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19.クリスマス前のお約束

 結局、全治一週間の軽い捻挫ということで。あれから一応病院に行って、処置してもらってから戻ってバーベキューだけ楽しみました。食べるだけなら動かさないからね。

 けど大変だったのはそのあと。松葉杖をつきながらの登校は大変だからって、途中まで車で送ってもらうことになったんだけど。

 な ぜ か 。聖也くんも一緒だったんですよ。何でですかねぇ?

 そして私の鞄を持って一緒に教室まで来て、さらに帰りは迎えに来るからと念押しして。

 いやまぁ、分かるんだけどね?帰りは自分の脚で帰らなきゃいけないから、荷物を持ってくれようとしてるんだってことは。けど、さぁ?


「じゃあお願いね?」

「は、はいっ…!!しのちゃんが無茶しないように、勝手に帰らないようにしっかり見張ってます!!」

「うん、よろしく」


 人の友人にまで念押ししてくな…!!おかげでこっちは注目の的だよどうしてくれる…!!


「ちゃんといい子にしてるんだよ?」


 ぽんと、人の頭をひと撫でして。そのまま背を向けて自分の教室へと向かっていく後姿に。


「きっ……」


 あ、まずい、と思ったけれど。少し遅かった。


「きゃああぁぁぁっ!!!!王子様あああぁぁぁっ!!」

「かっこいいいいぃぃ!!!!何あれ何あれ何あれー!!!!」

「やだもう頭ぽんぽんされたいいいぃぃ!!!!」


 あぁ、うん。やっぱりね。クラスの女子たちが騒ぎ出すと思ってたよ。だから嫌だったんだあのド天然…!!


「志野崎さん羨ましいーー!!」

「私も王子様の幼馴染になってみたかったーー!!」

「え、じゃあ代わってくれる?ついでにこの怪我も」

「それができるならとっくにやってるよ!もうっ!!」


 うん、そうだね。私もそう思う。出来るならとっくに幼馴染やめてる。まぁその場合、私は今きっと無事にここにはいられなかっただろうけど。

 なんだか必要以上に騒がしくなってしまった教室に申し訳なさを感じつつも席について、これからまた広がるであろう噂を考えると憂鬱になる。きっと前以上に同情的な目で見られるんだろうなぁって…考えると嫌になるよね、ホント。


「しのちゃん今年厄年なの?」

「いや、まだ先だと思うんだけど。っていうか、その場合同じ年齢の女子全員厄年だから」

「そうだけどさー。でもなんかちょっと…短期間に重なりすぎじゃない?」

「それは思う。けど自分ではどうしようもないし。もっとうまく回避する方法考えないとだなぁ…」

「え?ずっと王子先輩と一緒にいればいいんじゃないの?」

「い・や・だ!違う面倒ごと増やしてどうするの」

「でも……」


 ちらりと廊下へと向けられた視線が何を意味しているかなんて、言われなくても分かってる。


「王子先輩は、そのつもりだよね?心配性っぽいし」

「それは知ってるー…だから困ってるの」


 だってこれじゃあ、離れられない。折角人が決心したって言うのに、向こうからやってくるんじゃ逃げられないじゃないか。ずるずると引き延ばしていてもいいことなんか一つもない。現に今まさに、そのせいでこうなっているんだから。

 けど。


「この時期は先輩特に遅いだろうから、待ってたくないんだけどな…」

「え?二年生ってなんかあったっけ?」

「あぁ、違う違う。ほら、クリスマスまであと一か月ちょっとでしょ?毎年のお約束というか、何というか…」

「……もしかして、告白?」


 流石我が友人。すぐに答えに辿り着くなんて、伊達にあの男の現状を見てきたわけではない。……ん?あれ?これいい方向の知り方じゃないな。


「まぁね。なんかこう、この季節はみんな浮足立つみたい。あと多いのがバレンタインと文化祭前かなぁ?けどこの時期がダントツで多いよ」

「それは……放課後、忙しいね」

「でしょ?だから先に帰りたいんだけど…」

「それ後で怒られない?」

「…………」


 黙り込んでしまった私に何かを察したらしい。ポンと肩に手を置かれて、少しだけ同情的な視線を向けられる。

 や、やめてっ…!!友人にまでそんな目で見られたくないっ…!!

 とはいえ、だ。実際一日に一人だけに呼び出されるというわけではないのを知っているので、一週間とか面倒だなぁとか思っていたこの時の私は分かっていなかった。

 だって。


「…………ねぇ…何で、みんなして私の帰宅を阻止するの…?」


 足が治っても、登下校を別々にすることは頑なに許されなくて。ついにはあの男が現れるまで教室に軟禁状態になることにまでなっていた。


「いや、だって…ねぇ?」

「帰り道に何かあったら困るから。王子先輩に任せるのが一番安全!」


 そういうクラスメイトは、まぁまだ分かる。文化祭の時のことをちゃんと話してあるので、きっと心配してくれているんだろうなと分かるから。

 けど。


「……じゃあ、先輩は何でいるんですか?」

「んー?俺は王子に頼まれたのー。ちゃんと見張ってて欲しいって」


 いや、おかしいでしょ。なんで頼まれたからって聖也くんのクラスメイトが、しかも私にとっては少ししか話したことのない先輩がここにいるのか。そこは面倒だからとかって言って断るべきじゃない?


