魔法少女ラブリーピンク
よろしくお願いします!
とある平日の夕方。
公園の中で両片思いの少女と少年が向かい合い、甘酸っぱい青春ラブストーリーを描こうとしているところにカエルの様な化け物が現れた!!
「キャアアア!!」
その醜悪な姿に少女が思わず悲鳴を上げる。
その少女の盾となる様に少年はカエルの化け物の前に立った。
「お、お前は誰だ!」
「ゲーロゲロゲロゲロ! 吾輩の名はドン・カエール! カエル界のドンだゲロ!」
大きなお腹をポンと叩いて化け物は名前を名乗った!
「不埒な貴様らに吾輩からとびっきりのプレゼントをくれてやるでゲロ!」
ドン・カエールがそう言うと、少女の顔に向かって一匹のカエルが跳んでいった!
「危ない!!」
少年が直ぐに少女を庇い少女の前に立つ!
「うぐ!?」
するとカエルは少年の口の中へ飛び込んでいった! 思わずカエルを丸飲みにしてしまう少年!!
「大丈夫!?」
カエルを呑み込み蹲る少年に少女が駆け寄る! 次の瞬間、少年は四つん這いでぴょんぴょんと飛び跳ね始めたのだ!!
その姿はまるでカエル!!
「帰る。帰るでゲロ」
死んだ目でカエルと言って公園から出て行く少年。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
その少年を少女は追いかけていった!
「ゲロゲロゲロ! このまま吾輩のカエルでこの街の人間を家が大好きな引き込もり人間に変えてやるでゲロ!!」
このままではテレワークが普及して、家の中で楽しめるコンテンツが大人気になってしまうと思われたその時、ドン・カエールの前に一人の少女が現れた!!
「待ちなさい!! これ以上、この街をあなたの好きなようにさせません!!」
現れた少女はこの街の魔法少女ラブリーピンクだった!!
「ゲロゲロゲロ。来たな魔法少女め。吾輩の目的はお前を二度と家から出れない身体にしてやることだゲロ! いけえ!! カエルたち!!」
ドン・カエールがそう言うと、公園のあちこちから大量のカエルが姿を現した!!
「……っ!」
一斉にラブリーピンク目掛けてとびかかるカエルたち! そのカエルを華麗な動きで躱すラブリーピンク!
「ゲロ……。吾輩も行くゲロ!!」
暫く離れた位置から様子を見ていたドン・カエールだったがあまりにも戦況が動かないことから遂に自ら動き出した!!
「それを待っていました!」
動き出したがゆえにドン・カエールはラブリーピンクの必殺技の射程圏内に入ってしまった!
「くらいなさい! ラブリーヒーリングシャワー!!!」
桃色の光の奔流がドン・カエールを襲う!!
だが、その瞬間ドン・カエールは怪しく笑みを浮かべていた。
「ふう。何とか今日もこの街を守れました」
ラブリーピンクの必殺技を受けて倒れなかった怪人はいなかった。故に生まれる油断!!
「ゲロゲロゲロ」
「キャアア!!」
ドン・カエールの長い舌が彼女の身体に巻き付いた!!
「な……!? ど、どうして?」
自らの必殺技を食らったはずのドン・カエールがピンピンしていることに動揺を隠せないラブリーピンク!
「へほへほへほ! ひはまのひっはふはははははふふんはんひわはへんほふほはへひひはほは!」
ラブリーピンクにはドン・カエールが何を言っているのか理解できなかった。だが、ドン・カエールの周りに散らばる大量のカエルたちを見て何が起きたのかを察した。
「カエルたちを盾にしたのですね……」
「へーほへほへほへほ!!!」
気付いたところで後の祭りだった。勝利を確信したかのように高笑うドン・カエール!
そして、一匹のカエルがラブリーピンクの口へと近づいていった!
ラブリーピンクもうら若き一人の乙女である。自分のファーストキスがカエルになるなんて許容できるはずが無かった!
イヤイヤと首を振ることしかできないラブリーピンク!その瞳には涙がたまっていた!
「へっへっへ!へーほっほっほっほ!!」
夕暮れ時の公園に響き渡る怪人の高笑い!
零れ落ちる少女の涙!
条件は十分揃っている!さあ、今こそ出番だ!!
「待てい!!」
「は、はへは!? (だ、誰だ!?)」
これ以上ないほどの完璧なタイミングで現れたのは――
「俺は、絶望に心を包まれる少女の光となる男――シャイニング村田だ!!」
我らがヒーロー――シャイニング村田だった!!
名乗りをあげたシャイニング村田は直ぐにラブリーピンクの下に向かった!
「ふっ! ははほはへははひはふひへはふ!! (くっ! ならお前から始末してやる!!)」
ドン・カエールの言葉を聞いたカエルはラブリーピンクの口から方向転換してシャイニング村田のフルフェイスマスクの中へ突っ込んでいった!!
「そのカエルを口の中に入れてはいけません!」
ラブリーピンクが忠告するが、一足遅かった!
