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最強王子と騎士姫様  作者: 朝姫 夢
その後の二人編
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6.細く見えても男でした

 結局あの後、見事に風邪を引いたらしく。当然学校はお休みすることになったのに、私の下校はきっちり同じクラスの先輩にお願いしているあたり、人の心配より先に自分の風邪をどうにかしろとしか思えなかった。


「つーか俺、王子の家行くの初めてなんだよねー」

「そうなんですか?なんか、意外ですね」

「そ?割と男なんてドライだし、そういうもんじゃないの?」

「え、どうなんでしょう?うちの弟は、よく友達の家に遊びに行ってますけど…」

「へぇー。ま、俺の場合ちょっと家遠いからね。遊ぶんなら家じゃなくて外の方がいいし」

「なんか、すみません…」


 家が遠いと言っている相手に送らせた挙句、プリントまで届けさせて。


「え?あぁ、いいのいいの!だってほら、風邪で弱ってる王子のところに他の奴行かせられないじゃん?っていうかご指名がなければ、争奪戦だったよ?」

「争奪戦……先輩たちのクラスでは、いつも戦争が起こってるんですか…?」

「んー…割と?王子が絡むとみんな目の色変えるんだよねー。ちょっとあれ怖くない?」

「怖いですよね!しかも本人に自覚がないからさらに大変ですし!」

「そうそう!その上一向に気づかねーの!もうホント鈍感とかってレベルじゃないよなー!」

「ですよねー!」


 これは決して悪口ではない。ちょっとディスってるけど、悪口ではないのだ。

 だって事実だし。


「まぁでも、どっちにしろ誰も王子の家知らなかったからね。結局お姫様頼りになる以上、俺以外をあいつが許すとは思えないし」

「……先輩って、割と本当に聖也くんと仲いいですよね」

「んー?うん、まぁ…あれに落とされないっていう意味では、数少ない貴重な人物なんじゃない?」

「その代わりに振り回されてますけどね」

「それはお互い様。…って、あぁ。お姫様は結局王子に落とされちゃったから、もっと大変か」

「うっ……それは言わないで下さい…」


 ちょっとだけ私にダメージが入りつつ、それでも共通の話題があるからか気まずくもならずにおしゃべりしながら歩いていれば、思っていた以上に早くついて。


「あ、ここです」

「ってことは、向かいのこっちがお姫様の家なんだね」

「まぁ、そうですね」

「ホント、真向かいなんだねぇ…」

「いやそんな、しみじみ言われても…」


 会話は続けつつ、高神とかかれた表札のインターホンを押す。


『はぁ~い』

「愛です。聖也くんのクラスメイトの先輩とプリント届けに来ました」

『今開けるから待っててね~』


 おっとりした声にそう言われて、二人その場でしばし待機する。


「…っつーか、今の声王子の母親か!!」

「え?はい。聖也くん姉妹はいないんで」

「マジか。なんかめっちゃ可愛い声してたぞ?」

「可愛いお母さんですよ?おっとりしてて」


 話し方だけじゃなく性格もおっとりで、なおかつ見た目も可愛らしい。高神家に女の子が生まれていないのがもったいない位だ。


「ちなみに聖也くんの天然はお母さん譲りです」

「マジかー……」

「愛ちゃんいらっしゃい!聖也のお友達もわざわざありがとう。さぁ上がって上がって」

「お邪魔します」

「あぁ、いえ…お邪魔します…」


 先輩、なんでちょっと押され気味なんですか。あ、いや…同い年の息子がいるとは思えないほど可愛いから驚いてるのか。


「もう熱だけで咳とかはしてないから、うつることはないと思うんだけど…」

「あ、大丈夫です。プリント渡しに来ただけなんで。他のことはあとで連絡しておきますし」


 思ったより先輩慣れるの早かったなぁ。流石、毎日似たような性格の人間と一緒にいるだけはある。

 なんて思ったのもつかの間。


「そうだ!ちょうどいいからお留守番お願いしてもいい?」

「へ…?」

「大丈夫だとは思うんだけど、流石に病人一人残していくのも心配で…」

「いや、あの…」

「お買い物だけ済ませてすぐに戻ってくるから。お願いね?」

「いや、ちょ…!!」

「いってきま~す」

「いってらっしゃい」

「ちょ、まっ…!!」


 最初からそのつもりだったのか、すぐそばに買い物用のバッグが置いてあったし。長居させるつもりでお茶を出されたんだろうなって思ってたから、私は特に気にしてなかったけど。

