シャイニング村田 死す
今回の話で「コスチューム編」終了です。
都内に「HERO」と大きく書かれたビルが存在する。そのビルこそ国内のヒーローたちを統括するヒーロー協会の本部だ。
そのビルの地下2階に一つの部屋があった。そここそが、ヒーロー異端審問会の議会所である。
そして、今その議会所に村田はいた。
村田の周りには7人のヒーロー異端審問官が村田を見下ろすようにして椅子に座っていた。
「では、これよりシャイニング村田のヒーロー存続をかけた会議を始める。シャイニング村田は聞かれたことに全て偽りなく答えるように」
6人の中で左端に座っていた男の言葉と供に会議は始まった。
「単刀直入に行こう。村田君。何故君は大衆の前で全裸で戦うなどということをした?」
真っ先に質問したのは右端に座っている男だった。
「怪人の攻撃を受けた結果、コスチュームが破損してしまい全裸になってしまいました」
「ほう。故意ではなかったということか?」
「はい」
村田の表情から審問官は嘘ではないと判断したようだった。
「では、次は私から」
手を挙げたのは左から二番目に座っている男だ。
「あなたは今回の事件を起こす前に多くの人々に恐怖を与えるコスチュームを着用したという報告があります。その後の今回のセクハラ事件。正直に言って、あなたの行動はヒーローに相応しくない。そのことについて何か言いたいことはありますか?」
「民衆に迷惑をかけたことについては謝罪します。特に、以前のコスチュームに関する事件は僕の未熟さが招いたものでした。あなたの言う通り、僕はヒーローに相応しくないかもしれません。ですが、僕はヒーローとしてこの世界を平和にしたいと思っています。その気持ちに嘘はありません」
質問をした男は非難めいた視線を村田に見せた後、ふん! と鼻を鳴らして黙った。
その後も当たり障りのない受け答えが続いた。
そして、いよいよ判決が下される時が来た。
真ん中に座る男が口を開く。
「さて、これから村田君に一つの判決を下す。その前に最後の質問を君にするとしよう」
「はい」
「今、街中で怪人が暴れている――」
村田は話を最後まで聞かずに椅子から立ち上がり、部屋の出口に向かって動こうとした。
「待て。それ以上動けば問答無用で君をヒーロー協会から永久追放するぞ。だが、足を止めれば今回の一件は厳重注意に留めよう」
その言葉を聞き、村田は足を止め、口を開いた。
「皆さんにとってヒーローって何ですか? 僕にとって、ヒーローは人々を救う希望の光なんです。だから、ここで動かない僕は誰の光にもなれない。例え、ヒーロー協会を追放されても僕はシャイニング村田です」
村田はそう言うと部屋を飛び出した。
村田が部屋を飛び出した後、部屋に残った7人の審問官たちは顔を見合わせ笑い出した。
「ははは!馬鹿な男だな」
「ええ。本当に愚かですね。損得勘定も出来ないなんて」
「本当よ。正しく情報通りのアホさね」
「これで決まりですね」
「そうじゃな」
「ま、仕方ないの」
「では、彼が帰ってくるまで待つとしようか」
***
街に出た村田はその目を疑った。
「な、何だこれ?」
なんと怪人は街に出ていなかったのだ。街の人々は至って普通に見えた。
「まさかこれは怪人の罠!?幻術か?」
「村田さんですね」
困惑する村田に黒服の男たちが近付いてきた。
「怪人はいません。あなたは審問官たちに騙されたんですよ。さて、会議はまだ終わっていません。我々についてきてもらいましょう」
そう言うと黒服たちは村田を囲んだ。
「本当に怪人はいないんですね?」
「はい」
黒服たちの言葉を聞き、村田は安堵の表情を浮かべた。
「良かった。被害がでてないみたいで」
村田の言葉を聞き、黒服の一人が怪訝な表情を浮かべた。
「騙されたんですよ? 怒っていないのですか?」
「どうしてですか? 被害も特にありませんし、怒る理由がありませんよ」
そう言った村田は晴れやかな笑顔を浮かべていた。
そのまま村田は黒服に連れられ、再び地下二階に帰っていった。
地下二階の部屋に入った村田を待っていたのは、クラッカーの鳴る音だった。
「へ?」
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
気付けば部屋に明かりがつき、七人の審問官たちが村田に拍手をしていた。
「な、何ですかこれ?」
「簡単に言うと、あめでとう。ということだ」
「そうじゃな。簡単に言えば、めでたい。ということじゃな」
「そうね、コングラッチュレーションと言い換えてもいいわ」
「なら、私は祝賀と言わせていただきましょう」
「なら、俺は慶賀と言わせてもらう」
「お祝い申し上げます」
「え、えっと……儂は、儂は……ふ、ふぅー?」
訳が分からない。まさにカオス。
村田はどうすればいいか分かっていなかった。だが、ここで自分が言わなければならない言葉だけは分かった。
「あ、ありがとうございます!」
その言葉と同時に、七人の審問官たちは笑顔になった。
「村田君。君の言葉は私たちの胸にしっかりと届きました。君の言う通り、誰かを助けるために全力なヒーローを支えないヒーロー協会などくそくらえというものです。私たちはあなたを真のヒーローと認めます。今後も供に頑張っていきましょう」
中心にいた男が村田に近づき握手を求めてきた。
村田はその手をしっかりと握った。
「はい!」
「いい返事だ」
こうして村田のヒーロー活動はめでたく続くことになったのであった。
「ところで、君は言ったね? 私たちにとってヒーローがどういうものかって」
「あ、はい」
「丁度いい。どうせだから今日はこのままここで語り合うことにしようじゃないか!」
「なら、私も参加させてもらうとしましょう。私もあなたの筋肉をもっと見せていただきたいと思っていましたし」
そう言ったのは村田に非難めいた視線を送ってきた男だった。
「え?あなたは僕のことを嫌っていたのではないのですか?」
「何を言っているのですか? 確かに、私はあなたが今日パンツ一丁で来なかったために筋肉が見れなくて残念だったとは思っていましたが、嫌ってはいませんよ」
(あ、あの目は筋肉が見れないことへの悲しみの目だったのか?)
