8.最低なこと -聖也視点-
「俺……最低だ……」
「は…?ようやく風邪治って登校してきたかと思ったのに、朝から元気ないから何事かと思えば…昼休み開口一番何言ってんだ?」
呆れたような声で言われて、ちょっと冷たい…って思ったけど。そうだよね、何も話してないのにいきなりそんなこと言われても困るよね。
あとなんで説明口調なの?あ、ずっと疑問に思って心配してくれてたの?うん、ごめん。ありがとう。
ありがとうついでに、俺の話、ちょっと聞いてくれないかな?
「俺…………愛ちゃんのこと…ベッドに引きずり込んじゃった……」
「はぁ!?いやいや何してんのお前!?はっ!?いやむしろ、王子にしてはよくやったんじゃ…!?」
「よくないよ…!!あんなことっ……寝ぼけてしていいことじゃないっ…」
「え?寝ぼけてって……まさかお前、ベッドに引きずり込んだって…そういう男女の色っぽい話じゃなく…?」
「そんなことするわけないでしょう!?」
「えー?なんだよそれー。てっきり王子も男の子だし、溜まってたのが我慢できなくてついにお姫様食べちゃったのかと…」
「食べてない!!そんなこと寝ぼけてしてたら、俺今頃学校来てないよ!?」
「あ、食べるっていう表現は通じるんだ?」
「俺のことどういう風に見てるの!?」
「友達」
「そっちじゃなくて…!!」
「王子」
「そのイメージ分かりにくいよ…!!」
人が真剣に悩んでるのに、なんでそんなはぐらかすようなこと言うかな!?
「いや、悪い…なんか、こう……振り回されてる王子って珍しくて、つい…」
「お願いだから真面目に聞いて…」
「むしろ真面目にお姫様食べたんだと思ってたんだけど?」
「流石にそういうことしたいと思ったことはまだないなぁ…」
「は?ないの?」
「ない」
「…………王子の性欲、どうなってんの…?」
「どう、って言われても……だって愛ちゃんだよ?俺がどうこうよりも、他の男から守ることが最優先で…」
「あー……そっか、お姫様だもんなぁ…お前までそうなったら収集つかなくなるのか」
「うん。キスしたいなぁとは思うけど、それ以上は今はまだいいかな。それより先に色んな所に連れて行ってあげたいし」
「それ、世間一般では献身的って言うんだぜ?知ってたか?」
「一般論とかはどうでもいいかな」
「はぁ~…言うねぇ」
だってそうでしょ?周りがどう思おうがどう言おうが関係ない。俺は愛ちゃんが笑顔でいてくれるのが一番なんだから。
そう、それが一番、なのに…。
「うお!?また暗くなってきた…!?」
「俺……愛ちゃんのこと怖がらせちゃったかも……」
「は?」
「嫌われたかも……」
「いやいや、何言ってんの?普段通りじゃん?お姫様お前の隣で笑ってるじゃん?」
「でも、俺……酷いこと、した……」
「え、ベッドに引きずり込んだのが?…あ、もしかしてそれ以上に何かあったのか!?」
「……うん…」
「ちょっと待て、理解が追い付かない。なんで彼女を美味しくいただこうと思わないのにそれ以上があるんだ…?」
「寒かったの…」
「…は?」
「寒かったから、つい……」
「いや、悪いんだけどさ。このあったかい時期に寒いとか何言って……あぁー!?もしかして熱のせいか!?引きずり込んだのもそのせいか!?」
「うん。無意識で……」
「無意識で好きな女の子引きずり込んだかー。そっかー。……いやすげぇなおい」
うん、分かってる。性欲そこまでない癖にそれはするのかっていう顔をしてるのは分かってる。分かってるんだけど、ね。
「愛ちゃんだっていう認識は、朧気ながらあったんだけど…それよりも寒くて仕方なくて、あったかいからつい…」
「引きずり込んで抱き枕にしたわけか」
「だけ、だったらまだよかったんだけど…」
「え、何?それ以上になんかあんの?」
「…………服の下に、手、入れちゃってた……」
「うぉぉ!?そ、えっ…王子が…?王子がお姫様にそんなことしてたの…!?」
「してた…」
「無意識で?」
「無意識で」
「…………いや、ホントすげぇな…ある意味感心するわ」
「しないでよ、そんなことで。……はぁ、もう…俺ホント最低……」
よりにもよってなんでそんなことしたかな、俺。一番やっちゃいけないことじゃん。そりゃ愛ちゃんも拒絶するよ。嫌がるよ。ダメって言われるよ。ダメに決まってる。
