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22.王子様の不機嫌な一日

「ねぇ、しのちゃん。王子先輩、なんかあったの?」

「え?なんで?」

「さっき見かけた時、なんかこう……ちょっと、機嫌悪そうに見えたから」

「先輩が?今日バレンタインなのに?」

「いやむしろ、チョコもらいまくるあの人にとって今日はいい日なの…?」

「え?う~~ん……でももらうときは満面の笑みだよ?」

「いやいや、去年好きな人います宣言してたけど!?それで満面の笑みなの!?ダメじゃない!?」

「あぁ……じゃああれかな?その好きな人からもらえていないから不機嫌ですっていう体?」

「王子先輩ってそんな器用なこと出来るの?」

「…………出来ない、ねぇ……」

「だよねぇ…」


 もしかしたらクリスマス以上に女子にとっては一大イベントかもしれないバレンタイン。今日という日のために用意されたたくさんの本命を、知らずにもらったりそのまま告白されたり。毎年そういう状態だったけど、だからと言って特に不機嫌になることはなかったはず。今朝も別に…………あれ?そういえばみんなに渡す友チョコを紙袋に入れてるって言った後から、少しだけ様子がおかしかったようにも見えたけど…。でもあれ、たぶんバレンタインを忘れてただけだと思うんだよね。思い出してハッとしてたんだと思う。珍しく何か考え込んでいたみたいだし、大量のチョコをどうやって持って帰ろうか考えてたんじゃないかな?

 でもそっか。考えてみればクリスマスの告白大会を止めるために、好きな人がいるって公言してたんだっけ。ほんとかどうかは知らないけど。でもまぁ、それを言っても次から次へと渡されるチョコに、もしかしたら少し辟易しているのかもしれない。よかった。私今年渡すのやめといて。


「あ、そうだ。これ」

「え!?いいの!?」

「うん。みんなの分作ってきたんだ。って言っても、ただの生チョコだけど」

「手作り!?うわ嬉しい…!!ありがとうしのちゃん…!!」

「いいえー」

「私もみんなに買ってきたの!お昼休みにみんなで食べよう?」

「うん。楽しみにしてる」


 うん、そうだよね。やっぱりバレンタインっていうのはこうやってみんなで楽しむのが一番だよね。私もお昼休みにみんなに渡せばいっかー。

 なんて考えていたら。


「そういえば、本命はあるの?」

「…え!?いやいや、ないない!!本命なんてこの中にはないよ!!」

「そっかー。ま、なんとなくそんな感じはしてたけどね。しのちゃんだもん」

「その言い方はなーんか引っかかるなー」

「うふふ~」


 唐突に聞かれた本命の有無に少しだけ焦ったけど、本当にこの中には本命なんてないから。また元の他愛ない話をしつつ、朝の時間を過ごす。

 そう、本命なんて、ない。一人だけ特別なチョコを買ったりだとか、バイトもしてない身分だからまずあり得ないし。第一今回はみんな同じ生チョコしか作ってないから。あとは家族用のチョコもあるから、家に帰ったら別のものを作るつもりではいるけど。そういう特別じゃあ、ない。本命なんて、作ってすらいないんだから。あるわけが、ない。

 だからお昼休みに宣言通りみんなにチョコを渡して、さらに放課後聖也くんへの告白大会が終わるのを一緒に待ってくれていた先輩にも渡して。そうして空になった持ってきていた紙袋を帰りに聖也くんにあげたんだ。流石に手で持って帰るのには大変そうだったから。

 なのに。


「…………そう……。うん、ありがとう」


 なんか……ホントに機嫌悪いぞ…?なに?何があったの?私はちゃんと教室で待ってたし、なんか怒られるようなことをしたわけでもない。一体何があったらこんなになるの…?


「王子ホント、今日一日不機嫌だよなー。そんなにかー?」

「そんなに、だよ。分かっててそういうこと、聞く?」

「あー……まぁ、ほら。まだ終わってないからさ。可能性はあるかも、じゃん?」

「……本当にそう思ってる?」

「…………ごめん……」


 なんか、先輩は事情を知っているらしい。そっと顔をそらしていたけど…もしかして進路のこと?いやでも、勉強は授業だけで理解しちゃうほど出来るのが聖也くんだしなぁ。とはいえなんか口出ししにくい雰囲気だから、なんとなく後輩の私たちは黙って成り行きを見届けるしか出来なくて。


「と、とにかくもう帰ろうぜ?な?暗くなってきたし、女の子に夜道を歩かせるのは危ないからさ」

「先輩、その中に私は含まれてますか?」

「いやいや何言ってるの?ここには女の子二人いるでしょう?そうじゃなかったらあと誰を入れるの」

「あ、よかったです」

「というか君が一番危ないんだよ?夜道一人で歩く可能性があるんだから」

「…………先輩、あれですね。割と紳士だけど、ちょっと天然入ってますね?」

「いやいや!流石にどっかの王子みたいに送ってくよとか俺言わないからね!?」

「言ったんですか?」

「言わなくても実践してるじゃん!」


 それは真向かいの家だからですよ、先輩。反対方向だったらきっと流石の聖也くんでも言わないと思います。なんて、二人の会話を聞きながら思った。

 なんか、無言のままの聖也くんが怖いけど。とりあえず先輩の言う通り暗くなるし帰ることにして。他の人にも紙袋をもらったのか、たくさんのチョコが入ったそれをいくつも下げながら無言で歩き続ける聖也くん。そしてその横を歩く私。

 …………いや、気まずいでしょ。こんなの。

 ちらっと横目で盗み見た表情は、なんだか本当にずっとむすっとしていて。私そんなにいっぱいのチョコもらって不機嫌になってる人初めて見たよ?普通喜ぶものじゃないの?その顔はもらえなかった人がするものじゃないの、ねぇ?


