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14.ピンチに駆け付けるのはいつだって…

 あれからちゃんと、普段通りに過ごして。時折家で聖也くんの練習相手はしていたけれど、文化祭が近くなるにつれてお互いクラスの準備が本格化して忙しくなって。遅い時間に一斉に帰ることが増えたから、下校は一緒だけど。そのあとはまっすぐ二人とも家に帰ってという生活を繰り返していた。

 おかげで、変に考えなくて済んで私は助かっていたけれど。

 まさか文化祭当日に、こんな場面に出くわすとは思っていなくて。


「しのちゃん、あれ……」

「……私がどうにかするから、あの子たち連れて逃げてくれる?」

「けど、それじゃっ…」

「すぐに先生呼んできてくれれば大丈夫だから。お願いね」

「ちょ、しのちゃんっ…!!」


 文化祭中は立ち入り禁止になっている屋上。そこに向かう階段の踊り場で、女の子が二人他校の男子生徒に絡まれていた。しかもあの制服、とても見覚えがある。前に私に絡んできた高校生も、確かあの制服で。顔も多分、一緒だと思う。

 静かな場所でお昼ご飯を食べて、その帰り道に通りかかった私たちとは違って、なんでこんな場所にいたのかは分からなかったけど。明らかに困っている女子を助けないという選択は、私にはできなかった。


「ちょっと?そんなところで何してるの?」


 後ろから声をかければ、どこか安心したような表情の女子二人と。


「あ?…あれ?お前確か…」

「あー、確かにここの制服だったわー」

「また会ったねぇ」


 やっぱり前に会ってた男子高校生三人組。というか、他の学校にまで来て何をしているのか。


「悪いけどナンパなら他でやってくれる?今日ここの生徒はみんな忙しいの」

「忙しい?王子様がどうとかって騒いでたのが?」

「あら、わが校の王子様に興味があるの?だったら今から体育館に向かうことをお勧めするわ。お望み通り王子様が見れるわよ?」


 ただし、あなたたちは既に一度会ってる相手だけど。なーんてことは教えてあげない。というか、そんなものに興味なんてないだろうし。

 そして今更だけど、王子って単語が一人だけを指してるのって特殊だと思う。それだけでみんなが分かるって、すごい共通認識だよね。


「ほら、二人もクラスの仕事があるんじゃない?」

「あ、は、はいっ…!!」

「ありがとうございますっ…!!」


 男子高校生と女生徒たちの間に割って入って、無理やり道を作る。こういう時背が高いのは壁になるから便利だ。


「ちょっ…!待てよ!俺たち別に王子様とか興味ねーんだよ!!」

「った…!!」


 ポカンとしてる間にいなくなってしまおうと思ったけれど、流石にそういうわけにはいかなかった。乱暴に髪を引っ張られて進めなくなる。思わず振り返って相手の手をひねり上げようとした瞬間、他の男の手が女の子の方へ伸びているのが見えて。


「や、めなさいっ…!!」


 自分より先に、そちらを優先してしまった。

 だって、何もできない相手に害される恐怖を知っていたから。せめてこの女の子たちには、そんな怖い思いをして欲しくなかったから。

 でもきっと、それがいけなかった。


「しのちゃんっ…!!」

「いいから!!早く行って!!逃げて!!」


 先生を呼んできてくれれば、少なくとも彼らは逃げていく。とはいえ、流石に出来る限り抵抗はするつもりではいるけれど。

 全員がちゃんと逃げ切れたのを視界の端で確認してから、掴んだ腕をひねり上げる。


「いっててててっ!!」

「あんたたちホント、いい加減にっ…ぁぐっ…!」


 とにかく彼女たちを追いかけさせないように、まずはこちらに意識を向けさせようとしたけれど。流石にこの状況での三対一は多勢に無勢だったかもしれない。掴まれていた髪を思いっきり引っ張られて、数歩後ろへよろめいてしまう。


「いい加減にするのはお前の方だろ?この間といいホント生意気なんだよ!」

「ってーなぁ…この女っ…!!」


 掴まれている髪をどうにかしたいけど、腕をひねり上げた相手がさらに掴みかかって来ようとしていたから先にそちらを処理する。素人なんて動きが単純だからいなすのは簡単。少し軌道を逸らしてあげれば体のバランスを崩して床に倒れる。


