15.未来の約束
「ん…はっ、ぁ……」
あのデートの日以来、また元のように学校から帰ってくると二人で部屋に閉じこもる。でも今度は前みたいに聖也くんの方からだけじゃなくて、私もちょっと頑張ってみたりはしてる。
だって聖也くん、普通のキスは部屋以外でもしようとするんだもん…!!ダメじゃないけど、それされたら私だって期待するじゃん!?しかもなんで勉強中とかにするかな!?集中できなくなるでしょ!?
でもだからって、最初から部屋に連れ込まれるとそれはそれで困る。だって本当に、しばらく私は動けなくなっちゃうから。
今だって、ほら。ベッドの上で覆いかぶさるようにしてキスしてた聖也くんが離れる気配がして、ようやく私は解放されたんだって気づいたけど。まだ頭はボーっとするし、背中とかぞくぞくしてるし。何より酸欠でもないのに全然体が動かない。満たされているのに、力が抜けて。
こうなったらもう何もできないから、宿題とか勉強は先に終わらせるようにしてるけど。毎回その途中で頭とか耳とかにキスしてくる聖也くんは、もしかしたら確信犯なのかもしれない。
……もしくは、ただ我慢できなくなってるのか。
どっちにしても、一日に一回はキスしないと気が済まないんじゃないかってくらいされてるから。しかもなんか、前より長くなった気がするし。あと激しくなった。
なのに。
なんか、すごく、優しくて。緩急とか、もうホント、すごくて…。
正直ついて行けない。
嬉しいけどね!?嬉しいんだけど!!毎回こうやってしばらくの間ベッドの上の住人になっちゃうのはどうにかならないかな!?
っていうか、これだけされてるのになんで慣れないのかな!?私!!
「愛ちゃん…」
「はぁ…」
満足したのか嬉しそうに、けどそれ以上に愛おしそうにこっちを見ながら優しく髪を撫でるから。それにすら今の私の体は反応してしまって、熱い吐息が口から零れる。
「ホント、かわいい…」
「ん…」
思わずと言った風に呟いた聖也くんが、優しく私の体を抱き起して膝の上に乗せて。そのままぎゅっと抱きしめてくれる。
この瞬間が、本当に幸せで。大好き。
「ね、愛ちゃん。そのままでいいから聞いて?」
優しい手が、私の頭を撫でて。その指が、癖のある髪に通される。
乱れた髪を直してくれているだけなのかもしれないけど、さっきまでのキスの余韻がまだ残る体はそれにすら喜びを覚えて。心は幸せで満ちていく。
あぁ、気持ちいいなぁ…なんて。私はそれだけでも満足しちゃうんだ。
「俺ね、今運営してるサイトのコンテンツを色々と増やして広げたりして、将来的には一つの会社を作ろうと思ってるの」
「……?」
えっと……今聖也くん、何の話をしてるんだろう…?
「できればパソコン一つで、家からなるべく出ないでも出来るような仕事にしようと思っててね?」
「……??」
なんで今、そんなこと言い出したの…?
「まだ準備段階なんだけど、もしそれが上手くいって軌道に乗るとしたら、俺が大学を卒業するまでに起業できてるはずだから」
「……???」
「そしたら愛ちゃん、外に就職しないで俺のところに勤めてみない?」
「……????……っ!?!?」
は!?え!?何言ってるの!?っていうか、それって…!!
「ずっとね、考えてたんだ。愛ちゃんが家の外に一人で出なくていい方法。本当は、専業主婦っていうのも考えたんだけど…それだとたぶん、愛ちゃんの性格上許せないだろうなって思って」
はい、その通りです。
あまりにも私のことを知りすぎている発言に、もはやただ頷くしかない。
いや、それより。もうなんか当然のように私も受け入れてるけど…何で結婚する前提で話をしてるんだろうね。まぁたぶん私、聖也くん以外の人は無理なんだろうけど。
「だったら折角だし、いっその事俺と一緒じゃないと出掛けないようにすればいいかなって。そしたら安全でしょ?」
安全は安全、だろうけど…。
「もちろん俺としてもメリットはあるんだよね。たぶん一人でスケジュール管理や調整したりとかは大変だろうし、小さいとはいえ会社の運営だから」
え、っと…要は秘書みたいな仕事をすればいいってことなのかな…?
「何より愛ちゃんが心配で仕事が手につかないとか、進みが悪いとか、そういうことがないから」
……ん…?
「俺としてはそこが一番のメリットなんだけど。ダメかな?」
あっれ~?なんか前半と後半でだいぶ違う気がするぞ~?
