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9.番外編 ~弟たちの見立て~

「ねぇあれ、どう思う?」

「いや~、どうもこうも…あからさまでしょ」

「だーよねー」


 先ほどまで高神家にいた二人は、宿題が終わったからゲームしてくると志野崎家に移動してきた。両親が共働きのこの家には、現在この二人以外誰もない。母親がお小遣い稼ぎ程度にパソコンを弄るだけのほぼ専業主婦な高神家とは違い、子供たちだけでのびのびできるからとこちらが割と好まれてはいるけれど。今はその高神母も夕食の買い物に出ていて、実はあちらの家には兄姉の二人だけ。そして先ほどまで繰り広げられていた様子を、誰もいないこの場所へきてようやく口にできるようになりつつ思い出す。

 先に宿題を始めていた二人に遠慮したのか、食卓のテーブルの方で兄姉もノートを広げていて。そこまでは普通だったのだ。けれどなぜか、気づいたら先に宿題が終わったらしい兄が後ろから姉に抱き着いていて。それに「なんで!?」と思っていたのは随分前のことで、今ではもう「またか」としか思わなくなっていた。


「ん~~……はぁ…」

「いや、そこで満足げにため息つかないでくれる?」

「だって癒されるんだもん。ホントもう…愛ちゃん大好きっ…」

「あーはいはい。でも今宿題やってるんで、邪魔しないでくれるかな?」

「え?俺邪魔しないよ?宿題なら見てあげる」

「いや、見てないでしょ。明らかに」

「えー?んー……あ。愛ちゃん、その問題間違ってる」

「え!?どこ!?」

「これ、ここ。当てはめる公式は合ってるけど、ケアレスミスしてる」

「……あっ、ほんとだ…!!ありがとう聖也くんっ!!」

「ん。どういたしまして」


 どうして抱き着かれていることに疑問を持たないのか。どうしてあの色っぽいため息にも熱っぽい告白の囁きにも耐えられるのか。むしろなぜそのまま受け入れて会話が進んでいるのか。お礼なんか言っているのか。弟であっても、二人には理解できなかった。

