13.文化祭の王子様
学力テストも中間テストも、聖也くんのおかげで無事乗り切れました。本当にそこはありがたいんです。ありがたいんですけどね…!?
なんか、こう…おでこにちゅーされた日から、なんか……距離が、近い、気がして……。いや、私の勘違いかもしれないけど…!!変に意識しちゃってるだけなのかもしれないけど…!!でも、でもっ…!!
「今年も聖也くんのクラスは劇やるんでしょ?」
「うん。文化祭は毎年そうだね」
「で、また王子様役なんでしょ?」
「うん。でも俺たまには違う役やってみたいなー」
「例えば?」
「えー?う~ん……あ、騎士とかかっこいいよね!」
「え?うん、まぁ、そう、だね…聖也くんなら似合うんじゃない?」
「そう?あ、じゃあ愛ちゃんお姫様やらない?」
「わ、私!?なんで!?!?」
「え、だって愛ちゃんのお姫様姿見てみたいから。きっとすごく可愛いんだろうなぁ~…」
「わっ…私はそういうの似合わないからっ…!!っていうか、そもそもクラスどころか学年も違うし…!!」
「えー、そうかなぁ?俺は似合うと思うけど……でもそうだよねぇ、学年からして違うんだもんねぇ…愛ちゃんと一緒に授業受けてみたかったなぁ……」
しみじみと言っているけど、そこじゃない…!!というか、前までそんなの言ったことなかったよね!?わ、私にお姫様、とか……!!そんなのっ…!!
「そんなの、私が似合うわけないじゃん…」
「ん?なぁに?」
「なんでもなーい。っていうか、台本見せられたら当日劇を見る楽しみなくなっちゃうんだけど」
「それは、そうなんだけど…」
「お姫様役がまだ決まってないんでしょ?どうせたくさん出てくるお姫様の誰ともくっつかない王子様なんだから、誰がやっても一緒なのにねー」
というか、聖也くんの王子様が役とはいえ誰か一人とくっつくのが許せないんだろう。特に相手役になれない男子陣が。流石に高校の文化祭の演劇でBLはちょっと、ねぇ…?PTAから苦情来ちゃうもんね。とはいえ、毎年誰ともくっつかない王子ってのもどうかとは思うけど。
「練習したいのに、誰も相手してくれなくて…」
「うん、なんとなく何が起こっているのかは把握した。この時期だけ珍しく一人ぽつんと残されるんだね、クラスの中で」
「うん……」
寂しそうに言ってるけど、それ確実にあんたを取り合ってる結果だからな?
まぁでも、仕方ないのかもしれない。本人がそれを自覚していない以上、本当にただ誰も相手をしてくれないと思っているんだろうから。とはいえそれはそれで、クラスの人たちどうかと思うんだよね。こういう時だけは男子にやらせてあげればいいのに。本番できないんだし、役得でしょ?
「あれ?この王子の親友だけはもう決まってるの?」
台本の配役のところは、王子と親友の名前だけ埋まっていて。というか、なんで王子だけ最初から印刷されているんだ。この男のクラスメイト、本気すぎるだろう。怖いわ。
「うん。だからそこだけは練習してるんだけどね?肝心のお姫様たちが…」
「一人も決まってない、ってことね。まぁほら、女の子ってそう言う願望があるからじゃない?」
「お姫様になりたいっていう?」
「うん、たぶん。まぁ私も騎士役しかやったことないから、一つの役しかできない聖也くんの気持ちは分かるけど」
中学の時から、クラスで劇をやることになると必ず騎士だった。男子よりも背が高かったり力があったりしたのもあるけど、何より女の子たちが男子に触られるなんて嫌だと言い出したから。別に仲が悪いわけじゃなかったと思うんだけど、流石にお姫様抱っことか男の子にされるのは恥ずかしい年頃だもんね。分からなくはない。
「愛ちゃんも?お姫様になりたいの?」
「へ!?私!?いや、私はいいや!!お姫様ならもっと小さくてふわふわしててかわいい子がいいから…!!」
「でも…女の子って、みんな誰か一人のお姫様なんでしょ?」
「!?!?!?!?」
何を言い出しているんだこの男!?ってか、そう言う発言を素でやってのけるから王子とか言われてるんだぞ分かってるのか!?!?
