10.夏だ!プールだ!!ハプニングだ!?
テストも無事終わり、夏休みへと突入したある日。約束通りみんなでプールに来たけれど、まぁ何というか…予想通りだなぁとしか思わなくなってる私は、もしかして慣れすぎているのか?
「ねぇ、あの……視線が、痛いんだけど……」
「うん、それがいつも私が向けられてるやつ」
「い、胃が痛い……」
「しのちゃん、ホントすごいよね…私これ、一日も耐えられないかも……」
嫉妬の視線の嵐の中、慣れていないみんなは一緒に歩くのも辛そうだったけど。その原因である男は、それはそれは上機嫌で。まぁ確かに、あまり友人と遊びに出かけているところを見たことがないので、もしかしたら本人も気にしていたのかもしれない。ただ逆にそのせいで四六時中いい笑顔なので、余計周りの視線が痛いという。初めてがこれはつらいだろうなぁと、どこか他人事のように思っている私。ホント、慣れって怖いなぁ。
「俺ここ初めて来たよ。本当に広いんだね~」
「私も初めてです。でもさすがに夏休みだからか、人が多いですね」
今日は事前に学校の人たちと一緒だから敬語で話すよと伝えてあるので、微妙な顔をされることはなかった。とはいえそれを伝えた時はものすごく不服そうな顔をされたけど。
だがしかし、私は自分を守りたい。余計なトラブルなど起こしたくないのだ…!!
「逆に大人はあんまりいないね」
「学生ばっかりだから避けてるのかもしれないですね」
なんて、無難な会話をしながら水に入る。荷物は基本ロッカーに預けているので、鍵付きのリストバンドをしているだけで他は手ぶら。実に動きやすくていい。
「俺、波の出てるとこまで行ってくる!」
「え、ちょ…!!思ったより早いな!?」
「あいつ勉強は苦手だけど、体動かすことは得意だから。考えるより先に行動するタイプなんだよ」
「子供か!!」
「実際去年まで中学生だったわけだし、まだまだ子供だろ?」
水の中に入ったおかげか、だいぶ視線が緩和されてようやくいつも通り動けるようになったらしい。約一名すぐにいなくなっていたけど。
まぁでも、そのうち戻ってくるだろうし。ここでゆっくり泳いでいればいいかーと思っていたら。
「大丈夫!?」
「うぇ~…大丈夫じゃないよぉ~…」
少し離れた場所から聞こえてきた女の子の声が、なんだか泣いているようで。気になって聞き耳を立てて会話を聞いてみると、どうやらロッカーの鍵を落としてしまったらしかった。しかもこの波の出るプールの水の中で。
「普通落とす~?」
「落としたんじゃないもんっ…何かに、引っ張られて……」
「誰かのバンドの鍵が出てたのかなぁ?それに引っかかって外れたのかも」
「でもこんな人の多い中……どうしよう。見つからなかったら私……」
「とりあえず今先輩が落し物がないか聞きに行ってくれてるから。なかったらロッカーのところで待っててくれるって言ってたし、もう少し探してみよう?」
「……うん…」
彼女たちはそう言っていたけれど、正直この形のリストバンドが引っかかったくらいで取れるとは思えなくて。もしかしたら誰かに悪戯されたのかもしれない。そう思ったら、なんだか放っておけなくて。
「愛ちゃん?」
「あ。私も少し潜ってきていいですか?」
「え?うん、プールだし、いい、けど…」
「じゃあちょっと行ってきますね」
「あっ、まっ…」
潜ってしまえば人の声はほとんど聞こえなくなる。人工的な波に押されつつ、とりあえず水底に目を光らせてみて。寄せて返すを繰り返しているから、正直どちらに進んでしまっているのかは分からない。もっと言えば人が蹴ってしまっている可能性もあるし、予想とは全然別のところに行っているかもしれない。ただ踏めばわかるだろうから、浅いところにはない可能性が高くて。と、なると。一番ありそうなのは、波が出る装置の近く。見たところ柵のようなものがあるみたいだし、あそこが一番深そうだ。浮き輪だったり柵だったりを使って地面に足をつけずにいる人が多いし、何より柵に引っかかっているかもしれない。そう思って壁伝いに進んで潜ってみれば。
「ビンゴ」
思った通り、柵にリストバンドが一つ引っかかっていた。しかも人は多いのに誰も足をつけていない中央付近。これじゃあそうそう見つかるはずがない。
急いで潜って回収してから、さっきの女の子たちを探す。なくしたのはこの場所だから、まだ近くにいるはず。もしも先輩がいるらしいロッカーに向かっていたとしてもすぐに追いつけるはずだし、最悪会えなくてもその人に渡しておけば問題ないはずだから。少しずつ浅い場所へと近づきつつ辺りを見回すけれど、それらしい人物は見当たらなくて。それならロッカーに向かえばいいかと歩き出してすぐ、とぼとぼと肩を落として歩く女の子とその子に寄り添うように歩いている先ほどの二人を見つけた。
「とりあえず、一度確かめてみてからにしよう?もしかしたら誰か届けてくれてるかもしれないし」
「うん……ごめんね?折角遊びに来たのに、私のせいで…」
「そんなのいいって。それにほら、休憩がてら交代で待ってればいいじゃん?」
「うん……」
会話の内容からも間違いないだろうと判断して、後ろから声をかける。
「ねぇ、あなたたち。これ、もしかしてあなたたちが探しているものじゃない?」
