24.最強王子と騎士姫様
「…………は…?え、いや、なに、いって……」
「愛ちゃんが俺以外の男の隣にいるのなんて見たくない。俺以外の男の手なんて、取らないで」
なに、言い出してるの、この人……自分が言ってることの意味、分かってる…?それとも、これすら天然なの…?
「ねぇ愛ちゃん、俺を選んでよ…。この先もずっと…ずっとずっと、俺だけに…愛ちゃんを守らせて…?」
「な、にを……」
「好きだよ、愛ちゃん。大好きだよ。俺は男として、愛ちゃんのことが、好きなの。愛ちゃんは俺にとってたった一人の…大事な大事な女の子だから」
な、に…それ……なんで、そんなこと……なんで、そんなに熱っぽく……だって…だってっ…!!
「な、んで……」
「愛ちゃん…?」
無性に腹が立った。
何も分かっていなかったくせに。ようやく初恋を置いてくる決心をした今になって、そんなことを言ってくるこの男が。今頃熱っぽく囁いてくるようなこの男のことが、どうしても許せなくて。
だから初めて聖也くんの手を、腕を振り払って、後ろへと数歩下がって距離を置く。
私の決意をめちゃくちゃにした目の前のこの男には、一言どころじゃなく言いたいことがあるっ。いや、言ってやらなければ気が済まない…!!
「なんで……何で今更になってそんなこと言うの!?あの時何にも気づいてなかったくせに!!私は聖也くんの特別なんかじゃなかったでしょ!?周りには私より可愛いお姫様たちがいっぱいいるじゃない!!それなのになんで今更…!!人が、ようやく、決意して…!!ようやく、諦めようって…離れようって……そう、思えたのに…!!なんっ…!?!?」
言葉の途中で思いっきり腕を引かれて、なぜかまた聖也くんの腕の中に逆戻り。痛くも怖くもなかったけど、今までにない強引さに驚いて。
「……やだっ…!離れて行っちゃやだよ、愛ちゃんっ…!!」
「っ…!!」
強く抱き込んできているその腕は、何があっても離してくれそうにはない。それなのにすごく、優しくて。あったかくて。私自身が離れられなくなってしまいそうだから、怖かった。だから必死に自分の本心を押し込んで隠し通して、自分にすら嘘をついて来たのに。
意味、なくなっちゃったじゃん……
「ねぇ…ねぇ、愛ちゃん……今更って、言ったよね…?諦めるって…そういう、言い方……俺、期待してもいいの…?」
「そ、れは……」
「少しでもいいっ…ほんの少しでも、まだ俺が、愛ちゃんの心の中にいるのなら……俺を、選んでよ…愛ちゃん……」
耳元で、かすれた声で、そう言う聖也くんの体は…少しだけ、震えていて。こんな聖也くん、初めてで…。
そんなこと、言われて…こんなこと、されて……諦められるわけ、ない。ずっとずっと抑えこんできたものが、涙と一緒に溢れ出してくる。
「そんな、言い方……ずるい……」
「愛ちゃんが俺を選んでくれるのなら、どんなことだってするよ、俺」
知ってる。
だって本当に、何だってしてくれてたから。いつもいつも、私を助けてくれていたから。
大人にさえ、立ち向かってくれた。
そんな人を、好きにならないでいられるわけ……ないでしょ…
「せー、やくっ……すき……好きだよ、聖也くんっ…」
ようやく解放された気持ちのまま、いつの間にか大きくなっていたその広い背中に腕を回して制服を掴む。皺になっちゃうかもとか、そんなこと何にも考えられなかった。ただ縋りついて、零れるままに涙を流す。
「愛ちゃん……。……うん…うんっ……ありがとう、愛ちゃんっ…大好きだよ、俺の…俺だけの、お姫様…」
泣き続ける私をさらに強く深く抱きしめて、聖也くんも私の名前を呼んでくれる。大好きって、言ってくれる。
もうすっかり暗くなってしまったおかげで、きっと今誰かがここを通りがかったとしても私たちが誰なのかまでは分からないだろう。だから私もここが学校で、まだみんなが教室で心配しながら待っていてくれているということをすっかり忘れていて。言い訳できないほど赤く泣きはらしてしまうまで、涙を流し続けてしまった。
結局あの後、案の定みんなに心配されてしまって。けど最後にはやっぱり聖也くんの「大丈夫だから、とりあえずみんなもう帰ろうか?これ以上遅くなると女の子一人は流石に危ないし」といういつも通りの発言で解散になった。やっぱりそういうところ、元からだよね?天然なのは間違ってなかったみたい。
ただ、本当に大変だったのはそこじゃなくて。家に帰ってからの方が問題だった。
「ね?もうやめよう?」
「そ、そんなこと急に言われてもっ…」
今日は高神家の方で遊んでいるらしい弟は家にはいなくて。それを知ってか知らずか、なぜか流れるように我が家に上がっている聖也くん。いや、最近の習性でつい疑問に思うのが遅れてしまった私もいけなかったんだけど…!!
「あぁ、そっか。ちゃんと言ってなかったからダメなのか」
「え?何を…」
「俺の彼女になって、愛ちゃん」
「っ!?!?」
ド直球で来たよこの人!?!?いや確かにさっき付き合ってくださいとか言わなかったけど…!!てか何!?なんでそういう言い方したの!?!?
「だって愛ちゃん、付き合ってなんて言ったらどこに?って返すでしょ?」
「か、返さないよ…!!流石にこの状況でそれは言わないから…!!」
「そうなの?…あ、でも今度のお休みは付き合って欲しいなー。デートしよ?」
「いきなり色々飛ばしすぎじゃない!?!?」
マイペースぶりは相変わらず。けど隠さない分直球すぎてこっちが困る…!!嬉しいけど…!!
