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最強王子と騎士姫様  作者: 朝姫 夢
王子様編
26/51

1.遅すぎた自覚

 本編を知っている前提で話が進みますので、まだの方は先に本編をお読みになることをお勧めします。

 初めて意識したのはきっと、七五三の着物を着た時だ。周りの子たちよりも白い肌に、ふんわりと柔らかそうな茶色味がかった髪。それに薄い瞳の色がとてもきれいで透き通って見えて。お人形さんみたい、と。あの時初めて思った。

 それから成長した彼女は、今では色はそのままなのにすらっと長い手足にまっすぐ伸びた姿勢。モデルのような体型なのに、女の子らしいというか、その…女性らしい体つきをしていて。だから今度はそういう(・・・・)対象として見られているみたいで、時折彼女に寄って来る男の目つきにイライラする。

 そんな目で愛ちゃんを見るな。男の勝手な欲望をあの子に押し付けるな。

 俺が守らないと、と思ったのは最初は庇護欲だったのか。それともあの時には既に、俺にとって愛ちゃんだけは特別だったのか。今となっては分からないけど、でももう始まりなんてどうでもよかった。


「愛ちゃん」


 呼べば振り返ってくれる。俺だって男なのに何の疑いも持たず、近くまで来てなぁに?なんて。見上げてくるその視線が嬉しくて、一人占めしたくて。きっと愛ちゃんは、目の前にいる男がそんなことを考えているなんて思いもしないだろう。むしろ男として見てくれているかどうかすら怪しい。だって昔から今まで、彼女は何一つ変わっていないから。俺に対する態度も話し方もその視線も、本当に何一つ。

 あぁでも、一つだけある時から変わったんだった。学校に関わる時だけ、俺のことを"先輩"って呼ぶようになって。普段はそんなことないのになぜか敬語で話すようになって。

 忘れられるわけがない。同じ中学に愛ちゃんが上がってきて、それこそ数か月も経たないうちにそう宣言された。周りが色々言ってきて面倒だから、今度からそうしますって。そう言われた時の衝撃、分かる?ずっと仲良くしてた女の子に、幼馴染に距離を取られるんだよ?それを宣言されるって、嬉しいはずがないでしょ。

 だから何とか普段はいつも通りにしてもらえるように…今思えばあれは駄々をこねただけだったかもしれないけど。でも必死だった。なんで必死なのかは分からないまま、けどどうしても全部変わっちゃうのは嫌で。思えばあの時はまだちゃんと自覚してなかったけど、ずっと意識はしてたから。きっと焦ってたんだ。俺から離れて行っちゃうんじゃないかって。大事な大事なお姫様が、俺の手の届かないどこかへ行ってしまうんじゃないかって。だから引き留めた。寂しいからやだって、本当に子供みたいな言い分で。……でも考えてみれば中学二年生なんてまだまだ子供だし、別にいいのかな?

 けどあの時の俺はまだ何も分かってなかった。学校以外なら今まで通りだって、本気で思ってたから。


 そんなわけ、なかったのにね……




「…………」


 夕食後のリビングでテレビを見ながらくつろいでいる家族の横で、俺はソファに座って片膝を立ててそこに頬杖をついていた。視線は窓の外、向かいの家の二階。ちょうどあそこが、愛ちゃんの部屋。まだ電気がついてないから、きっと俺と同じで家族と一緒にリビングにでもいるのか。もしくは今お風呂に入っているのか。


「……っ…!?」


 そこまで考えて、ハッと気づく。何考えてるんだろう、と。まだ小学生の弟がテレビのバラエティー番組を見て笑う声が聞こえて、なんだかここにいてはいけない気がして。訳の分からない感情にため息をつきながら、自分の部屋へと向かう。別に何をするわけでもないけど、なんとなく一人になりたくて。部屋の電気もつけずにカーテンも閉めないままごろんとベッドに寝転がる。


「愛ちゃん……」


 思わず口をついて出たのは、可愛い幼馴染の女の子の名前。可愛くて、でもだからこそ変な男の人に目を付けられて、嫌な思いをいっぱいしてきてる。そんなあの子を守りたくて、ずっと笑顔でいて欲しくて。けどじゃあ、最後にあの子の笑顔を見たのは、笑い声を聞いたのはいつだったのか……そもそも登下校時にしか最近は一緒にいられなくて、学校ではそもそも会うこともなくて。だからずっと、先輩って呼ばれてて。ずっと敬語でよそよそしい。すぐ隣にいるはずなのに、実際にはもっと遠くにいるんじゃないかって錯覚しそうになる。だから寂しいんだって、そう、思ってたのに…。