 というか予想通りだったし。

 けどまぁ、流石に先輩は違うよねぇ…。


「な……何あれ!?何あのマイペースっぷり!!王子以上じゃない!?」

「まぁ、あの母親から生まれた息子なんで」

「しかもお姫様は慣れすぎじゃない!?何これ!?これがこの家の普通なの!?」

「そうですね、割と。というか、プリント渡すだけなら家に上がらなくてもよかったんですよ?」

「は…!!」

「そもそも流れが自然すぎて気づいてないみたいですけど、わざわざリビングに通されてお茶まで出されるって、長居してねっていう意味じゃないですか。お茶請けまであるし」

「な、んだと…!?」

「私はなんとなく気づいてたんでそのつもりでしたけど、流石に初めての先輩には分かりませんよね」

「わ…分かるかぁ!!っつーか、こえーよここの親子!!何自然と自分のペースに人を巻き込んでんの!?当然のように人を動かすとかマジ何なの!?」

「そういう家系なんでしょうね。無意識でやってるんで最強ですよ?」

「王子のあの行動の源流を見た気がする……」

「年々似てきているんで、そのうち本人が今度は源流になりますよ、きっと」

「マジかよ…じゃあ王子とお姫様の子供もそうなっていくのか…」

「こっ…!?げほっ!」


 い、いきなり何言いだしてるのこの先輩!?突然のことに驚きすぎてむせちゃったじゃん…!!


「あれ?お姫様は王子と結婚するつもりないの?」

「いや、そのっ…そう、いう…わけ、では……」

「まぁでも、王子はそのつもりでいるからねぇ。何があっても手放すつもりはないと思うよ?」

「っ…!!せ、先輩までそういうこと…!!」

「あ、もう本人から言われてるわけかー。そっかー、そうだよなー。あのド直球な王子が言わないわけないかー」

「ちょっ…も、からかわないで下さいっ…!!」

「ほぅほぅ?お姫様はこういうので赤くなるわけかー」

「~~~!!もうっ!!私聖也くんの様子見てきます!!」

「あはは、ごめんって。俺も一緒に行くよ」


 この先輩酷い!!そんなにからかわなくてもいいじゃん!!

 何だよ!!普段振り回されてるからって意趣返しか!?だったら私じゃなくって本人にしてよ!!


「なんでついてくるんですかぁっ…!!」

「いやいや、流石に男の部屋に女の子一人で行かせるわけにはいかないでしょ。常識的に考えて」

「…………先輩、そういうところは聖也くんと似てますよね」

「えー?あーまぁ…女性には優しく大切に、が我が家の家訓の一つだからねぇ…」

「そうなんですか?」

「変?」

「いいえ、全然。むしろ素敵だと思いますよ?」

「…………お姫様も、そういうところ王子にそっくりだよ」

「そう、ですかね…?」


 なんだかんだ、私たちは似た者同士なんだろう。聖也くんも含めて。

 だからきっと、一緒にいるのが苦じゃない。

 からかわれるのは嫌だけどねっ!!


「聖也くん?入るよ?」


 寝ているかもしれないけど、一応部屋の扉をノックして声をかけてから開ける。流石に着替えてる最中とかだったらまずいし。

 そう思って、配慮したのに。


「って、なんで起きてるの!?どうしたの?何か飲み物欲しい?」


 返事がないから寝ているものだとばかり思っていたら、なぜかベッドに腰かけてるし。片手で額を押さえているのはだるいのか、それとも頭痛がするのか。

 でもとりあえずは駆け寄って、何か欲しいものがないのか尋ねている私の後ろから。


「え、何この色気…マジで王子のところに他の奴来させなくて正解だったかも…」


 そう呟く先輩の声が聞こえてきて。

 言われてみれば、まだ熱があるのか赤い顔に潤んだ瞳。気だるげな様子で熱いため息を吐くその様は、普段より色気が駄々洩れしている気がする。

 あ、こっち見た。ってか、寝てたせいかな?目がとろんとしてる。


「なんか……」

「ん…?」

「嫌な予感が、したんだけど……」

「ん~…?」


 焦点が合ってるのか合ってないのかよく分からない目で、ボーっとこちらを見てくる。

 けどごめん。何を言ってるのかさっぱりわかりません。


「あっ…!!」

「え、何ですか!?先輩何か心当たりでもあるんですか!?」

「あ、いや…あははー……えーっと、王子?その予感は当たらないから大丈夫だ。心配しなくていいから、お前はとりあえず寝てろ」


 あれ?先輩は聖也くんの言葉の意味を理解してるってこと?

 ……の割には、ちょっと顔色青くないですか?大丈夫ですか?


「って、うわっ!!」

「愛ちゃんは、俺の、だから…」

「いやうん、知ってるし。別に俺取らねぇから、安心しろよ」


 急に抱き寄せられたと思ったら、そんなこと言ってるし。

 ほらもう!先輩が呆れたような顔してるじゃん!!


「プリント届けに来ただけだから。むしろ俺に頼んだのお前の方だからな?ちゃんとお姫様送り届けたぞ」

「……うん…ありがとう……」


 あぁ、これ…半分寝ぼけてるなぁ…。

 先輩もそれが分かっているのか、仕方なさそうにため息をついて。


「とりあえず他のことはまた後で連絡しとくから、風邪治ったらスマホ確認しとけよ?」

「うん……」

「あといい加減――」


 会話の途中で、突然聞きなれない音楽が鳴り出す。

 何事かと音の発生源を探す私に、先輩は少し申し訳なさそうな顔をして。


「あー、悪い。ちょっと電話」

「あ、はい。大丈夫ですから」

「王子ー、お姫様は抱き枕じゃないからなー?ちゃんと解放しろよー?」

「ちょ、せんぱっ…!!」

「もしもし?…あぁ、うん。大丈夫。…え?今友達の家。……そう」


 言いたいことだけ言い残して、そのまま電話に出てしまう先輩。しかも部屋からも出ていって、あまり会話を聞かれたくない人なのか階段まで下りて行ってしまって。

 いやまぁ、病人の近くで電話っていうのもあれだよね。うるさいかもしれないからね。仕方ないんだろうけど。

 ……あの、いいんですか?部屋に二人きりになるんですけど…?

