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僕と恋とプレゼント

今回はコメディに相応しい話が書けた気がします!

 よく晴れた土曜の昼。


 村田は駅前の時計台の前に向かっていた。


「お待たせ。少し遅れちゃったかな?」


 小走りで向かった時計台には、既に待ち合わせしていた愛の姿があった。


「まだ5分前だから大丈夫」」


 愛の言葉に安堵の表情を浮かべた村田は、改めて愛を見た。パンツスタイルにジャケットを羽織った愛の姿は、愛自身のスタイルの良さも相まって似合っていた。


「その服、格好いいね」


「そ。ありがと。じゃあ、行こ」


 愛はそう言うと、目的地である大型のスポーツ店に向かって歩き出す。


「了解」


 村田も愛に続いて歩き出すのだった。



 村田と愛がやって来たのは大型のスポーツ店であった。愛の弟である恋はサッカー部に所属している。

 故に、何かサッカーに関するものをプレゼントするのがいいだろうという考えの下、二人はこの店を選択したのだった。


「ん~。やっぱり、サッカーだったらミサンガとかかな?」


「ミサンガはやめた方がいいかも。ウチの妹とか弟が、恋のために作ったやつがあるから」


「そっか……。なら、何がいいんだろう」


「そういえば、この間ボールが欲しいって言ってたかも……」


 愛の言葉を聞いた村田はサッカーボール売り場へ向かった。


「うわ。サッカーボールって意外とするんだね」


 そこにあったサッカーボールは安いものでも5千円はするようなものばかりだった。


「ちょ、ちょっとこれは悪いよ。別のにしよ」


 愛はそう言ってそこから離れようとしたが、村田はボールを見て買うものを決めたようだった。


「いや、これにするよ」


 そう言って、村田が手に取ったのは一万円近くするサッカーボールだった。


「そ、そんなのいくら何でも高すぎるでしょ。逆に申し訳なくなるからやめて欲しいんだけど……」


「いいよ。実は僕もアルバイトしててね、貯金もしてるから大丈夫。それに、僕も恋には頑張って欲しいんだ。出来れば、これからもサッカーを続けて欲しいと思ってるしね。これは、その応援の一環みたいなもの」


「で、でも……」


「なら、桜川がそのお礼にこの後僕に付き合ってよ」


 村田が自分の意見を曲げないということを悟った愛はここは折れることにした。


「分かった。でも、今度家族でもお礼したいから家に来てよ」


「それくらいならお安い御用だ」


 互いに笑顔を浮かべた後、二人は会計をして店を出た。


 後にこの現場に居合わせたサッカー強豪校のサッカー部に所属する少年Y君(彼女いない歴=年齢)はこう語る。


「我々、スポーツに青春を捧げたものたちのオアシスたるスポーツ店でまるで夫婦の如き雰囲気を出されてはたまったものではない。非常に羨ましい。さっさと結婚して、今度は子供を連れて来い。子連れなら我々もまだ温かい目で見れる。これ以上、青春を捨てた我々を苦しめるようなことをするな」


 このY君はこの日の悔しさからより一層サッカーの練習に精を出すようになる。そして、後に日の丸を背負って活躍する選手になるのだが、それはまた別の話。


***


 スポーツ店を出た村田と愛の二人は、村田の提案により落ち着いた雰囲気のカフェに来ていた。


 休日ではあったが、意外にも店内の客の数は少なかった。


「それで、こんなカフェに付き合って欲しいってどういうこと?」


 注文したカフェオレがテーブルに届けられた後に、愛は村田に問いかけた。


「桜川って、シャイニング村田に会ったことあるんだよね?」


「そうだけど」


「シャイニング村田って何で人気ないんだと思う?」


「はあ?」


 愛は村田の言葉に首を傾げた。何故、他人であるはずの村田がシャイニング村田の人気を気にする必要があるのだろうか。


(あー。やっぱりこいつがシャイニング村田なのかも……。かまかけてみるか)


「ふーん。人気欲しいんだ」


「まあ、そうだね」


(そうだね。って完全に主観入ってるじゃん)


「臭そうって噂聞いたことあるし、臭いのが悪いんじゃない?」


「臭くないよ!」


 村田の反応から愛は村田がシャイニング村田であることを確信した。だが、村田が隠したがっているということを察し、そのことには触れないことにしたのだった。


(まあ、こいつには借りもあるし、シャイニング村田ならその件も含めて大きな借りがあるからね。悩み相談に真剣に答えよう)


