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16.番外編 ~とある誰かから見た二人~

 知り合いになったのは本当に偶然だった。ただ、いつかはそうなっていたのかもしれない。俺たちが志野崎さんに好意を持っている時点で。


「王子様、ねぇ…」


 体育の授業中、たまたま目に入った教室。窓際にあの人が座っていて。確かにそう呼ばれるほど紳士だし見た目も良いのは知ってる。けどその割には、妙にこちらを睨んでいたような気がしたのは気のせいだったのだろうか。あの姿は王子というよりはまるで、ただ嫉妬しているだけの一人の男のように見えた。実際そのあと、花火大会へ行く約束をもぎ取った俺たちの前にあの人は現れたんだから。

 結局あの人は本当に花火大会当日に、しかも志野崎さんと一緒に現れて。ただ会話は本当にただの他愛もないものだったけど。

 っていうか、男がこんだけいる中で女子二人なんてチョイスしてんだよ!?

 正直、女の子がチョコバナナとかフランクフルトとか食べてるのって、ちょっとエロいと思う。しかもそれが志野崎さんならなおさら。

 つい、彼女の口元に目がいって。最低だと分かっているけど、俺のも舐めしゃぶってくれないかな、なんて。

 け、健全な男子高校生なんだよ…!!仕方ないだろ…!?

 でも。


「愛ちゃん、俺にも一口ちょーだい?」

「ん。あ、はい」


 なんて、普通にあの王子様は間接キスしてるし…!!しかも何だよあれ…!!ちょっと長い髪を汚れないように耳にかけて、食べる直前に口を開いてパクって……エッッッッロ…!!!!あんた男だろう!?なんでそんな食べるだけでエロいんだよ!?意味わかんねーよ!!


「ん。おいしーね」

「ですねー」


 そして志野崎さんは何でそんな至近距離で見てて平気なんだよ。それも意味わかんねーよ…。

 っつーか、俺たちもしかして意識すらされてない?

 なんて、考えていたら。


「ねぇ。君たちも愛ちゃんをそういう(・・・・)風に見ているの?」


 後ろから俺たちにだけ聞こえるような声で問われたそれに、志野崎さんを狙っている俺たちは思わず二人して振り向いてしまう。志野崎さん本人は前方で色気より食い気な二人と楽しそうに話しているから、こちらのことなんて気にもしていない。


「……だったら、どうだって言うんです?」

「まさか手を引けなんて、言わないっすよねぇ…?」


 少しだけ強気な俺たちに、けど目の前の王子様は一切表情を変えることなく。むしろ笑顔のままなのが逆に怖い。

 近づいてきた顔が、ちょうど二人の間で止まって。耳元で小さく、囁かれる。


「あの子を泣かせたら、許さないから」


 言うだけ言ってすぐに離れていったその顔は、本当に最初から最後まで笑顔のままで。でも一切崩れることがなかったのが恐ろしすぎる。

 「君たちも」の意味が、果たして王子様も、なのか。それとも俺たち以外にもそう言うやつがいることを知っているからなのかは分からなかったけど。とりあえず、敵に回したらいけない人だというのはよくわかった。

 しばらくの間動けなかった俺たちの脚は、本能的に何かを感じ取ったのか震えていたから。

 だから、俺たちは勘違いをしていた。


「あの王子様、最初っからお姫様は決めてたんじゃねーか」

「ホントになー。でもぜってー渡さない」

「クラスの違うお前は王子様以上に近寄れないけどなー」

「あ?何言ってんだよ。だからこそ特別感出るんだろ?」


 知らなかったから、そんな風に言い合えたんだ。だって、王子様が志野崎さんの傍にいる本当の理由が。志野崎さん自身を守るため、だったなんて。


「女子生徒への暴行と強姦未遂、ですね。被害届出せばいいですか?」

「いや…いいんだけどな、お嬢ちゃん。本人がそれ、言うかね?」

「私が証言しないで誰がするんですか。第一届け出さないと、今回ばかりは聖也くんも訴えられる可能性ありますよね?」

「まぁ、うん…正当防衛が適用されるだろうけど、一応暴行は加えているからね…」

「最低限には留めましたよ?殴ったり蹴ったりしてないし」

「掌底は、最低限か?」

「殴るよりは」

「そう、なんだけどな…なんか違うんだよなぁ…」


 第一会議室で、志野崎さんとその家族と王子様、それにそれぞれの担任と、なんか警察が呼ばれたみたいで。俺たちもさっきその連絡をクラスメイトからもらって飛んできたから、詳細は分からないけど。でも一つだけ分かっているのは、志野崎さんがひどい目にあわされていたってこと。聞こえてくる会話からも、それが分かる。そして何より、志野崎さんを王子様が助けたんだってことも。


