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魔法少年

よろしくお願いします!

 日曜の昼にも関わらず、村田はシャイニング村田ヒーロー事務所で慌ただしく事務所内の清掃に取り組んでいた。


 その理由は一つ。今日、ここに魔法少女ラブリーピンクが来るからだ。日曜のため今日は田中は休みである。

 そのため、村田は一人で魔法少女をおもてなしする必要があった。


 今後の師匠になる予定の方とはいえ、相手は魔法少女だ。女を家に呼んだことなどあるはずもない村田はめちゃくちゃに緊張していた。


「よ、よし! とりあえずタピオカミルクティーも準備したし、マカロンも準備した。掃除も完璧だし、これで大丈夫なはずだ」


 微妙にブームが過ぎ去ったものを選んでいる気がするが、村田はそんなことに気付かない。これまで、そう言ったことに興味を持たず、ヒーロー活動に精を出し続けた彼が流行の最先端を知るはずもなかった。


 準備が終わった後もソワソワしながら魔法少女が来るのを待つ村田。その姿は、さながら初めて女の子を家に呼んだ思春期の男子のようだった。


ピンポーン


 村田が昼ご飯を食べ終え、歯磨きを終わらせた頃にインターホンが鳴った。


「は、はい! 直ぐに行きます!」


 ドキドキしながら村田は事務所の扉を開けた。すると、そこには確かに魔法少女の姿があった。


「お、お邪魔します」


「あ、ど、どうぞ……」


 目の前にいる少女が村田と仲のいい桜川愛だということに一切気付くことなく、ラブリーピンクを事務所の中に入れる村田。

 彼はめちゃくちゃ緊張していた。


「直ぐお茶を持ってくるのでソファに座って待っていてください!」


 そう言うと、村田はキッチンでタピオカミルクティーとマカロンを準備する。そして、それを持ってラブリーピンクの下に向かった。


「あ、これ。良かったらどうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 気まずい空気が流れる。冷静に考えれば、村田はラブリーピンクの前では痴態しかさらしていない。

 しかも、まともに会話するのは今日が初めてだった。


「すっー。て、天気いいですね~」


「あ、はい。天気……そうですね」


「好きな湿度とかってあります?」


「湿度!? あ、そうですね。じめじめしたのはあんまり好きじゃないですね」


「あ、そうなんですね~」


 地獄。見るに堪えない光景がそこには広がっていた。ラブリーピンクも苦笑いを浮かべている。


(も、もっと小粋なトークで場を盛り上げないと! でも、小粋なトークって何だ? てか、ラブリーピンクさんは僕の小粋なトークを面白いって思ってくれるのか? でも、黙ってても詰まんないし……。でも、喋ったら自爆するかもしれないし……!!)


 葛藤する村田の様子を見て、ラブリーピンクは村田に見えないようにため息を一つついてから、口を開いた。


「村田さん」


「は、はい!」


「それで、昨日話していた私の弟子にという話はどういうことですか?」


 ラブリーピンクから救いの手が差し伸べられる。話のきり口が開かれたことに歓喜しながら村田も話し始めた。


「そのままです。恥ずかしながら、僕は人気が無いヒーローでして……。なので、派手な必殺技を覚えて人気ヒーローになりたいんです! だから、僕に派手な必殺技を教えて欲しいんです!!」


