3.我慢、させてますか…?
「あ、そうだ。ねぇ愛ちゃん、今度のお休みに去年できたばっかりの雑貨屋さん行ってみない?」
「雑貨…でもそんなに必要なもの特にないよ?」
「雑貨って言ってもね、そこどっちかって言うとアクセサリー系が多いみたいなんだ。ほら、前に服とか靴とか買った時、そういうのも持ってないって言ってたでしょ?」
「言った、けど…」
「だから見に行ってみよう?気に入ったのがあったら買えばいいし、そうじゃなくても見てるだけでも楽しいだろうから」
満面の笑みだけど、今なんか分かった気がするぞ。この買い与え癖は、たぶん母親譲りだ。間違いない。
「あのね聖也くん。私そんなにいろいろ欲しいわけじゃないから、わざわざ見に行く必要ないよ?」
「え?行かない?」
「行かないよ!だって一緒に行ったらまた聖也くんあれもこれもって買うでしょ!?私にお金使いすぎ!!」
「えー?だって折角なら色々揃えて着飾った愛ちゃん見たいんだもん!」
「そっ…!いや、確かに聖也くんが喜んでくれるのなら私も嬉しいけどっ…!でも限度ってあると思うのね!?」
「そうかなぁ…?」
「とにかく!そういうところにはもう一緒にはいきません!!」
じゃないとまた、これも似合うあれも似合うと無駄にお金を使われちゃう。
だから断ったのに。
「そっかぁ……。じゃあしょうがない、俺が勝手に愛ちゃんに似合いそうなもの買ってきてプレゼントするよ」
「……は…?」
「あ、それならついでにちゃんとした宝石のついたアクセサリーも見てこようかな。愛ちゃんに似合いそうな可愛いデザインのお店があったんだよ」
なんで、一緒じゃないときの方が候補増えてるんですかね…?
っていうか、値段の上限上がってません?え、ちょっと怖いんだけど…。
「…………やっぱり、一緒に行く…。だから宝石はやめよう…?」
結局そう、言うしかなかった。
だってちゃんと一緒にいないと、渡されるものの値段すら分からないって怖くない!?この人たぶんそういうところ気にしないからね!?普段使いにダイヤのついたプラチナのネックレスとか渡してきそうだもん…!!ってか、前にちょっといいお店の前通りがかった時に「似合いそうだね」って言ってたのがそれだったからね!?そのままお店に入って行こうとしたのを必死で止めたのは記憶に新しいぞ!?
「なんてことがあったんだけどね?」
「いや、王子先輩の行動力とお金の掛け方が怖いんだけど。あとどうでもいいけど、毎週二人でどこか出かけてるの?この間もデートだったよね?」
その呆れた顔は、私に対してなのか聖也くんに対してなのか。
あ、いや。私たち二人に対してか。そうか。
お昼休みにそんなことを話していたら、友人がふと何かに気づいたかのように首を傾げて。
「てゆーかさ、別にどこか出かけなくてもお家デートでよくない?真向かいなんだからすぐに会えるしギリギリまで一緒にいられるし」
「……確かに…」
「なんでしないの?」
「え?いや、なんでって言われても…」
そういえば毎週のようにどこかに出かけているなと、言われて初めて気づいた。
「まぁね?今まで思い通りに出掛けられなかったしのちゃんのことを思ってっていうのは、なんとなく分かるんだけどね?」
「うん…」
「でも出先だとなーんにも出来ないじゃん?お泊りしてるわけでもないんでしょ?王子先輩よくそんな我慢できるよねー」
「…………え……?」
え、っと……それは、もしかして…そういう意味での、我慢、かな…?
「いや、え…?もしかしてそういう発想とか、なかった…?」
「や、えっと、その……」
流石にこんな教室でそういう話を大っぴらにするのもどうかと思うので、手招きして耳を寄せてもらう。
実は初デートの日、帰りに我が家に寄った聖也くんがうちの両親に付き合ってますっていうのをちゃんと報告したんだけど…その時同時に言ってたんだよね。結婚するまでは子供ができるような行為はしませんって。
いや、私もそこ初耳だったよ?どんな宣言だよって思ったし、何よりいきなり結婚とか言い出したよとかいろいろ突っ込みたいところはあったんだけどね?色々と恥ずかしさが勝って、それどころじゃなかった。両親もポカンとしてたし。
なのにあの男、言うだけ言ってお付き合いの許可だけもらったら満足そうに帰っていきやがって…!!
そういうマイペースさは元からだからどうにもなんないんだよねっ!!分かってるよ!!