「王子って過保護だよねー。ま、話を聞いた俺としては確かに気持ちは分かるけど」

「それは、どっちの気持ちですか?」

「とーぜん王子の。そりゃそーでしょ。俺はどっちかっていうと王子の味方だよ?友達だし」

「それを言われると、反論できないですけどねっ…」

「でも君の気持ちも分からなくもない。俺は男だからまだいいけど、君は女の子だから。…あいつ、ド天然でしょ?」

「そうっ…そうなんですよっ…!!だから私はなるべく離れたい!!平和な学校生活を送りたい!!」

「わー…王子が聞いたら泣いちゃいそー……」

「だって何ですか学校の王子様って…!!どこの少女漫画ですか!!」

「あ、ごめん。王子って呼び始めたのは俺」

「元凶だったー!!」

「いや君、面白いねぇ」


 けらけらと笑う先輩は、本当に楽しそうだけど。そのせいで被害を(こうむ)っているのは、私なんですが?


「でもほら、呼び方なんて関係ないと思うよ?たぶんあいつのことだから、そのうち勝手に変なあだ名付けられてたって」

「それは…」


 否定は出来ない。そもそも文化祭で最初から王子様なんてやらされてるような人間だ。そういう要素がなかったらここまで浸透もしていなかっただろう。


「第一問題なのは呼び方じゃなくて、あの誰にでも同じように接する態度の方じゃない?」

「あ、それはありますね。確実に」

「流石に俺も王子が男にまで王子要素発揮するのはさぁ…」

「後に起きることを何も考えてないですからね、あの人」

「そう、そこなんだよ!男に迫られてるのに気づかない王子とか、俺なんで目の前で見てるんだろうって思うし」

「分かります!なんで男子の先輩に私が睨まれないといけないんだろうっていつも思ってます!」

「……同士、だな」

「えぇ。先輩の気持ち、とてもよく分かります」


 クラスメイト二人を置き去りにして、私たちは固く握手をする。初めて出会った分かりあえる仲間に、思わず見つめ合って頷いてしまう。お互い、苦労してますね、と。


「ねぇだから、なんで二人がそんなに仲良くなってるわけ?」


 ちょっと不機嫌そうな声が聞こえたので顔を上げてみれば、開いていた扉の向こうから顔を覗かせている、今の今まで話題になっていた人物。


「おー、王子お帰りー」

「やっと帰れるんですね。はぁ…」

「待たせてごめんね?」

「そう思うのなら早く帰らせてください。みんなと一緒とかじゃダメなんですか?」

「だって、何かあった時愛ちゃんがみんなを守ってたら意味ないでしょ?」

「そう、ですけど……」


 正論、だけれども。かといってこんなに待たされるのもそれはそれで困る。そもそもクリスマスまでずっとこれが続いたら、私を見張るという名目で一緒にいてくれるみんなに迷惑がかかる。だからそれを伝えたんだけど。


「早く帰れればいいの?」

「まぁ、そうですね」

「そっか……」


 それだけ呟いて、何やら考え込んでしまった。いや、無理だろうからそこで思考を巡らせないで?とりあえず早く帰りましょう?


「うん、わかった。何とかしてみるね」

「え?あ、はい…」


 なんか一人で晴れやかな顔してるけど、あんまり期待はしてないよ?っていうか、むしろこれ以上面倒な事態を起こさないでね?

 そう思った私の考えが間違っていなかったことは、僅か二日後に証明された。




「聞いた!?王子様好きな人がいるんだって…!!」

「うっそ!?何それショック~~!!」

「……は…?」


 何だその噂は。一体どこから湧いて出た。……って、言うか。待ってそう言えば、昨日の帰り道妙に機嫌よかったけど。もしかして……

 そんなことを思いながら歩いていたら、向こうから歩いてくる二人の人影。一人は明らかに話題の人物で。


「うーわー…お前やりやがったな…」

「何のこと?」

「恋人じゃないところが周到すぎて逆にこえーよ。そりゃ真偽のほどを確かめようがないもんな。信じるしかないよな。本人が言ってるんだし」


 …………や…やられた……。まさか、ここまでする…?確かにこれなら放課後呼び出されることも減るだろうけど。

 っていうか、あの聖也くんが告白してきた相手に嘘をつくとか…真摯な対応しかしないような性格のはずなのに。ちょっと信じられないんだけど。

 でもそのおかげか、クリスマス前のお約束はほとんどなくなって。気持ちに区切りをつけたいチャレンジャーだけの行事へと変わっていた。

 だけど私は知らなかったんだ。聖也くんは別に嘘をついていたわけではないということを。そして登下校を共にする私たちを見て、聖也くんのクラスメイトで私の同士でもある先輩が一人呟いていたことを。


「っつーか、嘘じゃないところが一番こえーんだよ。本気で囲い込みにかかってるな、あいつ…」


 私に、同情的な視線を向けていたことを。私は全く、知らなかったんだ。




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