「だって愛ちゃん今まであんまり普通に出かけたことないでしょ?大丈夫、ちゃんと俺が守るから」
「そっ…!そ、こは……信じてる、し…疑ってない、から……」
「うん。だから、俺の彼女になって?で、俺とデートしよ?」
「あ、う……は…はい…………」
何だろう。聖也くんってこんなに強引だったっけ…?っていうか、今まで結構抑えてたんだね。今もう何も抑えてないでしょ?言葉や態度での表現もだけど、なんか、こう……目が……ずっと好きって伝えてくるんだけど……あとそのよく分からない色気しまって……お願いだから…。
「じゃあもういいよね?学校でも名前で呼んで?敬語もなしね?」
「だ、だからそれはっ…!!」
「……愛ちゃん…?」
「ひぅっ…!?」
いきなりそれは無理だってさっきから言ってるのに、一向に引く気配がなくて。っていうか…!!耳元で、そんな、囁くように、名前、呼ばないでっ…!!
「俺、ずっと我慢してきたの。そうやって愛ちゃんに距離取られるの」
「だ、ってっ…!そう、しない、とっ…!」
「うん、知ってる。でももううるさく言う人なんていないよ?もしいたとしても、何がダメなの?」
「ち、がっ…!わ、たし、のっ…こころの、じゅんび、がっ…!!」
「じゃあなおさらだーめ」
「ちょっ…!!聖也くん、いい加減、離れてっ…!!」
「やだ。愛ちゃんが頷いてくれるまで、離れない」
「そっ…!ちょ、何してっ…!!」
耳元で話すだけじゃ飽き足らず、抱きしめてきたぞこの男…!!っていうかだから、お願いだからその色気どうにかしてぇ…!!
「ん~~……ホント、愛ちゃんあったかいなぁ…」
「人で暖を取るなああぁぁっ!!」
「えぇ?やだなぁ。そんなのただの副産物だよ?俺がただ愛ちゃんを抱きしめたかっただけ」
「なっ…!?」
「ねぇほら、愛ちゃん。早く頷いて?」
「そん、なのっ…!!」
「あ、いや、やっぱりいいや。そしたらずっとこのままでいられるから」
「なぁ…!?ちょ、それはだめ…!!分かった、頑張るから…!!だから離してぇっ…!!」
「えー?ざんねーん。…けどま、いっか。じゃあ約束ね?ちゃんと名前で呼んでくれないと反応しないからね?」
「うぅっ…聖也くんのいじわるぅ~…」
「そういうの可愛い顔で言われてもなぁ…」
困ったようにはにかむな…!!っていうかその発言は何なの本当にいいぃぃっ…!!!!
「あ、でも約束破ったらその場で抱きしめるからね?」
「え…?」
「だってそうでもしないと、愛ちゃん頑張ってるからって言って逃げるでしょ?」
こ、この男…!!!!これだから幼馴染は…!!!!
「お…鬼ぃぃっ…!!」
「えー。じゃあおでこにチューする?」
「もっとダメなのにしてどうするの!?悪魔か!!」
「だって俺は別にどれも困らないもん。むしろ愛ちゃんは俺だけのお姫様なんだってちゃんと知ってもらいたいし」
「私は平和な学校生活を送りたいのー!!」
「じゃあ尚更知ってもらわなきゃ。俺の大事なお姫様に手なんて出さないでねって言っておくから」
「違う意味で恐怖でしょうが!!何学校での立場有効に使おうとしてるの!?自覚ない癖にそういうところだけ知恵が働くとか聖也くん怖すぎる!!」
「んー……そんなに嫌なら、本気で頑張って?そしたら学校ではしないから」
お互い言質は取った感じで、一見譲り合ったように思えるけど。実際には聖也くんの圧勝だった。
だって学校ではってことは、家や外ではやるよって言外に言ってるわけだから。実際なんか、流れるようにおでこにチューしてきたし。
「もっ…もう離してよっ…!頷いたでしょぉ!?」
「ふふ…うん、そうだね。約束だからね。…ごめんね?愛ちゃんが可愛いからつい」
「っ!!」
もう、ほんと……私きっと、この先聖也くんに勝てる日は来ないと思う…。なんだかんだ、私だって聖也くんのことが大好きなのだ。触れられて嬉しくないわけがないんだから。
その後いろいろあった末に、あんまりにも強いから聖也くんのあだ名がただの"王子様"から"最強王子"になって。そして私は最終的に"騎士姫"と呼ばれるようになっていた。いや、陰で、だけど…。
っていうか、騎士が先に来る辺りなんだかなーと思ったのは…流石に黙っておいた。でも普通姫騎士って言うんだけどね。なんで逆なんだろうね。あとなんか、後輩の女の子たちにものすごくキャッキャ言われるようになったりして、今度は聖也くんがそれに焼きもち焼くようになったりとか。本当に色々あったんだけど。
とはいえまぁ、色々なんか認知された結果二人でいると"最強王子と騎士姫様"って呼ばれるようになった。…なんで私だけ様付き?深くは考えないようにはしたけどね。
「愛ちゃん、帰ろ?」
「うん」
きっとこの先も、ずっと隣には聖也くんだけなんだろうなぁ。だってほら、物語の王子様にお姫様は一人だけだから。私をお姫様だと言ってくれたこの王子様の隣は、きっとずっと私だけのもの。
それで騎士って呼ばれるんだったら、別にもうそれでもいいや。
なんて、ね。
これにて本編は終了となります。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
さて。
次回からは聖也くん側の視点からお送りしますので、そちらも読んでいただけたら嬉しいです。
(※ちなみに自分で読み返してみたら、聖也くん視点の方が個人的にはキュンキュンする気がしました)




