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17.安心してください。勘違いなんてしませんから。

 噂というのは、どこまでも尾ひれ背びれがつくもので。けれど今回に限ってはあながち間違いじゃないから、違う意味で困る。

 一番変化があったのは登下校の時だ。今まで私を邪魔もののように扱っていた先輩たちが、一切そう言う目を向けてこなくなった。むしろなんか、ちょっと聖也くんと一緒に囲まれている気がするのはなぜだろう…?

 流石に学校に着くといつも通りなんだけど、なんかやっぱり向けられる視線が違う。なんか、こう…同情めいたものを感じるのは気のせい、じゃ、ない、よね…?

 なんか、なぁ…別にそこまで気にしなくてもいいんだけど。でも結局あの後、他校生のことは学校中に知られることになって。全校集会で校長先生から気を付けるようにと生徒全員にお達しがあったりと、本当に結構な大事(おおごと)に発展していた。ちなみにニュースには流石にならなかった。加害者も被害者も全員未成年だから、というのが一番大きな理由だろうけど。ただその後の話は結構予想外で。階段から落ちた相手は腕と足を骨折、あといくつかの打撲。最後に突っ込んでいた相手は一本歯を失っていたけど、それ以上の外傷は特になし。脳震盪は起こしていたらしいけど。そして一番ひどかったのが、最初に聖也くんに思いっきり投げられた相手。どうやら不意打ちの上に無防備なまま壁に頭からぶつかったらしく、その衝撃で半身不随になったとか。どの部分がとかの詳しいことは聞いていないけど、少なくとも普通に生活できないくらいには後遺症が残ったらしい。

 ただ、一番の予想外はそこではなくて。彼らの親は一切被害届も訴えも出さなくて、もっと言えば家に頭を下げに来ていたらしい。その際たまたま聖也くんも会って、直接謝罪をしたらしいのだけれど。逆に感謝されてものすごく戸惑ったとは、本人談。どうやら今までに何度も問題を起こしていたらしく、一番ひどい状態になった相手の母親は「あの子を殺して自分も死のうと思ってた」とまで言っていたとか。自分が満足に動けなくなって初めて、本人も色々と見えてきたものがあるらしく。他の二人もそれを知って色々と考えを改めたそうで、ようやく反省してくれたと家族全員泣いて喜んだとか。

 その話を聞いたとき、なんかもう色々驚きすぎて何と言えばいいのか分からなかった。一応私被害者のはずなんだけど、どうにも全部他人事というかどっか別のところで起こったことのようで。ただ変質者とかには未だに時折遭遇していることを黙っていたからか、聖也くんだけじゃなく家族からもこっぴどく叱られたけど。

 でも一つ言わせてほしい。それ、私のせいじゃないよね!?と。

 まぁその辺りも含めて、特に気を付けるようにとのお達しだったわけだけど。なんか逆に、そのせいで色々噂が広がった気がするんだよなぁ…。というか、ちょっとその広がり方に違和感を覚えたんですけど。誰かわざとやってない?特にそこの当事者。学校の王子様とか、ねぇ?


「ん?なぁに?」

「……いえ、なんでもないです」


 流石にそれをここで言うのもどうかなと思ったから、口には出さなかったけど。なぜかふと、子供を殺して自分も死のうとする母親の愛って何だろうなぁと考えてしまった。殺してでも止めようとするのが愛なのか、それとも疲れてしまっていたからなのか。我が家も高神家もそういう問題児はいないので、どういう心境なのかは分からないけど。障害が残ることを感謝してしまうくらいには、追い詰められていたんだと思う。

 じゃあ、我が家は?私のことで色々と苦労してきた両親は、弟はどう思っていたのか。


「愛ちゃんどうしたの?今日ずっと、心ここにあらずって感じだよ?」

「あ、うん……なんかちょっと、考えちゃって…」

「何を?」


 今年二度目の恒例行事に向けて、学校帰りにそのまま我が家にやってきていた聖也くんにそう聞かれて。心配そうにしているのは、あの日からまだそんなに経っていないからなんだろう。そして幼馴染でこれなのだから、家族はきっともっと心配していたんだろうな。


