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呼び出し

 今日の次回予告は満を持して、あの伝説の次回予告をリスペクトさせていただきます。


 個人的に毎回、何かの作品の次回予告をリスペクトして次回予告を作ってるんですけど、元ネタが何か全部分かる人っているんですかね。

 村田がほぼ裸の状態で戦うという事件を起こした翌日、昼前に佐々江はシャイニング村田ヒーロー事務所を訪れていた。


 インターホンを鳴らす佐々江。しかし、反応は返ってこなかった。


「おかしいですね。この時間帯は営業中と書いてあったのですが」


 佐々江がドアを開けようとしてみると、ドアに鍵はかかっていなかった。ドアが開いているなら営業中なのかもしれないと思い、事務所内に入る佐々江。


「村田さん?おられないのですか……キャアアア!!」


 事務所内に入った彼女の目に映ったものは全裸でソファに寝転がる村田と田中の姿であった。


「……んあ?あれ、佐々江さんどうしてここに?」


 眠そうな目をこすりながら佐々江に問いかける村田。


「そ、そんなことより早く服を着てください!!」


「……あれ?もう朝か?」


 佐々江の声に田中も目を覚ます。そして、田中は佐々江と自分、村田の姿を見て顔を青ざめた。


「さ、佐々江さん!?し、失礼しました!!どうぞソファに腰かけてください!」


 ソファから素早くどき、佐々江にソファを譲る田中。


「あ!そういえばまだお茶も出していませんでしたね!すぐに準備します!」


 そう言ってお湯を沸かし始める田中。


「なら、僕はお茶菓子を出しますか。佐々江さんちょっと待っていてくださいね」


 村田はお茶菓子を探し始めた。


 それはとても自然な流れであった。お客さんにソファを譲る。そして、おもてなしをする。しかし、彼らは全裸であった。


「だから……早く服を着てください!!!」


 佐々江の声が事務所内に響き渡った。


***


「先ほどは取り乱してしまい失礼しました」


 田中と村田が服を着た後、改めて三人はソファに座り話をすることにした。


「い、いえ!こちらこそとんでもなく汚いものをお見せしてしまい申し訳ありません」


 佐々江に対して全力で謝罪する田中。


「それで、今日はどういった用件で訪れてくださったのですか?」


 女性に全裸を見せたというのにまったく気にした様子を見せない村田。その村田の堂々とした雰囲気に気圧されながら佐々江は話をし始めた。


「私が本日訪問させていただいた理由は昨日の村田さんの戦いについてです」


「ああ。昨日の戦いがどうかしたのですか?いつも通り街の平和を守ることが出来たと思うのですけど」


「いつも通りですか……」


 顔をしかめる佐々江に対して、田中は昨日のことを思い出す。そして、顔を青ざめてからその場で土下座をした。


「申し訳ありませんでした!!昨日の一件に関しては不可抗力なのです!戦闘中に敵の攻撃によって着用していたコスチュームが破損してしまい、結果として村田さんは全裸になってしまっただけなのです。なので、どうか、どうかご慈悲を!!」


「田中さん?なんで謝っているんですか?」


「村田さんも謝ってください!!」


 田中に頭を押さえつけられ、納得できないといった表情を見せる村田。一方で、田中は完全に佐々江をヒーロー協会が差し向けてきた人物だと思っており、ここで謝らなければ不味いと思っていた。


「その様子だとどうやら世間で流れている噂は本当のようですね」


 佐々江はため息を吐いた後、姿勢を正して田中と村田を見つめた。そして、頭を下げた。


「村田さん、申し訳ありませんでした!!」


「「え?なんで?」」


 気の抜けたような田中と村田の言葉が響いた。


「その、今回の一件はコスチューム製作に関わった私のミスで村田さんに多大なショックを与えてしまいました。その結果、村田さんはコスチュームに不信感を持つようになってしまい、あのようなほぼ裸の格好で戦ったのではないでしょうか?」


 的外れな予想を口にする佐々江。しかし、彼女は真剣だった。彼女は今日、謝罪のために今の仕事を辞めても構わないという覚悟を持っていた。


「いやいや、それは……」


 勘違いですよ。と言おうとしたところで田中は口を止めた。彼の心にはこの一件を佐々江の責任にすることで、村田のヒーロー活動は続けられるかもしれないという打算的な考えがあった。