前半は仕事内容や運営に関する真面目な話だったのに、結局最後は聖也くんの気持ちというかメンタルの問題になってるんだけど。しかもそれが一番のメリットかー、そっかー。
…………あれ……?これ割と真剣にこの人言ってるかも…。私自身、将来普通に働けるのかどうか怪しいと思ってるくらいだし。
「まだ確定でもない未来の話だから、考えておいてくれるだけで十分だけどね」
そう締めくくった聖也くんに、私は一つ頷いておく。
提案としてはとてもありがたいし、何より条件は申し分ない。それに今までずっと助けてくれていた聖也くんの仕事のお手伝いが出来るのなら、私は喜んでやる。
正直断る理由なんてなかった。
「でも、今日の本題はそれじゃなくてね?え、っと…愛ちゃん大丈夫?そろそろ自分の力で座っていられそう?」
「ぁ…うん、だいじょぶそ……」
若干、舌ったらず気味なのは大目に見て…!!まだちょっと力がちゃんと入らなくて…舌も筋肉だもんね。しかもあんな……吸われたり、とか…その……と、とにかく!!色々された後だから!!だから仕方ないんだよ!!うん!!
誰にしているのかもよく分からない言い訳を自分の中でしつつ、通学鞄を開けて何やらゴソゴソやっている聖也くんの姿を見ていると。
「はい、愛ちゃん」
唐突に渡された、それ。
丁寧にラッピングされた細長い箱は、なんだかちょっと高級そうで。色々と聞くのが怖い。
「あ…俺が開けた方がよかったかな?」
「へいき、だけど……」
それよりも、これは何?無造作に渡されたものだからって、相手が聖也くんの場合は甘く見ちゃいけない。特に、こうやって何も聞かされていない場合はなおさら。
「え……」
リボンを解いて、ブランドのロゴの入った包装紙を開いて。
うん。もうこれだけでも戦々恐々としてるんですけどね?
なのに、中から出てきたのは明らかにジュエリー系のケースで。
目で聖也くんを伺えば、開けてと言いたげに笑顔で頷くから。そっと箱を開いてみる。
「ぅ、わぁ~~…」
中から出てきたのはピンクゴールドの、四つ葉のクローバーをかたどったペンダント。四つあるうちの三枚の葉の部分は中央がハート型にくりぬかれていて。一枚分だけ、くりぬかれていない代わりに小さなダイヤがついている。
「聖也くん、これ……」
「お守りがわり。これなら常につけていられるでしょ?学校でも制服の下につけていられるかなって。アクセサリーとかにはうるさくない学校だし」
「そう、だけど…」
「俺は学年も違うし、来年になったら卒業しちゃうから。だから代わりに。たくさんの幸運で、悪いことが近寄って来ませんようにって」
嬉しい、けど…。たぶんそれ以上の意味があることを、知らないんだろうな。
でも一応今聞いておかないと、この先それを確認することを忘れてしまいそうだから。
あえて、聞いてみる。
「ありがとう、なんだけど…………聖也くん、さ……四つ葉のクローバーの花言葉って、知ってる…?」
「花言葉?葉っぱに意味があるのは知ってるけど…」
思った通りの言葉に、小さく苦笑して。でも知らないのに、こんなにピッタリなモチーフを選んだ聖也くんは本当にすごいと思う。
「四つ葉のクローバーにはね、クローバー全体の花言葉も合わせて五つ意味があるの」
「そんなにあるの?」
「うん。それはね…」
私を想って、私のものになって、幸運、約束。
そして、復讐。
「え……」
「なんか、もう……ふふっ…知らないで選んだとか、思えないくらいなんだけど」
けどきっと、本当に何も知らない。だって今目の前で目を真ん丸に見開いている顔が、その何よりの証拠だから。
「うん、約束するよ。ずっと聖也くんだけを想って、いつか聖也くんのものになるから。一緒にいられれば幸せだから。心配しなくても裏切ったりなんてしない。だから復讐なんて考えなくていいからね?」
流石に恥ずかしくて、最後はちょっと茶化すようにそう言ったけど。
でも全部、本心だから。
私はきっとこれを素直に受け取って、聖也くんが望む通りずっとつけていればいい。そしたらきっと、安心させてあげられる。
そう、思ったんだけど。
「……いや…違う、かな」
小さな呟きが落とされて。
「復讐は、愛ちゃんに、じゃなくて。これをつけてる俺の愛ちゃんに、何も考えずに手を出してきた男に、かな」
その、声に。言い方に。
なんだか、ぞくりとしたものを感じて。
今初めて、聖也くんの優しいだけじゃない部分を見たような気がした。
「せー、やく…」
「ね、愛ちゃん。そういう意味があるなら、今俺が付けてもいい?」
「え?あ、うん…」
こちらを見る聖也くんは、いつも通りに戻っていたけど。それでもさっきのあれは聞き間違いでもなんでもなくて。
だってほんの少しだけ、男らしい聖也くんにもときめいてしまったから。そんなこと、今口にすることじゃないから言わなかったけど。優しい"王子様"じゃない聖也くんにも、今度からドキドキさせられそうな予感がした。
これにて「最強王子と騎士姫様」完結となります!
五十話という長さをお付き合いいただき、本当にありがとうございました!!
次はあとがきとなりますので、興味のある方はそのままお進みください。
ちなみに最後に、小さなお知らせも載せておきます。
それではまた、どこかでお会いしましょう!!