「いやいやしのちゃん、そこじゃないし話ずれてるし」
「あ、うん。ごめん」
「えーっと……つまり、王子先輩発信だったってことだよね?」
「うん。あの人割と頑固だし、一度言ったことを破ったりはしないから」
「はー……いやもう、すっごいわ。成人するまでとかじゃなく、だもんなぁ…愛されてるねぇ」
「そ、れは……自覚、ある、けど……」
「だろうね!めっちゃ貢がれてるし!」
「みつっ……あぁ、やっぱりそう思われるよねぇ…ホント、悪い女になった気分…」
「いやいや!そこで落ち込む意味が分かんないんだけど!?むしろ愛情のバロメーターぐらいに思っておけばいいのに!」
「だとしたら重すぎるでしょ」
「否定はしない」
慰めたいのか落ち込ませたいのか、どっちなんだ友人よ。
いや、分かってはいるんだ。私が今まで自由に出かけられなかったことを知ってて、だから不必要だと切り捨ててきたものを、今取り戻そうとしてくれているんだってことは。服とか靴とかだって、同じ年代の女子たちはみんな流行とかチェックしておしゃれしてお出かけしてるんだろうし。だからそういう"普通"を、今からでも経験させてくれてるんだって。分かってはいるんだけど、さぁ…。
「限度って、あるじゃん…?」
「それも否定はしないけど…たぶん王子先輩、ホントにしのちゃんのことが可愛くて仕方ないんだろうね」
「うぅ~~……」
「でもその分キスとか凄そー」
「あぁ、うん。顔中に降ってくるよ?」
「いや、そういうのじゃなくって。いわゆるディープキスとか?」
「え?」
「え?」
そこで二人、顔を見合わせて数秒見つめ合う。
いや、だって……
「ま、って…え、何?その反応、もしかして……」
「そもそも、唇にされたこと……ない……」
「…………はああぁぁぁ~~!?!?」
「ちょ、座って…!!ここ教室…!!」
勢いよく立ち上がったせいで、教室でお昼休みを過ごしていたクラスメイト全員の注目を浴びる。
いやいやちょっと…!!そういう目立ち方したくないんだけど…!?
「ちょっ、しのちゃん来てっ!!」
「え?え!?」
「いいから!!」
そうやって友人に強引に連れてこられた空き教室で、色々と根掘り葉掘り聞かれた結果…。
「ねぇ、それ…王子先輩だいぶ我慢してない?大丈夫?」
「え?え、っと……でも私、別に拒否したりしたわけじゃ…」
「いや、うん、分かってる。分かってるんだけど……うわぁ~…これ私が直接王子先輩に聞けるような話題じゃないじゃんかぁ…」
額に手を当てて一人何かをブツブツと呟き続ける友人に、私はどうしていいのか分からず。でもそんな、じゃあ私からキスしてって強請るのはなんか…恥ずかしすぎて無理だし。第一私自身は別に今の状態に不満なんてないから、これ以上何か、なんて求めてなくて。っていうかむしろ、ちょっと買い与え癖を抑えて欲しいぐらいだし。
でも……。
もし本当に、聖也くんが我慢をしているのだとしたら…。
「別に私、聖也くんのこと怖いって思ったことないのに…」
きっとそれは私のせいだし、今までの私の男性に対する態度や考え方を知りすぎているから、なんだろう。
「それ、王子先輩に直接言ってあげてよ…。たぶんしのちゃんのこと本気で大切にしてるからこそ、慎重すぎるくらい慎重になってるんだと思うし」
「う、ん……そう、だね。そう、なんだけど……」
「別にキスしてって直接言う必要はないと思うよ?ただ王子先輩がそういうことをしたくなった時に、我慢しなくていいようにしておいた方がいいんじゃないっていう話だし」
「そう、いう…こと……」
想像しただけで顔が熱くなっちゃうのは恥ずかしいからってだけで、別に嫌だっていうわけではないんだけど…!!
でも、なんか、その……聖也くんとそういうことするって、想像どころか考えたこともなかったから…!!
うあぁっ…!!片思いの期間が長すぎて、しかもそのまま終わると思ってたから、今が幸せすぎて全然その先のこととか考えてなかった…!!でも漠然と将来は結婚するんだろうなとか思ってた私何なの…!?いやでも、この間だって待っててって言われたし…!!なんかプロポーズの予約とかされたし…!!
でも思い返してみれば、聖也くん以外の男の人ととか考えたこともなくて…。
意識し始めたら、なんだか気になってしまって時折指先で唇を触ってしまう。
ねぇ、聖也くん。もしかして私、我慢させてるの…?
私がちゃんと、気づいていなかっただけで…。
なんて。
「聞けるかぁーー!!」
自分の部屋で布団をかぶって、枕に顔を押し付けて。モヤモヤした気分と一緒に言葉を吐き出す。
私の様子がおかしいことには気づいていたみたいだけど、結局何も聞かずにいてくれた聖也くんが帰り際キスをしていった額にそっと触れて、思う。
「キス、なら……我慢なんて、しなくていいのに…」
聖也くんなら。聖也くんだけは、大丈夫だから。
むしろきっと、私は彼だけしか受け入れられない。
だから。
「どうにかして、本心を聞き出さないと…!!」
まずはそこからだ。
とりあえずこんな話外では出来ないから、たまには家でゆっくりしようと私から誘ってみるのもありかもしれない。
うん、そうだよ。お家デートだってしてみたいって、言えばきっと叶えてくれるから。
……甘えてる自覚?びっくりするぐらいあるよ?でも今はそれを逆手に取ることにするんだから…!!