「だから、愛ちゃんもお姫様かなって」
「は、はぁっ!?いやいや、私が誰のお姫様になるっていうの…!」
「俺の?」
「っ…!?!?な、なに言って…!」
「そしたら俺だけ愛ちゃんのお姫様姿見れるでしょ?」
「なっ…!!ば、バカなこと言ってないで練習するんでしょ!?ほら、早くっ!!」
笑顔でなんてこと言ってるんだこのバカあああぁぁぁっ!!そんなの学校の誰かに聞かれてみなさいよ!!冗談じゃすまなくなるでしょ!?恐ろしいこと言い出すのやめてよ!!
ホントっ…!!ほん、と…………心臓に、悪いんだから……。やめてよ、そういうこと、言うの…。変な、期待を……させないでよ。
でも、これが。学校帰りの、制服のままの、誰もいない家の中でよかったと思ったのは。たまたま先生に用事があって体育館に行ったとき、聖也くんのクラスが劇の練習を本番の服を着てやっているのを見たからだった。
去年は、見に行くつもりもなかったから台本だけ知っていて。同じように練習相手になっていたけど。まさか、こんな。白地に金の紐と刺繍で装飾された、本格的な衣装だなんて、思ってもみなくて。本番さながら、だからなのか。前髪を後ろに流して男らしさを出しつつも、端正な顔つきがしっかりと映えるようになっていて。いつものぽやーっとした表情ではなく、とても真剣で強い瞳をしていて。偽物だと分かっているのに、腰に佩いた剣が妙に似合っていて、格好良くて。
そんな、いつもとは、全然違う。幼馴染が、そこにいて。なのに、白い手袋をした手は。目の前にいる可愛いお姫様に差し出されて。そのまま、にっこりと笑いかけていた。
「っ…!!」
唐突に、理解した。これが、みんなの言う「王子様」なんだってことを。文化祭の時だけ見せるこれが、みんなの中の聖也くんで、これこそが「みんなの王子様」なんだって。
でも、だから、こそ。目を合わせられなかった。ダメだと思った。あの姿で、あんな顔で、あんな目で、見られたら。私はきっと、偽れなくなるから。
「一旦休憩ー」
だから聞こえてきた声に急いで先生の元へ行って、用事を終わらせて。そのまま目を合わせないように振り向かず、一目散にそこから逃げ出した。
そう。私は逃げ出したのだ。
だって、そうしなければ……
「だめ、だから……違う…これは、違うっ…!」
このドキドキは、決して恋なんかじゃない。いつもと違うギャップに、驚いただけ。みんなの言う王子様っていうのを、初めて見たから。みんなと同じように、舞台上の王子様に。作り物にドキドキしただけだから。
私は、聖也くんに、恋なんて、してない。
だって、そうじゃなきゃ、困る。特別なんかじゃない私は、みんなと同じ"好き"しかもらえないから。またあの時みたいに、つらい思いはしたくない。同じ人に失恋なんて、いらない。一回で十分だ。
なのに。
あの手が、差し出されていた先に。私とは違う、小さくてふわふわした、可愛いお姫様がいたことに。笑いかけられていたことに。どうしてこんなに、胸を痛めなければいけないのか。どうして、泣きそうになっているのか。
「ち、がうっ…!…わたし、はっ……!」
否定して、偽って、自分からも見えない場所に押し込めて隠し通して。
そうしなければ、辛いだけだから。苦しいだけだから。
だから、だめ。あの人だけは、だめ。
「あれ…?しのちゃん?大丈夫?」
かけられた声にハッとして、急いで呼吸を整えているふりをする。
「あ、うん…ちょっと、遅くなっちゃったから走って来ちゃった…」
「急がなくても大丈夫だったのにー」
「あはは、つい」
「もー。しのちゃんらしいなぁ」
私はちゃんと、笑えているだろうか?普段通りに、今まで通りに。
さっきまでのあれは、なかったことにして。私は所詮、お姫様にはなれないんだから。王子様は、物語の中だけ。舞台の上だけ。
女騎士に王子様なんて現れないし、そもそも釣り合わない。だから、これで、いいんだ。




