった一行であったが、問題が一つあった。


「その、ラブリーピンクさんは格好が目立つので変身を解いていただきたいんですけど……」


「うっ……。そ、それは出来たら断らせていただきたいんですけど……。ってあれ? 村田さん、口調が戻ってる?」


「あ、本当ですね」


 言われてから村田も気付いたようだが、村田の口調はいつも通りのものに戻っていた。


「その口調に関しても、村田の家で話すでチュ。だから、とりあえずラブリーピンクは早いところ変身を解くでチュ」


「う……。で、でも……」


 冷や汗をかきながら変身を解くのを渋るラブリーピンク。彼女自身変身を解いた方がいいことは理解しているが、自身の正体を村田に出来るなら知られたくはなかった。


「でも、人通りが多いところも通りますし……」


「そうでチュ。それに、変身中もラブパワーを消費しているんでチュから無駄遣いは勿体ないでチュ」


 意外にもアイウォンチュウは村田の意見に同意していた。


「うう……。で、でも……」


 それでも尚渋るラブリーピンクに村田は優しく声を掛ける。


「僕はラブリーピンクさんが誰であろうと驚きませんし、受け入れます。それがたとえ、中年男性だったとしてもです」


「中年男性じゃないです!」


 顔を赤くしてラブリーピンクは否定した。少し迷ってから、ラブリーピンクはため息を一つ吐いた。


「分かりました……。私だけ村田さんの秘密を知っていると言うのもズルい気がしますから」


「本当にいいんですか?」


 村田の問いかけに頷くラブリーピンク。彼女の覚悟は決まっているようだった。


「それじゃ、変身を解くので村田さんは少しだけ後ろを向いていてください」


「分かりました」


 村田が後ろを向いて暫くすると、アイウォンチュウから声が掛けられた。その声に村田が振り返ると、そこには桜川愛の姿があった。


「あれ? 桜川? 何でこんなところに……ってまさか!?」


「そのまさかよ」


 愛は恥ずかしそうにそっぽを向いた。逆に、村田は口を大きく開けて呆然としていた。


「……何よその顔」


「いや、だって……。性格変わりすぎじゃない?」


 少なくとも村田が知る桜川愛は村田に敬語なんて絶対に使わない。


「そ、それはあれよ。ステッキの効果よ」


「ああ。何か使用者を理想の魔法少女の姿にするって言ってたな」


 村田の言葉にアイウォンチュウが頷く。


「そうでチュ! ステッキの効果で愛は愛が思い描く理想の姿に変身できるでチュ!!」


「な……!」


 アイウォンチュウの言葉に愛は顔を真っ赤にしていた。アイウォンチュウの言葉を聞いて、村田は納得したかのように頷いた。


「なるほど。確かに、桜川って可愛いもの好きだもんね。幼い妹のためにって言いながらも日曜朝の魔法少女系のアニメも毎週楽しみにしてるんだってね」


「な、何でそのことを……?」


「いや、恋が教えてくれた。あっ……」


「へ、へえ。あの馬鹿がそんなこと言ってたんだぁ」


 村田の前には怒りに震える鬼神がいた。その姿に村田は心の中で恋に合掌するのであった。


「愛! 指摘されたことで怒るのはそれが本当のことだからってこの間テレビで言ってたでチュ――ヂュウウウ!!!」


 ニヤニヤした顔で愛に近づいて行ったアイウォンチュウは強烈な一撃を食らい、地に力なく落ちた。


 アイウォンチュウを吹っ飛ばした愛は、キッと俺を睨みつける。


「私は花に一緒に見ようって誘われるから見てるだけだから」


「は、はい」


 花ちゃんとは愛の妹のことだ。その愛の目を見て、村田は苦笑いを浮かべながら返事を返した。


 そして、ようやく二人と一匹は村田の家に向かった。


***


 村田の家はボロボロのアパートの一室だった。


「ちょっと待ってて。今お茶を用意するから」


 村田は愛とアイウォンチュウを居間に案内した後、すぐ隣の台所に向かった。

 その隙に愛は村田の部屋を見回す。そこは年頃の高校生がクラスにはあまりに何もない部屋だった。


 テレビも本棚もない。あるのは布団くらいだった。


「お待たせ」


 そう言うと村田はお茶を愛とアイウォンチュウの前に置いた。


「村田の家ってあまりもの置いてないんだ」


「うん。もうバレちゃってるから言うけど、普段はヒーロー活動が忙しくて寝るときくらいしかここにいないからさ」


「ふーん。いつもあんなのばっか食べてんの?」


 愛が指さした先にはカップ麺が転がっていた。


「いや、たまにはコンビニ弁当とか牛丼とかも食べるよ。野菜ジュースも飲んでるし」


 村田の言葉に愛は手を頭に置いて、ため息を吐いた。


「あんた。もっと自分の身体大事にしなよ」


「でも、料理する時間とかあんまりないしなぁ」


「なら、せめて昼ご飯くらいは私が弁当作ろうか? 今更、家族分に一人増えるくらい何とかなるし。まあ、食費は貰うけど」


 愛の言葉に村田は目を輝かせて身を乗り出す。


「本当? じゃあ、お願いしようかな。桜川のお弁当は前に食べさせてもらった時美味しかったから楽しみだよ」


「なら、明日から用意してくるよ」


 村田の言葉に微笑みながら愛はそう言った。その様相はさながら付き合いたてのカップル。微笑ましい会話である。