「あの……ホントにどうしたの…?何かあったなら話だけでも聞くよ?」


 家の目の前まで来てから、思い切ってそう切り出してみる。道中じゃ話しにくいことかもしれないから、家の中なら大丈夫かなと思ったんだけど…。


「別に……」


 ……え…えええぇぇー…?何その言い方ー…初めて聞いたんだけどー……。聖也くんでもそんな風に言うことあるんだ?…っていうか、そんな風に言うくらい言いたくないってことなのかな?だとしたら無理に聞き出すのも悪いし、こういう時は早く一人にしてあげた方がいいのかも。


「そ、っか…うん、わかった。じゃあ、またね」


 なんかちょっと、話してもらえないのはショックだけど。仕方ないよね。先輩は知ってるみたいだから、そっちには相談してるのかもしれない。それならまぁ、一人で抱え込んでるわけでもないだろうし。いいの、かな?

 だから気を遣ってさっさと家に入ろうとしたのに。


「くれないの…?」

「……ん…?」

「愛ちゃんはチョコレート、くれないの…?」


 振り向いた先で、なんだか寂しそうな悲しそうな顔をしてそんなことを言ってくる。


「…………っ…!?!?」


 え、っていうかちょっと待って!?なんでそれ今聞くの!?しかもなんで私に聞くの!?その手に持ってるのは何!?その大量のチョコ持ってる人にこれ以上糖分を渡せと!?


「毎年愛ちゃんが作ってくれるお菓子、美味しくて好きなのに…」

「え、いや…」

「今年は何を作ってくれるのかなって、楽しみにしてたのに…」

「え……えええぇぇー…?」

「友達にはあげてたのに、俺にはくれないんだね…」

「いや、だって……流石にその量もらってる人にあげるのはどうかなーって思って…」

「でも去年もくれたよね?」

「そう、だけど……」

「期待、してたのに……みんなはもらってるのに俺だけもらえないなんて……」


 ……あっれ~…?そんなに甘党だったっけ…?っていうか、いくら好きだからって催促するか普通?

 とは、思うものの。確かに去年あんなにみんなで遊びに行ったのに、一人だけ仲間外れっていうのも…気分はよくない、よね。………………あ、れ…?もしかして……


「それで今日、機嫌悪かったの…?」

「うん…。俺だって愛ちゃんの手作りチョコ欲しい…」

「っ…!!」


 ちょっ…何だそのド直球…!?流石にチョコ欲しいって直接言われたのは初めてだぞ!?なんなのこの男!?それを今日この日に言う!?そんな、勘違いさせるようなこと…!!


「だめ…?」


 しかも引く気は一切ないな!?なんだそれ!そんなに食べたいのか!?両手いっぱいに抱えきれないほどのチョコを持ちながら!?


「ねぇ……愛ちゃん…」

「ちょっ…!」

「……ちょーだい?」


 な、に…してっ……!!ち、近いんだよ…!!なんでそんな目の前まで来て顔を近づけてくるんだ…!!ま、前髪触れてる…!!まっすぐ覗き込んでくるなこの天然タラシがああぁぁっ!!!!


「かっ…家族に作る分と一緒でよければっ…」


 断れるかこんなの…!!反則過ぎる…!!なんでそこまで強引にねだる!?そんなに楽しみにしてたのか!?!?


「やった…!ありがとう、愛ちゃん」


 すりっと、すり寄ってきた頬に思わず腰が抜けそうになる。こんな、スキンシップ過多……何で、今更……。


「じゃあこれだけ置いてきちゃうから、家の中入って待ってて?すぐ行くから」


 さっきとは打って変わってものすごく嬉しそうないい笑顔でそう言うと、扉の向こうへとすぐに消えていった。

 残された私はしばらくその場から動けなくて。絶対真っ赤になってる顔を見られてくなくて俯くけど、さっきの感触がまだ残ってる頬に手を当てて、反対の手で口元を押さえる。


「な、んなのっ……」


 意味わかんない意味わかんない…!!何でさっき、あんなに真剣な目をしてたの…!!たかがチョコじゃん、いいじゃん別に…!!

 そう、思う一方で。

 嬉しいと思ってしまう部分があるのも、事実。

 いや……いやいや、これは…!そう、あれだ!美味しいって言われたから!たくさんもらってるような人から欲しいって言われるほど美味しいって言ってもらえたから!だから嬉しくなってるだけで!!決して聖也くんに言われたからじゃない!!そう、断じて違う!!

 と、とにかく戻ってくる前に準備して……あ、制服も着替えなきゃ!家族の分だって作るつもりだったんだから、そのついでだし!どうせ余るんだから大丈夫大丈夫!!

 もはや誰に何を言い訳しているのかも分からないけど、とにかく心を落ち着かせなきゃと急いで家の中に入って自分の部屋へと向かう。本当にへたり込んでしまわないように、ちゃんと深呼吸して着替えていつも通りにして…。

 でもどうやったって、さっきのあの聖也くんの視線だけは頭から離れてくれなかった。

 我が家にやってきた聖也くんはすっかり元通り、いつもの笑みを浮かべていて。それがなんだか妙に腹立たしく思ったことは、悔しいから言ってやらない。


 ちなみに作ったのはフォンダンショコラです。あったかいうちに出来たてを食べてもらうのが一番だから、ある意味よかったのかもしれないけど…。それを最初に食べるのが家族ではなく聖也くんだったことに、私は一体何をしているんだろうと疑問に思ったのだった。





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