「なっ…!?」

「悪いけど、そう簡単にやられるわけにはいかないの。第一すぐに誰かが来るのにこんなことしてていいの?逃げるなら今の内だけど?」


 こいつらが逃げた女の子たちを追いかけるにはもう遅い。だから私ももう逃げる方に意識を向けないと。流石にこの狭い場所では私も十分に動けないし。


「お、まえっ…ホントっ…!!」


 立ち上がってもう一度向かって来ようとしているから、今のうちに髪を掴んでる男をどうにかしていっそ盾にしようと動こうとして。


「ゃっ…!」


 死角に潜んでいたもう一人に首を掴まれて、そのまま後ろの壁に叩きつけられる。


「ぅっ…」


 後頭部と背中を強く打ったからなのか、一瞬息ができなくて。思わずずるずると座り込んでしまったら、伸びてきた手に両手足を掴まれてしまった。ギリギリと遠慮なく押さえつけてくるその力に、嫌になるほどの吐き気を覚えて。


「ゃ、め……」

「無駄な抵抗なんてしなきゃいいのに」

「口ふさいどく?」

「いーよ別に。そのまま押さえつけとけば」

「ヤるなら俺次なー」

「いーぜー?最速記録更新してやるよ」

「さっすが~」


 ……ホント、これだから男は嫌いなんだ。身勝手に自分の欲を押し付けてくるから。だから負けないようにって強くなったのに。「男の力には勝てないときがあるかもしれない」なんて、聖也くんの言葉を。今、思い出してるなんて。

 バカみたい…。


「っつーかこいつ、スカートの下なんか履いてんだけど」

「何それ色気ねー!」

「それごと脱がしてやりゃーいいんだよ」


 伸びてくる手に、過去の光景がフラッシュバックする。迫ってくる大きな手はいつも、無遠慮に私を掴んで。そのままどこかに連れて行かれそうになる恐怖だけが、目の前を支配する。


「や、だ……」


 恐怖による緊張で声が出なくなってるんだって、頭では分かってる。けどそれは何度経験しても、克服できるようなものではなくて。


「せーや、くん……」


 思わず名前を呼んでしまったのは、そういう時いつも助けてくれてたから。聖也くんだってまだ小さかったのに、それでも大人の男の人に飛び掛かって必死に叫んで助けを求めてくれたから。だから、つい。来るはずもない人の名前を呼んでしまった。

 そう。来るはずが、なかった、のに。


「やめろ」

「うがっ…!!」


 急に視界から消えた男の代わりに見えたのは、白。一瞬何が起こったのか分からなくて、瞬きどころか息をすることすら忘れる。


「その手を放せ」

「な、んだよお前っ…!!」


 私の手足を抑えていた一人が、その白い人物に向かって殴りかかっていったけれど。それは難なくかわされて、代わりに軽く体を押されて。


「あ…?」


 そのまま、狭い場所だったから。すごい音を立てながら、階段の下へと消えていった。


「ねぇ、聞こえなかったの?手、放せって言ったよね?」

「ひっ…!?」


 その声も、顔も、見間違えるはずがなくて。

 なんで、とか。どうして、とか。疑問しか頭に浮かばない私をよそに、もう一人の男も逃げればいいのになぜか飛び掛かっていくから。案の定返り討ちにされて、少しだけ浮いたのか足が地面から離れてから、そのまま倒れこんで動かなくなった。

 あっという間に三人を倒してしまった白い人物は、小さく息をついて。


「愛ちゃんっ…!!」


 こちらに駆け寄ってきて、その手を伸ばしてくる。そのままぎゅっと抱き込まれる形になって。


「ごめんっ…ごめんね、愛ちゃんっ…遅くなってごめんねっ…」


 そんな、風に。なぜか、謝ってくる。

 そこでようやく自分が震えていたことに気づいて、さらにこのぬくもりに安心していることにも気づいてしまった。聖也くんだって、大きな手をしているのに。伸ばされた手は、怖くなかった。この手だけはいつも優しいことを知っていたから。守って、くれていたから。


「せー、やく……」

「愛ちゃんっ…愛ちゃんっ…!!」


 なんで、聖也くんの方が泣いてるみたいなの。なんで、そんなに強くなってるの。なんで……

 いつもいつも、聖也くんが、助けてくれるの……




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