「ごめんなさい」


 余りにも早い返答に村田は口を開けたまま放心していた。


「ど、ど、どうして……ですか?」


「私の力は魔法少女特有の力だから、村田さんの必殺技の参考にはなれないと思います」


「そ、そんな……!?」


 衝撃の事実に震える村田。そんな時、ラブリーピンクの横から一匹の奇妙な生き物が姿を現した。


「そんなことないでチュ!!」


「ちょ! アイウォンチュウ!?」


 羽が付いたネズミのような生き物は村田の前に降り立ち、村田に向けて手を伸ばした。


「派手な必殺技が使いたいんでチュよね? まだ諦めるのは早すぎるんじゃないでチュか?」


「で、でも……! 僕は男だし、魔法少女特有の力なんて……」


 悔しそうに両手を握りしめて、俯く村田。彼の方は少し震えているように感じられた。


「諦めたら、そこで試合終了でチュよ」


 アイウォンチュウはバスケ漫画にはまっていた。


「派手な技が……撃ちたいです……」


 アイウォンチュウの言葉に、村田は途切れ途切れながらもはっきりと自分の本音を言葉にした。


「なら、おいらと契約して魔法少年になるでチュ!」


「「魔法少年?」」


 ラブリーピンクと村田の言葉が重なった。その単語は村田にとってもラブリーピンクにとっても初めて聞く単語だった。


「そうでチュ。最近になっておいらたちの世界の研究で、人間は女性よりも男性の方が素の身体能力が高いということが分かったでチュ。だからこそ、女子ではなく男子をおいらたちのパートナーにしようという計画が推し進められているでチュ」


「な、なるほど。ということはもしかして僕が……」


 村田の言葉にアイウォンチュウは強く頷いた。


「そうでチュ。もちろん、適性があるかどうかにもよるでチュが、物理攻撃で怪人を圧倒していた君ならきっと最強の戦士になれるでチュ!!」


「ぼ、僕が最強の戦士に……?」


 多くの男子が憧れる最強の座。そこに座れると言われ、村田の心は静かに高揚していた。


「ちょっと待ってください! 村田さんはそれでいいんですか? こういう話はきちんと説明を聞いた方がいいですよ?」


 そのまま返事をしそうな村田にラブリーピンクがストップをかける。そのおかげで村田は冷静さを取り戻すことが出来た。


「た、確かに……。魔法少年というのになるとして、何かデメリットとかはありますか?」


「殆どないでチュ。強いて言えば、ラブリーピンクたちと同様にラブパワーを狙う怪人たちを倒してもらわないといけないということでチュね」


「ラブパワー?」


 アイウォンチュウの言葉に村田は首を傾げた。


「そうでチュ。それこそが、魔法少女たちの力の源にして、おいらたちの世界が成立するために欠かせないものでチュ。名前の通り、愛の力だと思ってくれればいいでチュ」


 アイウォンチュウの言葉に村田は若干、顔をしかめた。


「どうしたでチュか?」


「そのラブパワーというのは、恋愛的な意味の愛なんですかね?そうだとしたら、今のところ僕に恋人はいないし、好きな人とかもいないんですが……」


「なら、ラブリーピンクと付き合えばいいで――ブヘァ!!」


 ラブリーピンクが持つステッキで殴られたアイウォンチュウが地面でぴくぴくと痙攣する。


(恐ろしく早い一撃……。ただものじゃない)


 その一撃に村田は目を張った。彼が見てきた数多くの怪人やヒーローたちの中でもさっきの一撃は素早く無駄のないものだった。


「ごほん……。別に、ラブパワーは恋愛以外の愛でも大丈夫ですよ。家族愛とか、友愛とか……人によって様々です」


「そ、そうなんだ。じゃあ、世界平和を愛しているとかでも大丈夫?」


「大丈夫だと思いますよ。ただ、対象が不明瞭なものへの愛は不安定になりやすかったり、強い愛じゃなくなることが多いのでラブパワーも少ないことが多いんですよ」


「そっか……」


 ラブリーピンクの言葉から村田は自身にはラブパワーへの適性は殆どないであろうことを察した。それでも、彼は派手な必殺技を諦めることは出来なかった。


「でも、僕でいいなら魔法少年やってみたいと思います」


「チュ!? 本当にいいでチュか!?」


 村田の言葉に床に横たわっていたアイウォンチュウが身体を起こす。


「はい。ここで、僕も一皮むけたいので」


「な、ならこの契約書にサインをお願いするでチュ!!」


 アイウォンチュウが取り出した契約書にサインする村田。かくして、世界初の魔法少年が生まれることになったのであった。

次回予告!

 魔法少年になることを決めた村田。果たして魔法少年の実態とは! そして、村田の変身姿はどうなるのか!?


次回「狂愛戦士」

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