23.踏み出された一歩
なんか、おかしい…。
もうすぐ三年生も卒業するというこの時期、最後のチャンスとばかりにある人は期待を込めて、またある人は吹っ切るために、あちらこちらで告白という一大イベントが毎日のように開催されている。主に聖也くんが告白される側として。
去年のクリスマス前の好きな人がいる宣言から、いつもよりその人数は減っていたけど。それでもやっぱり最後に伝えておきたいという先輩たちから連日引っ張りだこで。だから私も教室で毎日待たされて…は、いなかった。なぜならば。
「好きだよ志野崎さん。王子様の騎士なんかやめて、俺と付き合おうよ」
なぜか、私もされる側になっていたから。
そもそもの始まりは、どうやら去年の文化祭の後かららしく。ずっと女騎士と影で言い続けてきた相手が、実は男に襲われているのを王子様が助けていたんだと広まったみたいで。もちろんそれで聖也くんの評価がさらに上がったうえに、実は強いということも知られるようになって。まぁでも、そうだよね。素人とはいえ体格はほぼ出来上がってる男子高校生三人も相手にしておきながら、傷どころか衣装に汚れ一つつけずに撃退したわけだから。そりゃあ強くてカッコイイ王子様(ハート)みたいになる女子は増えるでしょうよ。ただ逆に意外とそこで目が覚めた男子諸君もいたらしく。で、逆の形で私に対するギャップ萌えなるものが発生していたらしいとは友人談。
っていうか、何だよギャップって。勝手に騎士とか言い始めてイメージつけておいて、それと違うからギャップ萌え?意味わかんないんだけど。
あとこの目の前の先輩も。誰がいつ王子様の騎士になったっていうのか。第一本人にそれ言うのダメじゃない?
最近ではこういう告白のほかにも
「好きです!付き合ってください!!」
というシンプルなものから。
「王子様じゃなくて俺が志野崎さんを守るからさ。試しに俺と付き合ってみない?」
という自信満々なものまで。それはまぁバラエティーに富んだ告白を、ほぼ毎日のように受けているわけですよ。卒業間近の先輩方から。
何これ面倒くさい。
それが私の率直な感想だった。
第一その自信はどこからくるわけ?明らかに私よりも弱いだろうっていう人間が、どうやって守ってくれるというのか。そもそも試しにって何だよ。お試しで弱い男と付き合えって?二重苦しかない未来じゃないか。速攻でお断りだよそんなの。
けど一応相手は先輩なわけで。しかもほとんどが記念告白みたいなものだろうし。だから懇切丁寧にお断りをして、聖也くんが戻ってくる前に教室で机に突っ伏している、というのが最近の日課だった。……いやだな、こんなこと日課になるの。
折角少しずつ登下校以外は聖也くんから離れられるようになってきて、学年が上がるころには必要最低限だけでよくなりそうなのに。そうしたら聖也くんだって受験に集中できるし、いいことずくめだって思ってたのに。幸先がいいように見えたのは本当に最初だけだった。なんか逆に、妙に聖也くんが構ってくるようになって。学校ではほとんど顔を合わせることがないからまだいいけど、家に帰ってからは最近ずっと夕方ごろまで我が家に入り浸るようになった。しかも時折休みの日にまで訪ねてくるようになって。今まではそんなことなかったのに、急にどうしてそんなことになったのか。あれか?なんか感づかれたか?
「ねぇ、志野崎さん。どうかな?」
あぁ……この先輩が王子様なんて言うから、つい思い出しちゃったじゃないか。
というか、そもそも。
「すみませんが、私は先輩のことを欠片も存じ上げません。お名前も知らない方とお付き合いなんてできませんのでお断りします」
丁寧に頭を下げてはいるけれど、分かる人が聞けば分かる。これはただの嫌味も含まれていると。
だってそうだろう。そもそも告白してくるのなら、まず名前を名乗らないと。知らない人についていっちゃいけません、なんて。小さい頃みんな言われたんじゃないの?それが知らない人とお付き合い、なんて。するわけないでしょう、普通に考えて。
「これから知ってもらえればいいから」
「いえ。どちらにせよ私を"騎士"だなんて例える方とは、お付き合いしないと決めているので。申し訳ありませんが失礼します」
多分これ、まともに話してちゃいけない相手だから。知ってもらえればいいなんて言って結局名乗らないような人間、誰が信用できるか。ただでさえ今日はこれで三件目なんだから、そろそろ聖也くんも教室に来てしまう頃だろう。私が待たせるなんて嫌だし、早々に退散しようと頭を下げて立ち去ろうとしたのに。
「待ってよ。君、このままずっと騎士のままでいいの?」
「意味が分かりません。そもそも私は誰かの騎士になった覚えはありませんが?」
「自覚なし?だとしたら王子様も随分と酷いね。君を縛り付けようなんて」
すれ違いざまに腕を掴まれてそんなことを言われる。
はぁ!?ホント何言ってんのか意味わかんないんだけど!?