「ほら、息子を殺して自分も死のうとしてたっていうお母さんいたでしょ?」

「あぁ、うん。あの人ね」

「それってどういう心境だったのかなって。相当追い詰められてたんだろうけど、母親が我が子を殺そうとするまでって…」

「追い詰められるでしょ。あんな余罪のありすぎる息子が、しかも日常的に暴力振るってたら」

「え?そうだったの?」

「みたいだよ?流石にそこまで詳しい話を聞くつもりもなかったから、母親本人の口から聞いたものくらいしか知らないけど」

「そう、なんだ……。ちなみに余罪って?」

「……愛ちゃんには教えられないようなこと」

「え、何それ!?」

「というか、言いたくないし聞かせたくもない。俺自身が口にしたくないくらい酷いことだったよ」


 あの聖也くんが、ということは。本当に、それだけ酷いことなんだろうけど。なんとなく一つだけは分かるんだけどね。あの連携とか会話の内容とか考えれば、明らかに強姦だろう。とはいえその内容がえぐいってことなんだろうな。じゃなきゃ、聖也くんが口にしたくないなんて言うわけがないから。

 自分の身に起ころうとしていたことを思い出して、一瞬体が震える。悪寒にも似たそれはすぐに収まったけど、会話の途中にそんなことになれば当然気づかれるに決まっているわけで。


「大丈夫?あんまり思い出したりしなくていいんだよ?」

「あ、うん。それは、大丈夫なんだけど…」

「けど?」

「……また、みんなに心配かけちゃったなぁって…」


 心配して助けに来てくれた本人の前で言うべきことではないような気もしたけど。でも今までのことを全て知っている相手だからこそ、そして変な話家族ではないからこそ、聞けるような気がしていた。


「私、こういうのに巻き込まれやすいから。今回は確かに自分から首突っ込んだんだけどさ。けど、そうじゃなくても今までだっていっぱい心配させてたんだなって、思って。でもだからこそ、お母さんたちはずっと苦労してきたのかなって…もしかしたら息子を殺そうとしたお母さんとは違う意味で、追い詰められてた時もあったんじゃないかなって、思ったの…」


 私は自分のことでいっぱいいっぱいで、周りのことなんて全然見れていなかった。変な話だけど、今回初めて自分から首を突っ込んだからこそようやくそれが見えた気がして。


「俺としてはようやく心配してるの分かってくれた?って言いたいのと同時に、愛ちゃんに非がない分あの母親とはみんな違うから、そんなに思いつめなくていいよって言えちゃうんだよね。今より子供だった愛ちゃんをみんな必死に守ろうとしてたから、苦労はしてたかもしれないけど追い詰められてたわけじゃないと思う。本当にただ、全員が必死だったから」


 それはずっと、大人たちを見てきたからこそ言える言葉だったんだと思う。


「もちろん俺もその一人だよ?俺だって、愛ちゃんを守ろうと必死だったんだから」


 そう言って大きな両手で私の手を包んで、まるで祈るようにおでこに持っていくから。


「……うん。ありがとう、聖也くん」


 本心からそう伝えて、その手のあたたかさに目を閉じる。

 実際一番必死になってくれたのは聖也くんだから。今回のことだけじゃない。今までだってずっと、私を助けてくれていたから。

 でも、ね。だから、こそ。

 そんな都合よく現れるような存在だからこそ、気を付けないといけない。彼のその必死さは、年下の幼馴染に対するものだから。私が特別だからじゃない。あの王子様の衣装で来てくれたけど、聖也くんは決して、私の王子様なんかじゃ、ない。

 大丈夫。安心してていいよ。私は…勘違いなんて、しないから。






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