「ゴホン!!」


 ホワホワした空気の中、アイウォンチュウせき込み村田と愛を睨みつける。


「そろそろ本題に入っていいでチュか?」


「あ、うん。ごめん。それで、狂愛戦士(バーサーカー)のことだっけ」


 アイウォンチュウは村田の言葉に頷いた。


「それ。さっきの村田のおかしな口調は何? 今は収まっているみたいだけど」


「少しだけ話は長くなるでチュが、こうなった以上しっかりと話させてもらうでチュ」


 お茶を少し飲んだ後、アイウォンチュウは『狂愛戦士』の秘密を話し始めた。


「全ての始まりは以前にも言ったように一匹の妖精からでチュ。その妖精が文字通り自らの命を懸けて作った大剣が、村田が今村田が保有している『狂愛戦士』に変身するためのアイテムでチュ。その威力はさっき見てもらった通り、強大なもので恐らく歴代の魔法少女たちを遥かに超える力があるでチュ。

 そんなアイテムでチュから、初めは直ぐに運用すべきだとなったでチュ。でも、この大剣には多くの問題点があったでチュ。

 一つ目は使用者の理性を失わせるということでチュ。これは、見てもらった通りでチュね。

 二つ目は使用中に限り、使用者は愛をその身に受けることが無くなるということでチュ。これは、大剣を生み出した使用者が魔法少女を守れるだけの圧倒的な力を求めた結果、代償として生まれた問題点でチュ。

 この二つに関してはまだ問題が無かったでチュ。一番の問題は三つ目。それは――」


 そこで一度、アイウォンチュウは言葉を切り、お茶を飲んだ。そして、再び口を開く。


「――使用者の精神が大剣を使った妖精に侵食されていく、ということでチュ」


「浸食される?」


「そうでチュ。大剣は他のアイテムと違い、一匹の妖精の命が宿っているでチュ。故に、大剣の中にはその妖精の意志がまだ残っていたんでチュ。そして、その妖精にはただ一つ大きな未練があった。それこそが……魔法少女とイチャイチャすることでチュ。それを達成したいという願いが、やがて呪いとなり使用者を蝕むようになったでチュ」


 そう言ったアイウォンチュウは遠い目をしていた。


「も、もしも……あの大剣を使い続けたらどうなるんだ?」


「使用者の心は浸食され、自我を失うことになるでチュ」


 淡々とアイウォンチュウはそう言った。


「アイウォンチュウ。あんた、いくら村田が希望したからって村田にそんなもの使わせたの?」


 愛は鋭い目つきでアイウォンチュウを睨みつけていた。その声からは怒気が感じられた。


「……本来なら、浸食が始まるのは早くても狂愛戦士に変身している時間がトータルで10時間を超えてからでチュ。でも、村田は変身している時間が30分にも満たないのに浸食が始まっていたでチュ。これは明らかに異常。おいらも計算外だったでチュ」


 アイウォンチュウは悔しそうに唇を噛み締めてそう言った。


「村田、ちゃんと変身前に説明するべきだったでチュ。本当に、済まなかった」


 アイウォンチュウは机の上で土下座をしていた。その土下座を見て、村田はゆっくりと口を開いた。


「顔を上げてください。お願いしたのは僕です。それに、もう変身しなければ問題はないんですよね?」


「そ、そうでチュ」


「なら、この話はここで終わりです」


 時計を見れば、もうすぐ日が沈む時間だった。今日はここで解散ということになった。

 村田が持つ大剣に関しては、アイウォンチュウ曰く村田の身体と同化しているという話らしいので、後日同化を解除するために必要なものをアイウォンチュウがラブワールドから持ってきて、その時に回収するということになった。


「それじゃ、また」


「うん。また明日」


「バイバイでチュ」


***


 村田の家を出た愛とアイウォンチュウはゆっくりと道を歩いていた。


「狂愛戦士のことは村田的には残念って気持ちもあるかもね」


 帰り際に愛が唐突に口を開いた。


「どうしてでチュ?」


「あの状態で放った技。結構、派手だったから。まあ、街の人から好かれないなら意味はないか」


「そう……でチュね。まあ、村田には申し訳なかったでチュけど、早めに気付けてよかったでチュ。愛。申し訳ないでチュが明日のお弁当で村田を励まして欲しいでチュ」


「ん。任せて」


 日が暮れて、辺りはかなり暗くなってきている。


(早く帰ろう)


 愛が歩くペースを少し早くしたその瞬間だった。


「感じる。感じるぞ。お前から不愉快なラブパワーをな」


「愛!!」


 愛がステッキを持ち変身するより先に、愛の背後に現れた化け物の身体からでるモヤの様なものが愛を覆いつくした。


 残されたアイウォンチュウは咄嗟にその場から逃げ出した。


「ああ……。不味い。不味すぎる……。こんな不味い奴が減るように、早く世界から愛なんてものを消さないとなぁ」


 化け物はずるずるとその場を動いて行く。その腹の中には数人の少女の姿があった。そして、その中に桜川愛の姿もあった。

次回予告

 ときのほうこう、あくうせつだん、ダークホール。


次回「村田VS田中VSダークライ」

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