 僅かな間、真剣に考えた後、愛はシャイニング村田と他のヒーローたちの大きな違いに気付いた。


「私もヒーローに詳しいわけじゃないけど、強いて言うなら怪人の倒し方かな」


「倒し方?」


「他のヒーローたちって武器を使うことが多いイメージだけど、シャイニング村田は拳でしょ。しかも、メリケンサック装備の。正直、子供たちには見せられないんだよね。シャイニング村田に倒された怪人っていつも生々しい打撲痕あるし」


 それは以前から村田も考えていることの一つだった。だが、彼には他のヒーローたちの様な武器を用意してくれる伝手などない。

 おまけに武器の扱い方も詳しくない。故に、ヒーロー活動を始めた初期に彼が選んだ戦いの選択肢が拳だったのだ。


「でも、拳をやめるっていってもこれまで積み上げたものがあるし……」


「戦い方は拳でもいいと思うんだけど、他のヒーローみたいに必殺技とか派手な技で倒すともっと人気が出るんじゃない? それこそ、怪人が爆発してたおされるみたいな」


 愛の言うことを村田はよく理解できた。事実、村田自身も必殺技には強い憧れがあったし、派手な倒し方をしてみたいと考えていた。


 だが、村田には理解できないことが一つだけあった。


「何で他のヒーローたちの必殺技を食らうと怪人たちって爆発するの?」


 村田の問いに愛は答えを返すことが出来なかった。


 例えば、仮面ドライバーというヒーローがいる。彼の必殺技はドライバーキックという蹴りなのだが、その蹴りを受けると怪人は爆発して跡形もなく消えるのだ。

 意味が分からない。


「何でだろうね……」


「うん」


 答えは出なかった。これ以上考えても仕方ない。村田はそういうものなのだと納得することにした。


「ごめん。少しお手洗い行ってくるね」


「ん」


 ある程度話し込んでから、村田はトイレに向かった。


 そして、トイレに向かった村田を待っていたのは……


(せ、先約がいる!!)


 とてつもない試練だった。


***


 トイレ。それが生まれたことは果たして人にとって良かったことか悪かったことか――その答えは誰にも分からない。


 ただ一つ言えることは、トイレがあるがために村田はトイレの前で先に入っている人間を待たねばならないということだった。


(くそ! 鎮まれ! 鎮まるんだ!)


 下半身の括約筋に力を込め、ただ耐え忍ぶ村田。

 その姿はまるで、己の中に潜む悪魔と戦うファンタジーの世界の主人公のようだった。


 村田の目の前にあるトイレの中からは物音が殆どしない。本当に中に人がいるのか疑わしかった。


『くくく……。もう諦めて俺を解き放て。そうすれば、お前は楽になれるぞ?』


 遂に幻聴まで聞こえだす村田。彼の脳が正常ではないことは明らかだった。


(ダメだ! ここで諦めたら、これまでに積み上げてきた全てが無駄になってしまう!)


『しつこいやつめ! ならば地獄を見るがいい! スプラッシュ・ペイン!!』


(ぐあああああ!!)


 正体不明の痛みが村田を襲う。彼の限界は近かった。


(ち、ちくしょう……。ここまで来て、もう駄目なのかよ)


 絶望が彼の心を覆いつくそうとしたその時だった。


ジャー。


 全てを洗い流す清流のせせらぎが聞えたのは。


 その瞬間、村田の目にもう一度光が宿る。


『な、何故立てる!? お前はもう倒れかけていたはずだ!』


(不思議だよな……。どんだけ辛くても、苦しくても……あと少しだって分かると、立ち上がれるんだ)


 水の音が聞こえたということは、あと一分かかるかかからないか。少なくとも、ゴールは目の前だった。


(さあ。これが最後の勝負だ!)


『おのれえええええ!!!』


***


 トイレから出てきた村田の顔は晴れやかなものだった。その姿はまるで、最後の戦いに勝利し、世界を救った物語の主人公のようだった。


「さて、席に戻るか」


 小さく呟いてから、店内を歩く彼は直ぐに異変に気付いた。


 人がいないのだ。さっきまでいたはずのお客さんも、店員も誰もいなかった。

 その理由は直ぐに分かった。


「この街の景気を下げる俺の名前はドン・ケーキ! 最後まで取っておくぜイチゴ! 彼女出来なくて寂しいクリスマス過ごすぜ一生! YEAHHHH!」


「あなたの好きにはさせません!」


 店の外で、ケーキの姿をした怪人と魔法少女が戦っていた。


次回予告!!

 始まる激闘。その果てに村田が見たものは希望か、それとも絶望か。


次回「土下座は土の上で行うから土下座」

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