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最強王子と騎士姫様  作者: 朝姫 夢
王子様編
31/51

6.あの子を守るのはいつだって…

 誰かが言っていた。女の子はみんな誰かのお姫様なんだって。

 それを聞いたとき、愛ちゃんが俺のお姫様だったらいいのになぁ、なんて。純粋に思っていたのは、いつのことだったんだろう。

 でもだからつい、言ってしまったんだ。俺の、なんて。

 でも思ったのは本当だよ?お姫様姿の愛ちゃん、俺見てみたいし。むしろ俺しか見れなくていい。他の男になんて見せたくない。

 少しだけ焦ってるように見えたその姿が、意地悪かもしれないけどなんだか少し嬉しくて。少しずつでいい。俺を意識してくれたら。ゆっくりでいいからって。そう、思っていたのに。


「あ…」


 体育館での通し練習の時、入り口付近に愛ちゃんの姿を見つけて。どうしたんだろうと思って声をかけようとしたのに、先生に用事があっただけなのかすぐにいなくなってしまって。それだけ、だったけど…なんとなく一度も目が合わなかったことが気になった。学校とはいえ幼馴染だということは知られているから、廊下で会った時なんかは必ず頭を下げて軽く挨拶してくれるのに。それが今回に限って何もない、なんて。いくらステージの上にいたからって、目が合わないなんてことあるんだろうか?


「王子ー?どしたー?」

「あ、いや……なんでも、ない…」

「ふーん?」


 かけられた声にそう答えたけれど、本当は不安で仕方がなかった。もしかして無視された?いやでも、朝は普通だったのに?

 結局答えは分からないまま一緒に下校して。でもその時には普通だったから、きっと急いでいたんだろうと勝手に結論付けた。もし本当に何かの理由があって避けられていたんだとしたら、たぶん俺立ち直れないから。だからあえてそこは聞かなかった。

 でも本当にそのくらいで、文化祭当日までは順調だったんだ。まさか本番前になって、問題が起きるなんて思ってもいなかったから。


「王子先輩はいますか…!?」


 聞こえてきた切羽詰まったような声の主に心当たりがあって。何となく嫌な予感がしながらその子の元に駆け寄れば。


「先輩っ…!!しのちゃんがっ…しのちゃんがっ…!!」


 ぼさぼさの髪のまま、今にも泣き出しそうな顔でその子が口にするのは俺の大切な女の子の愛称。その様子と出てきた名前に、嫌な予感が的中したことを知った。けどだからこそ、俺がすべきことは一つだけ。


「どこに、いるの?」

「あっ……お、屋上階段の踊り場にっ…」

「…うん。教えてくれてありがとう。先生にも伝えてからここで待ってて?」

「あっ!先輩!?」


 場所さえ聞いてしまえばそれだけで十分だった。誰が、とか。何人、とか。どういう状況、とか。そんなこと、聞く必要はない。

 だって本来、あの子は強い。俺が助けなくても大丈夫なくらい、強くなった。なのに一番の友人であろう彼女があんなに取り乱して俺にわざわざ助けを求めに来るということは、相当緊迫した状況だったという何よりの証拠。だったら必要なのは今愛ちゃんがどこにいるかという、それだけ。あとはもうその場で何とかすればいい。

 とはいえ、頭のどこか冷静な部分では別のことも考える。今着ているのは舞台の衣装だから、汚すわけにも破ってしまうわけにもいかない。となると、あまり大人数だった場合は最悪色々覚悟しないといけないかな、なんて。別に命を奪いたいわけじゃない。一番いいのは愛ちゃんを連れて逃げることだ。ここが学校である以上、先生たちを頼るべきなのだろうし。

 でも万が一の場合だってある。

 その時は躊躇なんてするつもりはない。俺にとって大切なのは愛ちゃんだけ。他がどうなろうと、知ったことではない。

 そう、だから。

 女の子の尊厳を平気で奪おうとしている姿に、一瞬理性が飛んだ。手加減なんて出来ないまま、襟元を掴んで後ろに投げ飛ばす。壁に思いっきり頭を打った音がした気がするけれど、そんなこと本当にどうでもいい。ただ汚い手で、俺の可愛いお姫様に触ってる男がまだいることが許せなくて。

 だから、落とした。

 運悪く後ろが階段だっただけとも言える。けどこんな狭い場所で殴り掛かってきた相手、投げ飛ばす方が危ないだろう。だから俺がしたのは、ただ拳を避けて少し体を押しただけ。そうしたら派手な音を立てて階段から落ちた。ただ、それだけだ。殺す意思は、なかった。もちろん死んではいなかったけど。

 最後の相手は単純に馬鹿だったんだろう。逃げればいいのに、わざわざ向かってきて。だから少しだけ腰を落として、思いっきり手のひらを前に突き出す。狙ったのは、顎。人体の急所の一つでも強く打ち付ければ、脳震盪でも起こして静かになるだろうと思ったから。

 そうやって全員を静かにさせてから、呼吸ではなく心が乱れているのを落ち着けるために小さく息をつく。

 ようやく目を向けた先。俺の大事な女の子は、胸の前で自分の手首を反対の手で強く握り込みながら震えていた。


「愛ちゃんっ…!!」


 駆け寄って手を伸ばして、そのままぎゅっと抱きしめる。その瞳はまだ、怯えを映していたから。


「ごめんっ…ごめんね、愛ちゃんっ…遅くなってごめんねっ…」


 気を抜くべきじゃなかった。だって今日は一般開放日。どんな人間が入り込んでいるかなんて分からなかったんだから。


「せー、やく……」

「愛ちゃんっ…愛ちゃんっ…!!」


 不甲斐なくて、申し訳なくて。俺が一番にすべきは、この子の身の安全を確認することだったのに。そのために、一緒の学校に通っているのに。肝心な時に俺は一体何をしているのか。どうしてこんな大事なことを見落としていたのか。