 むしろ、あれだけ必死に頑張ってアピールしている兄の行動が何一つ報われていないことに、流石に哀れに思ってしまって。


「愛姉……もう少し意識するなり警戒するなりしてやってよ……」


 なんて、思わず呟いてしまったけれど。


「…ん?なんか言った?」

「…いーやー?何にもー?」

「そっか」


 真剣に宿題に取り組んでいる姉には、一切届いていなかった。


「なんか、ごめんね?うちの姉ちゃん鈍感で」

「う~ん…いや、あれはもう鈍感とかそう言うレベルじゃない気がするんだよねぇ…」

「まぁ、うん…分かる」

「ってゆーか、たぶん原因はうちの兄ちゃんにあると思う」

「聖兄ちゃん?なんかあったの?」

「あったっていうか…ほら、前に愛姉が言ってたじゃん?兄ちゃん学校でよく抱き着かれてるって」

「あー…そう言えば、そんなようなこと言ってたかも…」

「男にも迫られてるって…」

「言ってた、ねぇ…」


 思わず顔を見合わせて、微妙な表情をしてしまう。


「それって、さぁ…」

そういう(・・・・)状況に、慣れてるってことだよね…?」

「愛姉もそれを知ってるってことは、だよ?」

「特別だと、思ってないんじゃ……」


 それじゃあ意識なんてしてもらえなくない?とは、二人とも口には出さなかったけれど。同じことを思っているのはよくわかっていた。


「ってゆーか、あの(・・)聖兄ちゃんでしょ?」

「え?うん」

「なんか、会話の流れで好きって言われたら俺も~って返しちゃってそうな気がするんだよねぇ…」

「あ……」

「真剣な告白じゃない限り、全部受け入れてそう」

「そんなの…愛姉が兄ちゃんの気持ちに気づくはずがないじゃんっ…!!」

「いや、あれはあれで鈍すぎると思う」


 顔を見合わせてはぁ~~と同時にため息を吐く。お互い弟として苦労していると思う。主に精神面で。


「ってかさー、正直愛姉って兄ちゃんのことどう思ってるんだろう?」

「聖兄ちゃんは分かりやす過ぎるくらい姉ちゃんのこと大好きだもんなー」

「あれは隠してないからね。むしろ気づいてもらおうと必死なだけだから」

「ぜーんぶスルーされてるけどねー」


 あははーなんて、軽く笑いあって。けれど現実は笑えないと分かっているから乾いた笑いにしかならないし、そんなものすぐに引っ込んでしまう。


「俺としては、愛姉と兄ちゃんにくっついて欲しいんだけど」

「それは俺もー。どうせなら結婚してくれればいいんだけどなー」

「そしたら俺たちも義理の兄弟じゃん!」

「どっちかっていうと家族みたいに育っちゃったけどねぇ」

「あれ?もしかして愛姉が兄ちゃんを意識してくれないのって、そのせい…?」

「いーやー、違うでしょー。流石に高校生だよ?男と女だよ?いくら何でも意識ぐらいはするでしょ、普通」

「え、じゃあさっきのあれは何…?」

「あれはー…………」


 黙ってお互いの顔を見るけれど、そんなことで答えなんて出てくるはずがなくて。


「もー!!ほんっと、姉ちゃん何なの!?いい加減聖兄ちゃんのアプローチに気づいてあげてよっ!!」

「兄ちゃんも兄ちゃんだよ。中学時代の愛姉に纏わりついてた女の子たちに嫉妬するぐらいなら、いっそもう真剣に告白すればいいのに」

「してたねぇ、確かに!」

「愛姉だって兄ちゃんに負けないくらい男女両方にモテるんだから、もたもたしてたら横から掻っ攫われちゃうかもしれないじゃん?」

「いや、そこは姉ちゃん意外とちゃんとしてるから。俺告白断ってるの見たことあるもん」

「は!?何それ初耳なんだけど!!男?女?どっちだった!?」

「両方知ってる。でもなんか…女の方が積極的で怖いなって思った」

「うぇ~…何それ~…」

「しかもこの間なんて、姉ちゃんのクラスメイトが勉強しに来てさ」

「え、まさか男!?兄ちゃん以外の男を家に入れたの!?」

「男もいた。しかも二人も」

「はああぁぁ!?!?兄ちゃんマジで何やってんの!?!?」

「でも聖兄ちゃんも一緒にいたから、勉強教えてもらえばいいじゃんって言って一緒に家に来させた」

「ナイス!!」

「あと、姉ちゃんのクラスメイト達が帰ってから勉強教えてって頼んで少し長く家にいてもらった」

「え、流石すぎるんだけど。それで?それで?」

「……終わったらふっつーに帰ってった」

「馬鹿兄ーー!!!!」


 叫びたくなるのも仕方がないのかもしれない。そこまでの好条件を整えてもらっておいて、なぜもう少し押してみようとか思わなかったのか。


「いや別に、勉強しに来ただけでクラスメイトとも何もなかったんだけどさ?女友達もいたし。けどあれ、たぶん姉ちゃんのこと狙ってると思うんだよなぁ…」

「うえぇ!?まずいじゃん!!」

「しかもなんか夏休みに一緒にプール行く約束してたし」

「ちょっ、待って何それヤバくない!?」

「いや、流石にみんなでって言ってたし、聖兄ちゃんも一緒みたいだから」

「よっし…!!そこは何とか死守したんだね…!!」

「でもなんかさー、隣のクラスの男にも花火大会に誘われたらしくてさー」

「はぁ!?!?なんで寄ってたかって愛姉にちょっかい出すかなぁ…!!」

「それも最終的にはみんなで行くことになったらしいよ?一応聖兄ちゃんも」

「あっぶなー…兄ちゃんホント、急がないとまずいんじゃ…」

「んー……でもなんか、聖兄ちゃんってあんまり男を感じさせないようにしているようにも見えるんだよねー…」

「あー……まぁ、うん。愛姉だから、ねぇ…」

「気にするよね、やっぱり」

「するだろうね。俺だって気を付けるもん」

「だからあんまり強引なこと出来ないんじゃないかなーとも思ってる」

「それはまぁ、分かる」


 盛り上がっていたはずなのに急に落ち着いてしまったのは、昔から二人をよく知っているから。家族同然に育ってきたからこそ、何があったのかもちゃんと理解している。でもだからこそ、なおさら二人には一緒にいて欲しいし幸せになって欲しいのだ。


「でも俺、愛姉は兄ちゃんのこと嫌いってわけじゃないと思うんだ。なんだかんだ言いつつも好きなんじゃないかなーって」

「俺も。そう思いたいだけなのかもしれないけど、実際聖兄ちゃんだけは色々受け入れられてる気がする」

「……上手くいくと、いいなぁ…」

「ね。聖兄ちゃんの気持ち、ちゃんと届くといいね」


 結局は自分たちも、なんだかんだ言って兄姉のことが大好きなのだ。ずっと一緒にいたいと思ってしまうのは、仕方がないことなんだろう。










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