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12.テスト範囲と曖昧な距離

 夏休みが終わってすぐ、なぜかうちの学校には実力テストなるものがある。夏休み前に期末テストをしたというのに、何でまた生徒の学力を測りに来るのかと…!しかもテストの範囲夏休み前とあんまり変わらないのに…!

 と、言うわけで。今日も今日とて家に帰ったらテスト勉強なんですよ。ちなみに期末テストの点数はとてもよかったです。聖也くん様様…!!

 しかし文化祭前にも中間テストがあるのに、何でこうもテストテスト…先生たちだって大変だと思うんだけどなぁ。なんて、珍しく一人での下校だったから、ボーっと考え事をしながら歩いていたのがいけなかった。


「いーじゃん。ぶつかってきたのはそっちなんだし」


 狭い十字路で人がいるのか確認しなかった私も悪いけど、正直歩行者は右側を歩くのが普通なのだからぶつかるはずがないのに。三人の男子高校生が道いっぱいに広がって歩いていたみたいで、気づかずにぶつかってそのまま手首を掴まれてしまったのだ。とはいえ、ただの高校生なら男子といえども力ずくで倒していけばいいのだけれど。この狭い道で、しかも三人に囲まれてしまっていて。さて、流石にどうしようかなと考えてしまう。


「そこはお互い様でしょう?大体ぶつかったから付き合えって、意味わからないんだけど」


 ぎゃははと笑う彼らは、たぶん典型的な馬鹿な高校生なんだと思う。こういう人がいるから、偏見とか持たれるのに。


「うっわ、女のくせに生意気ー」

「痛い目見ないと分からないタイプなんじゃね?」


 あぁ、偏見を持っているのはこいつらの方か。というか、痛い目見ないと分からないのはあんたたちの方でしょうが。何?このまま全員に掌底とか食らわせればいいわけ?片手しか掴まれてないから十分出来るけど?

 なんて、考えていたら。なぜか急に後ろに体を引かれて。あれ?と思った時には、目の前に男子三人組。

 ……え、じゃあ。コレ、は……だれ…?


「俺の愛ちゃんに……何、しようとしてたわけ…?」


 聞こえてきた声に驚いて見上げれば、珍しく怒ったような顔の聖也くん。

 て、言うか……お…俺の~~~~!?!?

 ちょっと待って!!いつ、私が、聖也くんのものになったわけ!?いやまぁ、プールの時と同じで理由は分かるけどね!?でもあの時と違ってそんな直接的な言い方したら、どこで誤解されるか分からないんだけど!?


「ちっ。何だよお前」

「行こうぜ。なーんか気分わりー」

「俺のとか、ちょっと顔がいいからってクセーこと言ってんじゃねーよ。ばっかじゃねーの」


 捨て台詞のようにそう言って彼らは去って行ったけど、おいおい最後。顔がいいは誉め言葉だぞ。それはただの僻みだ。

 そんなことを思っていたら。


「愛ちゃん?大丈夫?」


 心配そうにのぞき込まれて。さっきまでとは全然違う顔に、思わず大丈夫と頷いてしまったけれど。すぐに何を言っていたのかを思い出す。


「ちょっ…ちょっと聖也くん!?」

「ごめんね?ああ言っておけば牽制になるかなって思ったんだけど…」


 私の言いたいことが珍しくすぐにわかったらしい。謝ってはいるけれど、正直副音声としては「ダメだったかな?」が正しいだろう。そう言う顔をしている。

 とはいえ、だ。


「え!?いや!私はいいんだけどね!?私は別に、大丈夫、なんだけど……」

「よかった……」


 本気で安心したように言うのやめてもらえませんか?なんか、ちょっと…勘違いしそうになる…。


「いや、えっと……私は、よくても……聖也くん、は…?いろいろ噂もされるだろうし、いろんな人に勘違いされちゃうよ?」

「なんで?ダメなの?」

「え、いや、だって…大事な女の子とかに勘違いされちゃったらどうするの…?」

「…?俺、愛ちゃん以上に大事な女の子なんていないよ?」

「うっ…えっ、あっ…」


 こ、この男はああぁぁっ~~!!

 こういうことを恥ずかしげもなく言ってのけるから王子様とか言われるんだと、もう少し自覚というものを持つべきだと思う。


「とりあえず、帰ろう?というか、一人で帰っちゃダメだよ?ちゃんと俺を待ってて?」

「え?いや、だって…」


 なんか手を引かれて強制的に歩き始めさせられたんだけど、それよりも一人で帰るなというのはちょっと…。だって今日、呼び出しされてたんだよね?あれ、告白だよね?


