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最強王子と騎士姫様  作者: 朝姫 夢
王子様編
27/51

2.募る想いと離れていく距離

 想いを自覚してから早数日。登下校時に話しかけてはみるけれど、一向に反応はなくて。

 いや、無視されているわけではない。ただそっけないというか、本当に先輩後輩というただそれだけの関係性のようで。学校では本当に偶然すれ違った時も、ただぺこりと頭を下げられただけで。すぐに隣を歩いていた友人とのおしゃべりを再開させながら歩いていってしまった。


「俺、本当に意識されてないんだなぁ…」


 日を重ねるごとに俺の中の愛おしさは募っていく一方なのに、そうなればなるほど愛ちゃんとの距離は離れて行く。朝の挨拶も家に着いたときも、あの子はずっと後輩のまま。それが毎日毎日。あの宣言された日から今日まで、一度も俺の名前を呼んではくれない。

 一緒にいる時間は変わらないはずなのに、心の距離だけは確実に遠くなっている。だってもう、どうやって前まであの子に触れていたのかも思い出せなくなってるから。本当は今すぐにでも抱きしめたいのを、必死で我慢しているのに。

 そうやって何もできないまま、進展なんてあるわけもないまま、数か月が過ぎて。秋のバーベキューで名前を呼んでくれた時、どれだけ俺が嬉しかったかなんてきっと君は知らないんだろう。

 「もうっ…!」なんて言いながら少し不満げに頬を膨らませて唇を尖らせて、少し上目遣いに見上げてくるその姿が可愛くて仕方なくて。抱きしめてしまわないように必死に後ろで手を掴んでいたことなんて、知るわけがない。知っていたらきっと、逃げられた。だからこれでいい。俺が、愛ちゃんに自分の勝手な欲を押し付けるわけにはいかないから。そんなの、何があってもしちゃいけない。

 俺はあの子に笑っていて欲しいから。泣かせたくない、傷つけたくない。そのためだったら、俺はいくらでも我慢する。

 だからねぇ、愛ちゃん。笑っててよ。普段も、そんな風に。

 なんて、言葉に出来たらどんなに楽だっただろう。結局それが終わればまた元通り。次は初詣の時までお預けなんだろう。そうやって年三回だけ、俺はあの子の幼馴染に戻れる。その日だけを楽しみに、毎日いい先輩でいようとする俺はきっと…滑稽なんだろうな。だって実際には後退しているわけだから。何一つ、前進なんてしていない。


「愛ちゃん…」


 すっかり日課になってしまった夜の自分の部屋の中から、明かりのついていない向かいの窓を眺めるこの行為なんて。一歩間違えばただのストーカーだろう。

 分かってはいるんだ、そんなことくらい。けどどうしても、ただ純粋に素直な状態の愛ちゃんが見たくて。普段制服を着ている時は何があってもそんな姿は見せてくれないし、用もないのに休みの日に出かけることもないあの子とは会えるわけもなく。

 だからこのほんのちょっとの時間だけが、俺が"本当の"愛ちゃんを見れる唯一だった。


「俺、ほんと…なに、してるんだろ……」


 そんなに会いたいのなら、映画でもなんでも誘えばいい。それは、分かっているけれど。果たしてあの子がわざわざ休みの日に、しかも幼馴染とはいえ男と二人きりで出かけるなんて。そんなの喜ぶのだろうか?

 第一、出先で変な男に出会わないとも限らない。それなのに自分の身勝手な想いで誘うなんて、どうしても出来なかった。


「愛ちゃん……大好きだよ…」


 本人の前では決して口に出来ないから。小さく小さく呟くだけのこれが、俺の本心。伝えるどころか欠片も匂わせるわけにはいかないから。だから必死に隠して、愛ちゃんにだけは気づかれないように。怖がらせないように。

 そんなことをしていたせいだろう。どんどん距離は開いていくばっかりで、何一つ事態はよくならないまま、受験の年になって。そこで初めて気づいたんだ。中学までとは違って高校は自分で選ぶんだから、愛ちゃんと同じ学校に通えるかどうかも分からないんだって。しかも俺は一つ年上だから、必然的に先に選ぶことになる。追いかけてきてもらえなければ、この先登下校を共にすることすらなくなるんだって。

 焦った。今までにないほどに、本気で。

 だって今の俺と愛ちゃんの関係のままじゃ、どう考えたって追いかけてきてもらえるわけがないから。絞ることは出来る。なるべく徒歩で行けるような近くの高校なんてそうたくさんあるわけじゃないから。でも、一つでもない。

 でもじゃあ本人に聞く?どこの高校行きたいの?なんて。まだ受験生でもない子に、なんでいきなり?おかしいでしょ。

 けどそれならどうすればいいのかなんて、分からなくて。でもまだあの子を守るのは俺でいたいから。

 焦りと苦しさでおかしくなりそうになりながら過ごしていた、そんなある日。父さんたちと弟たちが出かけてる間に、母親同士がリビングで会話しているのが聞こえてきた。


「聖也くんは受験生だもんねー。もうどこの高校に行くか決めたの?」

「いくつか候補は絞ってるみたいだけど、まだ一つにはしてないみたい」

「そうなの?うちの愛なんて、制服が可愛いからって言って一年のころから行くところ決めてるのよ?」

「それもいいんじゃなぁい?特に女の子なら大事なことなんだし」

「そうなんだけどねぇ…」

「ちなみにどこ?そんなに遠いところじゃないんでしょう?」

「それがね、私たちの母校なの」

「うっそ~!?何その偶然!!え、もしかしてそこで将来の旦那様とか見つけちゃったりして~!!」

「はいはい、はしゃがないの。まぁでも、そうなってくれたら嬉しいけどね。あの子そもそも恋愛とかできるのか不安だし…」

「あ、うん。まぁ、それは、ね……」


 最後は暗くなっていた母親同士の会話だったけれど、俺にとっては渡りに船だった。両親が通っていた高校なら知っているし、何よりどちらにするか迷っていた二つの内の一つだ。今からそこに決めたところで何も怪しまれないだろう。