ごくん!
「うげ! ゲホッ!」
シャイニング村田はあっさりとカエルを飲み込んでしまったのだ!!
「へーほへほへほへほ!!」
作戦が上手くいき笑いが止まらないドン・カエール!
そして、猛烈に家に帰りたくなる村田!
(か、帰りたい! 今すぐ家に帰りたい! 少しでも早く! 最高速でカエル!!)
四つん這いとなり、とてつもない勢いで自宅のある方向に跳ぶ村田!その先にはドン・カエールの姿があった!
「カエルウウウウウ!!!」
「へほおおおおおお!!」
村田の頭突きが無防備なドン・カエールのお腹に突き刺さる!その衝撃に思わずドン・カエールはラブリーピンクの拘束を解いてしまった!
「カエルカエルカエルウウゥ!」
ドン・カエールに強烈な頭突きを食らわせた村田は瞬く間に公園から離れていった。
「ゲ、ゲロ……。なんてでたらめな奴ゲロ」
予想以上のダメージを食らったドン・カエール! 何とか立ち上がった彼の目の前にはステッキの先が向けられていた!
「さっきはよくもやってくれましたね」
「ゲ、ゲロ……。そ、それじゃ吾輩はここらでカエルゲロ」
「あなたが帰るのは空の上です! ラブリーヒーリングシャワー!!」
「ゲロオオオ!!」
今度こそ必殺技をその身に受けたドン・カエールは小さな野生のカエルの姿に戻り、どこかへ消えていった。
「また、助けられちゃった」
そう呟くラブリーピンクの視線は村田が跳んでいった方向に向けられていた。
「危なかったでチュね」
ラブリーピンクの横から、羽がついたネズミの様な奇妙な生き物が現れた。彼の名前はアイウォンチュウ。いわゆる妖精というやつだ。
「そうだね。最近になってなんだか怪人増えてない?」
「チュウ……。これは、もしかするとビッグドン・ディスラーブの復活が近いのかもしれないでチュ」
「そっか。遂に最終決戦が近付いてるんだね」
ラブリーピンクはそう言うと、変身を解いた。
すると、そこには桜川愛の姿があった。
「これからは強敵ばかりでチュが、頑張るでチュ!!」
「……それより、バイト代くれない?」
ネズミの様な奇妙な生き物は残念そうに肩を落とした。
「愛……ずっとラブリーピンクの姿でいてくれないでチュか?」
「嫌。……恥ずかしいじゃん」
頬を僅かに赤く染める姿にネズミの中で何かが弾けた。
(か、可愛い!! 魔法少女の時は優しく可愛らしい。だが、変身を解けば素気ない感じ。こ、これがギャップ萌え!! ジャパニーズの萌え文化!!)
「ゲへへ……。やっぱ愛はそれでいいでチュ」
「キモ」
目じりをダルッダルに垂らしたアイウォンチュウに冷ややかな視線を浴びせる愛。
その視線を受けてアイウォンチュウは身体をよがらせ、恍惚とした表情を浮かべるのであった。
「ねえ。早くバイト代渡してよ」
「あ、了解でチュ」
アイウォンチュウがそう言うと、どこからともなく封筒が現れた。
「ありがとう」
愛はその封筒を手に取ると、中にある金額を確認する。封筒の中には2万円が入っていた。
世界を救う命がけの仕事が一回につき2万円というのは安すぎるように感じられる。
だが、お金を必要としないアイウォンチュウたちにとって、2万円もまた集めるには苦労する大金であった。
「愛! とにかく最終決戦に向けてもっとラブパワーを集めないとダメでチュ!」
アイウォンチュウの言葉に愛は顔をしかめた。
「ラブパワーを集めるっていったって、あてなんてないし……」
「愛の家族愛は素晴らしいっチュ! でも、手っ取り早いのはやっぱり恋愛だっチュ! 村田とか言う少年にさっさとキスでもするっチュ!」
「は、はあ!? 何でそこで村田の名前が出るのよ!」
「分かってるチュウよ。おいらたちにはラブパワーを感じる能力があるでチュ。愛のラブパワーが最も高い数値を叩きだすのは、村田と喋るときだチュウ!! さっさと村田とイチャイチャチュッチュする――チュウウウ!?」
喋っている途中でアイウォンチュウは愛の右ストレートを食らって吹っ飛んだ。
「う、うっさい。村田とは……そういうんじゃないから」
愛はそう言うと、鞄を持ってさっさと公園から出て行った。
「い、いい右だっチュ……。お、おいらの目に狂いはなかったっチュ……」
(愛なら……世界を獲れる)
アイウォンチュウは最近、日本のボクシング漫画にはまっていた。
次回予告
己の世界を守るため、異世界へと飛び込む妖精アイウォンチュウ。
己の世界、パートナーの命、バイト代……あらゆるものを背負い彼は戦い続ける。
次回「プロフェッショナル~アイウォンチュウの流儀~」