「告白されてる人間が他の女の子待たせてるって、それはだめなんじゃないかなぁ…?」

「それとこれとは話が別でしょ?こういうことがあるから、愛ちゃんを一人にはしたくないのに」


 あぁ、やっぱり告白だったんですね。そしてやっぱり、そういう心配をしてくれているから、登下校の時間を合わせて一緒にしてくれているわけですね。

 何というか……過保護だなぁ。


「私、もうそんな弱くないよ?」

「強いとか弱いとかじゃなくて、愛ちゃんは女の子なんだから。男の力には勝てない時があるかもしれないんだから、ちゃんと守られてて?」

「なに、それ……」

「俺のわがまま。せめて傍にいられる間くらい、俺に愛ちゃんを守らせてよ」


 なん、なの…?なんか今日、聖也くん変だよ…?

 というか、私は守られなくてもいいようにって思って強くなろうとしたのに。守られてたんじゃ、意味ないよ…。聖也くんは学校の王子様でしょ?だったら王子様はお姫様を守らなきゃ。私は女騎士だから。お姫様なんかじゃ、ないんだから。


「はい着いた。愛ちゃん鍵開けて?」

「……え?上がるつもり?」

「え?だってもうすぐ学力テストでしょ?テスト勉強、しないの?」


 なんでここで二人して首を傾げているのか。というか、その言い方はもしかして。


「教えて、くれるの?」

「そのつもりでいたんだけど……もしかして、いらなかった?」

「い、いりますいります!!期末テストのときもすごく助かったから!!」

「それならよかった」


 しょんぼりされたからというのもあるけど、何より本当に助かったから。教えてもらえるというのであればぜひお願いしたい。

 と、言うか。今更だけど色々ありすぎて呼び方も敬語もすっかり飛んでしまって、下校中なのに家の中みたいになってしまっていた。ちょっとそこは反省。気を付けないと。

 なんてことを考えながらだったからか、後ろで聞こえてきたカチャンという鍵をかける音に必要以上に驚いてしまって。ビクリと跳ねた肩を見られてしまったらしい。


「愛ちゃん…?どうしたの?大丈夫?」

「あ、うん。平気」

「……本当に?もしかして、俺と一緒にいるのは嫌?」

「え!?いや、そんなことないよ!?」

「でも、俺も男だよ?さっきみたいなことがあったのに、男と二人きりなんて…嫌じゃない?愛ちゃん、無理してない?」


 な、んなの、それ…。ねぇ、本当に今日は何なの?なんでそんなに、意識させるようなこと言うの…?

 他意がないならそんなこと言わないでよ。もう、これ以上はやめて…おかしくなりそう。

 でもそれを悟られちゃいけない。お願い気づかないで。何も知らないままでいて。


「聖也くん、は…大丈夫。嫌じゃ、ないよ?」


 それだけは、本当だから。聖也くんが男だってことは、ちゃんと、知ってる。分かってる、から。

 だから、もうこれ以上なんて欲しくなかったのに。


「よかった……俺、愛ちゃんにだけは嫌われたくないから…」


 そんな優しい声で言わないで。お願いだから抱きしめないで。都合のいい勘違いなんて、したくない……。だって私は、お姫様にはなれないんだから。

 なのに。


「愛ちゃん…」


 どうしてそんな切なそうな顔をして、熱っぽく私の名前を呼ぶの?どうして頬に手を添えてるの?どうして……


「っ…!?」

「……大好き…」


 今一瞬、額に触れたのは……くちびる…?

 小さな囁きを耳元に落として、指先で頬をするりと撫でて離れていく。

 動けなくなっている私を置いて、聖也くんはそのまま家の中へと入って行って。リビングの扉を開けた音がした。


「な……」


 なんなの……今のは何なの!?どうしてそんなことするの!?だって私は聖也くんの"特別"じゃないでしょ!?それなのにどうして…!!

 ぺたりと(あが)(かまち)部分に座り込んでしまった私は、しばらくそこから動けなくて。


「愛ちゃん?テスト勉強しないの?」


 きっとこの感じは、リビングからひょっこりと顔だけのぞかせているんだろう。それを想像したら、なんだか無性に腹が立って。


「やるよ!ちょっと靴脱いでるから先に用意してて!!」

「うん、わかった」


 何なのあのド天然…!!こっちが意識したのがバカみたいじゃないか…!!

 何!?あれすらも誰にでもやりますってこと!?あんな普通に話しかけてきやがって…!!


「ホント、何なのよっ…」


 自分だけが意識してたなんて恥ずかしくて、それを払うために声に出す。

 けど、この時の私は気づいていなかったんだ。普段なら一番最初に「どうしたの?」と聞いてくるはずの相手が、今回だけはその言葉を言わなかったことに。

 でもだって、必死だったんだ。このドキドキの正体に、気づかないふりをするのに。胸の痛みなんて気のせいだと、思い込ませるのに。

 必死、だったんだもん。






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