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21.初詣のお願いは…

「やっぱり毎年この日は人が多いねぇ…」

「つーか、さっむっ…!!こんなに寒かったっけ?」

「年末年始は冷え込むって天気予報で言ってたからねー。はい、ホッカイロ」


 日付が変わる前に家の前に集合して、歩いて近くの神社まで行く。それが毎年の過ごし方になっている我が家と高神家は、今年も例にもれず真夜中の参道を人ごみに紛れながらも歩く。流石に両親たちが学生時代から毎年来ていただけはあって、ちょうど年が明けてからお参りが出来る時間帯をしっかりと把握している。並んだお参りの列の先頭に着く少し前に、年が明けたことを知った人たちがあちらこちらで新年の挨拶をしているのを眺めながら、少しずつ進む。


「とりあえず、新年あけたので。おめでとうございます。本年もよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。今年もまたみんなで楽しく過ごしたいな」

「でも聖也くんは今年受験生でしょう?忙しくなるんじゃない?」

「どう、でしょう?まだそんなに実感はないですね…」

「そういえば志望校とか聞いたことなかったなぁ…聖也は行きたい大学とかもう決まってるのか?」

「大学は今絞ってるところだけど、行きたい学部ならあるよ」


 そういう話題になるんだろうなとは思っていたから、最初はやっぱりなとしか思ってなかったけど。まさかもう既に学部まで決めていたなんて知らなくて、逆になんだか驚いてしまう。考えてみれば当たり前なんだろうけど、そんな話したこともなかったから。


「へぇ?何学部に行くつもりでいるんだ?」

「法学部。法律をちゃんと学んでみたいなって思って」

「それは、また……」

「聖也くんが行くような法学部ってなると、偏差値高そうだな」

「聖兄ちゃん法律学ぶの!?かっこいー!!」

「ありがとう。あ、でも弁護士になりたいとかそういうことじゃないから。ちゃんと学ぶのには大学で専門として履修するのが一番かなって思って」

「将来はまだ何になるか決めてないの?」

「やりたいことというか、目標はあるけど…とりあえず出来るかどうかは、大学に入ってから試してみようと思ってるところかな。先のことはそれの結果次第でまた変わってくるし、その時に考えないといけないことだと思ってるから」

「はー…しっかりしてるなぁ…」


 みんなの会話を聞きながら、私は口を挟むことができなかった。だってまさか、聖也くんが法律を学ぼうとしているなんて思ってもみなかったから。しかも既に大学でやろうとしてることもあって、将来の目標までしっかり立てていて。普段ぽやーっとしてるけど、テストでも模試でも満点で一位を取るくらい頭がいいから。そういうこと、考えてて当然だよね。当たり前なのに、普段の聖也くんとはなんだか別人みたいで。いつものあのふわふわした聖也くんしか私は見てなかったんだなって、なんだか思い知らされた気分だった。そしてちょっと反省もした。時折何にも考えてなさそうとか思っててごめんなさい。


「じゃあお守り買ってくか?」

「それはまだ来年でいいんじゃない?」

「あぁ、そっかー」


 なんてことを話している間にも列は進んでいて、ようやく私たちの番が回ってきた。お賽銭を入れてガラガラと鈴を鳴らしてから二礼二拍手して手を合わせる。毎年のことだからお願いすることはいくつかは決まっていて。みんなの健康とか安全とか、あと今年は無事に過ごせますようにとか。いくつもお願いするなんて欲張りかもしれないけど、やっぱり神頼みでしか出来ないこともあるから。

 けど、今年はもう一つ。新年だし、神様にも決意表明ということで。今年こそ、聖也くんから離れられますようにとお願いする。いつまでも甘えて頼ってるわけにはいかないって、さっきの将来の話も聞いて思ったから。これからはちゃんと、全部一人で解決できるようにならないと。

 いや、一番は何も起こらないことなんだけどね?これだけは毎年お願いしてるのに神様叶えてくれないんだよね…。あれかな、神様でもそれは無理ってことなのかな?だとしたら結構ショックだなぁ…。

 そんなことを考えながらだったからか、一礼したときにはもうみんなお参り終わっていて。待たせてしまった私は慌てたんだけど、なぜかここでも同情的な視線をもらうことになってしまった。だからやめて!?なんでみんなしてそういう目をするの!?確かにみんなが思った通りのことをお願いしてたけどね!?