一応知らない人だし、いくら女同士とはいえたぶん向こうの方が年下だから。なるべく驚かせないように、怖がらせないように、優しく声をかける。とはいえ、いきなり声をかけられれば相手が誰であろうと驚きはするだろうけど。
案の定びっくりしたように振り向いた二人の表情が、私の持っていたリストバンドを見て徐々に変化していく。
「あっ…そ、それっ…!!」
「番号合ってるか確認してくれるかな?」
「は、はいっ…!!え、っと……あ!合ってます!これ、私のです!!」
「そう、よかった」
流石にスペアキーはあるんだろうけど、本人かどうかなんて開けないと証明できないだろうから。私が見つけたこれが違う人の番号じゃなくて一安心。
「あ、あのっ…!ありがとうございますぅっ…!!」
「ううん。あぁほら、泣かないで?見つかって安心したのは分かるけど、それなら泣くより笑って欲しいな。ね?」
思わず、女の子の涙を拭ってしまって。涙も頬もあたたかいと感じた分、もしかしたら私の指は冷たかったかもしれないと急いで手をひっこめる。急に顔に冷たいものが触れたらびっくりさせちゃうから。
そう思って、じゃあねと立ち去ろうとして。
「お…お姉さまっ…!!」
呼びかけられた声に思わず振り向いてしまった。正確には、声ではなくその単語に、だけど。
それは中学時代に呼ばれていたあだ名だったから。なぜか下級生だけじゃなく同級生にも呼ばれることが多かったから、つい反応してしまって。
「あ…えーっと……」
「何かお礼をさせてくださいっ…!!」
「いや、別にそう言うのは…」
「そんなこと言わずにっ…!!ぜひ!!お願いします!!」
「そういうことをして欲しくて拾ったわけじゃないから…」
「そんな…!!お願いしますお姉さまっ…!!」
縋りつかれてしまって、逆にどうしていいか分からない。小さくてふわふわした女の子たちは、軽く押しただけで倒れてしまいそうだから。
とはいえこのままというわけにもいかないし、どうしようかと困っていたら。
「ダメだよ」
後ろから腕を引かれて、なぜかあたたかい何かに包まれていた。
「何があったかは知らないけど、この子を困らせるようなことはしないでくれるかな?」
「なっ…誰ですかあなた!お姉さまの何なんですか…!!」
「んー……何だと思う?」
あたたかいと思ったのは、聖也くんの腕の中で。そしてなぜか、より一層強く抱きこまれてしまって。
って、言うか……ちょ、ちょっと待って…!!なんで!?え、なんで今こういう状況!?っていうか、私たち今水着…!!ちょ、直接肌が触れてるからっ…!!しかも胸当たっちゃってるし…!!待ってちょっとホント恥ずかしいっ…!!
「なっ…!!」
「邪魔、しないで欲しいなぁ…?」
てゆーか何言ってんの何言ってんのこの人!?いや分かってるけどね!?女の子に力技じゃまずいからこういう手段を取ってるって分かってるけど…!!私の心臓に悪いっ…!!
「そっ…」
「二人とも見つかったのー?なんか声が聞こえたから……って!たっ、高神先輩っ…!?」
ちょっと待って…!!なんか今聞こえてきた声知ってる気がするんだけど…!?でもなんかこの状況で振り返るなんて怖くてできない…!!
「あれ?俺のこと知ってるの?」
「え…あ、え、っと……」
「もしかして君も、俺の邪魔しに来たの?」
「え!?いや!そんな!先輩の邪魔なんて滅相もない…!!ほら二人とも!見つかったなら行くよ!!」
「え。でも先輩、お姉さまにお礼を…」
「いいから!!とにかく行くよほら!!すみませんお邪魔しましたぁ~~!!!!」
……え、待って?今のあの子、たぶん中学時代の知り合いなんだけど。なんで聖也くんのこと知ってて、しかもなんかちょっと怯えてたの?聖也くん、そんな怖い顔してた…?
「愛ちゃん?大丈夫?」
色々と理解が追い付かなくてフリーズしていたら、そう声をかけられて。そしてもう一度今の状況を思い出す。
「うっ…あっ…だ、いじょぶ…だけど……」
「だけど…?」
「あ、の……せい、やくっ……あのっ…」
「ん…?」
「あ、の……ありがとう、なんだけど……は、はなしてもらえる、かな…?その、あの……む、胸が、ですね…?」
「む……あっ…!!ご、ごめんっ…!!!!」
そこでようやく理解してくれたらしい。急いで離れた聖也くんの顔も、少しだけ赤い。
「あのっ、そのっ…!!わ、わざとじゃなくてっ…!!」
「うん、あの…分かってるから」
「だから、そのっ…!ご、ごめんっ…嫌いにならないでっ…!!」
「……ん…?なんでそういう話になるの…?」
「あーー…もうホントごめん。俺考えなしだった…ちょっと頭冷やしてくる……」
「え?え?なんでそうなるの…?ちょ、聖也くん…!?」
なぜそこで落ち込むのか。別に嫌いになんてならないのに。
第一聖也くんに何か下心があったわけじゃないのは私が一番よく知っている。そもそもあの男にそんなものが存在しているのかも疑問だけど。
ただ。
残された私は、先ほどまで全身水の中にいたせいなのか体が冷えていたみたいで。抱きしめられて素肌同士触れていたところが、聖也くんの体温で温められて妙に熱を持っているように感じていた。