「ほほほ。なら儂も参加させてもらおうかの。久々に推し甲斐のあるヒーローが出てきたことじゃしの」
「じゃあ、俺も」
「私も行こうかしら」
次々と声が上がり、結局村田と七人の審問官の総勢8人でその日は語り合うことになったのだった。
七人の審問官と仲が良くなった村田が事務所に戻ってきたのは夜の8時頃だった。
事務所の中では田中が必死に掃除をしていた。
「田中さん? どうしたの?」
「どうしたって、村田さんも手伝ってくださいよ。村田さんがヒーローとして活動できなくなったらこの事務所も引き払わないといけないんですから」
「あ、それなら大丈夫だよ。別にヒーロー続けていいって言われたから」
村田の言葉を聞き、田中は手に持っていたモップを床に落とした。
「ほ、本当ですか?」
「うん」
「よ、よかった~」
田中はその場にへたり込んだ。それだけ、村田の報告は彼にとって嬉しいものだった。
「心配かけてすいませんでした。これからも、よろしくお願いします」
「本当ですよ!! これに懲りたら、パンツ一丁でヒーロー活動するのだけはやめてくださいね!」
「そのこと、異端審問会の人たちにもやめろって言われたんだけど、そんなに悪いことかな?」
悪びれもせずそう言う村田に田中は恐れおののいた。
(も、もしかすると私はとんでもないモンスターを生み出してしまったのではないのだろうか?)
田中が良かれと思って行動したコスチューム製作。だが、その結果は散々なものだった。
挙句の果てには、露出狂の変態をこの世に生み出すことになってしまったのだ。
(だ、ダメだ。このモンスターをこれ以上好きにさせてはならない……!)
田中は足元にあったモップを手に持った。よくアニメなどでは、頭に一定の衝撃を与えれば人の記憶が都合よくなくなることがある。
田中は馬鹿らしいと思いながらも、それにかけた。
「村田さん! 正気を取り戻してください!!」
田中がモップの柄を村田の頭目掛けて振り下ろす!
しかし、そこは流石にヒーロー。村田はあっさりとモップを躱した。
だが、村田の足元は水で濡れていた。
「う、うわああ!!」
結果、村田は転倒し頭を床に強打!!
「や、やりましたか?」
田中が一言呟いた後、村田はゆっくりと身体を起こした。
「いたたた……。た、田中さん急に何をするんですか?」
「村田さん。パンツ一丁のヒーローをどう思いますか?」
「自らをさらけ出すという意志を感じますね。素晴らしいと思いま――ぐは!!」
言葉を言い終わる前に田中は村田の頭をモップで叩いた。
「すいません村田さん。でも、もうこうするしかないんです!」
その声は悲壮感に満ちていた。
数回か同じことが繰り返された後……。
「ハア……ハア……。村田さん。パンツ一丁のヒーローをどう思いますか?」
「それはさすがに変態じゃないかな……。てか、何で田中さんは息切れしてるの?」
「や、やったあああああ!!!」
田中はガッツポーズをしてその場に倒れた。
その後、田中は村田に事情を説明した。
その結果、村田は一部だけ記憶を失くしているということが分かった。その一部が何かは田中にも村田にももう分からないが、田中は村田が変態じゃくなったことを喜んだ。
こうして、一度は人気を捨てる覚悟を決めた村田だったが、彼は再び人気を求め彷徨うヒーローに戻っていくのであった。
次回予告に関してですが、次回予告のネタが無くなったので一先ず休止にします。
次回「田中の過去」
 




