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20.ゆく年、くる年

「ねぇねぇしのちゃん。しのちゃんって、初詣どうしてるの?」

「私は毎年家族で行ってるよ。人が多いから、基本的に三が日過ぎるまでは家族と出かけるの禁止にされてる」


 二学期もそろそろ終わるころ。またみんなで放課後テスト勉強をしつつ、休憩時間には頭の栄養補給に甘いものをつまみながらおしゃべりをしながら過ごしていた時だった。そろそろ年末だねー。クリスマスも近いねー。みんなで集まって遊ぶ?とかワイワイ計画していたら、ふとそう聞かれて。別に隠してるわけじゃないから素直に答えたら、なんだか微妙な顔をされてしまった。

 あぁ、うん。失敗したかもしれない。


「それって、既にもう何かがあったからそうなってるってことだよね?」

「うん、まぁ……」

「除夜の鐘だけじゃあ煩悩って払えないよねー。スリ以外の犯罪者に遭遇するのって、本当はあんまりないらしいけどね」

「うぐっ…」


 聖也くんのその言葉で、全員が色々と察してくれたらしい。

 だからっ…!そういう同情的な視線を向けるのはやめてっ…!!


「じゃあ一緒に初詣は難しいかー」

「ごめんね?」

「しょうがないよ。悪いのはしのちゃんじゃないし」

「……ってゆーか、なんで先輩はそれ知ってるんですか?」

「え?だって俺も毎年家族で初詣行くから」

「……ん…?もしかして、志野崎家と一緒にってことっすか?」

「うん。なんか両親同士の学生のころからの習慣なんだって」

「昔は合法的に学生が夜中に恋人に会う手段があんまりなかったから、こういうチャンスは逃せなかったんだってさ。まぁぶっちゃけ、ただのダブルデートだよね」


 初詣なのにそんなに煩悩まみれでよかったのかと当時は思ったけど、まぁそういうものなんだろうなと今は思えるようになった。別に恋人いないけど。


「えー!何それなんか素敵ー!」

「素敵、なのかな…?」

「だって年越しの瞬間も一緒にいたわけでしょ?一年の始まりだよ?嬉しいじゃん!」

「そういう、ものなの?」

「え、好きな人と一年の最後と最初に会えるんだよ?むしろ一緒にいられるんだよ?嬉しいでしょ!」

「…??」


 正直よく分からない。そういうもの、なのかなぁ?


「志野崎さんの場合、楽しさとか嬉しさよりも周りへの警戒で疲れそうだけどね」

「確かにー」

「彼氏とかできても大変そうだよね、しのちゃん」

「あ、どうしても一緒に行きたい場合は連れて来いって言われたよ。中学の時」

「はぁ!?!?」

「一緒に…っていうか、彼氏いたことあんの!?」

「え?いや、ないけど…もしもの話で…」

「あ…もしも話か。うっわー、びっくりしたー…」


 え?むしろそこに驚かれるんですか?みんなの中の私って、どういうイメージなんだろう。ちょっと怖くて聞けないぞ?


「……っていうか、今思ったんだけど…しのちゃんって初詣以前に普通のデートとか、待ち合わせからして大変そう…」

「あー…確かに変な男に声かけられてそう」

「家まで送り迎えしないと心配で禿げそうだな…」

「休日とかも一人で出かけさせられないよな、どう考えても」


 ちょっとちょっと!?なんか変な方向に話がそれていっていませんか!?


「うん。だから一人で外出とか休みの日でもさせないようにしてるよ。みんなで」

「みんな!?家族ぐるみで!?」

「正確には志野崎家と高神家の両方で、かな。昔は一人で留守番とかもさせなかったし」

「両家揃って過保護だった…!!」

「んー…でも実際変な人が訪ねてきたこともあったからね。窓とか割られて侵入されても怖いし、誰かが一緒の方が安心できるでしょ?」

「違った…!既に前例があった…!!」

「ちょっ…!ストップストーーップ!!そういう話はいいから!それより休憩終わり!そろそろ勉強再開しよう!?」

「あぁうん、そうだね。じゃあ次はどれやろうか?」


 教える側の人間が乗ってきてくれたおかげで、そのまま話は流れてくれたけど。人の過去をべらべらしゃべるのやめてくれませんかねぇ?一応プライバシーってものがあるんですよ、私にも。

 けど…過去を思い出しながら考えるのは、今年は今までで一番波乱の年だったなということ。こんなに色んなことがあった年は本当に初めてだった。数年に一回あるようなことが立て続けに起こるとか、本当についてなかったと思う。内一つは自分から関わったわけだけど。