「え、ちなみに…どこまで触ったわけ…?」
「……分かんない、けど…たぶんお腹だけ、かな?」
「…………は……?それだけでそんなに凹んでるわけ?こんなに長い時間?え?何?王子はホントは馬鹿なの?」
「酷くない?」
「いやだって…それ別に、問題になるような場所じゃねぇじゃん。っつーか、お姫様本人は気にしてないんじゃ…」
「そんなの分かんないじゃん!」
「いや、悪いけど俺にはそんな素振りがあったようには見えないんだよな。少なくともあっちは平常運転だし」
「でもっ……でも、あの時……」
怖がらせちゃったかもしれない。
だって愛ちゃんきっと、あれでも必死に抵抗してた。肩とか押された気がするし、腕だって掴んでた気がする。
なのに、俺…………
「そういう風に、男だって意識させないようにしてきたのに……」
「あー…まぁ、なぁ…どうやったって力ではかなわないもんなぁ…」
「そうやって腕とか掴まれて、無理やり連れて行かれそうになって怖い目にいっぱい遭ってきてる子だって、分かってたのに……!」
「…………いや、本気で怖いと思った相手の隣にいて、あんな風に笑えるか…?」
「無理させてるかも、しれないじゃん……」
「えー、そうくるかぁ……。じゃあなんだ?お姫様から離れるか?」
「やだ!!そんなことしたら愛ちゃんが…!!」
「まぁたぶん、そこら辺で男に襲われて終わりだろうなぁ」
「だからダメ!!せめて、ちゃんと、傍にいて…守らなきゃ…」
それは俺の願望でもあるから。あの子を守るのは、いつだって俺でありたいっていう。
「はぁ…ホントお前らの関係って、難儀だよなぁ…。普通のカップルなら、その時点で最後までいってるだろ」
「普通、なんて…そんなの、どうでもいい」
「ま、だろうな。…で?どうすんだ?いっそ土下座でもして謝り倒すか?」
「今更あの時のことを思い出させたくない……」
「いやでも、本人が怖がってたかどうかは知っておくべきじゃないか?」
「いい。俺がしたことが最低だってことに変わりはないから」
「……女子の腹触っただけで最低とか、王子の発想時折ぶっ飛んでるよな。それ以上のことは平気でしてるくせに」
「それ以上…?」
「いや、なんでもない。で?じゃあお前は今後どうしたいわけ?」
目が覚めて、あれが現実だったと認識してからずっと考えてた。どうしたら今後怖がらせなくて済むのか。どうしたら嫌なことを思い出させなくて済むのか。
考えて考えて、そうして出した結論は。
「愛ちゃんに、必要な時以外極力触れないようにする」
「……はぁ!?お前っ、何言ってんだっ!?」
「記憶って、フラッシュバックすることがあるらしいから。あの時のことを思い出して嫌われたり怖がられたりするのは嫌。俺が耐えられない」
「いや、だからって違うところで我慢するのか?お前が?お姫様にべたべた触りまくってたくせに?」
「うん」
「…………何で間違った耐久レース勝手に始めるんだよ…ホントに馬鹿なんじゃねぇの?」
でもこれが一番問題が起きないと思う。それ以外は今まで通りにするし、休日にだって二人で出かける。髪にも頬にも触れられないのはつらいけど、嫌われたり怖がられたりするよりはずっとましだから。
「いやぁ~、どうだろうなぁ?せめてお姫様とちゃんと話し合ってからの方がいいと思うけどなぁ…」
「嫌なこと思い出させたくないからいいの」
「だからそれ、お姫様はホントに嫌だと思ってたのかね?…っつーか、ホントに王子耐えられるのか?キスどころか抱きしめることも出来なくなるってことだぞ?」
「…………頑張る……」
「うわぁ~……なんか俺、すっげー心配なんだけど…」
ホントは抱きしめてキスしたいよ?あの可愛い声で、俺の名前を呼んで欲しいし。気持ちよくなってとろんとした目で見上げてくるのが、可愛くて仕方ない。
でも、俺のそういう欲のせいであんなことが起きたわけだから。理由がなんであれ、俺が我慢すれば済むことならそれが一番いい。
「勘違いとか、すれ違いとか…なければいいんだけど、な」
「え…?」
「いや、なんでもない」
愛ちゃん……俺、もう、あんなことしないから。だから俺のこと嫌いにならないで?どっか行っちゃったりしないで?俺の前から消えたりしないで。
お願い、愛ちゃん……俺の…俺だけの、大事な大事なお姫様。