「あい、ちゃんっ……」


 会いたい。平日は毎日会ってるはずなのに、今無性に愛ちゃんに会いたい。

 会って、普通に話がしたい。先輩なんて、誰に対しても同じような記号みたいな呼び方じゃなくて。ちゃんと俺の名前を呼んで欲しい。敬語なんて距離のある言葉なんて使わないで。前みたいに、普通に話してよ。笑っててよ。どこにも行かないで、俺の前でずっと……


「あ…」


 そこまで考えて、何かを掴めそうになって上半身だけベッドから起き上がれば、途端目の端に映った灯り。窓の外、ちょうど真向かい。その部屋の電気が、ついた。

 まだレースカーテンしか引かれていない部屋の中は、鮮明ではないけれど人の姿は見える。お風呂に入っていたのかパジャマ姿の愛ちゃんがかすかに見えて、自分の部屋だからリラックスしているんだろう。ぐーっと伸びをしている。



「あい、ちゃん……」


 その光景に何かに引き寄せられるかのように手を伸ばして……透明なガラスに指が当たる。そこから先にはどうしたっていけない。まるで今の俺と愛ちゃんの間にある見えない壁みたいで。

 一瞬、呼吸が止まる。ぺたりと手をついた窓からは、冷たくてかたい感触しか伝わってこなくて。だからこそ現実に引き戻された。


「あっ…!」


 なのに。

 その瞬間、ドレープカーテンも引かれてしまって。完全に愛ちゃんの姿が見えなくなる。

 それがまるで、これから先に起こることのような気がして。途端胸が苦しくなる。


「い、やだ……あいちゃん……」


 会いたい…会いたいっ…!いなくなっちゃ、いやだ。俺の前から消えないで。どこにも行かないで。俺……俺、はっ……!


「……すき…」


 ……あぁ、そっか。そうだったんだ。俺はずっと…ずっとずっと、愛ちゃんのことが好きだったんだ…。だからこんなにも会いたくなるし、苦しくなるし、距離を置かれると悲しくなるんだ。


「愛ちゃん……好きだよ、愛ちゃんっ…」


 泣きたくなるほどの愛おしさは、もうずっと前からこの胸の中にあって。けどそれに気づけなかったのは、きっと近すぎたのと…何より俺自身が鈍すぎたから。一緒にいられるのが当たり前だと思ってた。ずっとこのままなんだって。そんなわけ、なかったのに……


「あい、ちゃんっ……愛ちゃんっ…!!」


 ガラスに当てたままだった手を握りしめて、必死にこの胸の衝動を抑えようとしたけど。そんなことで何とかなるくらいなら、今こんな風にはなっていない。

 あぁ、本当に……なんて遅すぎる自覚なんだろう。好きな子に距離を取られて初めて気づくなんて。男女の体格差が明確になってきたこの時期になって、ようやく、なんて。


「嫌われたく、ない……怖がられたくない……」


 あの子は基本的に男という生き物が好きではない。小さい頃からのことを考えれば当たり前なんだろうけれど、だからこそ自分の存在そのものすら、いつか恐怖を与える対象になるんじゃないかって。そう思ってしまったら、怖くて。しかもこんな想いを持った男が近づいてきているなんて知れば、きっと警戒される。もしかしたら二度と笑ってくれなくなるかもしれない。


「それは…やだっ…!!」


 成長は止められない。父さんは背が高い方だし、母さんも決して低くはない。実際今の俺の身長は平均より上。まだ伸びることを考えれば、気を付けないと本当にいつかあの子の恐怖の対象になってしまう。それだけは、どうにかして避けないと。

 考えろ。考えろっ…!!どうしたら怖がられずに済む?どうしたら今より側にいられる?どうしたら…あの子が俺を意識してくれる?

 男であることを前面に押し出せば、きっと怖がられる。だからそれは極力出さないようにして。でも全く意識させなかったら今のままでしかない。焦る必要はないけれど、誰かに横から奪われるのは嫌だ。その前に俺をちゃんと見てもらわないと。

 でも、まずは…。


「ちゃんと、会って……話したいよ…愛ちゃん……」


 そこから、だ。

 だって俺はまだ、スタートラインにすら立てていないのかもしれないのだから。







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