っていうか、勝手に王子だの騎士だの言い始めたのはあんたたちの方だろ!?こっちはそんなこと考えてもいなかったのに、勝手に呼び始めて勝手に縛り付けてるとかホントに何なの!?しかもその言い草は何!?聖也くんに対して失礼にもほどがある!!
「あのですねぇ…!!」
思わず払いのけそうになって、違うそれはまずいと瞬時に思い直してそのままにしていた手を今度こそ払いのけて。
流石に許せなくて言い返そうとしたのに、その前に後ろから肩に手を置かれて体を引かれて。そのままバランスを崩して、後ろの人物にぶつかってしまう。
「先輩。すみませんがそろそろ暗くなってきたのでこの子を解放してくれませんか?」
今度は何!?と思うより先に聞こえてきた声に、ハッとして後ろの人物を見上げるように振り向いた。肩に置かれた手を咄嗟に払いのけそうにはならなかった時点で、なんとなく誰なのかは予想出来ていたけど、実際は予想とは違ってなんだか怖い顔をしている聖也くんがそこにいて。
「へぇ?王子様がわざわざ直々にお迎えか?けど今は俺と志野崎さん二人で話してる最中なんだよ。邪魔するな」
「おかしいですね。俺にはもう帰ろうとしている女子生徒の腕を先輩が掴んで、無理やり話を続けようとしているように見えたんですが?」
……あ…あれ…?先輩が機嫌悪そうなのは、まだわかる。けど……何で聖也くんまで、そんなに機嫌悪そうなの…?私別に、一人で大丈夫だったよ…??
なんだろうな、このにらみ合い…。怖いっていうよりも、すごく気まずいんですが…。そんなこと、ある?
「女の子をいつまでも騎士にしておくような男に言われたくないね。王子様の方こそ、いい加減その子を解放してあげたら?」
「…………俺、愛ちゃんのことを騎士って言われるの、大っ嫌いなんですよね」
おや、それは初耳だ。あぁでも、だから聖也くんの周りにいる人たちは私をそう呼ばなかったのか。"嫌い"じゃなくて"大っ嫌い"なんて珍しいし、相当なんだろうな。
「そもそもこの子は小さい時からずっと、可愛い可愛いお姫様なんです。第一俺の方がよっぽど騎士ですよ。可愛いお姫様を必死で守ってきた、俺の方が…ね」
「…………。……っ!?!?」
何言い出したこの男ぉぉーー!?!?しかもなんかさらに抱き込んでくるな!!頭を押さえつけるな!!何なのこれどうしてこうなってんの今これどういう状況なのっ!?!?
やばい。混乱しすぎてやばい。ちょっと頭が追い付かないっていうか頭どころか全部追い付いていないんですけど…!!!!
「王子様の方が騎士って…なんだよそれ。そんな…」
「信じられないのなら今ここで証明してみせましょうか?少なくとも先輩くらいなら片手で十分押さえつけられますけど?」
ぼ、暴力反対…!!
っていうか何?本当にどうしたの?いつもだったらそんなこと言わないのに…。
「い…いらねぇよそんな証明…!!…チッ。もういい」
聖也くんの本気が伝わったのか、それとも怖くなったのか。どっちなのかは分からないけど、先輩はようやく諦めてくれたみたいで。遠ざかる足音に、ようやくこの訳の分からない状況から解放されるとホッとした。
のに。
「愛ちゃん……」
「あ、えと…遅くなってごめん、なさい。あと、ありがとう……ん…?」
もう放してもらえると思っていたのに、なぜか一向に腕の力は緩んでいかなくて。でもこれちょっと、話しづらいんですよ。頭押さえつけられてるし。
「ねぇ、愛ちゃん…もう俺、これ以上こんな思いするの、嫌だな…」
「え、っと……」
「もう、無理だよ……」
「あ、の……なんの、話を…」
「うん、だからね……俺、決めたんだ。もう、待つのはやめる」
いや、急によく分からない決意表明をされても…。
そう思った私は、次の聖也くんの言葉で本当にしばらくフリーズしてしまうことになるとは思わなかった。
だって……
「俺の…俺だけのお姫様になってよ…愛ちゃん……」
そう、耳元で熱っぽく、囁かれてしまったから。