 ダメじゃないんだけどね?普段は割とこれが普通だし。ダメじゃないんだけど……


「えーっと、聖也くん…?」

「ん……」


 離れてくれないんだよなぁ……。返事はしてるけど、頭はほぼ寝てるんだろうな、これ。


「とりあえず、もうちょっと寝てよう?まだ熱あるし」

「……うん…」

「…って、ちょ!!私まで引きずり込まないで…!!」


 さっき先輩が抱き枕じゃないって言ってたでしょ!?何自然に一緒にベッドに連れ込もうとしてんのこの人!?一緒には寝ないよ!?


「あいちゃん……」

「っ…!?」


 ちょ、っと…やめてよっ……そういう、色っぽい声で…耳元で、名前、呼ぶの……反則だと思う…。


「聖也く…」

「んん~~……」


 あー……これ、あれだな。熱が上がりすぎて、本人は寒くなってるパターンだ。完全に私で暖を取り始めてるな、こいつ。


「ちょっと聖也くん?私は一緒には寝ないからね?ちゃんと布団…きゃぁっ!?」

「いっちゃやー…あいちゃんあったかい~……」

「ちょ、まっ…!!どこ触って…!!」


 油断した…!!

 引きずり込まれた時に、服がはだけてしまっていたようで。聖也くんの手が、私のお腹に直接触れてくる。

 普段から聖也くんは比較的体温が高い方だから、こういう時に熱が上がりすぎてしまうのは昔からだった。だから本当は触れてくる手の熱さから分かるように、私よりも聖也くんの方があったかいはずなのに。本人的には寒くて仕方ないから、人肌に触れてその寒さを緩和しようとしてるんだろう。

 うん、分かってる。行動原理は分かってるんだけど…!!


「ちょっ、やっ…!聖也くんだめっ…!!くすぐった…!!」


 お腹って急所なんだよ!?それを遠慮もなく聖也くんの大きな手で触られたら…っていうか、撫でるなぁ…!!くすぐったいんだよっ…!!

 っていうか待って…!!ちょっとその手上がってきてるんだけど…!?それは流石にダメでしょ!?まずいところに手が伸びようとしてるからぁ!!


「やぁっ…!!聖也くんっ…ダメ、だってばぁ…!!」

「ん~~……」

「ん~じゃない!!寝ぼけてないでっ…ひゃあっ!?」


 だから撫でるなくすぐったいいいぃぃ!!!!

 押し返そうとしても全然、びくともしないし。腕を掴んでみても、片手じゃどうやったって動かせそうにない。

 そうだよね…!!細く見えても男だもんね…!!女の私じゃ力で敵うわけないよね…!!

 しかもこの人、力の使い方が上手いのか見た目以上に強いしね!!そうだったよ、すっかり忘れてたよ!!


「やっ!もっ…!お願いだからっ…!聖也くんっ…!!」

「…………」

「ん~~っ…!!……ん…?」


 と思ったら、急に動きが止まって。今の今まで動かせなかった腕も、簡単に外せる。

 とりあえず服の中に侵入してきてた、このあっつい手を何とかどかして。そのままもぞもぞしつつも、ようやく腕の中から抜け出せた時には、髪も服もぐちゃぐちゃになってた。


「あー……これ、寝ぼけ状態からそのまま落ちたな…?」


 ベッドの上でスース―と寝息を立てている姿に、なんだかどっと疲れが出て。でもとりあえず布団はちゃんとかけておいてあげる。

 本人に何かやましい気持ちがあったわけじゃないのは、困ったことに私が一番よく分かってる。だから怒るに怒れないし、出来ることなら覚えていない方が嬉しい。


「ホント、これだけされて怖いって思わないの、聖也くんぐらいなんだからね?」


 慣れもあるけど、たぶん一番の要因は聖也くん自身がそういう(・・・・)つもりじゃなかったということ。変なことしようとしてるわけじゃないから、恐怖なんて微塵も浮かんでこないわけで。

 でも、ちょっと…違う意味でドキドキしたのは、改めて聖也くんを男の人なんだと意識したからか。それとも急所を狙われるという本能的な危機感か。


「……両方、かなぁ…」


 ただできれば今後はなしの方向でお願いしたい。流石の私も苦笑が零れるよ。

 とりあえず、早く元気になって?で、また一緒にお出かけしよう?

 早く日常に戻ればいいなぁなんて思いながら髪と服を整えて、何事もなかったかのように私も聖也くんの部屋を後にした。






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