7.ドキドキの先にあったもの
最近、おかしい。主に聖也くんの様子が。
いや、別に普通に会話する分には何も変わらないし、相変わらず一緒に登下校してるんだけど。お休みの日は二人でデー……お、お出かけしてるんだけど。
けど、そこは今まで通り普通なのに。
一切、触れてこなくなった。
「あんなに、べたべたしてきてたのに…?学校でも我慢できなくてキスしてきてたくせに…?」
部屋で一人呟いても、答えてくれる相手なんていない。分かってても、言葉にせずにはいられなかった。
だってあの聖也くんだよ!?なんかもう甘ったるいくらいに、もういいって言いたくなるくらいに優しく見つめてくる人だよ!?
それなのに……
「なんで…?」
学校から帰ってきても、一緒に宿題やって勉強教えてもらって、ちょっとおしゃべりしたり休みの日の計画立てたりして。それだけで、終わり。暗くなる前に聖也くんはいつも帰っていく。
いや、別にそれだけでも十分楽しいんだけどね!?でもほら、この間までいつも、そのっ…な、なんというか……ほら……
「ぅぁっ!?ち、ちがっ…!!べ、別にそういうっ…」
そ、そういうことがしたい、わけ、じゃ……ない、わけでも、ない、ような…そうでもないような……やっぱりしたい、ような……
「うぅ…どうしよう……」
いつもこの部屋で…その、ほら……そういう…キス、を…してた、から……それがないのは、なんか…寂しいというか、変な感じというか、その……うん…。お、思い出すと恥ずかしすぎて悶えるっ…!!
はっ!?いやいや違う。論点はそこじゃなくて!!
一番の問題は、き、キス、してくれなくなったことじゃなくて…お出かけしても手をつないだりとかも全然ないし、そもそも抱きしめてもくれなくなったってとこで。
「私、なんか、した…?」
思い当たる理由が全然なくて、けどどう考えてもその部分だけ明らかに態度が違うし。降るように顔中に落とされてたキスだって、全然なくなって。
もう一人で悩んでても訳が分からなくなってどうしようもないから、お昼休みに空き教室に籠って話を聞いてもらったら…。
「え、それ…一般論で判断していいことなの…?」
なぜか困ったような顔をしてそう言う友人は、明らかに言いにくそうにしていた。
「だって、理由が何も分からなくて…」
「本人には聞いてないの?」
「き、聞けるわけないよ…!!なんて聞くの!?」
「え、普通に。なんで触ってくれないの、とか。なんでキスしてくれないの、とか」
「そっ…そんな恥ずかしいこと言えないっ…!!」
「えーうそー…しのちゃん女の子相手だと、だいぶ凄いこと言ってると思うんだけど…」
「言ってないよ!?」
「自覚なしかぁ…王子先輩もだけど、しのちゃんも大概だよなぁ…」
「同列にされるのなんか納得いかない…!!」
「まぁほら、幼馴染だしさ。多少は似てるんじゃない?」
「あんなに天然じゃないし鈍感じゃないもんっ…!!」
「……いやぁ…それはどうかなぁ…?」
「え、ちょっ…流石に私ちゃんと女の子からの本気の好意は断ってるよ!?」
「あぁ、うん。女の子からの、ね…」
なんで常に含みがある言い方なのかな!?
第一私に近づいてくる男の人は、基本的に、その……どっちかっていうと、犯罪に片足突っ込んでる人ばっかりだし……。それに、先輩たちからの告白はちゃんと断ったよ?流石に告白までスルーするような性格じゃ…………あれ…?でも私、聖也くんの言葉はスルーしてた、かも……あ、あれ…?