 もしかしたら毎年平穏無事を祈っていることを、みんなにはずっと知られていたのかもしれない。……いや、普通に考えて分かるか。一番お願いしそうだもんね、私の体験からして。


「はぁ~~…あったまる~~…」

「お参り後の甘酒って、なんか特別感あるよね~」

「御神酒みたいなもんだからな」

「大人たちはホントの御神酒でしょ?」

「新年だもの。ちゃんといただいておかないとね」

「呑みたいだけなんじゃ…」

「ちゃんと呑むんだったらもっとたくさん欲しいかな~。流石に盃一杯だと少ないし」


 大人四人はそれぞれ盃の中身を飲み干してすぐに返していたけれど、私たち子供は紙コップでいただいた甘酒をちびちびと飲み進める。少し残った粒とトロっとした優しい甘さに、じんわりと体が温まっていくこの瞬間は、確かにちょっと特別感があるかもしれない。特にこういう、非日常の中では。


「そういえば愛ちゃんさっきすごく真剣だったけど、何をお願いしてたの?」

「え…!?」


 いや、まさか今それを聞かれるとは思わないじゃん!?そしてまさかあなたから離れようと決意表明していたんですなんて本人に言えるわけがなくて。

 っていうか、そもそもこういうのって…


「言わないよ!?口に出したら叶わないっていうじゃん!なに人のお願いさりげなくダメにしようとしてるの!?」

「え?そうなの?言っちゃだめなの?」

「え、いや…聞いたことないの?」

「うん、ない」

「えー……」


 なんでそういうことは知らないわけー…?頭もいいし知識も豊富なのに、時折抜けているそれはいったい何なの?何が基準なの?ホント、時折分からないんだよねー。

 あれか?迷信的なのは信じてないタイプなのか?


「っていうか、人にそれ聞くならまず自分から話すべきじゃない?」

「え?う~ん……」


 いや、そこで悩む理由が分からないんだけど。


「んーー……やめとこうかな」

「え、ずるい!人には聞いておいて!」

「だって、口に出したら叶わないんでしょ?それは嫌だから言わない」

「わっ、この人ホントにずるいよ!?ねぇちょっとどう思う!?」


 さっきまで何も知らなかったくせに…!!ってか、そんなに叶えたいお願いなわけ!?


「いや愛姉、こっちに振らないで?」

「二人で勝手に話してればいいじゃん。飛び火させないでよ」


 弟たちが冷たい…!!なんで!?新年からこんなド天然の相手はしたくないって!?その気持ち分からなくもないけど飛び火ってひどくない!?

 そんな風に二人を恨めしい目で見ていたら。


「あ、愛ちゃん危ない。人多くなってきたからこっちおいで」


 なんでか、急に、肩を抱き寄せられて。


「…………!?!?」

「お参り終わった人がいっぱい来るから、なるべく寄ってないと。ぶつかっちゃうよ?」

「え、あ、うん…ありがとう……」


 なん、だろうか…これは。神様、私この人から離れたいってついさっきお願いしたばっかりですよね?なんで逆に、こんなに物理的に密着してるんですかね?もしかして神様、最初から私のお願い叶えるつもりないんですか?もしくは最後にお願いしたからですか?


「飲み終わった?」


 手元を覗き込むようにかがんだ顔が、いつもよりやけに近くて。


「あ、うん。終わった」

「じゃあ俺のコップに重ねて?一緒に捨ててきちゃうから」

「う、ん…ありがとう…」


 すぐ近くで笑った顔が、優しいのにやけにキラキラして見えて。

 これ、は…まずい。なんか知らないけど、舞台の上だけのはずの王子様が発動している…。


「二人も。ごみ捨ててくるから」

「サンキュー兄ちゃん」

「聖兄ちゃんありがとう!」

「ん」


 弟たちにも優しく微笑んで、宣言通り一人こちらに背を向けて。身長は高いから頭は見えているんだけど、人ごみの中遠ざかっていく姿がなんだかこのままいなくなってしまうような気がして。そんなはずはないのに、一瞬チクリと胸が痛んだような気がする。

 ……いや、違う。そんなはずはない。だって叶わなかった恋心は、もう去年に置いてきた。だからこれはきっと、何かの気のせいだ。王子様発動中だから、少し心配になってしまっただけだ。うん、きっとそうに違いない。

 だって神様に、ちゃんとお願いしたんだから。離れる努力を、今日からちゃんとしないといけないんだから。

 だからきっと、違うはず。そう、違うはず、なんだから。





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