 どうせなら除夜の鐘、煩悩だけじゃなくってそういう悪いことも祓ってくれないかなぁ、なんて。そもそも他人の煩悩すら祓えていないものに都合のいいことを考える。とはいえ本当に煩悩まみれの人って、たぶんそもそもつかないとおもうけどね。除夜の鐘なんて。

 でも考えてみれば、本当は聖也くんとは別の高校に進もうと思っていたはずで。それがなぜか、先に私の行きたい高校に通っていたことを入学してから知って。あの時は失敗したと本気で思った。いや、男子の制服なんて着ることないし確認しないからね、普通。とはいえ家から歩いて通えるほど近い距離だったのと、女子の制服が可愛いからという理由だけで決めた場所だったから。…でも、決めたのは中学入って結構すぐだったんだけどな。やっぱり家から近いと候補になりやすいのかな。

 それからなぜか幼馴染が学校の王子様と呼ばれていることを知って、女子だけじゃなく男子まで本気にさせてて。おかげでこっちは何度も睨まれることになって。それが毎日って、これだけでも結構なことだと思ってたのに。なぜか中学時代の知り合い以外にもお姉さまと呼ばれたり、男子高校生達に絡まれたり襲われたり、知らない人に追いかけられて足を怪我したりと、本当にこの数か月だけで色々ありすぎた気がする。

 それに、何より……


「どうしたの?」


 みんなを見送って、弟たちが今日は高神家で友達たちとゲームをしているから、もう少しだけここで待たせてほしいと残った聖也くんに声をかけられて。そこで初めて、自分の考えに没頭していたことに気づく。


「あ、ごめん。なんかちょっと…今年は色々あったなぁって思い出してて…」

「もう十二月だもんね。気分的には四月から始まってるように感じてるけど、実際にはもう一年終わろうとしてるんだよね。どう?高校生活は」

「う~ん…なんか全部が新しいことだから、最初はわくわくしてたけど。今は結構なれたかな」

「そっか」


 新しくあったかいお茶を淹れ直して、カップに注ぐ。立ち上る湯気がどこか穏やかな空気にさせているような気がして。先ほどまでの賑わいがなくなった部屋だけど、寂しいとは感じなかった。


「どうぞ」

「ありがとう」


 テーブルの方に座っている聖也くんの前にカップを一つ置いてから、私もその横に座る。なんとなく、これが定位置になっていて。他の場所に座るとなんだか落ちつかないので、ついいつも通りに座ってしまう。この現象って、何か名前あるのかなぁ?

 そんな、どうでもいいことを考えていたから。


「俺はね、愛ちゃんとまたこうして同じ学校に通えるのがすごくうれしいよ」

「……!?」


 不意打ちで投下された言葉と優しい笑みに、咄嗟に対処できなくて。つい素直にその顔を見つめてしまった。


「愛ちゃんの学力なら問題ないって分かってたんだけどね。それでも何があるか分からないのが受験だし。すごく頑張ってたのも知ってるから、受かったって聞いたときは本当に嬉しかったんだよ?」

「え、あ…うん……ありがとう…」


 流石学校の王子様と呼ばれるだけある。この慈愛に満ちたような微笑みは、正面から向けられると割と破壊力が高い。慣れてるはずの私ですら、ちょっとぐらっときそうだもん。…まぁ半分以上は、頑張りを認めてくれてるってところに、なんだけど。


「だから尚更…あの日、同じ学校の制服を着た愛ちゃんと登校出来て、同じ学校で高校生活を送れるんだって思って、本当にすごく嬉しかったの。また一緒にいられるって」

「っ…!!」


 そう、何より。この、距離感の変化に。前よりも近い真っ直ぐな言葉たちに。ひらすら動揺させられて、ドキドキさせられていた気がする。

 でもそれも、もう今年で終わりにするんだ。来年は聖也くんが受験生になる。きっと大学受験は、高校受験の比じゃないくらい大変だろうから。それに乗じて少しずつ距離を取りつつ、今度こそ違う大学を目指そうと決めていた。ちゃんと、一人で生きていけるように。

 だからこの胸の痛みも、今年に置いて行く。初恋の後遺症でしかないこれは、もう必要ないから。

 ゆく年には、叶わなかった小さな恋心を。くる年には、一人で生きる強さを。それぞれに一つずつ、不公平にならないように。問題なく、入れ代われるように。

 それがきっと、私が次に進むためにしなければいけないことだろうから。






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