 自分の行動が気持ち悪いなと思わなくもないけど、それでもどうしても諦められなくて。だってもう、あの子以外なんて考えられないから。嫌われないように、怖がられないように細心の注意を払いながら、何とかつかず離れずの距離を必死で保っているくらいには。

 けど、それがいけなかったのかもしれない。その年の冬、色々と試行錯誤を繰り返した結果"勉強を教える"という名目でようやく一緒にいられる時間を確保して。そうやって自宅で子供四人で集まって宿題をしていた時に、それは起こった。


「お…わったー!!」

「聖兄ちゃんが教えてくれると分かりやすくてすごく早く終わるね!ありがとう!!」

「どういたしまして」

「じゃあ向こうの家でゲームしてくるー!」

「はいはい、行ってらっしゃい」


 そう言って送り出した愛ちゃんは、またすぐに宿題に取り掛かってしまって。二人を教えながら自分の分を終わらせてしまっていた俺は、手持ち無沙汰になるからとその手元を覗き込む。別に他意はなかった。ただどんな感じかなと、気になっただけで。


「なぁに?」


 だから予想外に近い位置にあった顔に、こちらが驚いてしまう。けど動揺は悟らせないように、なんでもないよと首を振って。さりげなく飲み物を追加するかのように席を立つ。


「愛ちゃんもおかわりいる?」

「うん。あったかいのがいいな」

「ん。待っててね」


 こうやって普通に会話できることが何よりもうれしくて。けどだからこそ顔がにやけないように注意しないといけなかった。だからそれ以上は望んでいない、はずだったのに。


「あら?あの子たちは?」

「ゲームするって向こうの家に行ったよ」

「あらあら。じゃあちょっとお留守番お願いしてもいい?お母さん買い物に行ってくるから」

「うん。行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃーい」

「ふふ。行ってきます」


 なんだかちょっと機嫌が良さそうな母に首を傾げたけれど、まぁ別にいいかと見送って二人分の飲み物を用意する。


「んー…?」


 その途中で聞こえてきた声に、まだお湯が沸かないからと一度戻って。


「どうしたの?どっか分からないところあった?」

「うん。あのね、この問題なんだけど…」


 後ろから覗き込んだ時、ふと嗅ぎなれた懐かしい匂いがして。何も考えないまま、気づけばその肩を抱きしめて首元に顔をうずめていた。

 まずい、と。思いはしたけれど、やってしまったものはもうどうしようもなくて。そしてそれ以上に女の子特有の柔らかさと、久方ぶりの体温のその温かさに離れ難くなる。


「愛ちゃん、あったかい……」


 思わずそう呟いてしまって。何を言っているんだと反省したのは言うまでもない。

 と、いうか。何の反応もない愛ちゃんに逆に不安になる。払いのけるわけでもなく、叫ぶでもなく、けど何か言葉を発するわけでもない。ただ微動だにせず、なんて。もしかして恐怖で声も出ない、とか…?だとしたらショックどころじゃないんだけど…。

 そしてそれ以上に、どうやって離れたらいいのか分からなくて。どうせならこのまま告白してしまおうかと、一瞬自棄になりかけた瞬間。


「ぁっ…」


 電気ポットがカチリと鳴って、お湯が沸いたことを知らせてくる。


「お湯湧いたみたい。飲み物淹れてくるねー」


 それにこれ幸いと、あくまで自然にその場を離れてみせて。宣言通り飲み物を少しだけ、いつもよりゆっくりめに淹れる。何となく今日はジャスミン茶を選んでいたので、お湯に色がつくまで少しだけ待つその間も時間稼ぎになる。

 そう、あくまで時間稼ぎ。さっきの自分の行動を反省するのと同時に、この先どうするかということを考えるための。

 色々とシミュレートして、最悪の場合は謝り倒すしかないよなぁとか思いながら両手にカップを持って。嫌な汗をかきそうなドキドキと共に戻った。

 のに。


「聖也くん、寒いの?私で暖を取るくらいなら、エアコンの設定温度上げるか一枚上に羽織ったほうがいいよ?」


 開口一番こう言われた俺の気持ちなんて、きっと誰にも分からないだろう。

 もちろん安堵はあった。拒絶されるわけでもなく距離を取られるわけでもないという事実に、これ以上ないほど安心したけれど。同時に悲しいような悔しいような、何とも言えない気分になったのは意識すらされていなかったからか。あるいはこんなに悩んでいたことがあっさり受け入れられてしまった脱力感からか。

 ただ、一つだけ言えるのは。

 今のままじゃあ、いつか俺自身が思ってもみなかった行動をとりそうだということ。

 そうなる前に、何とかしないと。今回は大丈夫だったからといって、次回も大丈夫とは限らない。

 だからなるべく、頼まれた時や必要そうな時だけ勉強を教えるようにして。特に寒い季節はあのぬくもりを普段以上に求めてしまいそうだったから、なるべくテーブルを挟んで向かいに座るように工夫したりしたけれど。それもなんだかしっくりこない上に教えづらくて、結局最終的には元通り隣に座ることで落ち着いて。

 結果論から言えば、そんな試行錯誤なんて必要なかった。けどこの時の俺はまだ、そんなこと何一つ分かってなんかいなかったんだ。





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