桜川愛
よろしくお願いします!
問題を起こしたものの無事にヒーローとして活動を継続できることが決まった村田。
そんな彼は、自身が通う高校の屋上に来ていた。
屋上には彼の同級生である桜川愛が一人で昼食のパンを食べていた。
「久しぶり」
村田はそう言うと、愛の隣に腰かけカフェオレを渡した。
「ありがと」
素気なく愛はそう言った。
愛と村田の関係が始まったのは一年の冬からだ。
屋上で昼食を食べることに憧れていた村田が屋上に行くと愛がいた。
当時、愛は灰色の髪と鋭い目つきからヤンキーだという噂が流れていた。
だが、村田はその噂を気にすることなく愛と距離を置いた場所で憧れの屋上ご飯を定期的に楽しんでいた。
その結果、噂に流されない村田に興味を持った愛が村田に話しかけるようになり、二人は屋上で昼食を時々共にする仲になったのだった。
「最近割と遅刻が多いみたいだけど大丈夫?」
「ちょっとバイトがね。まあ、問題ないよ」
愛の家は大家族だ。だが、子供の数に比べ親の収入はお世辞にも満足できるものとは言えない。そのため、家計の足しにするために愛は学校に許可を取ってアルバイトをしていた。
「そっか。とりあえず、これ遅刻してたところのノート」
「いいよ。遅刻は私の責任だから」
愛は見た目の割りにかなり真面目だ。村田は愛のそういうところを気に入っている。
だが、今回に関しては村田にとってもノートを受け取ってもらう必要があった。
「恋にお願いされてるんだよ。可愛い弟のためにも受け取ってよ」
恋は愛の弟の一人だ。街中で高校生に絡まれているところを村田に助けられてから、恋は村田のことを実の兄のように慕っていた。
ブラコン気質のある愛は弟の名前を出され、ため息を吐きながらノートを受け取った。
「はあ……。分かった。代わりと言ったら何だけど、バイト先に来たときには何かサービスするよ」
「それはありがたいね」
会話が途切れ、沈黙が流れる。
この沈黙は村田にとっては平穏な日常を感じられる好きな時間だった。
「あのさ。少し聞きたいことがあるんだけど」
そんな中、今日は珍しく愛の方から村田に話しかけてきた。
「何でも聞いてよ」
「シャイニング村田って知ってる?」
村田の心臓が僅かに心拍数を上げた。
「あー。この街を守っているヒーローの名前だっけ?でも、何で急にそんなことを?」
「村田ってヒーロー好きだったよね? だから、何か知っているかと思って」
愛の言葉を聞いて村田は安堵のため息をついた。
(良かった。別に僕がシャイニング村田かを疑われているという訳じゃなかったんだ)
「うん。多少知っているよ。シャイニング村田は怪人討伐数がそれなりに多いヒーローだよ」
村田は適当に事実を言っておくことにした。
「そっか……。あの、さ。シャイニング村田が好きなものとかって分かる?」
村田は思わず愛の方を向いた。
その村田の反応に愛は顔を赤くしてそっぽを向いた。
「いや、これは違うの。ファンとかじゃなくて……この間そのヒーローに助けられたから出来ればお礼がしたいと思って」
ファンじゃないという言葉に村田は少しだけ落ち込んだ。それでも、自らが助けた人物がお礼をしようとしてくれているというのは嬉しいものである。
「好きなものか~。そうだね。甘いものとかは結構好きだよ」
「は? いや、別に村田の好きなものは聞いてないんだけど」
村田、焦る!!
ヒーローは正体を明かさない場合、その正体についてネットで考察されたり、人から聞かれたりすることが多い。だが、村田にそんな経験は無かった。
故に、出るボロ!!
「は、ははは! そ、そうだったね! いや、でもシャイニング村田も甘いものが好きって聞いたことがある気がする!」
急いで訂正する村田だったが、目の前にいる少女はあまりに不自然な村田を見逃すほど鈍感ではなかった!
「村田の名前って光だったよね……?もしかして、シャイニング村田の正体って……」
村田は自らの脳をフル回転させる!
その結果、彼は自らの正体がばれないようにするために自らの身を切る行為に出た!
「や、やめてよもー! シャイニング村田って、街中でパンツ一丁で戦ったって言う変態でしょ? 僕がそんな変態に見える?」
「でも、村田ってクラスの男子の前で唐突にお尻を振ったことあるんでしょ?」
強烈なカウンター!息詰まる村田!
「……そ、それは誤解だから! それに、現役の高校生がヒーローなんて出来ると思う? 実際にシャイニング村田は平日の昼にも活動してたことがあるはずだよ」
完璧な切り返し。村田は勝利を確信した。
「そういえば村田って、授業中に不自然にトイレに行くことが多かったかも。それも長いときには30分くらいトイレに行ってたこともあるし……」
しかし、愛の方が一枚上手だった。
「村田って放課後もどこかに遊びに行かずにすぐ帰るし、身体能力も高いのに運動部に所属してないみたいだし……」
正体がばれるまでのカウントダウンが始まる。
だが、村田は諦めていなかった。
「て、てか何で桜川はそんなに僕のこと詳しいの?」
それは村田の苦し紛れから出る一言だった。ここで愛が「クラスメイトだし。割と仲いい方だから普通じゃない?」と言えば村田は完全に詰みだった。
しかし、この言葉は予想以上に愛に刺さった!!
「な……! べ、別に詳しくないし! 村田のことをよく見てることとかないから!!」
動揺した愛を見て村田はここが勝負どころだと判断した!!
「え? 僕のことよく見てたの? もしかして僕のこと気にしてくれてたの?」
「き、気にするって……。違うから! そ、そういうんじゃないから!」
「じゃあ、どういうこと?」
一歩だけ村田は愛に詰め寄った。
その一歩が結果として勝敗を分けた!
「あ、もうすぐ授業始まる」
追い詰められた愛はその場からの撤退を選択した。その頬は赤みがかっていたが、自らの勝利に喜ぶ村田がそのことに気付くことはなかった。
***
放課後。
いつもと同じように村田は事務所にやって来ていた。
「学校お疲れ様です」
事務所の中にはいつも通り田中が村田を待っていた。
「田中さんもお疲れ様」
村田は鞄を降ろし、更衣室に行ってコスチュームを着用した。
そのコスチュームは昔の様に全身タイツになっていた。
「やっぱりその姿が村田さんに似合っていますよ」
「パンツ一丁は……忘れてください。あれは僕の黒歴史です」
恥ずかしそうに村田はそう言った。パンツ一丁になることになった最大の要因を忘れてしまった彼にとって、パンツ一丁の戦闘は自分でも理由が分からない謎の行動ということになっていた。
「それじゃ、僕はパトロールに行ってきます」
村田はそう言うと事務所から出て行った。
事務所から出た村田は裏路地を中心に人気の少ないところを歩いて回っていた。
全身タイツにフルフェイスマスクを着用した男が裏路地を歩く姿は犯罪の予感を強く感じさせるものだ。
だが、この街の人にはそれは最早見慣れた光景であるため村田が通報されるということは最近ではなかった。
「最近は『パイレーツ』の怪人も来ないし、大分平和になったな」
平和になったと思った瞬間に事件というものは起こるものである。
『キャアアア!!』
遠くから聞こえた悲鳴に向かって村田は走り出した。
次回予告!
またまた魔法少女が戦う現場に遭遇する村田!
ついに明らかになる魔法少女の正体!
次回「魔法少女ラブリーピンク」
 