「ってゆーかさぁ、その前に何かあったんじゃないの?そうじゃなければちょっと……」
「え、ちょっと…何?そこ濁すのやめて…!?」
「いや、だって……一般的に男子が急に冷たくなるとかって、飽きられた証拠だし…」
「飽き……え…えっ!?」
「でも王子先輩って別に冷たくなったわけじゃないじゃん?あいっかわらずしのちゃんのこと見る目は甘ったるいし」
「うっ…」
「よくあの視線正面から受け止められるよね。普通の女子だったらたぶん失神してるよ?」
「そ、それは流石に言い過ぎ…」
「この間流し目された子が倒れたって話があるんだけど、詳しく聞きたい?」
「…いえ、いいです……」
あぁ、うん…そういえば王子フェロモンとか何とかって、だいぶ前に話したような気がする。
というか、ね?最近聖也くん、前より色っぽくなった気がするの。その、なんか…男の人の色気っていうか…そういう感じの……あぁ、語彙力がない…言葉に出来ない…。
「あぁうん。だってそりゃあそうでしょ。女の子は恋をすると綺麗になるっていうけど、それって何も女の子に限った話じゃないと思わない?」
「え、男の子も綺麗になるの?」
「綺麗っていうか…いや、ある意味王子先輩に限っては綺麗でも合ってるんだけど……」
「ん?あれ…?じゃあ私、なんで綺麗にならないの…?」
生物学的にはれっきとした女子なのに。
「は?何言ってるのしのちゃん。しのちゃんは前から綺麗だし、何なら最近ちょっと色っぽくなったよ?」
「…………へ……?」
「あれかな?王子先輩にめっちゃ愛されてるからかな?アンニュイな感じでため息ついたときとか、色気めっちゃやばいよ?」
「アンニュイ……」
「食いつくとこそっちかぁー。てか、二人とも色っぽくなってるなら相乗効果なんじゃない?」
「相乗効果?」
「そ。どっちが先なのかは分からないけどね。でもまぁ確かに最近の王子先輩は、前にも増して色気というかフェロモンすごいよねー。すごすぎて逆に近づけなくなった人もいるらしいし」
そう。なぜか分からないけど、今度は色気がありすぎて男女とも近づける人が減ったらしく。最近は割と聖也くんの周りは静かなんだとか。
逆に、遠くから見つめる視線は増えたらしいけど。
でもだからこそ尚更ドキドキして…だからこの間だって……って!!
「ああーー!!!!」
「うっわ!びっくりしたぁー…何?急に」
「え、あっ…え…!?もしかして……まさか、そういうこと…!?」
「いや、どういうこと…?」
不思議そうにしている友人の声も聞こえないまま、私は今思いついた考えに没頭する。
そう、この間熱に浮かされた聖也くんとのあれ…!!そうだ。あれがあってからだ。私に一切触らなくなったの。
え、何?もしかして聖也くん、あの日のこと覚えてるの?あんなに寝ぼけてたのに?……うそでしょ…?
っていうか、なんでそれで今こうなってるの…?私別に怖かったわけじゃ…………
「あ、でも…」
「ん…?」
「今思い返してみれば、私……」
拒絶してるっぽい言動じゃ、なかったかな…?
やだって…だめって言っちゃったし……。あれを聖也くんが覚えてるんだとすれば、だ。
「あ、うそ……私、もしかして…やっちゃった……?」
「え、ちょ…気になる単語だけ言うのやめてくれない…!?」
いや、確実にやってしまったっぽい。
だってきっと、あの聖也くんだから。私に嫌な思いをさせたと勘違いしてる可能性が高い…!!
「あ…あっ……ど、どうしようっ…私別に、聖也くんのこと怖いなんて思ったことないのに…!!」
「ちょ、落ち着いて…!!何があったか知らないけど、思い当たる節があるのなら王子先輩に直接そう言いな?前も言ったけど、しのちゃんのこと本気で大切だから慎重すぎるくらい慎重になってるんだと思うし」
「き、嫌われてないかな…?飽きられてないかな?むしろ呆れられてないかな?」
「いやむしろ、向こうがそう思ってる可能性の方が高くない?何かあったから、そのせいで気を付けてるって考えたらすごく自然だし」
「ホントに?そうかな…?」
「いやぁ~…あの王子先輩がしのちゃんを嫌うなんてこと、地球が消滅してもあり得ないわー」
「うぅ~~……」
「だからほら、自信持ちなって。あの人は普通の男子とは違うんだし、何より飽きるくらいならとっくに諦めてたって。ずっと大切にされてきたんだから、そこは信じてあげなよ。ね?」
「う…うん……」
大切にされてるのは分かってる。けど同時に、あの程度で拒絶したと思われてるかもしれなくて。
他の男の人とかだったら確かに嫌だけど、聖也くんなら平気なのに。下心なんてなかったのは分かってるから、触られても全然怖くなかったのに。
「……もういっそ、キスしてってねだってみればいいのに」
「うぇっ!?そ、そんなの出来ないよっ…!!」
「そう?でもしのちゃんにそんなこと言われたら、たぶん王子先輩じゃなくても男ならイチコロだと思うけどな~」
「せ、聖也くんだけで十分です…!!」
「じゃあそう言ってあげればいいのに~」
「うぅぅ~~……」
まさかあのドキドキの先に、こんな問題があるとは思ってもみなかった。
そしてこれが、割と長く尾を引くことになるなんて。
この時の私はまだ、何も知らなかったんだ。