 反省すべき点は山ほどある。けどそれは、全部後回しでいい。今やるべきはそれじゃない。

 気持ちを切り替えて、愛ちゃんの顔を覗き込んだ。


「愛ちゃん、怪我とかはしてない?大丈夫?」

「だい、じょぶ……」


 まだ少し震えていて上手くしゃべれないのか、言葉が出てこないようだったけれど。瞳の中にあった怯えは徐々に消えつつあったから、きっとそのうち落ち着くだろう、なんて。思ってた俺の期待は別の形で裏切られた。


「ぃ…いやぁっ!!」


 俺の担任が愛ちゃんに手を伸ばした瞬間、ものすごい勢いでその手を払いのけて縮こまる。両手で守るように自分の腕を必死で掴んで。その姿に今怯えが最高潮に達したのだということと、パニック状態に陥ったのだということに気づく。


「愛ちゃんっ!!」


 急いでその体を目いっぱい抱きしめて、耳元で呪文のように言葉を紡ぐ。


「大丈夫。大丈夫だから…もう怖くないよ。誰も愛ちゃんを傷つけようなんてしてないから。だから大丈夫。落ち着いて」

「ぁ……ぁぁ……」


 けれどこうなってしまえばいつ元の状態に戻ってくるかは分からない。怯えしか映さない瞳は、きっと誰の姿も捉えてはいないだろう。俺の声すら、届いていない可能性の方が高い。


「し、志野崎…?」

「先生すみません、それ以上近づかないで下さい。今この子は、相手が誰だとか分かっていないんです」

「え…」

「高神、志野崎を保健室に連れて行けるか?」


 声をかけてきたのはおそらく、愛ちゃんの担任の先生だろう。この子の特殊性を知っているからか、必ず担任は女性になるように学校側が配慮してくれている。もちろんこの先生も愛ちゃんの両親から話を聞いているんだろう。そうじゃなければ、こんなに落ち着いてはいないだろうから。

 そして、知っているのであれば話は早い。


「保健室に行くまでに何人の男性にすれ違うか分かりません。この近くに使っていい空き教室ありますか?落ち着くまでそこで待機の方が騒ぎにもならないでしょうし、可能ならお願いしたいんですが」

「……優等生たちだからなぁ。まぁ、たまにはお願いを聞いてやらないでもないか」

「ありがとうございます。あとお願いついでにもう一つ。今から言う番号に連絡してもらえませんか?知り合いの刑事さんなので、話をつけやすいと思います」

「お前……よくそう、冷静でいられるな…」

「慣れ、ですかね…?まぁでも、この状態になってしまったこの子には、いつまで経っても慣れませんけど…」


 言葉にすらならない何かを呟きながら、必死に怯えと戦って震える様子は…正直何度見ても胸が痛むのと同時に、己の不甲斐なさや力のなさを痛感する。


「とりあえずそこの家庭科室使え。志野崎のご両親にも私から連絡しておくから」

「ありがとうございます」


 そうして教師の協力の元、空き教室の中で愛ちゃんを抱きしめながら、その頭をゆっくりと撫でていた。


「愛ちゃん……ごめんね…ごめんね?俺が、ちゃんと傍にいなかったから……」


 本番前で出られないのなら、それこそ家族と一緒にいてもらえばよかったんだ。毎年俺や愛ちゃんの舞台を両方の家族が見に来てくれているんだから。

 そんなことにすら考えが及ばなかった。いや、本当に気が抜けていただけだ。だってこの間、あんなことがあったばっかりだったのに。しかも、その三人組だったのに。


「ごめん…ごめんね……もう、俺…こんな思いさせないから……今度からずっと、傍にいるから…だから、愛ちゃん……早く、戻ってきて……」


 俺の気持ちとか、そんなものはどうでもいい。そんなことよりもこの子の身の安全を第一に考えて行動しなければ、後悔だけでは済まなくなる。だってもうこの子は、立派な女性になろうとしているんだから。子供の時とは違う。むしろあの時以上に、きっとこの先男から様々な思いを寄せられる。純粋なものから下世話なものまで、本当にたくさんのものを。

 でもこの子を守るのは、いつだって俺でありたい。一人では限界がある。そんなの子供の時から知ってる。でも学校では、この子をちゃんと守れるのは俺だけだから。


「あ……あれ…?」

「愛ちゃん?大丈夫?俺のこと分かる?」


 ようやく戻ってきた愛ちゃんに一安心して。けれどまだ先ほどの恐怖が完全に抜けきっていないのか、震えは止まっているのに力が入らない様子に胸が締め付けられる。この子はどうして、こんな思いをし続けなければならないのか。どうしてこの子ばかりこんな目に遭わなければならないのか。世の中は本当に不公平だと思う。

 それなのに俺の舞台の心配を真っ先にするとか、本当にこの子はどうしてこう……!!



 ねぇ、愛ちゃん。俺もう、決めたよ。

 本気で、俺に振り向いてもらうから。その隣は、誰にも渡さない。

 俺が必ず、守ってみせる。

 だから。

 もう手加減なんてしないから。覚悟、しててね?





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