「最近は連絡ないから落ち着いたんだと思ってたんだが」

「変質者は捕まえてるじゃないですか」

「は!?愛ちゃんそんなことしてたの!?」

「え、うん。基本的にわいせつ物陳列罪か、暴行未遂だったけど…」

「なんでそういう危ないことするの!」

「いやいや!流石に向かって来た相手を巻けるほど家から離れてなかったし!」

「向かってきたの!?」

「私だって自分から厄介ごとに飛び込んだりしないよ!?流石に今回は見逃せなかっただけで…!」


 親し気に話す様子は、俺たちが知ってる志野崎さんと王子様の距離感とは違っていて。きっとこの距離と話し方が二人の本当なんだろう。


「まぁとりあえず、向こうの学校と親御さんには連絡済みだから。何かあったらまたこっちから連絡する」

「ちなみに、あの三人組がどうなったのか分かります?」

「一人は骨折、一人は打撲と歯が一本なくなってたな。もう一人はまだ分からん。というか、それも分かったら連絡する」

「お願いします」

「で?今回みたいな相手はもう心当たりないのか?」

「今のところは」

「全く…流石にストーカー被害とかじゃないから、警察はこれ以上動けないぞ?」

「分かってます」

「愛ちゃん、今後一人での登下校禁止ね。必ず俺と一緒にいること」

「え!?流石にそこまでは必要なくない!?」

「いいえ。お母さんたちはすぐに動けないんだから、聖也くんと一緒にいてくれた方が安心できるわ」

「ちょ!?」

「ごめんね、聖也くん。前みたいにまたお願いしてもいい?お父さんとお母さんには、私たちの方から話しておくから」

「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」

「な…!?なんでそこで話まとめてるの!?」

「姉ちゃんさぁ、いい加減そこはちゃんとしてくれない?母さん話聞いたとき泣きそうになってたんだよ?」

「うっ…」

「聖兄ちゃんが一緒にいるだけで変な男寄ってこなくなるんだから、そこは親に心配かけないようにしようって思えないの?」

「お、思う、けど…」

「じゃあいいじゃん。聖兄ちゃん、姉ちゃんのことよろしくね」

「うん、任せといて」

「あううぅぅ~…」

「とりあえず話もまとまったみたいだし、俺たちは一度戻って報告書をまとめてくる。いつの間にかお前たちの担当になってるしな」

「なんか、すみません…」

「向こうからやってくる厄介ごとはどうしようもないからな。ま、しょうがないさ」


 そう言ったすぐ後に扉の開く音がして。物陰に隠れていた俺たちは急いでさらにそこから離れる。


「しっかしお前さん、その格好だと本当にあの子を守るナイトみたいだなぁ」

「一応これ、王子の衣装なんですけどね」

「王子だぁ!?いやいや、お前さんは守られる側じゃないだろ。昔っから」

「まぁ…そう、ですね」

「けど、今回ので分かっただろ?ずっと一人で、しかも力だけで守り続けることは出来ないって」


 その言葉に少しだけ悔しそうな顔をした王子様が珍しくて。あの人でも、そんな顔をするんだ、なんて。


「お前さんはもう少し、別の力を手に入れるべきだな」

「別の、力…?」

「金でも権力でも法律でも。この先もあの子を守っていくつもりなら、もう少し頭を使った方がいい。暴力だけじゃあ、この先お前さんも犯罪者だぞ?」

「あたま……」

「とはいえあの子がどっかに嫁ぐまでだろうけど。それまでは俺もお前さんたちに付き合ってやるよ」


 なんて。俺たちには気づかないまま、通り過ぎていったけど。


「しのちゃん……私、全然知らなかった…」

「そんな風に、見えなかったのにね」


 クラスメイト二人がそんな風に少し落ち込みながら言葉を交わす中、俺たち二人の方は別のことを考えていた。


「……なぁ、もしかして…」

「言うな。それ以上は、今は言うな」


 あの、花火大会の日。王子様が言った「そういう(・・・・)風に見ているの?」のそういう、とは。好きな相手、なんていう可愛いものじゃなかったんだ。もっと汚くて、志野崎さんを傷つけるような、身勝手な欲望。それを王子様は言ってた。

 俺たちはようやくそのことに気が付いて。あの時の行動が恥ずかしくて、同時にものすごい敗北感にも襲われていた。

 だって、そうだろう。俺たちは王子様のはるか後ろを必死で走ってたんだ。だから志野崎さんも、あの人にだけはあんなに…。

 なんとなく、あの二人の間には入れない気がした。だって学校の王子様は、本当は志野崎さんだけのナイトだった。だから俺たちは、あの人に警戒されていたんだ。


「けど……俺、まだ諦めねぇから…」

「え…?」

「だってあの二人、付き合ってるわけじゃないだろ?さっきの会話の感じ、ものすごい幼馴染感出てたし」

「まぁ、確かに…」

「だから、諦めない」


 力強く宣言してるけど、瞳は揺れてるぞ?

 まぁ、勝てる自信は一切ないよな。俺もない。っつーか、王子様に勝てる自信があるやつなんて、きっとこの学校には誰一人いない。

 けど、確かに。あの二人の関係は、複雑なように見えてその実ただの幼馴染だってことが分かったから。引きたくは、ないよなぁ。

 それでも何となく、あの二人はセットなんだって思い始めてる俺は。もう先に勝負から下りていたのかもしれない。




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