 しかし、田中が迷っている間に村田が佐々江に対して返事を返した。


「佐々江さん、それは違います」


「で、ですが!私の責任で村田さんは謹慎処分にまで追い詰められてしまいましたし……」


「佐々江さん。聞いてください」


 佐々江が顔を上げるとそこにはやけに真剣な表情をした村田の姿があった。


「佐々江さん。僕は、もう他人の目を気にしないと決めました。格好なんてどうでもいい。僕をヒーローたらしめるものは格好じゃなくて、僕の心の在り方なんですから」


 『男子三日会わざれば刮目して見よ』


 佐々江はそのことわざを思い出していた。以前までの村田は好青年という印象ではあったが、一流のヒーローたちと比べるとどこか自信とか覇気に欠けているように感じられた。


 だが、今の村田はどうだろうか。今後のヒーロー活動に大きな支障をきたすであろう事件を起こしたにも関わらず、堂々としている。


「佐々江さん。あなたはどうなんですか?」


「え……」


「さっきから聞いていれば、世間が申し訳ないとか、自分のせいでとか……そんなに周りの目を気にしてどうするんですか?」


「で、ですが、それが事実ですし……」


「胸を張ってくださいよ!!」


 村田の声が部屋に響いた。


「佐々江さんは僕の為を思って全力であのコスチュームを作ってくれたじゃないですか。僕は凄く嬉しかったです。だから、あなたが非を感じる必要はありません」


 村田の言葉は佐々江の胸に突き刺さった。佐々江の脳裏にこれまでの苦悩が蘇る。


(そうだ……。私はただ全力でコスチュームをデザインする。それが楽しくて、ヒーローたちの力になりたくて頑張ってたんだ。世間なんて、周りの声なんて気にする必要ない)


「村田さん。ありがとうございます。あなたのおかげで目が覚めました。待っていてください。必ず今のあなたに相応しい最高のコスチュームを持って、ここに戻ってきます」


 そう言った佐々江の目には村田と同じ強い意志が宿っていた。


「それは楽しみですね」


 村田は佐々江に笑顔を向けた。


 その笑顔にこれまで恋愛というものに縁のなかった佐々江にとって、初めてと言ってもいい感情が生まれた。


「田中さんも、突然の訪問失礼しました」


 清々しい佐々江の表情を見た今、田中には佐々江に今回の責任を押し付けるという選択は出来なかった。


 だが、田中には一つだけ言いたいことがあった。


「あの……」


「何でしょう?」


「コスチュームを作るときはやっぱり見た目とか、世間の目を気にした方がいいと思います」


 田中の言葉を聞くと、佐々江は困ったような笑顔を浮かべた。


「そうですよね。きっとそれがたくさんの人の考えだと思います。でも、私は私の心が思うままにコスチュームを作ってみたいんです。心配してくれてありがとうございます」


 そう言うと佐々江は事務所を後にした。



 佐々江が事務所を出て暫くしてから、事務所に一本の電話がかかってきた。


「は、はい!シャイニング村田ヒーロー事務所です」


『我々は、ヒーロー異端審問会だ』


「な!?」


 電話に出た田中は思わず動揺の声をあげてしまった。


 ヒーロー異端審問会――それはヒーローに相応しくないと考えられるヒーローを処罰したり、ヒーローが真のヒーローと言えるものか判断したりする議会だ。

 ヒーロー異端審問会で、異端とされたヒーローはヒーロー協会から追放され、二度とヒーローになることはできないと言われている。


 そして、これまでにヒーロー異端審問会に呼び出しを受けたヒーローは一人の例外もなく異端となっている。


 故に、ヒーロー異端審問会はヒーローたちの間でこう言われている。『ヒーロー殺し』と。


『明日の17時にヒーロー協会に来い。異論、反論は認めない。これは命令だ』


 その言葉を最後に通話は切れた。


 顔を青ざめる田中の視線の先には、昨日と同じ格好でパトロールに向かう村田の姿があった。


「ちょ!村田さん!?待って下さ――「行ってきまーす!」」


 暫くの間、村田が出て行った事務所の入り口のドアを田中は眺めていた。


 そして、田中は静かにパソコンを起動し求人サイトを開くのだった。

次回予告

 とうとうヒーロー異端審問会からの呼び出しを受けてしまった村田。

 村田を追い詰めるべく繰り出されるたくさんの質問。頑張って村田! ここを乗り越えれば、またヒーローとしてやっていけるんだから!


次回「シャイニング村田 死す」


デュエルスタンバイ!!

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